時は元禄四年、一月…
質屋『千石屋』当主『清三』の元にある一枚の絵が持ち込まれた。
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客の応対をした番頭の『半七』の話によれば、その絵は美人画であるとの事で持ち込まれた…
が、巻物の紐を解いて中身を見ると…
半七はもちろん、客の『宗次郎』も驚いた…
黒髪をおどろに乱し、まぶたが垂れ下がり、ジロリと眼光鋭い目でこちらを睨むその怖ろしいまでの形相は、見るものを「あっ!!」と言わせるものであった…
元々、美人画であった絵が何故幽霊画のような絵となっているのか…?
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「こりゃ美人画じゃなく幽霊画じゃございませんか?」
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と、番頭が尋ねたが
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「そんな筈がない…でも、まさか…」
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と宗次郎はあることを話し始めた…
その絵は先祖代々、奉公先の家の蔵で家宝として守られてきた。
先代も同じように蔵に入れて大事に保管してきたが、
跡継ぎの居なかった先代はその家の奉公人
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『長井 源八』
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を養子にする。
先代が亡くなり彼が当主となると、血の繋がりもなく、家宝を守る気もない源八はその絵を蔵から出して、床の間に飾り、その絵を眺めるようになった…
美しい女性(にょしょう)の描かれたその絵が大層お気に入りで、暫くそのまま飾られていたのだが…
ある日の夕暮れ時、町内に大火が襲う…
当然その家も大火事に見舞われた…
家の者は皆、外に逃げ出し無事であったが、その時…まだ幼い当主の子が燃え盛る屋敷の中に取り残されていることに気づく…
だが、時すでに遅し…
助け出すことはおろか中に入ることすら出来ない状態で、諦めざるを得なかった…
しかし、当主の奥方で、その子の母『お政』は諦めることが出来ず…
桶の水を頭から『ザッザァァ…』と被ると、依然激しく燃え続ける屋敷の中に飛び込んで行ってしまった…
「止せぇ!!」と、止めようとしたが、お政は聞く耳を持たなかった…
バキバキと音を立て、燃え盛る屋敷を前に源八や宗次郎、他の奉公人達は、もう二人とも助かるまいと諦めかけていた…
が、その時…
火の海の隙間から人影が現れたのだ…よく見ると火傷を負って歩くのもやっとの奥方であった。
長い黒髪はばらばらに乱れ…火傷が酷いのか瞼が垂れ下がり、酷い顔をしていたという…
急いで水や手ぬぐいなどを用意するよう奉公人に指示をして出てきた奥方の元に駆け寄った…
黒焦げた塊を胸に抱き…
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「坊や…もう大丈夫ですよ…」
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と繰り返していたという…
よく見ると、それは既に焼け死んだ当主の子であった…
口をぽっかりと開け、煙を上げ小さく縮こまっている…
それを抱きしめポロポロと涙を流す奥方を見て、駆け寄った源八は愕然と立ち尽くす事しか出来ずにいたそうだ…
そして更に見るとその手の中に巻物らしき物も抱いていた…
何を抱いているのかと手を伸ばし、取って見ると、あの美人画であった…
焼け焦げることもなく、家が燃える以前のままの姿で有ったと言う…
焼けてしまう事無く手元に戻ったのだ…勿論、紙…奇跡としか言いようが無い…
しかし、奥方はというと酷い火傷を負っていた為、高熱を出し寝込んでしまう…
近くの焼けることのなかった小屋を借り看病をしたが手遅れと思われ、間も無く亡くなってしまう…
一気に全てを失った源八は、頭を抱えて力無く崩れ…
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「もうどうしたらいいのか分からん…お前達も何処か他の奉公先を探せ…俺には皆を養える物は何一つ無い…」
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と嘆いていたという…
それもそうだ…蔵にも火が入り、中の物が皆焼けてしまったのだ…
手元に残ったのは、この絵だけ…
やけくそになったのか、源八は
絵を巻き、紐で締めると絵を奥方の胸の上に投げつけ、小屋を出て何処かに消えてしまったのだと言う…
その後すぐに、奉公人が叫んだ
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「宗次郎さん!奥様がっ!」
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死んでしまったと思われた奥方の手が動いている…
宗次郎はまだ生きていた?と駆け寄ったが…
しかし、またすぐに動かなくなる…
見ると奥方は絵を手にしっかりと掴んでいた…
死後硬直によって硬く握りしめていて…それを引き離すのに苦労したそうだ。
その時に亡くなった奥方の念がこの絵に宿り、絵となって姿を現したのではないか…
そんなことを話しながら宗次郎は涙を零していた…
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その話を黙って聞いていた清三は番頭にある事を聞いた
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「なるほどな…ふん…可哀想な事だな…
ところで…半七?
