殺人事件が起きた。
あるマンションの一室、撲殺された若い女性Cの遺体が。
部屋を訪れた友人が通報してきた。
捜査班が部屋に到着し、聴取が始まった。
刑事A「え~、突然のことで動揺されていることと思いますがお話を聞かせてください。」
第一発見者B「…。」
すすり泣く被害者。
他の捜査員は証拠の収集に取り掛かっていた。
A「あなたが部屋を訪れたときの様子はどうでしたか?」
B「…、特に荒らされた様子はありませんでした。入ってみたら頭から血を流してて…!」
A「ちなみに何か物を動かしたりしましたか?」
B「いいえ、すぐに通報しましたので…。」
A「そうですか。彼女は誰かに恨まれるような人でしたか?」
B「彼女は明るくて気の利く子でしたので、心当たりはありませんし、そのような話を聞いたこともありませんでした。」
A「失礼ですが、BさんはCさんとどういった御関係で?」
B「高校時代の同期です。大学は別でしたがずっと仲良しでした。」
A「さぞお辛いことでしょう、お察しします。」
B「ありがとうございます。」
A「いうまでもありませんが、これは殺人事件です。調査が始まったばかりですのではっきりしたことは申し上げられませんが、亡くなったのは一時間前の六時半だそうです。ちなみにあなたはどちらに?」
B「え…?私は殺してませんよ。」
A「いえいえ。一応聞いておきたいだけです。捜査の手掛かりが欲しいもので。」
B「その頃は彼女の家に行く支度をしてました。その時彼女と電話で話したんですよ。」
A「ほう!亡くなる直前にお話しされたんですね。」
B「そうです。」
A「どんなお話を?」
B「実はお客さんが来てたみたいで、すぐに切られたんです。」
A「これはこれは重要な情報です。それでその客の声は聞こえましたか?」
B「微かに…、でも籠った声でした。」
A「ふむふむ、あなたの証言によるとCさんに最後に会ったのは彼ということになりますね。」
B「はぁ。」
A「もう一つ重要なのが凶器です。しかし、部屋から持ち去られたものはないようです。犯人が持ちこんだか…。」
B「…。」
A「お疲れのようですが、もう少し頑張ってください。Cさんは後頭部を長い棒で殴られたようです。犯人に背を向けていた。つまり顔見知りだった可能性が高いです。」
捜査官「Aさん、現場検証終わりました。」
A「分かった。撤収していいよ。」
捜査官「お疲れ様です。」
A「凶器は見つからずじまいか…。まぁいいでしょう。Bさんも今日はいったんご帰宅されてください。また明日、お昼ぐらいにお伺いします。おやすみなさい。」
B「ご苦労様でした。」
名もなき夜が明けていく。
約束通り、AとBが事件現場で落ち合わせた。
昨日の現場検証にいた刑事Dも一緒だった。
A「こちらD刑事です。昨日おりましたので改めてお話しいただくことはありません。」
D「ご挨拶遅れました。Dです。」
B「よろしくお願いします。」
A「とりあえず中に入りましょうか。」
Cの部屋に入った。
B「凶器は見つかりましたか?」
A「はい!あなたの自宅付近で。」
B「え?」
A「側溝にはめ込んでありましたよ。血痕つきの鉄バットがね。」
B「あの、どういうことでしょうか。」
A「詳しく話していただきますよ。なぜCさんを殺したんですか?」
B「ちょっと待ってくださいよ、Cに最後に会ったのは電話した時にいた客でしょ?」
A「それが作り話だったとしたら?彼が空想の産物だったとしたら?」
D「いや!彼は実在したのです。」
A「何?」
D「Cさんを殺したのはA刑事、あなたです。」
A「唐突に何を言い出すんだね。」
D「私、A刑事とCさんの関係を調べてみました。そしたらこんなことが分かりました。え~、CさんはA刑事の奥様でした。ところが、A刑事は近々結婚することになってます。署内はお祝いモードです。
何があったのか詳しくは知りませんが、A刑事はCさんに何か言われたのでしょう。結婚する上で邪魔な彼女を消したかった。これが動機です。」
BはAを睨んだ。
A「…。証拠は?」
D「残念ながらありません。しかし、疑わしい点があるんです。昨日のBさんとの会話、そしてさっきも口を滑らせた。」
A「…。」
B「まとめて申しあげましょう。まず、Bさんの「籠った声の客」の証言があったとき。あなた当然のようにその人のことを「彼」と言った。女性かもしれなかったのに。これはご自身のことですね。そしてさっきも「彼」と。
二つ目は、凶器について、「部屋から持ち去られたものはない。」と言ったこと。以前何度もこの部屋に来ましたね。
そして最後が致命的でした。被害者の後頭部の傷から「長い棒で殴られた。」と言った。確かに鈍器で殴られたことは推測できましたが、具体的な凶器の形状を推測することはできなかったはずです。案の定バットが見つかりました。」
A「…。」
D「今回はっきりした証拠はありません。ですがAさん、自供していただけますか?警察官であれば最後は堂々と…。」
A「分かった!すべて話そう。」
バン!
BがAを思いっきり殴った。
D「やれやれ、もう一人余計に逮捕することになったな。お二人ともすべて正直に話しましょうね。」
作者大日本異端怪談師
またもオリジナルで。
最近残忍な事件が多いようです。
犯人が早く捕まることを願うばかりですが、実は意外なところにいたりして。