リサイクルショップ千石〜シリーズ:5トランジスタラジオ・モデル7C-307A〜

長編9
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リサイクルショップ千石〜シリーズ:5トランジスタラジオ・モデル7C-307A〜

私は中古品の買取、販売を行う店を営んでいる。名がなんともダサい…

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『リサイクルショップ 千石』

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まぁ、父がネーミングした名だが…

変更するのも面倒なのでそのままにしている。

ウチは代々、質屋を営んできたそうだが…

親の代から質屋では聞こえが悪いと、今の買取販売の形に変更したそうだ…

この店にはあらゆる品物が持ち込まれる…

その中には、何やら怪しい…曰く憑きの物まで含まれている

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今回は

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『トランジスタラジオ・モデル7C-307A』

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かなり古いほぼ骨董と言っていい品物でなかなかお目にかかることのない“それ”を持ち込んだのは、意外にも若者。

十代?

と思える風貌であったが、しっかりとした話し方などから、二十代半ばと思われた。

しかし若者とは思えないほど覇気が無く、細身で色白。

直ぐにでも倒れてしまうんじゃないかと思えるほど顔色が悪い。

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「このラジオ、大事に使ってきたのですが…とある事情があって、手放そうと…」

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か細い声でそう言うと、レジに箱入りのモデル7C-307Aを置くと、頭を小さく下げた。

様子からして、価値をわかっているものと思われたので、その客に

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「お幾らでお売りになられますか?」

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と尋ねた…

すると意外にも3万と高値を付けてきた…

高すぎる…トランジスタラジオなどはそんな高値で取引されていないので1000円がいいとこ…

箱も付いているし、状態も悪くない。珍しい品物だがそんなものだ…

そのように説明をして、値段を提示すると…

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「あ…そうなんですね…分かりました。それでお願いします。」

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と、残念がることもなく平然としていた。

動作チェックをしてみる…異常もなく正常に作動する。

FMの周波数に入っていて、店内に山下達郎さんがパーソナリティをつとめるSUNDAY SONG BOOKが流れた…

音も悪くないし大切な品物であったと思われる、それも考慮し…

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「1200円で買い取ります。」

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と彼に値段を提示した。

すると表情を変えることなく、はい…と返事をすると、小さく頭を下げ、品物を置くと金を受け取り店を出て行った…

店内に置く前にクリーニングを施す。

いくら大切に扱ってきたと言っても、細かい隙間などに埃や手垢などが残っている…

電池を抜き…

ウエス、歯ブラシや楊枝などで傷を付けないように丁寧に汚れを落としていく…

全て汚れが落ちたら、ビニール製のラップでボディを包む…

そんな作業をしている時だった…

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お客が入って来た時に分かるように最近、扉に付けた鈴がなる。

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『チリンチリン…』

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「いらっしゃい…」

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最近、風の噂で私が無愛想だという話を聞いた…

それはサービス業を行っているものとしてはマズイ。

せめて私なりに挨拶くらいはしなければと努力している…

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「あれ…珍しい…いらっしゃいなんて、今まで言ったことなんてなかったじゃん!ははは。」

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何時もの常連客か…

と、作業を続けた…

常連客は店内をぐるりと見渡し、新入荷した物が無いのを確認すると、私がラッピングしている商品に目を留めた…

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「それ、新しく入ったやつ?」

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「ええ…今さっき…」

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あ…いけない。

無愛想に答えてしまった…

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「トランジスタラジオ、モデル7C-307Aって物でしてね…結構珍しいものなんですよ。」

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と、私なりに明るく答える…

すると、へぇ…と間抜けな顔をしながら「幾ら?」値段を聞いてきた。

なっ…貴様…今ラッピングが済んだところで…買う気なのか

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「ええ…と、そうですね。『¥2500』でどうですか?」

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すると、その客は顎に手を添え暫く考えると…

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「やっぱいいや…」

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と、手の平を前に突き出し、店内をもう一度見回しはじめた。

結局買わない。

この客がこの店で買ったのは、あの気味の悪いアコギくらいだ。

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『チリンチリン!』

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また客が入って来た。

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「いらっしゃい…」

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先ほど、このラジオを売った客が何やら慌てた様子で入って来た。

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「あ…あの…そっそのラジオ。やっぱ、返してください!」

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何事が…?