…この絵を幾らで預かったんだい?」
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煙管に火をつけ、大きく吸い込むと『ふぅぅ…』と半七に吹きかけ、少し半笑のような顔で尋ねた。
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「え?あっ…へぇ…二十両でお預かりいたしました…」
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「へぇえ…何処の馬の骨かも分からない胡散臭い客に、二十両とは、お前さんも人が良いねぇ…」
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「いえ…そんな…えっへっへ。照れますよ旦那…」
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「あたしは褒めてるんじゃない!!
そんな誰が描いたのかもよく分からない絵に二十両も出しやがってこの大馬鹿野郎っ!
どう責任取るつもりだい?美人画なら未だしも、幽霊画なんぞを預かりやがって…」
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「いやしかし、見ると中々良く描けてましてね…これは名のある絵師が描いたモノじゃないかって代物で…」
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「ほう…そんなに言うなら見てみようじゃないか。おい!?…サダ?定吉や!その預かったって絵…持ってきな…」
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「へぇ」
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絵を開き、暫く唸りながら眺めると清三は
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「まあまあだね…判も押してあるし…何とかなるかもしれない…
仕方がないね…蔵に仕舞っておきな…」
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そう言って清三は煙管に火をつけ…ニヤニヤと笑っていた。
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蔵で異変があったと知らせのあったのは、その次の日だった…
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「だ…旦那ぁ?」
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奉公人の定吉が真っ青な顔で清三の元にやってくる…
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「なんてぇ顔をしてるんだい?お前は…風邪でも引いたのかい?
薬が高いんだから、十分注意しなってあれほど言ったじゃないか…まったく、困った奴だ…」
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「そうじゃ無いんす…昨日の夜、蔵に化け物が出たんす…
憚り(はばかり:トイレ)に行こって思って起きて行く途中蔵の横を通りますとね、蔵から『ぶぶ…ぶぶ…』なんて変な音がするもんすからね…見に行ったんす…そしたら怖ろしい顔した女の幽霊が…」
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その話を聞いた清三は引きつったような顔で、まるで制止したように体を止め…
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「…それは、誰か他所の者に話したりして無いだろうね?」
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と、尋ねた。
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「いえ…旦那だけっす…あっでも番頭さんにも話しました。」
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すると清三はホッと顔色を変え
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「それなら良いんだ…じゃあちょっとサダや、半七を呼びな…それからお前、いいかい?この事は誰にも話すんじゃないよ?」
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と、忠告すると定吉の顔を睨んだ…
すると定吉は首を傾げ…
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「へぇ」
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と怯えるように答え、部屋を出て番頭を呼びに走った…
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番頭が来ると、部屋の戸を全て閉め
清三は深刻な顔で番頭と差し向かいになって話し始めた。
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「蔵の話はお前も聞いただろ?」
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「へぇ…サダ坊から聞きました。」
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「それならお前も分かってると思うがね、もし…そんな噂が他所に知られたらことだ…ウチは商売に支障が出る…
そうだろう?
