数年前、友人3人と霊がよく出ると噂の地元の温泉旅館に、
遊び半分で一泊二日で泊りにいくことになりました。
以前話した通り、見える体質のため正直気乗りしませんでしたが、
仲良くなったばかりということもあり、
関係を崩したくないがために、一緒に着いて行きました。
友人たちは私の体質は、そのころは知りませんでした。
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噂の旅館に着く前から、少し嫌な感じがしました。
夏場だったため、友人Aの車で冷房かけて行ってたのですが、
涼しいはずなのに、生温い何かが身体に纏わり付くような感じがしました。
直感で何かがそこに行くのを拒否してる、と感じました。
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しかし友人たちは、まったくそういうものを感じてないようなので、黙っているしかありません。
旅館に着くと、嫌な感じは更に強さを増し、
頭痛さえ感じるようになりました。
ロビーに入り受付を済ませ、部屋に入り、それからは自由行動です。
地元とはいえ、私達の住む市街地からは結構離れた場所のため、
長旅の疲れから、今日は温泉入ってゆっくりしよう、ということになりました。
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曰く付き温泉だと言われてる割に、部屋もそうでしたが、温泉もすごく綺麗で、
もてなしもよく、徐々に皆普通に旅行を楽しんでいました。
温泉に入り、夕食を頂き、定番のトランプゲームや恋愛話、別の友人の愚痴など、
女子ならではの夜の楽しみを終え、23時には眠りにつきました。
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体内時計で深夜2時を過ぎたころ、
不意に金縛りに遭い、身体が動かなくなりました。
やっぱり来たか、と思いましたが、いつもとは違い、冷や汗が流れ、涙溢れて止まらなくなりました。
徐々に身体に重みを感じ、無意識に瞼を開くと、
おかっぱ頭の小さな女の子が私の胸元に手を置き、悲しげな目で睨んでいました。
悪意は感じられず、ただただ悲しそうに感じました。
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その女の子は二分弱見つめ合うとすぅ、っと消え、
身体の重みも冷や汗も、涙もなくなりました。
ただ、私達が遊び半分で来たことが悲しいだけなのかな、とその時は思い、
再び眠りにつきました。
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翌朝、友人たちの騒がしい声で目が覚めました。
友人Aが私に気づき、興奮気味に話し掛けてきます。
「ねえ!やばいよ、やばいよこの押し入れ!」
うるさいな、と思いつつ促されるままに押し入れを見ると、
天井にお札が100枚近く張られていました。
さすがに、私もぎょっとしました。
そして何を思ったか、友人Bが天井に手を伸ばし、お札を一枚ずつ剥がしています。
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Bの行動に驚いた私たちは慌てて辞めさせようとしましたが、
何かに取り憑かれたように笑いながらお札を剥がし続けます。
すべて剥がし終えたBは、力が抜けたように意識を失いました。
すぐに目を覚ましましたが、正気のない顔で、ずっと何かを呟いています。
恐らく、何かがBに取り付いたんだと思います。
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それから気分が上がらなくなった私たちは、すぐに旅館をあとにし、
人形のように動かなくなったBを抱えてAの車で帰路につきました。
その間もBはしきりに何かを呟き、気の弱いCがずっと泣いていました。
旅館のある町を出ようとしたとき、バン!と何かが車を叩きました。
ふと車の窓を見ると、私の座る後部座席の左側に、
昨日の夜見た女の子が、笑って車体を叩きながら着いてきています。
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その子と同じようにBも笑い出し、急に大きな声で、
「やっと出れたやっと出れたやっと出れたやっと出れたやっと出れたやっと出れたアアアアアアアア」
と叫びながら笑い出しました。
その狂喜な姿に皆が怖がってしまい、猛スピードで車を走らせました。
いつの間にか女の子は消え、Bも再び意識を失いました。
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先にBを送り届け、Bの両親に事情を説明しました。
当然Bの両親からはすごく怒られ、一生家に来るな!とすごい剣幕で怒鳴られました。
それから、Bはどうなったのか分かりません。
知らぬ間にB家族は引っ越してしまいました。
しかし、B家族の引っ越すところを近所に住むDという友人が見たらしく、
Bは少しふっくらした子だったのですが、やつれてしまい、焦点の合わない目でずっと笑っていたそうです。
そして、出れた出れた出れた、と独り言のようにずっと言っていたと聞きました。
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やはり、Bはあの女の子に取り憑かれたようです。
あの悲しげな目は、何だったのでしょう。
Bは余程その子に気に入られたのか、ただそこに居たから取り憑かれたのか、
Bがいなくなった今、知る術はありません。
ただ分かるのは、Bに取り憑いたのはあの女の子だけではないということです。
作者3939_ancafe0105
お久しぶりです。
今回は今まで経験したなかで、
一番後味の悪いお話をさせてもらいました。
その後、Bの話は一切聞きません。
Bには、本当に悪いことをしたと思っています。