music:4
あの日は、8月後半の蒸し暑い夜のことでした。
私はバイト先が一緒である、一つ上のヒロキさんに誘われ、S県のとある廃病院へと足を運ぶことにしました。
私もヒロキさんも霊感などはなく、今まで霊的な体験をしたことがありません。
そこで、私の同じ中学の同級生であり、霊感が強かったノブを連れて行くことにしました。
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「霊感が強い人間と一緒にいると、周りの人間も影響されて霊感が強まる。」
そんな話を聞いていた私達は、どうにか頼み込んでノブを誘いました。
しかし、別に私もヒロキさんも心の底から霊を見たかったわけではなく、
「霊感が強まる」
というスリルを楽しもうとしていたのだと、今では思います。
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music:7
深夜0時をまわった頃でしょうか。
私の車で向かっていたのですが、病院まであと少しというところで、ノブが奇妙なことを言い出しました。
「おいで、って言ってる。」
「えっ...?」
私とヒロキさんは、揃って呆気に取られていましたが、ノブはそのまま続けました。
「誘ってる。。。
これは、、ヤバイかもしれない。
シャレになるような霊気じゃない。」
またまた〜、と半ば冗談で返す私とヒロキさんでしたが、ノブの表情が青ざめていくのが分かりました。。
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music:4
そんな時、私はあることに気づきます。
「そういえば、この先の道が分かんないんだけど。」
大まかな地図は持っていましたが、何しろ周りは背の高い木々で覆われていて、目印らしい目印がありません。
恐らく、感覚では1キロもない距離までは来ているはず。
そう思い、とりあえず周りを観察しながら彷徨って目指すことにしました。
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music:3
5分ほど走ったでしょうか。
目の前に、それと思われる3階建ての建物が見えました。
手入れなどされているわけもないので、かなり荒れてはいましたが、確かに看板と思われる場所に◯◯病院と書いてあります。
(しかし、あれだけ適当に走っていたのに、よくこんなに早く着いたな。)
そう思うのと同時に、ノブの
「誘ってる。」
という言葉が気になりました。
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......まさか、ね。
さっきよりも明らかに早くなる鼓動。
......まだ入ってもいないのに?
自分の心の臆病に気づいてはいましたが、ここで逃げたくはありません。
「行きましょう、、か。」
行く前よりもずっと重くなった足。
身体が否定しているのかと思いました。
恐らく、ヒロキさんも同じ気持ちだったのでしょう。
出発の時のテンションは、私もヒロキさんもすでに無くなっていたのでした。。
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music:7
深夜0時半。
車を降りた私達は、まず入口を探すことにしました。
正面玄関には鍵がかかっており、ひとまず一階の窓を全部確認していきます。
カチャ
一つも空いていなければ、諦めることができたでしょう。
むしろ、それを期待すらしていたのに。
無情にもたった一つ、鍵がかかっていない窓があったのです。
目線より20cmほど高い位置にある窓の淵は錆び付いていて、ギギギ...と不気味な音を立てて開きました。
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「少し、中の様子を見てみます。」
ヒロキさんに足を少し持ち上げてもらい、私は建物の内部を覗き見ることにしました。
ギギギ...ガン!
開ききる際に、つっかえていた錆が取れたのか窓は大きな音を立てて開きました。
シーンと静まる森の中で、それはかなりの音のように感じました。
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music:3
ふと中を覗き込みます。
ここは、病室...でしょうか。
乱雑に並んだベッドが二つ、その上にくしゃくしゃのシーツ。
床は所々剥がれていて、
(これは足の踏み場に気をつけないと。)
そう思いながら、もう一度グルリと部屋の様子を確認しました。
すると、部屋の隅にやけに茶色く変色したタオル?を見つけました。
(あれ、、、血じゃねぇよな、、?)
考えたくもない。
しかし、そのタオルの影の不自然に気づいてしまいました。
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sound:18
(髪の毛....?)
茶色く変色したタオルの下の影に、やたら絡まった髪の毛が覗いているのです。
shake
「うわっ!!!」
私は、すぐに目線をそらしました。
(あれは...何だ?
まさか、首...じゃないよな?)
一瞬の出来事だったので、私は確認のためにもう一度見ることにしました。
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(あれ...?......無くなってる。)
さっきはあったはずの髪の毛が、もうそこには無かったのです。
でも、あれを見間違えたのか?
心の中では、今だ鮮明に残る3秒前の映像。
それなのに、今目の前にあるタオルの影には、先程とは違う映像が映し出されているのです。
「どうだ?」
ヒロキさんの一言に、ハッと我に返った私は、一先ず何かの台さえあれば入れることを伝えました。
「分かった。
確か車に大きいクーラーボックスがあったよな?
それ、使えないか?」
二週間前に行ったバーベキューで使ったクーラーボックス。
確かにそれは、私の車の後部座席にあります。
しかし、本当にこのまま、取りに行っていいものなのだろうか?
本当は、引き返した方がいいのではないのか?
「おい、聞いてるのか?」
急かすヒロキさんの言葉に流され、私は今だにぐるぐるしている頭の中を整理出来ないまま、車に向かいました。
背中を伝う寒気。
その寒気とは裏腹に、じんわりと滲む汗。
私は少しふらつく重たい足で、車の後部座席から大きなクーラーボックスを手に取り、病院の入口へと足を運ぶのでした。。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
初投稿です。
おぼつかない文章で申し訳ありません。
わかりずらい点、読みずらい点などございましたら言ってください。
ご感想など、いただけると嬉しいです。
※ご指摘があり、内容を一部変更させていただきました。
予めご了承下さい。