聞き残したかもしれない。

短編2
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聞き残したかもしれない。

方言が少々読み辛いかもしれないがごめん。

友人のY夫は都市近郊の田園地帯で育った。

Y夫の住む村は旧街道沿いの集落で、街道に面して旧家が建ち並び、明治頃に逼塞したY夫の家は街道から離れた神社の参道に面していた。参道と街道が接するT字路にバス停がある。

大学生の頃はほとんどバスを使うことは無かった。2キロほど離れた私鉄の駅から田園地帯を歩いて帰って来ることが多い。

その日はたまさかバスを利用して帰路につき、一つ手前のバス停で降りた。夕暮れの街道を歩いて帰って来ると、自宅から最寄りのバス停のところに老婆が立っているのが見えた。バス停のすぐ前の旧家のお婆さんである。Y夫と苗字は同じ、元は親戚だったらしい。

お婆さんはこちらを見ている。

Y夫はお婆さんの前を通る時に軽く会釈をした。お婆さんは認知症が進んでいて、いつもは会釈しても無視というか、多分気がつかないようで、黙ってすれ違うのだが、今日は珍しく満面の笑みを浮かべて頭を下げた。

Y夫は、思った。

(◯◯のお婆さん、生きてる時より愛想ええやん。ああそうや、今日はお婆さんの初七日や…

そうか、お婆さんもう死んでたんや…)

そんな事を考えながら家に帰ったら、祖母と母が夕飯の支度していた。「ただいま、今◯◯のお婆さんにおうたで」

「おかえり、なんか言うてた?」母親が聞く。

「何も言うてへんけど、頭下げたら、にこにこしながら頭下げてきたわ」

そう答えると母親は、

「まだものは言われへんやろけど、懐かしかったんやろ」

そう言って笑っていた。

Y夫は聞き返した。

「懐かしいて、なんでなん?」

すると祖母が、

「あのな、Yちゃんも知ってるやろけど、あの家とうちは昔のイッケやし。あのおばあちゃんな、あの家の娘で、跡取りは無かったんで婿さんもろてな、それでも子供はでけへんかったよって養子もろてな、その養子に嫁もろて、あの家の血筋は絶えてしもたんえ。同んなじ血筋で一番近いのはYちゃんやよって、懐かして出て来たんやろなぁ」

Y夫は少しだけ納得したが、あのお婆さんが、懐かしかっただけで出てきたのか疑問が残った。

あの時こっちから声をかけていたら、何か話を聞けたのか?

それ以来お婆さんには会っていないそうである。

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