そして誰も出られなくなった

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そして誰も出られなくなった

俺は何か面白いことがないかと考えていた。

A(26才)、薬品会社の営業マンだ。

毎日、客の前でどこのどいつが作ったのかもわからん薬の説明をさせられる。

自分で作った薬ならまだやりがいもあるというものだが、サラリーのためなら致し方ない。

同じような日が続きすぎて飽きてしまった。

生きる意味を模索するという、多くの人間が遭遇する壁にぶち当たったわけで。

要は何か楽しいことがしたいのだ。

非日常的な何かを。

休日は基本ヒッキーで、DVDを見て喜怒哀楽を感じ、性欲を処理して終わるという感じだ。

そんな俺にとっての非日常とは、人と話すことじゃないかと思い立った。

会社でのドライな会話でなく、友人同士の楽しい会話だ。

久しぶりに友達と会ってみよう。

そしてどこか変わった場所にでも行こうか。

俺は、その昔相当親しかった二人に連絡を取ってみた。

まずはBだ。

A「しもしも。Aだけど覚えてるか?」

B「まぢで?久しぶりだなぁ。で、なんかの押し売りか?」

A「何の話?」

B「いや、Xって奴覚えてるか?そいつがいいミネラルウォーターがあるって相当しつこく電話してきてさ。なんでもノルマが達成できないから買ってくれだと。」

A「へぇ、そんなことがあったのか。で、どうしたの?」

B「勿論断ったさ。詐欺かもしれなかったし。まぁ、情けで買ってやろうとも思ったが、当時あいつとは特に仲良くなかったしな。」

A「正直Xのことは俺も覚えてないなぁ。俺は押し売りじゃないから安心しろ。」

B「そうか、用件は?」

A「あ、そうそう。今度の土曜日だけど暇?」

B「あぁ、特に何もないけど。」

A「ちょっと変わったとこに遊びに行かないか?」

B「いいよ。具体的には決めてないのね?」

A「場所は未定。あとCも誘おうかと。」

B「あいつも久しぶりだなぁ、じゃぁ楽しみにしとくわ。」

A「おう、また連絡する。」

Bは駐車場の警備員をしている。

俺と同じ26才だが、警察官になる勉強を続けているそうだ。

次にCに電話してみることにした。

A・B・Cの三人組はいつも一緒だったのだ。

C「どなた?」

A「疲れた声だな、Aだよ。」

C「おぉぉぉぉぉぉぉ、Aか!」

A「急に変わりすぎだろ。元気か?」

C「元気ではないかな、地に足がつかなくてさ。こないだ大食い選手権の予選に応募してみたよ。」

A「なにやってんだよ。大卒なんだから自分で食ってけよ。」

C「おっしゃる通りだす。ところでなんか用?」

A「実はBと一緒に楽しい休日を過ごそうと思ってな。今度の土曜日空いてるよな。」

C「聞かずとも分かるだろうがな。まぁ、バイトのシフトはずらしてもらうから大丈夫だ。」

A「そうか、また連絡するから楽しみにしとけ。」

C「はいよ。」

Cは就活負け組でプータローだった。

就活が一年続いた後、燃え尽き症候群とか言って急にサボりだした。

よってこのザマらしい。

大食い選手権は見てやることにして、遊びのプランを立て始めた。

男三人だからやはりワイルドなスポットがいい。

木曜日に台風が来て次の日から晴れが続くそうだ。

ネットで「洞窟旅」というのを見つけた。

洞窟内を探検し、その中に用意された部屋に泊まるというものだ。

部屋といっても、ただの大きな穴で、整備されているわけではなかった。

電気なし、ガス・火気厳禁という注意事項に目を通し、ここに決めた。

ウィスキーでも飲みながら昔話もいいだろう。

BとCにこのことを伝え、土曜日を待った。

…。

Aが車を回し、BとCを拾って目的地に行った。

「洞窟村」とはよく言ったものだ。

洞窟の中の村に旅人が泊まるということか。

管理人のおじさんが来て説明してくれた。

おじさん「え~、ホームページにあったようにガス・火気厳禁でお願いします。洞窟は換気できませんから。まぁ、洞窟の最深部に酸素ラインをつないでますから窒息の心配はないですがね。お食事はこちらでご用意をしております。お水で暖まる特製弁当でございます。お酒もご要望とあらばご用意します。そして、ポイ捨てはくれぐれもしないように。では、ヘルメットをかぶって舗装された道をお進みください。部屋番号は②です。」

