俺は梶原勇哉25歳。ただの悪霊祓いだ。
今は自宅から3時間程離れたある村の古い屋敷の中にいる。俺は除霊してほしいと依頼を受けたら基本どこにでも行く。ただし、報酬は相場の10倍以上はいただく。
広い部屋の真ん中に若い女性が全身縄で縛られた状態で横になっている。両目は布で目隠しされ、口は猿ぐつわをされている。その女性はうめき声をあげて体をクネクネと動かしていた。そしてその女性のまわりを村人数人が囲んでいる。
俺はこの時違和感を感じた。
老人が俺に説明してくれた。
「この娘は山神様に取り憑かれておる。この娘に見つめられた者は皆自ら命を絶ち、声を聞くと頭が狂ってしまうのじゃ。」
「なるほど、それは厄介だ。」
俺は仕事上いろんな村を訪れているが、9割は○○神様の祟りやら、取り憑かれたやら呆れてものが言えない。
山の神、海の神、川の神、ましてや雷神、風神、龍神とまず神と名のつくものは人間の想像、いや妄想に過ぎない。
村に災害が起きれば神の祟りと言い、村にいい事があれば神のお陰と神を崇める。これはただ人間が都合のいいように創り上げた創作物と言えよう。
「それより報酬は準備してあるか?」
「もちろんじゃ」
「それじゃあこの部屋からみんな出て行ってくれ。」
俺の言葉で村人は部屋から出て行った。俺はゆっくり女性に近づく。女性は口からよだれをだらだらたらして唸っている。
俺は女性の目を覆っている布を取り去った。すると、綺麗に澄んだ瞳が現れ、俺を見つめてくる。そして俺に助けを訴えるように目に涙を浮かせた。俺はその目を見つめたまま、女性の口の猿ぐつわを解いた。
「助けて!」
「どういうことだ?」
「あのお坊さんが…ひぃ!」
女性は俺の後ろを見て、何かに怯えていた。後ろを見ると、袈裟を着た坊さんが仁王立ちしていた。その隣にはさっきの老人がいる。
「ここで何をしている。」
「あんたこそ何だよいきなり。俺はそこの老人に頼まれて来ただけだ。」
坊さんは老人を睨みつける。老人は慌てた様子で部屋を出て行ってしまった。
「さて、君はもう用無しだ。さっさと帰ってくれたまえ。」
「は?」
俺が文句を言おうとすると、坊さんの目つきが変わった。
「その女性から離れろ!呪われておる!」
女性の方に目をやると、女性はカタカタと体わ震わせて泣いていた。
「ふぅ…」
俺はジャケットから小瓶を取り出し、コルクの蓋を外した。
「坊さんよー、呪われてんのはあんただよ。」
坊さんは眉間にシワを寄せたかと思ったら、両目の黒目部分がグリっと上瞼に隠れ、白目をむきだした。そして強く胸あたりで手を合わせている。ピリピリとした緊張感が部屋をを包んでいく。そして坊さんは俺に向かって突進してきた。
「ぐっ!」
かろうじて受け身をとったが、坊さんに体当たりされて、体は女性の更に後ろへと飛んだ。体を起こそうとしたら、坊さんが俺に馬乗りになった。
「ふんぐぅぅぅう!」
歯を食いしばり、俺を殴る体勢を整えている。
「坊さんよぉ、得意のお経を自分に唱えてやれよ。」
坊さんは拳を高く上げ、俺を殴りつけた。口の中に鉄の味が広がる。
更にもう一度拳を高く上げたところで坊さんの動きは止まった。
「やっと効いてきたか。」
俺の上に乗っている動かない坊さんを右へ倒した。坊さんは倒れたまま痙攣している。
「な、何が起こったの?」
女性は不安いっぱいな表情で聞いてきた。
「部屋を見てみな。」
部屋中に黒いもやが充満している。坊主はうめき声をあげ苦しみ出した。
坊主から突然俺の身長の二倍はありそうな黒い影が飛び出した。その姿は狼にも熊にも似た獣の姿であった。
「やっぱりね」
神に取り憑かれたと言われるもののほとんどが、獣の霊の類だ。
その黒い獣は口からよだれを垂らして俺に飛びかかる準備をしている。
俺はジャケットから瓶を取り出し、蓋をあけて獣に向かって投げた。獣はその瓶を反射的に口の中に入れた。
「あーあ、お前それはやっちゃいけないよ」
俺は自然と笑みがこぼれた。
獣のは姿勢を低くして、俺に向かって飛びかかった。女性の悲鳴が聞こえる。
「バシュン」
獣の上半身が奇妙な音と共に一瞬で消え去った。残った下半身が力なく地面に落ちる。
「なんなの?なにが起こってるの?」
女性はパニックになりかけている。
「俺のペットが食事しているだけだ。」
俺の言葉が言い終わる前に、下半身も奇妙な音と共に消えた。部屋には真っ黒な煙が残っているだけだった。
俺は左手を煙に向かって差し出す。煙はものすごい早さで左手に吸い込まれて行った。矢張り激痛である。落ちている瓶を広い、口もとを握る。
「じいさん終わったぜ」
瓶に蓋をすると、老人が入ってきた。そして老人から帯付きの札束を三つ受け取った。
部屋を出ようとすると、女性が話しかけてきた。
「あ、ありがとうございました。それにしても貴方は何者なんですか?」
俺は振り返り、女性に言ってやった。
「ただの悪霊祓いです。」
作者悪霊祓い
友人の霊能力者の話です。
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