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中編3
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生きた抜け殻

俺は新米刑事Bだ。

というのも、人事異動があったばかりでつい最近刑事部に移ったわけで。

ドラマのように毎日事件が起こるわけではない。

ここの署が管轄している地域は治安がいいのだ。

さて、俺にはものすごくお世話になった先輩刑事Aがいた。

ちょっとの間しか一緒にいられなかったが、多くを学んだ。

今からその話をさせてくれ。

…。

ある日、この地域には珍しく通り魔殺人が起きた。

被害者は年配女性で、荷物は持ち去られておらず、首を掻っ切られていた。

住民は震え上がり、緊急に対策本部が立ち上がった。

本部の部長になったのがA刑事だった。

A「え~、知ってのとおり残忍な通り魔事件が発生している。スピード逮捕に全力を注いでくれ。」

A刑事は「スピード逮捕の鬼」と言われるほど優秀だった。

大抵の事件は一週間かからず解決する。

普段は大人しく寡黙だが、犯人を目の前にすると饒舌に、そして力強くなる。

今回も例外なく、犯人の特定はあっという間で、ほぼA一人で探り当てたようなものだった。

その追跡プロセスは見事としか言いようがなく、非常に勉強になった。

そんなある時。

A「おう、Bよ。お前はこの本部の中で一番若造だ。今回の事件は相当勉強になるはずだ。頑張れよ。」

B「はい。毎日が生きた教科書のようです。」

A「そうか。お前みたいな心意気のあるやつがいれば安心だな。」

言葉に違和感を覚えた。

A刑事は四十代。

筋肉ムキムキのスポーツマンであったが、心なしか痩せてきているような…。

あとは犯人を確保すれば事件は解決である。

A刑事の名推理で犯人の居場所が特定できた。

A「○月○日、犯人確保に取り掛かる。予定通り三方から奇襲を仕掛ける。心して行け!」

二日後の早朝六時、犯人の潜むボロ屋を捜査班で囲む。

とりあえず、三人ほどで玄関から声をかけることになった。

A「できるだけ手荒なことは避けたいからな。じゃぁCと…、Bでいい。一緒に来い。」

B「私ですか!?」

A「そうだ。貴重な経験ができるだろう。ただ、死ぬなよ。」

そんな無茶な、と思った。

でもこの時、本当に無茶をしていたのはA刑事だったと後になって分かった。

…。

○月○日を迎えてしまった。

五時に現場に集合した。

A「こういう現場は初めてか?」

B「はい。」

A「いいか、最初に愛想よくご挨拶をして、令状を説明する。ここで犯人が白状してくれればいいが、まぁ逃げ出すだろうな。」

B「緊張しますね。」

A「警棒は持ってきたか?覚悟はしておけ。」

憂鬱な一時間だった。

三人で玄関に行った。

コンコン。

A「おはようございます。」

X「はい。」

A「Xさん、警察の者ですが、ちょっとお話よろしいですか?」

咄嗟にXは逃げ出した。

勝手口から逃げるつもりらしい。

A「コラX!待てボケェ!!」

捜査班が一斉に駆け寄る。

何人もの警官をなぎ倒し、Xは突き進んでいく。

その後ろにきっちりとAとBがくっ付いていた。

A「やるな。」

B「陸上部でした。」

AがXの両足に飛びつき、Bが上半身を押さえつけた。

Xのパンチをいくつかもらったが、無事確保!!

A「おい、ワッパだ!!」

手錠がかけられ、遂に大人しくなった。

B「はぁ。」

人生最大の達成感だった。

Xは護送されていった。

「もしもし、救急車お願いします!場所は…。」

振り返るとAが倒れていた。

B「Aさん!」

外傷はない。

一体どうしたのか。

ピーポーピーポー。

…。

答えはお葬式の席で明らかになった。

司会者「はい、我々は非常に優秀な職員を一人失いました。A刑事は先日捜査中に息を引き取りました。A刑事は人望もあり…。」

B「Cさん、何かご存知ですか?」

C「あぁ、実はAさんって末期の胃癌だったらしいんだ。一部の人間しか知らなかったらしくてな、どうせ治らないなら最期まで自分の職責を果たしたいと言ってたそうだ。」

B「それでなんとなくやつれてたんですね。」

C「それで妙な話があってさ、亡くなったのはあの日の五時らしいんだよ。」

B「え?でもその時って…。」

C「だろ?本当に執念の人だよな。俺たちも頑張ってこの街を守ろうな。」

「自分が刑事であることを死んでも忘れるな。」と言われているような気がした。

Concrete
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でも五時の時点で張り込みをしてるっていう記述はあったぜ。

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逮捕した時に時間を読み上げたら、Aさんの死が逮捕時よりも前ってのが良くわかって良かったかな、と思いました。
それにしても胃がん・・・痛かったでしょうね。

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