夜中、小腹が空いたので近くのコンビニへ行った。
客は誰もおらず、男の店員さんが一人、レジの向こうで 眠そうに立っている。
財布の中の電子マネーのカードを探して、サンドウィッチをカウンターに置き、
「それから、コーヒーエルお願い。ホットで」
店員さんは、
「レギュラーですね」
というので、
「いや、アールでなくてエル」
そういうと、
「あ、失礼しました」
と言って、
大きいカップを手渡す。
「まあ、ここの機械はエルとアールが逆方向だけど」
すると、店員さんが笑いながら、
「そうですね。レギュラーボタンが左で、ラージが右ですね」
私がカップをサーバにセットしている時は、店員さんは雑誌コーナーを整理しにカウンターから、出ている。
ボタンを押そうとすると、サーバーの向こうから女の声で、
「お客様」
と呼ぶ声がする。見ると髪の長い女性がサーバーの向こうから、こちらを覗き込むようにして私を見ている。随分顔色が悪く、やつれている。幽霊と間違われそうな。
こっちも不意だったのでびっくりした。
「何ですか?」
私が聞き返す。
「いえ、こちらから見ますとね。左がエルでレフト、右がアールでライトなんですよ。お持ち帰りでしたら、ホルダーがありますから、ご自由にお使い下さい」
そう言ってスゥーと消えた。私は小さい声で、
「ウヮッ」
とつぶやいた。
すると、男の店員さんが、
「どうしました?」
「いや、スタッフ君一人?」
「二人ですよ」
少し安心した。
「彼、スタッフルームで在庫確認してます」
彼?彼?彼?…
その時、スタッフルームからもう一人の店員さんが出てきた。
少し狼狽気味で、もう一人に耳打ち、
耳打ちされた店員さんは頷いて声を出さずに口だけを動かせて、聞き返す。もう一人が頷く。
私はサッサと
店を出た。店員さんは二人揃って、
「ありがとうございまーす」
店を出て、シュガーとフレッシュ貰うの忘れたのに気付いたが、そのまま帰った。
あの口の動き、「また出た?」だったよな?
それにしても、あの女の人、幽霊にしては不可解な。
多分、
「何の怨念で、ここにいる?」
などと聞いたら、
「いや分からんけど、ただここにおんねん」
などとブロークンな関西弁で答えるかもしれない。
それはそれで怖い。
作者純賢庵
いやはや、なんのこっちゃ。とツッコミ入れたくなる。怖いより阿呆らしい。
少し笑えるかもしれないが…