と、思ったが…

別に構わないか…と

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「何かお困りのようですね…何がおありになったか知りませんが、構いませんよ…その代わり…買って頂く事になりますが、構いませんか?」

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と、「言うとそれでも構いません…幾らですか?」と聞いてきたので

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「2000円です」

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と言うと、そのやり取りを見ていた常連客が、「は?」という顔で私を睨んだ…

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「え…う…わ…分かりました。じゃあ、これで…」

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と、千円札を二枚レジに置いた。

すると、急に常連客が割って入ってきた。

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「俺は2500円出すから、そいつを売ってくれ…」

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「え?そ…そんな…じゃあ僕は3000…」

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とその客は、財布を覗いたが、その顔はみるみる青ざめていった。

どうやら、持ち合わせが無いようだった。

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「お客さん、譲ってやってもらえんかい?」

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と私は常連客に申し出た…しかし

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「嫌だね!それ欲しいんだ!」

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と譲らなかった…

すると、ラジオの客は

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「い…いいんです…諦めます。」

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と店を走って出て行ってしまった。

薄情な奴め…と常連客を睨むと、彼はニヤニヤと笑って「勝った…」

と、ガッツポーズをきめていた。

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その数日後…

店の扉が開き、『チリンチリン!』

と、鈴が鳴ると…あの常連客が飛び込んできた…

何事があったのか?

手にはあのトランジスタラジオを抱えている…

顔は青ざめいつもの様子ではない。

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「いらっしゃい…どうかしましたか?」

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と尋ねると

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「どうもこうも無いよ!こんなもの…返すよ!」

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とレジの上に、適当に箱に入れられたラジオを放り投げた…

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「お売りですか?」

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と聞いたが、何も言わず走って出て行ってしまった…

何があったのか…

箱からラジオを出しもう一度、全体を確認して見た。

??

何の変哲もない…

まぁ…なんだか知らないが、得をした。タダで品物が入ったんだ…

取り敢えずクリーニングを施しラッピングをして、空いている場所に陳列した。

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夜…

店を閉め、鍵の施錠を確認しレジの売り上げの計算を始めた…

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『ジ…ジジ…』

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ん?何の音だ?

店を見渡す。

おかしいところは特に無い…

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『ザザ…は…こんばんは…ザザ…ザ…ラジオネームは…ザザ…」

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ラジオ番組?

店の商品が作動していているのか…?

いやそんなはずは無い…コンセント式の物は抜いてあるし、電池式の物だって全て電池は抜いてある。

どれが鳴っているのか…?

と、店内の商品を見渡した。

あのモデル7C-307Aだ…

その時だった…

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『キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」

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と、けたたましい、耳を突き刺すような高い音が大音量で鳴り響くと、店にある全ての電気機器の電源が入った。

何事か!?と、耳を塞ぎながらそのラジオの音量を下げようとボリュームを見たが、中よりも下をさしている…

すると、突然その音が止まる…

その後、何やら不気味な音が鳴り出した。

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『ブブブブブブブブブ…』

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その後、砂嵐だった店のブラウン管テレビに突然何かが映る…。

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「何だこれ?」

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画面全体が真っ赤…ぼやけている

すると、少しずつカメラが後ろに後退しているのか…その赤いものが後ろに下がっているのか…そこに映し出されているものが、はっきり映りだし出して…

私は今まで出したことのない悲鳴を上げた。

映し出されているのは、人の顔面。

皮が全て剥がれ、血を吹き出している…

その死んでいるのかどうか定かではない人物の横に誰かが立っている。

目を凝らして見ると、あの時、このモデル7C-307Aを持ち込んだ青年だ…

ラジオとテレビがリンクしているのか…ラジオのスピーカーから、その青年の口に合わせ声が流れた。

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『ブブブブブブブブブ…笑えるだろ?これ…俺の言うことをよく聞いてくれよ?おい…こいつ…誰だと思う?ふふっ…あんたも知ってる奴だぜ…そこに俺のモデル7C-307Aがあるだろ?それを買ったあの馬鹿だよ…しししししししし…俺を舐めんなよこら?』

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と、常連客と思しき男の頭を叩いた。。

私は恐怖で目をそらそうと、首を曲げると…

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『残念でした…こっちのテレビも俺の手の内だぜ…しししししししし…』

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と、液晶テレビの画面に同じ画像が映し出された…

何処かで私のことを見ているのか?

監視カメラ?

