俺が20代前半頃の話です。
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趣味のアマチュア無線で知り合った60代後半の男性、仮にVさんとしときましょうか。
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ある日、そのVさんに「渋谷君さぁ、来週無線のコンテストがあるんだけど参加してみないか」
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と、お誘いいただいた。
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このコンテストというのは良く覚えていないが確か、24時間で何人と交信する事が出来るかというものだったと思う。
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Vさんが言うには、「アマチュア無線は趣味の王様、君の様な電話ごっこな使い方じゃもったい無い
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もっと沢山の楽しみ方があるんやでぇ」と、
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俺は、あまり興味が無かったが、Vさんの強いすすめもあり、渋々参加する事にした。
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その日が来た 日曜日の朝 天気は快晴 Vさん宅へ向かった。
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俺は車を出す代わり、使用する機材は全てVさんが準備してくれた。
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機材を車に乗せ、Vさんの道案内で、国道307号線を信楽方向へと進んだ。
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やがて国道から外れ、細い山道をどんどん上へと
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そして目的地に到着
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そこは、山の頂上付近、広い原っぱになっていて、はるか北方向には琵琶湖が見える景色のいい場所だった。
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機材を降ろし、設営に入った と言うよりVさんがほとんど準備していた。
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よほど好きなんだろう
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Vさんは、張り切りながら「今日は遠距離交信をするのにワイヤーアンテナを買って来たから
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HF帯、つまり7MHZと21MHZでONAIRする」と笑顔で準備していたが
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俺は、手伝わずに双眼鏡片手に景色を楽しんでいた
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その時 Vさんが「あぁ~渋谷君、マイク忘れてきしもたぁ」と、
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あ~あ である。
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「俺が取りに帰って来るんで、準備しといて下さい」
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と、言い車を走らせた
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無事マイクを持ってVさんの待つ山へ
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途中、何回か無線でVさんを呼んだが応答が無い
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アンテナの準備で手が離せないのだろう
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しかし、呼べども、応答無し 何か様子がおかしい
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ようやく現着(到着)
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あれぇ、Vさんの姿が無い
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あたりを見渡した
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隠れる所も無いし、ひょっとしてUFOにさらわれた?それともトイレか?
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そんな事を思いながら車を降りた
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前方に高さ5m程のアルミポールの先端にくくられたワイヤーアンテナの片方が、ぶら~んと垂れ下がっているのが目に入った
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そしておどろいた、何と そのアンテナの端にVさんが、倒れていた
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最初は、ビールでも飲んで寝てるんかと思ったが・・・
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「Vさん、Vさん!」と体を揺すり
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「帰って来ましたよ 何寝てるんですか」と呼びかけました(死んでいるんかと思った)
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Vさんは目を覚まし、 いきなり俺にしがみ付いてきた
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「渋谷君、帰ろう、帰ろう、帰ろう・・・」
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ぶるぶる震えながら60のおっさんが、俺にしがみ付いてきた
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何の事か判らず???だった。
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そう言いながら、走って俺の車の助手席に乗り込み 出てこようとしない
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何かにおびえている様子
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とても尋常じゃない様子だ
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俺は 半分怒りながら「どうするんですか、この機材」
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Vさんは「渋谷君片付けてくれ」と車から降りようとしない
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俺は、機材一式、雑にトランクに積み込んだ
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内心メッチャむかついていた
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せっかくマイク取りに帰って来て そもそもこの企画Vさんが俺を誘っておいて・・・
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仕方なし、車で山を下った
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助手席では相変わらず60のおっさんがぶるぶる震えながら
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「来んかったら良かった 来んかったら良かった」と、呟いている
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俺自身どうも納得いかない
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国道に出てしばらくした所で車を止めた
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Vさんに訳を聞いた いったいどうしたのかと
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訳を聞かせろと言う俺のしつこい怒り文句でVさんが、今経験した事をしゃべり出した
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Vさんは「おまえ信じるか 信じるか」と何度も
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「信じるって何をですか?」
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すると「幽霊」
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まさかVさん俺が心霊体験豊富な人間だなんて思ってもいなかっただろう
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Vさんが言うには 俺が出発してから、アンテナを組み立ての準備をしている時だった
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「寒い、寒い」と、小さい女の声が聞こえた
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最初は空耳だと思った
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しばらくして、また「寒い、寒い」と前方より、小さく震える女の声が聞こえた
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その声はさっきよりはっきり聞こえた
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やはり誰かいるのかと思ったが、こんな山奥に?それも見渡すかぎり人がいる様子も無い
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変だなぁと思いながらも作業を続けていた
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また「寒い、寒い、」と その声は段々こちらに近づいて来ている様子
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気味が悪いなぁと思い作業していると、今度は後ろから「寒い 寒い」と
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振り返って見ても誰もいない いるはずが無い。
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幽霊やお化けなど信じていない俺は、頭変になったかと思いながらも
ワイヤーアンテナの先端を紐でくくっている時だった
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丁度、洗濯物を干す格好で手を上にしてちょうちょう結び
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その時俺の左ワキの所から女の顔がぬうっと現れた、髪の毛をだらーんと垂らし目と口は、ゴルフボール位で真っ黒、まるで骸骨そしてかすれた声で「寒い~、寒い~」とこっちを見て・・・
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それを見て気を失ったと言うのだ
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もしかして 近くに埋められているんじゃないですかねぇ、その女。
結局この一日、Vさんに振り回されて終わりました。
作者渋谷泰志