これは4年前の夏に俺が体験した出来事。
富士の樹海には溶岩が固まってできた洞窟が割と多く存在しているのを知っているだろうか?
中学の頃、俺はそこのツアーに参加するのにはまっていた。
その中にはなかなか危険な所や怖い逸話があるところもあるわけだ。
例えば、鬼が子供を夜な夜なさらってきてここでブツ切りにして食べた、とかね。
溶岩石だから赤いとわかっていても、周囲は無音で光もない洞窟だと不気味に思えてくるものだ。
そんな中で俺が体験した出来事。
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何時ものように洞窟に潜っているとなにやら鈴のような澄んだ音がする。
あたりは無音で石の壁だから妙に響く。
おまけにやたらと寒い。夏にも関わらず震えるほど寒い。
この話を読んでいる人たち。例え霊感が無くて幽霊を見ることが出来なくても、「何かがいる」「ここは何か普通のところとは雰囲気が違う」という感覚を肌で感じ取ることはないだろうか?
この時の俺の感じたものはまさにそんなものだ。
これは何かある。と思いつつ前に進んで行くと、急にガイドに進行を止められた。
まだ先があるじゃないか。
俺はそう言おうとした。
何やら青く光るものが穴の向こうにライトを反射して光っている。
するとガイドは深刻な口調で切り出した。
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「ここから先はずうー…っと坂になっていて、おまけに万年氷が表面を覆っています。
落ちたら最後、どう足掻いても登ってくることは装備無しでは不可能です。
そしてこの坂の行き着く先も現段階では不明です。」
覗き込んでみるとライトが届くギリギリのところ、下10mほどのところに50cmほどの祠が一つ設置されていた。
そしてその先には視界を黒く塗りつぶす完全な暗闇が広がっていた。
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昭和に入ってこの樹海の捜査が始められたときにこの洞窟は発見された。
調査隊がこの洞窟を発見した時、すでにその暗闇の淵にはボロボロに朽ち果てた祠が建てられていたという。
一体だれが、どんな状況で祠を置いたのだろうか。
今となってはもう誰にもわからないことなのだそうだ。
作者小魂