化け物の出る質屋に誰が物なんぞ預けるものか…
だから、お前に一つ頼みがあるんだがね…」
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「へぇ…なんでございましょう?」
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「お前は身体も大きいし力も強い。番頭にしとくのが勿体ないくらいだ…そこでね半七…
今夜、蔵に出るという化け物を退治しておくれではないか?」
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「…」
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黙り込み、急にとんでもないことを言われたことで吹き出した汗を、胸から出した手拭いで拭いている…
それを見て、清三は不思議そうに
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「どうしたんだ?」
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と聞き、何の返事もしない半七の顔を覗き込むと…
ようやく口を開いた…
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「あの旦那…今日限り、この店を辞めさせて頂きたいのですが?」
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決意に満ちた表情で答える…
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「何だ何だ?!何を言い出すんだ?」
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突然の事に驚いて尋ねると
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「いえ、あの…私はどうも化け物と『たくあん』が苦手でして…」
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と、クシャクシャな困り顔で答える。
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「変なものと一緒にするな…たくあんなんぞ食べさせやしないよ…化け物を退治してくれと言ってるんだ…」
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と、腕を組んで、不思議なことを言い出した半七に言った…
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「勘弁してくださいよ…私にそんな事が出来るわけないじゃありませんか…気が小さいのは旦那もご存知じゃありませんか…他の者に頼んで下さいな…」
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と、泣き出しそうな顔で言う…
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「じゃあお前他に誰か強い知り合いでもいるのか?」
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すると、少し考えるように手を額に当て下を向くと…
突然顔を上げピンっと人差指を立て
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「居ます!一人だけ強い者が…」
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まるで、大発明でもしたかのような表情で声を上げる…
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「誰だい?」
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「この店に出入りしている熊五郎ですよ!
あの男ならば、もし化け物が出ようともひねり倒すかもしれません!
この間、背中の刺青を自慢するように見せて『どんな野郎、ヤクザもんが来ようと、この昇り竜を見せれば、昇り竜の熊だ!なんてぇ悲鳴を上げながら、飛んで逃げまさぁ!』なんて言ってましたし!」
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店には蔵の片付けや屋根の修理、重い荷物などを運んだりと小間使いのために雇っている『熊五郎』という男が出入りしている…
元はヤクザ者であったが、幾つかの悪行でお縄にかかり、お勤めを終えてから心を入れ替えるために、清三の元で働いているのだ。
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「あっそうか…熊公か…あいつなら良いかもしれないね…じゃあ早速呼びにやろう…おーい!サダや?定吉や?」
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「何ですか?」
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直ぐ部屋の外に居たのか直ぐに返事をした…
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「何だ!?まさか、お前そこで立ち聞きをしてたな!?」
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「いえ、座って聞いておりました…」
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と小僧のくせに口の減らないことを言う…
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「おんなじ事だ馬鹿野郎…まあいいや、お前も話を聞いてたのなら分かっているんだろ?
熊公を呼んどいで…あっ…いいかい…余計なことを話すんじゃないよ?ただあたしが呼んでるってそれだけを言えば良いからね…」
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改めて忠告をうけ、定吉はブツブツと言いながら店を出て、熊五郎の住む長屋に向かった。
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「あっ…ここだここだ…
こんちゃあ!熊さんいる?」
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「おう!誰だい?ああ…なんだサダ坊か…どうしたい?」
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「うちの旦那が呼んでるよ」
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余計な事は言うなと忠告を受けていたので、それだけを知らせる…
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「何で?」
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「兎に角、旦那が呼んでるんだ…来ておくれよ…」
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「だから、どうして呼んでるんだって聞いてるんだよ?」
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「言うなって言われてるもん…おいら言わないよ」
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「そんなこと言われたら余計気になるじゃねえか…言えよ」
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「言ってもイイけど…タダじゃ教えられないな」
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小僧のくせに口が減らない…これが定吉の性格なのだろう。
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「この餓鬼…足下見やがって…何が欲しいんだ…?」
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「ここに来る途中、菓子屋があったんだ…そこの芋ようかん。」
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「分かったよ、一個買ってやら…」
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それを聞くと、嬉しそうに話をした…
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「約束は破ったら昇り竜の熊は意地きたねえって言いふらすからね!」
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「そんな事、言いふらされてたまるか…約束は守らぁ…」
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「あのね、ウチの蔵に化け物が出たんだ…だから旦那が番頭さんに退治しろって言ったんだけどね、番頭の半七さんが嫌だって…
なら他に強そうな奴は居ないかって旦那が聞くとね…半七さんが熊五郎なら化け物を退治出来るだろうって…
熊さん背中の刺青を自慢してまわったりするから、こんな事になったんだぜ?
