これは今考えればあり得ない話。
俺は25才にもなって無職で親元で暮らしている。元々、体には持病があって精神的にも病んでいた。
そんな俺は自分を変えるために就活を始めたんだ。面接開始後にパニック障害が発病した。当然ながら不採用。それが何度も続き実家でも暴れ始めるキッカケになっていた。
「もう最悪だ…クソォッ!」
生きることに対して意味を見出せない俺はリストカットしたり、自殺を何度も計った。そんな俺を見て両親は精神科の病院に俺を入院させた。
俺は両親を恨んだ何度も何度も…。
来る日も来る日も俺は暴れていた。
本当に俺は狂ってしまったのか?
わからない…そんな閉鎖的な空間で考えていた。無意識に片目だけからずっと涙が流れるようになった。
入院してから10ヶ月が経ったある日
運命が動き出した様なことが起きた
俺は手足を拘束され目の前には新任のドクターが立っていた。
「君が佐々木君?」
俺を治療しに来たドクターだと直ぐにわかった。「俺は狂ってなんかない!ここから出せ!」
ドクターは俺の罵声をモロともせず、話を続ける。
「何が君をここまで変えた?」
俺はドクターの顔を見てこう答えた
「両親さ…俺を人形みたいに昔からずっと…ずっと…」辛い過去が蘇り詰まる声。
ドクターはため息を零し呟いた。
「両親から愛を感じた?」
俺は顔を横に振った。
ドクターはカルテを椅子の上に置いて、近づいてきた。
俺の手の拘束を解き、手を強く握りしめた。その時だった、俺の幼い頃の記憶が頭に流れ込む。
いじめられ泣いていた俺をどうやって助ければいいか悩む母さん。
誇りに思っていた俺を言葉で表現できないことを悔やむオヤジ。
「恨まれてもいい、あの子が強くいてくれることだけで幸せ」
両親は俺の幼い頃の写真を寄り添ってソファで眺めている景色が浮かぶ。「母さん…オヤジ…」
片目だけにしか流れなかった涙は溢れる様に両目から涙が流れた。
ドクターはニッコリ笑い、再びカルテを手に取って俺に声をかける。
「君は愛されていた…両親は君への愛を言葉で表現できず、君は愛を感じ取れなかっただけ」
ドクターは俺に背を向けて呟く
「君は決して一人じゃない。」
俺は慌ててドクターの名前を聞いた
「僕は飯島なぐさ、君を救う為に来た、ただのドクターだよ…」
飯島は俺に後ろ向きで手を振って部屋を出て行った。
それから俺の心の病が治り退院を許された。俺は嬉しさのあまり、急いで実家に帰ると家には誰も居なかった。「仕事かな?早く会いたいな」そう言って一日中家に居ても誰も帰ってこない。すると、一本の電話が来た。内容は俺の両親は俺の退院祝いにプレゼントを買いに行った帰りに交通事故に遭い二人とも亡くなったという連絡だった。
信じられない真実に愕然としてしまった。なぜかそれが嘘の様に聞こえて病院まで走った。
案内されたのは、白い布を被った両親だった。俺は泣き崩れ、また心が壊れそうになった。泣いていた俺の肩に手を置く感触が伝わった。
振り返ると、そこには飯島が悲しそうな表情で立っていた。
「佐々木君…これを…」
飯島が差し出したのは手紙だった。
内容は「やっと退院出来たね!大輔!母さんは嬉しいよ…お父さんは何も言わないけど、本当は一番喜んでいるのよ。」俺は涙でかすれて見読めなかった、何度も涙を拭って続きを読む。「大輔は私達の宝物、愛する大切な息子。これからも強くたくましく生きていきなさい…お父さんが大輔にプレゼントを用意してるから知らないフリして受け取ってあげてね…お父さんも精一杯だったから」読み終わると飯島が封筒を差し出した。俺が好きだったアーティストのアルバムと両親の間に挟まれた赤ん坊の頃の写真が入っていた。
写真の裏には「私達が愛する息子、大輔。生まれてきてくれてありがとう。父より。」そうオヤジの字で書いてあった。
飯島は俺に微笑みかける
「君は決して一人じゃない」
振り返ると飯島はそこには居なかった。飯島が居なくなった、直ぐに別の医者が現れボロボロの小包を渡す
「これがあなたへのプレゼントですがボロボロで中身も割れていました」中を見ると飯島がさっき渡したアーティストのアルバムだった。
「じゃあこのアルバムと、この写真は…」再び泣き崩れてしまった。
そして俺の背中には…天使の翼のような手形が浮き上がっていた。
その時から俺は飯島の正体がわかった気がする。
5年後、俺は完全に立ち直り有名な企業にも就職でき結婚もして子供もいる。「幸せだよ、母さん、オヤジ…遠くから見守っていてくれよな」
アルバムのタイトルは「天国からの贈り物」。
作者SIYO