**** Attention! ****
**** 性的描写を含みます ****
大学生の頃、銀座の歴史ある喫茶店でバイトしていた。
珈琲一杯1500円くらいする高級な店。
店はクラシックがかかっていて、客層もマダムとか、リッチなご老人が多かった。
俺はカウンターの中で蝶ネクタイして、
豆を煎ったり挽いたり、サイフォンで淹れたりが仕事。
ホールはみんな女性で、髪の毛を束ねて、ロングスカートのメイドっぽい制服。
そこで知り合ったのが、俺より2週間先に入店していた同い年のマリコ(仮名)だった。
マリコの見た目は、篠田麻里子から化粧っけを抜いて、髪の毛を黒髪セミロングにした感じ。
仕事はキビキビ、無駄口はきかない、それでいて笑顔が優しげで…
俺はマリコに一目惚れ。
バイトを初めて1ヶ月で、玉砕覚悟で「付き合って下さい」とお願いしたら、即OK。
(当時の俺は大喜びだったが、今となれば、もうちょっとマリコのことを知ってからでも良かったな、と)
マリコはちょっと変わっていて、まず、人混みが大嫌い。満員電車に乗れない。
マリコも都内の大学生だったのだが、
一人暮らしのアパートから大学までバイクかバスで通学していた。
大学からバイト先の銀座まで、バスを2本も乗り継いでいたのには驚いた。
当然、デートも人混み大嫌い。
だから、テーマパークやイベントなどの、一般的なデートコースも行かない。
プラスして、古いものが置いてある所も駄目。だから、博物館、美術館も駄目。
どんなデートをするかといえば、俺は自宅だから、マリコのアパートに通うだけ。
一緒に、スーパーで買い物して食材を買い込み、
ビデオを見てゴロゴロして、御飯作って、宅飲みして、終電でバイバイ。
友人から「そんなつまんないデートしてるとふられるぞ」と脅されたので、
マリコになにかリクエストはないか、と問うたら、
「これ以外のデートを望むなら、別れたほうがお互いのため」とまで言われた。
これもマリコの個性のうちなんだろう、と俺は受け入れた。(とにかくベタぼれだったから)
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付き合って3ヶ月……
俺はマリコと手もつながなかったし、キスもしなかった。
とにかくマリコに嫌われたくなかったから。(それぐらい惚れていた)
でも、若い男としては、もっとお付き合いを発展したくなる。
ある日、いつものように二人並んでビデオを見てる時……
俺は勇気を出して手をつないで、恐る恐るキスしようとしたら、
マリコがスッと離れて、俺の眼をじっと見ながら、こう言った。
「やっぱり、そういうこと、したい?」
「そりゃ、したいよ。でも、マリコが嫌なら、我慢します。ごめんなさい」
「ううん。しても、いいんだ。私も、キミが相手ならしたいから。
でも、ひとつだけ、約束してほしいことがある。
キスしたり、SEXするなら、私と最低1年間はお付き合いしてください。
私と1年間付き合い続けるつもりがないなら、このまま別れた方がいい。
……どうする?」
この時の俺は、若いのもあって、
(マリコは本気なんだな。カワイイなあ、こいつ!)と思って、承諾した。
「1年どころか、2年でも3年でも、マリコがイヤじゃなければ結婚したい!」
で、その夜、手をつなぎ、肩を抱き、キスをして、SEXまでした。(お互い処女童貞だった)
さて、こうなると、若い男ですから、マリコのアパートに入り浸って、SEXやりまくり。
マリコもSEXに慣れてきたら、どんどん積極的になってきたから、嬉しくて仕方なかった。
今から思い返してみても、マリコとは異常なぐらいに肌が合った。
俺が、肌を触ったり、マッサージをするだけでマリコは濡れてくるし、
俺も、マリコがそばにいるだけで勃ってくるし、泊まった時は一晩8発やるぐらい。
幸せといえば幸せだったんですが……
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初SEXから半年ぐらいしてからのこと。
いつものように、マリコのアパートで飯食ってSEXしてのデートの帰り、
終電間近の地下鉄の駅のホームで、線路に人が降りているのを見かけた。