あはは…」
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「おい…ちょっと待て…それはダメだ…行くわけにいかねえ…じゃなくて、俺ぁ…急に腹が痛くなってきたから、そう旦那に言伝(ことづ)けてくれ…」
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「へ?じゃ…芋ようかんは?」
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「すまねぇ…芋ようかんは諦めてくれ…ほじゃな…」
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くるりと後ろを向くと、本当に腹が痛いのか?と思うほど元気に物凄い勢いで走って行ってしまった…
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「ちぇっ…約束したのに…明日皆に言いふらしてやる…昇り竜の熊は意地きたねえ、下がりミミズだって…」
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トボトボと店に戻り熊五郎に言伝けられた事を話すと
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「お前…まさか忠告を無視して話したんじゃないだろうな…」
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怪しむのも無理はない。
定吉といえばお喋りなのはそのウチでは有名だ…すると。
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「言えば芋ようかんが貰えるって事になれば話しますがね…」
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と、そっぽを向いてはぐらかそうとしたので…
清三は、何かを察したのか物凄い形相で定吉を睨む…
すると…
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「何で呼んでるのか聞かれて…タダじゃ教えられないって言ったら、何が欲しいんだ…?って言われて…芋ようかんって答えたら、買ってやるって言われたもんだから…話しちゃいました…」
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定吉はその恐ろしい顔に怯えたのか、一部始終を白状すると、部屋を飛び出し一目散に逃げ、憚り(はばかり:トイレ)に閉じこもってしまった。
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「困ったね番頭さん…?
お前一人で退治することになったよ…」
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「冗談じゃないですよ!私に化け物が倒せるとお思いですか?」
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「やってみないことには分からないね…どうだい?今夜、蔵に入って退治してみたら?」
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なんだかんだで…番頭の半七は一人で蔵に入ることとなってしまう…
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提灯 に 茣蓙 と 酒の入った徳利、退治する為の肝心の こん棒 を手に蔵の前まで来て、重い扉を開け放つと何か生臭いような風が蔵中から流れ背筋をゾクっと凍らせる…
時刻は丑の刻少し前…
辺りは真っ暗…
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「なんだよう…?気味が悪いね夜中の蔵てぇものは…」
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一人、提灯だけの灯りの中、座り込み…
気持ちを紛らわす為に酒を一杯煽る…
清三に一番良い酒を渡されたのだが、恐怖で味も何も分からず…
もう一杯茶碗に酒をつぐ…
暗いためなのか少し溢れさせてしまい、
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「わったた…勿体無い…茣蓙に酒の味何ぞ分かりゃしないよ…ったく…」
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などと一人言を言って茶碗を口に運んでいると…
不思議な音が聞こえ始めた。。。
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『ぶぶ…ぶぶっ…ぶぶぶぶ…』
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茶碗を口につけたまま、体が固まる…
どこで打ち鳴らされるのか、八つの鐘が陰にこもって物凄く
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『ぼおぉぉぉぉぉ〜ん』
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と聞こえた…
目だけで辺りを見渡す。
目の前にある茶碗を見ると酒の水面がカタカタと震え始めているのが分かる…半七自体が震えているのだろう。
その時…ぼやりと青白いモノが奥から現れ
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「坊やがぁ…居ないぃぃ…何処に居るのですかぁぁ…?私の坊やはぁ…何処にぃ…」
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と、半七に問いかける…
その姿は、あまりに怖ろしく…
何処かで見た覚えのあるモノだ…
半七は目の前に現れたものを目の当たりにすると…
手にした茶碗を落とし、着物に酒をぶちまけ、しかしそんな事はお構いなしに蔵の扉に這うように逃げ出そうとする…
が、辺りは真っ暗…