A「先着の方がいるのですか?」

おじさん「えぇ、おひとりで来られた方がいらっしゃいます。もしお会いになられたら仲良くされてください。」

A「そうですか。ではお弁当とウィスキーを頂けますか。あと懐中電灯を3つ。」

おじさん「かしこかしこまりましたかしこ~。」

急にふざけたおじさんをスルーしてしばらく待った。

地図などの必要なものを受け取り、さっそく三人は中へ進んだ。

A「ものものしいな。」

B「あぁ、警備のし甲斐がありそうな場所だ。」

C「死骸?」

B「うるせぇよバカ!」

冗談交じりに進んでいった。

中にはいろいろと面白い景色があった。

所々綺麗にライトアップされ、水溜りが怪しく美しく、蝙蝠が羽音とともに歓迎してくれた。

C「モンスターボールは?」

A「ズバットじゃねぇよ!」

さらに進むと滝があった。

B「すげぇな洞窟内の滝って。」

A「たいしたことない、ガクトの家みたいなもんさ。」

C「なるほどね。」

地図に書かれた面白そうなところは大体回り終わった。

午後六時。

部屋②に行ってみた。

A「ただの穴だ。」

B「あぁ。」

C「とりあえず荷物置こか。」

リュックサックと寝袋を置いてトランプを始めた。

電波が届かずネットが使えない。

原始的な遊びしかできなかったが、この三人なら楽しかった。

あっという間に二時間経っていた。

C「メシ。」

A「そうするか、フードファイターよ。」

B「何のこと?」

C「俺、大食い選手権出るんだよ。」

B「は?お前小食だったろ?」

C「貴重な一食のためなら人を欺いても構わん。」

A「一回戦で終わる気か。」

水を入れるとモクモク煙が出て熱くなった。

A「おぉ、酒に合いそうな弁当だ。」

特製弁当というだけあった。

酒もどんどん進み、口数がさらに増えた。

Aの持っている一番大きな懐中電灯がチカチカしだした。

A「あ?もう電池ねぇのかよ。」

残りはBとCの持つ小さめの懐中電灯だけだった。

B「しゃーねぇな。寝袋に入ろうや。」

小さな明かりではトランプも満足にできなかった。

と、部屋の入り口から足音が…。

三人は身構え…、「どうもこんばんわ~。」

年の近そうな男がやってきた。

A「どなたですか?」

D「驚かせてごめんなさい、私Dと言いまして、ここに遊びに来たんですが、懐中電灯が壊れましてね。」

B「あぁ、そうでしたか。」

D「はい、よろしければご一緒させていただければと。一人じゃ心細くて。」

C「いいですよ、どうぞ。」

内心、まじうぜぇよと思った三人。

A「いや~、ここの懐中電灯は点検してほしいものです。先ほど一つ駄目になりましてね。」

D「そうですか。自己紹介をしておきましょうか。私はこの町で公務員をしているものです。」

C「お役所の方?」

D「いえ、警察の人間です。」

B「えぇ!私も警察官目指してるんです。」

D「そうですか、ぜひ頑張ってください。」

C「Dさんはおいくつなんですか?」

D「まだ20才です。」

A「ほう!高校を出てそのまま警察官に?」

D「そういうことです。」

B「来年27才の僕が後輩になるとしたらどうですか?」

D「正直やりづらくはあるでしょうね…。」

B「ははは、まぁそれは仕方がありませんね。」

話に花が咲き終わり、寝ることになった。

「おやすみなさい。」

…。

バン!