(え?)と思って、ようく見ると、
その人…スーツを着た中年サラリーマンがなんかおかしい。
向こうが透けて見えるし、輪郭が煙っぽくボヤケている。
半透明のサラリーマンのオッサンは、
電車が来る方向を向いて、ジーっと立ってる。
ただ、立ってるだけ。
頭が混乱して、(俺、ボケてるのかな?)と
半透明のオッサンを眺めていると、電車が来る、というアナウンス。
俺が思わず「ええ!?」とマヌケな声を出すと、
半透明のオッサンも驚いたように俺を振り向く。
半透明のオッサンと俺は目と目が合う。
トンネルで反響する電車の音はどんどん近付く。
俺に向かって、泣きそうな顔でなんか言ってるんだけど、
近付く電車の騒音でなんにもわからない。
電車はオッサンを轢くというか、
通り抜けてホームへ停車。
呆然としたまま、電車に乗り込む俺……
その夜は、大学に、バイトに、そしてSEX三昧だから、疲れちゃってるんだな、
と自分を納得させて就寝……
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翌日、第一限から大学に。
校門をくぐって構内を歩いていると、
学部棟の屋上に誰かいる。若い男みたいな感じ。
そのうち、若い男は屋上から身を乗り出してポーンと宙に舞い、地面にドン
俺が呆然として2分ぐらいすると、地面から男は消えて……
また、屋上に若い男が見えて宙に舞い……が繰り返される。
4回ぐらいの繰り返しを見てるうちに、
一限の時間が迫っているので、走ってその場を去った。
昨日の今日で、あまりにも気持ち悪かったので、
俺は見ないようにして学部棟に入っていくしかなかったのだ。
昼時になって、学食へ行こうと友人と一緒に構内を歩いていると、
大きな欅の木の下に人がしゃがみこんでいる。
ヘルメットをかぶって、タオルを顔に巻いた若い男。
だが、色が薄くて半透明。輪郭もぼんやり。
若い男は目の前を歩く大学生をボーっと見ている。
俺以外、誰も気付いてないようで、みんな無視。
そして、俺と目が合うと、俺の方に手を伸ばして歩いて来ようとする!
が、植え込みから外へは出られない感じ。
横を歩く友人に「なあ、あれ…」と、男のほうを指差すが、
友人は「なに?」と見えない感じ。
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当時の俺は、オカルトに興味なし、ホラー大嫌い、心霊は一切信じてなかったので、
来週、精神科か神経科に行こうと考えながら、バイト先の喫茶店に行ったら……
窓際の席に、居るんだ、色が薄くて半透明の輪郭がぼやけた客が。
頭にスカーフ巻いた女の人……
ブラウスにスカートで、店の入口を思いつめた表情で見つめている。
絶対に、俺は頭がおかしくなったと、
冷や汗をかきながら、豆のピッキング(選別)をしていると、
マリコがやってきて、俺のことを心配そうに横目で眺めていた。
俺は、変なやつだとマリコに嫌われたり、
変に思われたくなかったから、
努めて笑顔を取り繕うしかなかった。
バイトが終わってから、マリコの部屋に一緒に行くと、
部屋に入ると同時にマリコが
カーペットの上に正座して、頭を下げてきた。
「ごめんね。私のせいで」と、頭をあげようとしないマリコ。
意味がわからず「なんのことだよ」と言うと、
マリコは「見えるようになっちゃったんでしょ」と。
「あの窓際の女の人、30年ぐらい前に死んだ人なの。でも、人を待っていて、ずっとあそこで……」
「え? あの女の人、マリコにも見えてたの?」
「うん。だから、色々と説明しなくちゃいけないんだけど、その前に、今日、他にも何かあったんじゃない?」
俺が、地下鉄の駅でのこと、大学でのことを話すと、
マリコは下を向いたまま、話し始めてくれた。
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「あのさ、霊能力とか、そういうの、信じる? 私ね、それなんだよね。
お母さんとか、母方のおばあちゃんもそうなんだけど、うち、そういう家系みたい。
でね…… そういう力ってね、エッチすると、うつっちゃうんだ。
本当に、ごめんなさい!」
「えっと、俺は霊能力者になったってことなの?