提灯を慌てて取ろうと手を伸ばす…
しかし、手元が狂い提灯を転ばせてしまうと中のロウソクの火が消えてしまった…
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「しまった!」
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化け物がまだいるのか?と、顔を上げ悲鳴を上げた
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「ぎゃああぁあ!」
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半七の顔の側で口をポッカリと開け
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「坊や…何処…」
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そう言うと、口を閉じ唇を突き出すと子供をあやすように
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『ぶぶぶぶ…ぶぶぶぶ…』
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と唇を鳴らした…
あまりの恐怖に後退りすると、手にこの蔵に持ち込んだ こん棒 が当たる…
しめたっ!とばかりにそれを手にすると、力一杯その化け物の顔を横から殴った…『バキャッ!!』
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すると、顔が一回転グルリと周り、その場に崩れ落ちる…
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「やった…退治したぞ!」
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と、逃げるように蔵の扉のある方へ駆けて行く…
扉を開け放ち、外に息を切らし飛び出す…
すると、清三が外で待っていた…
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「お前の叫び声が聞こえたんだ、どうした?何があったんだ?退治出来たのか?」
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その問いに、頷くのがやっとの半七はそのまま気を失ってしまう…
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朝、半七が目を覚ますと、側で座ったまま居眠りをする定吉が居る…
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「おい…サダ…ここは?」
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「あ…むにゃむにゃ、もう食べ切れません…」
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「何を寝ぼけてる…」
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と、辺りを見渡し、安堵する。
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「あ…お屋敷の部屋か…と!昨夜…あの化け物の死体はどうなったのだ?」
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と、急いで立ち上がろうとした。
が、背中に痛みがあり中々立ち上がれない…
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「おい!定吉!起きて私に手を貸せっ!」
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その声に驚いて目を覚ました定吉が、何があったのかと驚きながら半七を立たせる。
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「蔵へ連れて行ってくれ…」
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「どうかなさったんですか?番頭さん…」
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「いいから!」
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それを聞いて、首を傾げながらも、定吉は大きな体の半七を小さな体でやっとのおもいで蔵の前まで連れて行く…
半七は意を決したような顔で、蔵の扉に手を掛け
ゆっくり開けた…
中に朝の日の光が入り、中が明るくなる…
目覚めたばかりのまだ慣れない目を凝らすとそこに、あの宗次郎という男がこの質屋に持ち込んだ幽霊画が、何かで叩かれたように捻れた状態で落ちていた…
昨夜半七が見たものは何だったのだろうか…
半七はその絵をまた、形を整え巻くと近くにあった空の箱に収め
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「定吉…これを旦那に内緒であの馬鹿熊五郎のところに置いてきな…彼奴が来てくれたなら俺がこんな目に遭うことはなかったんだ…仕返ししないと腹の虫がおさまらない…」
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「いいんですか?そんな勝手なことして?」
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「かまやしないよ!早く持ってきな!」
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そう怒鳴ると定吉は、慌ててその絵を持って熊五郎の元にも持って行った
その後、熊五郎に怖ろしい事があったのは言うまでもない…
其の後…何故かまた蔵の中にその絵は収められている。
恐らく熊五郎がこっそり入れたのだろう。
作者ナコ