とそちらを見たが…

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『ブブブブブブブブブ…そっちじゃないよ。こっちこっち…あんたの目の前の売りもん、カメラJY-HM70だよ…しししししししし…」

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テレビ画面に私が映る…商品のカメラJY-HM70の方から写しているだろうと思われる画像が映し出されたのだ。カメラを見ると確かに私の方向を映している…

恐怖で逃げ出したいのに足が震えて動けない…

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「な…な…何が、も…目的だ…」

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声が出ずらかったがやっと言うと…

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『お前…この俺を出汁にこいつにそこのラジオを売ったろ…それが許せねぇんだよ…』

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確かに、あの常連客には初め2500円を提示した、すると常連客は諦めたように辞めると言って引き下がった…

そのあと、慌てた様子で飛び込んできた、この男には2000円を提示…

すると、常連客はそれが頭に来たのか、2500円で買うと言い出した。

それを聞いて、この男はそれは困ると3000円を出そうとしたが、持ち合わせが無く、泣く泣く諦めた…

だが、こちらも商売…

どんな商法をしようがこちらの勝手だ…

それを伝えたが、許せないの一点張りだ…

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「どうすればいい?お前さんにこのラジオをタダで引き渡せばいいのか?」

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『そんなこっちゃ…俺の気が収まらねえんだよ!」

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と、手に持っていた小型のマサカリを常連客と思しき男の頭に振り落とし、殺害してしまった…

いや、もう既に死んでいたのかもしれないが、その顔の皮の無い男はその場に崩れ落ちるように倒れた…

殺人鬼と化したその男は、画面に近づき、恐らくカメラを持ち上げたのか、画面を揺らしながら何処かの部屋の扉を映し出した…

そのまま、部屋から出る様子がテレビ画面に映る…

何処かの廃工場のようだ…

動くことのできない私は画面をそのまま見続けた。

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!!?

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この場所は…

この店の直ぐ真横にある以前、木綿を製造していた工場。

その殺人鬼は、そのまま外に出てこの店の前まで来ると、鍵のかかった扉に手に持ったマサカリを振り落とした…

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『ガシャン!!!!』

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すると、警報装置が作動。

自動的に警備会社に異常を知らせる…

警備会社はここからさほど遠くない。

鍵はなかなか壊れないのか、何度もマサカリを振り落とした。

その音は店の中まで響き、私は恐怖のあまりその場にうずくまり助けの来るのを今か今かと待った。

外から自動車の音が聞こえた。

どうやら警備会社が到着したようだ。

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「あんた!何してるんだ!!?」

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何時も見回りに来る警備員の声、間違いない…

警備員の到着に安堵すると、恐怖も和らぎ身体がいうことを聴いた…

直ぐに警察に通報…

警察もこの店からそれほど離れていない…直ぐ到着するだろう。

すると、外から

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「ぎゃあああ!!!!」

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と、警備員の叫び声が聞こえた。

え?

まさか…

そのまさかだった…

また、鍵を叩く音が店内に響く…

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最悪だ…

早く…お巡りさん!早く…速く…

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すると、遠くにパトカーのサイレンが聞こえた…

来た!来た!来た!来た!来た!

サイレンが店の前まで来ると止み、二人あまりの足音が聴こえた…

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「君!何をしているか!うわ!この警備員を殺したのはお前か!!うわっ!!

…辞めなさい!!その斧を下に下ろし、手を頭の後ろに回しなさい!!」

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テレビ画面を見ると警察官二人が、必死に殺人鬼の奇行を止めようとする様子が映し出されている。

だが、抵抗を辞めない殺人鬼は片方の警察官にマサカリを振り落とす…

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「ぐあ!!!」

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傷を負ったのかその警察官は崩れ落ちる…

それを見て流石に怒ったのか拳銃を抜いた…

どうなるのかとテレビ画面を観ていると…その警察官にもマサカリを振り落とそうとしているのか、画面にマサカリが上に振りかぶるのが見えた…

警察官はそれを見ると、躊躇することなく拳銃を発泡…

店内までその銃声が響く…

殺人鬼に命中したようだ…

カメラが地面に落ち、画像が途切れた…

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この事件の後、店にあった全ての電気機器を調べたが、コンセントも電池も間違いなく刺さっていなかった…

あの殺人鬼は一体どうやって、電気機器を動かしたのだろうか。

今でも謎である…

Concrete
コメント怖い
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削除大丈夫ですょ(^^)
アコギもまた続きが出たら読ませてもらいます(^^)
こちらの話も怖くて面白かったです(^^)

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翔さん!間違えてあなたのコメ消しちまった!ごめんなさい!

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翔さん、そんなことないです。この後も考えていますが、リサイクルショップを忘れて欲しくなかったので、投稿しました。

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