「そういうんじゃないとは思うんだけど、
見えるようになったり、聞こえるようになったり、なっちゃうの。
私、子供の頃から、いつも見てきたんだけど、人には言わないようにしてたんだ。
上京する前に、おばあちゃんとお母さんに呼ばれて、母方の血筋のこと教えられて」
「え? え? じゃあ、わかって、エッチしたっていうこと?」
「うん。ごめんなさい。だって、処女じゃなくなると、少し鈍感になるからって」
「えーっと、それって、俺を利用したってことなのかな? いや、俺に文句はないんだけど」
「あと、キミが私の事、真剣に好きだっていうのもわかっていたから、それなら、いいかな、って」
「え? 人の心まで、わかっちゃうの!?」
「心がわかるっていうか、好意や敵意を持ってる人の周りのオーラみたいな、それはわかる」
「じゃあ、1年付き合うっていうのにも、なんか意味があるのかな?」
「うん。私がエッチに慣れれば慣れるほど、勘は鈍くなる、って。だから、最低1年」
「えーっと… 俺、一生このままなの?」
「ううん。私と別れて時間が経てば、元に戻るって、言ってた。
だから、いいよ、別れても」
ここでもう少し考えれば良かったんだろうが、俺は即答してしまっていた。
「嫌だ。俺はマリコと付き合いたい。こんなもん。そのうち慣れるよ!
だから、付き合い続けてください!」
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それから、ほぼ2年間、俺とマリコは付き合い続けて、自宅デートとエッチして、
俺はわけのわからないもの、他人には見えないようなものを、外出先でいっぱい見て、
マリコと同じように、人混みや古いものが嫌いな意味がわかるようになって……
ゼミの花見で行った都内の古い公園は最悪だった。
腕や足のない兵隊が、ゴロゴロ転がってた。
で、俺が見えてるのに気付くと、
俺に気付いた兵隊がにじり寄ってくるんだ。
まるでゾンビのように。
俺もマリコに色々と教わって、たいがいの霊はかわせるようになってたが、
それでもこの兵隊はヤバかった。
大学3年になって、就職活動の時期になると、
マリコは色々とアドバイスしてくれた。
「会社選びの時は、ダウンジングがいいよ。
エントリーする前に、地図を広げて、その会社の本社の上でダウンジング」
と、5円玉を使ったダウンジングのやり方を教えてくれた。
「その会社に着いたら、まず、正門玄関の前で、静かに集中してみて。
嫌な感じを受けたら、自分から断って」
「面接担当者の真意を知りたかったら、担当者の耳の先あたりをボーっと見て。
煙みたいなのが見えるから。
その煙の印象が悪かったら、悪意がある人だから、その会社は自分から断って」
俺は「なんか断ることばっかりだね」と言うと、
「うん。良い会社っていうのは、小さくても働いてる人が良い感じだからね」と。
「ところで、マリコの就職活動は?」と問うと、
「私は、コネみたいなのがあるから、心配しないで」と。
マリコは、地元の話や、実家の話、家族の話はしたがらなかったので、
俺もそれ以上は聞かなかった。
俺は、マリコのアドバイスに従って、
当時、無名だったが、福利厚生が厚い会社に就職を決めた。
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マリコとの別れは唐突だった。
大学卒業の直前、いつものように、
スーパーで食材を買ってマリコのアパートに行くと、先客がいた。
マリコのお母さん。
俺は挨拶をしようとドギマギしていたら、お母さんはにっこりして
「あら、本当に優しい人なのね。良かった。こんなに好きでいてくれるなんて」
そうだった… お母さんも、オーラとか見える人だったんだ…
俺の買ってきた食材を、お母さんが台所で料理してくれている時、マリコが話し始めた。
「私、家業を継ぐんだ。だから、明後日にはこのアパートを引き払うの」
「ええ! 突然すぎるよ! じゃあ、俺たち遠距離恋愛なの?」
「ううん。これでお別れ、ってことになる。突然でごめんね。言い出せなくて」
「そ、そんな! 俺、婿養子になるよ。俺もマリコんちの家業を手伝うよ」
こんな感じで、俺は別れを渋っていたのだが、そのうち、お母さんの料理が出来上がった。