耳を劈いた。

全員が飛び起きた。

A「なんだ!」

C「ライトつけろ早く!」

ライトが照らし出したのは頭を撃ち抜かれたDの姿だった。

「ギャーー!!」

三人ともパニックになり部屋の隅に固まった。

B「なんだよこれ!!」

C「分からん!自殺したのか?」

A「見ろよ、銃を握ってる。」

こめかみに銃を向けた腕はもう動かない。

A「Dさん、Dさん!」

返事はなかった。

B「どうするよ…。」

C「出口に行こう。」

三人はヘルメットをかぶって出口を目指した。

ライトアップはすべて消されていた。

か細く頼りないライトで地図を照らす。

行き着いた先には…。

A「くそ!なんで塞がってるんだよ!!」

出口は土砂でふさがっていた。

自力で出られそうもない。

B「ここなら携帯使えないか?」

C「そうだ!」

管理人室に電話するも応答がなかった。

B「なんでだよこの野郎…。」

A「たぶんこの間の台風のせいだ。土砂崩れでも起こしたんだろう。」

C「どうなるんだよ俺達…。」

B「そんなに事態は深刻じゃないさ、明日出てこなければあのおじさんが不信がるだろうから。」

A「そうだな、とりあえず出ることはできるか。」

C「部屋に戻ってみるか、荷物置いてきたし。」

Dの遺体が頭に浮かんだ。

B「しゃーない、戻ろう。」

てくてくと②に戻った。

幾分か冷静になり、Dの遺体を見つめた。

A「こういうのって動かさない方がいいよな。」

B「あぁ、俺たちの荷物はいいとしてもDに触れるのはまずい。」

C「荷物だけ持って①に移るか。」

三人は荷物を持って①に移った。

B「にしてもなんで自殺なんか…。」

A「あぁ、吃驚したな。」

C「…。」

B「とりあえず寝るか?」

A「いや、全員寝るのはまずい。」

C「一人が番を取るってことか。」

A「そうだ、二人は寝てくれ。まずは俺が起きておく。」

B「でも俺たち以外いないだろ?」

C「そうだよ。あのおじさんもD以外のことは言わなかったし。」

A「それもそうだな。じゃぁ、朝まで待とう。そしてすぐに110番だ。」

B「警官いるのにな。」

Bの皮肉で終わった。

しずくが落ちる音と蝙蝠の羽音だけが響く。

しばらくしてAが目を覚ました。

A「おしっこ…。」

懐中電灯を手探りし、立ち上がった。

A「Cがいない。」

Cが居らず、Bを起こしてみた。

A「Cどこ行った?」

B「あぁ、ションベン行った。右の方に行ったよ。」

右の方というと遺体のある部屋とは逆の方向である。

流石に遺体の近くで用を足すのは忍びなかったか。

A「俺も行ってくるわ。」

B「ほい。」

Cを追って歩き出した。

うすくライトの明かりが見えたが、なぜか天井を照らしていた。

人一人が入りそうな窪みに向かって、「C?」

そこには、背中から心臓を一突きされたチ○コ丸だしのCが壁に凭れて死んでいた。

「じぇじぇじぇ!」

Aは大慌てでBのところに戻った。

A「おい!Cが殺されてる!」

B「なんだって?」

BはCの亡骸を目にし、当然のようにこう言った。

B「なんで殺したんだ。」

A「え?」

B「お前しかいねぇだろ。俺は自分の無実を知ってるんだから。」

A「ちょ待てよ。知らねぇよ俺だって。」

B「嘘つけ!お前しかいねぇだろどう考えても。」

A「だから違うって。」

B「いいか?背中を一突きされてるんだ。自殺じゃない。ならお前がさっき殺したって考えるのは一番自然だろが。」

A「頼むよ、俺が見たときはもう死んでたんだ。」

B「てめぇ…。」

BはAに銃を向けた。

A「何だよそれ…。」

B「Dからくすねた。護身用にな。ありがたく使わせてもらう。」

A「待て!」

B「死ね!」

バン!

本日二回目の銃声。

B「…正当防衛さ。」

Bは①に帰った。

B「はぁ、人を殺しちまった…。」

ぐったり疲れたBはすぐに眠った。

…。

翌日不審に思った管理人が警察に連絡した。

入り口をショベルカーで掘り起こしてみると、壁の至る所に煤が着いていた。

焦げ臭いにおい、いったい何があったのか?

管理人と警察官は黒こげになった四人を見つけた。

そして手紙の入った褐色ビン。

開けて読んでみた。

「何が起きたのかをすべてここに記します。私はこの三人が洞窟に来ることを予約者リストを見て知っていました。外の電話線を切っておき、懐中電灯が壊れたという口実で三人に近づきました。私はまずメイクをして狂言自殺を仕込みました。慌てふためくやつらの姿は面白かった。前日台風が来てくれたのはラッキーでした。おかげで入り口付近は脆くなっていて、少量の爆薬だけで特に音も立てずに破壊できました。

帰ってくるなり呑気に鼾をかき始め、ふとCが目を覚ましました。他の二人の眼はなく、殺すには絶好のチャンスでした。さらに、ここでもラッキーだったのが、BがAを殺人犯だと思い込み殺してくれたことです。まぁ、私自身が殺した方が気持ちがよかったわけですが。残りはBを殺すだけです。もう私と彼の二人ですから、人目を気にすることもありません。シンプルに首を絞めることにしました。死に際の間抜け顔を天国でも思い出そうかと思います。

さて、最後に動機ですが、私の兄(享年22才)はこいつらにいじめられ、自殺しました。最愛の兄を殺した罪を私が法に代わって裁いたというわけです。そして、こんな私にも生きる資格はありません。酸素ラインに火をつけてすべてを焼き払うことにしました。燃えぬよう褐色ビンに入れておきます。この世のすべての罪人が裁かれることを願って。」

                             ○○署 刑事部 D

Concrete
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