美味しくご飯(激旨の和風白菜ロール)を頂いたあと、俺はお母さんに切り出した。
「俺とマリコさんの結婚を許していただけますか。
俺、婿養子でも、平社員でもなんでもやります」
お母さんは涙ながらに話し始めた。
「あのね、貴方は、本当に良い人なの。
本当にマリコのことを好きなのもわかってるの。
だから、駄目なの」
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マリコの家は8代続く女系であること。
婿は、子供が産まれると、長くて7年、短いと3年で早逝してしまうこと。
だから、祖母も私も、本当に好きな人は、旦那様にはできなかったこと。
貴方は、マリコの本当に好きな人だから、
マリコのことを理解してくれるからこそ駄目なこと。
そして、お母さんはひとつの封筒を差し出してきた。
失礼ではあるが、中の手紙を出して読んでみると、
「マリコのことを化け物扱いせずに、
大事にしてくれた人だからこそ、
幸せになってほしいのです」
から始まる達筆な手紙には、
・就職して3年目の秋に転職しなさい。
・転職先で素晴らしい女性に出会います。迷わず結婚しなさい。
・子供が生まれて3歳になったら独立しなさい。
といったことが、10年分ほど書かれていた。
俺はマリコの能力を信じていたが、さすがに驚いて、
「マリコんちの家業って、占い師とか?」と問うと、マリコは笑って首を振り、
「それはおばあちゃんが見立ててくれたの。うちは○○県で○○の会社やってる」
俺は、マリコとお母さんの涙ながらの感謝の言葉を聞かされているうちに、
これもしょうがないことだ、運命なのだと、
マリコとの別れを承諾するしかなかった。
その日、お母さんはホテルに泊まり、俺とマリコは一晩中SEXしまくって、
次の日は、お母さんとマリコといっしょに荷造りを手伝い、また夜にSEXしまくって、
俺とマリコは、泣きながらSEXするという状態で、寝ないでやりまくった。
最後の日、俺は東京駅まで見送りに行き、マリコとお母さんは新幹線で故郷に帰った。
その後、俺は大学の卒業式典に出て就職したのだが……
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俺は就職から、手紙のとおりに十年間過ごした。
そして、それは大成功だった。
就職して3年目の秋に転職。
社風も社員の雰囲気もよく、辞めたくはなかったのだが、
俺はマリコを、マリコのおばあちゃんの手紙を信じてみた。
その年末に会社は突然の倒産。
転職で、俺は一気に収入が上がった。
そして、手紙の通り、転職先で出会った女性と
トントン拍子でお付き合いから結婚へ。
すんなり子供も生まれ、子供が3歳の時に手紙に従って独立。
周囲からは引き止められ、
嫁の家族からも大反対されたが、俺は手紙に従った。
その独立後3ヶ月で、元の会社は外資に突然の吸収合併で大量リストラ。
その他にも、おばあちゃんの手紙に従ったお陰で免れた災難はたくさんあった。
マリコとは、手紙のやり取りを続けていたが、結納と同時に最後の手紙が来て、
「これで本当に終わりですね」という文章と、一枚の宝くじ。
まさか、この宝くじは当たらないよな、と笑っていたのだが、
後日調べると当たっていた。
一等:1000万円の地方振興宝くじだったけどね。
この1000万円が、後の独立資金になるとは、この時は思いもしなかった。
しかし、その手紙以降、
俺がマリコへ手紙や年賀状を出しても、
全て宛先不明で返ってくるようになり、
マリコとの関係は諦めるしかなかった。
ちなみに、俺の霊感は、マリコと別れて1年ほどで、ほぼ消えた。
今も残ってるのは、空気が悪いな、感じが悪いな、と思った場所や人からは逃げる程度
マリコから教わったダウンジングとOリングは、今もたまに使っている。
昔のように恐ろしい的中率ではないが、今もかなり参考になっている。
先日、家族でお台場に遊びに行ったら、
ロケ中の本物の篠田麻里子を見かけたので、思い出して書いてみました。
作者NecoRa
ちょっとエッチな描写も含みますので、
そういうのがお嫌いな方はお読みにならないで下さい。