music:4
深夜0時45分
私は、ふとあることに気づきました。
(ノブが全然会話してない。)
病院へ向かう途中の車でただならぬ気配を感じ取り、この計画には後向きだったノブでしたが、到着してからというものまだ一言も声を聞いていません。
私はクーラーボックスを入口である窓の下へ置き、ノブに話しかけました。
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「ノブ、大丈夫か?
なんなら、ノブは車で待機する?
無理に誘ったのは俺だし、一番霊感が強くて影響が出やすいのはノブだから、、、
無理しないでいいからな。」
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正直、もうこの場所へたどり着いた瞬間から、私はノブに対しての後ろめたさがありました。
今まで何度も心霊スポットと呼ばれる場所へ足を運んできましたが、、
はっきり言ってここの病院、というよりここら一帯の空間は別格だったのです。
ズン、と身体が重くなる重圧感も。
気温は高いのに身体に纏わり付くような寒気も。
少し耳の奥が痛いような、頭の真ん中から来るような頭痛も。。。
それらが全て偶然なのか、ただの緊張からなのか、それとも....?
そこまで考えた時点で、ゆっくりとノブはこちらに顔を向けました。
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music:2
「だぁいじょうぶだよ、早く入ろうよぉ。」
薄ら笑いを口元に浮かべながら、ノブは言いました。
(さっきまで、あんなに行くのを嫌がっていたのに、、、)
私は少し疑問に思いましたが、いつまでも入口でウロウロしているのも無意味だったので、とうとう入る決意をしました。
ノブの雰囲気が明らかに少し違うことを、心のどこかで感じながら。。。
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窓は、人一人がようやく入れるスペースしかありませんでした。
まず誰かが一人入り、手伝いながら残り二人も入ることに決めた私達は、誰が一番先に入るかを話し合うことにしました。
「じゃんけんだな。」
ヒロキさんが一言。
まぁ、この場合それしかないでしょう。
「最初はグー、じゃんけ..」
「あははは、いいよぉ俺が最初に入るからさぁ。」
ピクリと止まる私とヒロキさんの手。
どうしたのだろうか、、?
明らかにあの到着するまでのノブと違いました。
積極的というか、むしろ進んで入りたがってるような。。
「オッケー、じゃあノブ一番な。
俺はそんじゃ二番でいいや。」
自動的にラストになった私。
それでも、私はそんなことよりもノブが気になりました。
見れば相変わらずの薄ら笑い。
(気味悪いな....。)
本気でそう思いました。
誘った身である私は、徐々に嫌な予感が湧き始め、同時にノブのことを少し「怖い」と思ったのを、今でも覚えています。。
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music:3
私とヒロキさんが支えながら、ノブは入口の窓へ入っていきました。
次にヒロキさんが入ろうとしたのですが、
「ノブ、ちょっと手貸せよ!」
中でヒロキさんを受け止めるはずのノブが、まるで手を出そうとしないのです。
「おい、ノブ!
無視すんなっ....ってお前どこ行くんだよ!?」
ヒロキさんが急に怒鳴りました。
「ぎゃははははははは」
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music:2
sound:18
「!?」
ノブ...の声?
いや、いつもよりトーンがだいぶ低い。
それに、なぜ笑ってる?
どこ行くんだって...どういうこと...?
呆気に取られたようにヒロキさんは固まっていました。
見開いた目で一点を見つめ、声にならない何かを言おうと口をパクパクさせています。
「おい....
ノブどっか行っちゃったぞ。
.....まじかよ。」
私はその時初めて、嫌な予感と不安が後悔へ変わりました。
そう、「何か」が起こったのです。
私達の知らないところで、ノブの身に。
病院の廊下であろう、病室の開いた扉から見える薄暗い空間の奥から、ノブの笑う声が聞こえ、徐々に遠くなっていきます。
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「くそっ。
とりあえずノブを置いては帰れねえからな。
ひとまず手分け...は危険すぎるか。
一緒に探すぞ。」
「わ、わかりました。」
不安と恐怖と焦りが入れ混じるなか、私はヒロキさんが中に入るのを確認し、クーラーボックスへ足を乗せました。
(どうなってんだよ...まじで。)
私はそんなことを考えながら、ここでこれから起こる恐ろしい恐怖をまだ知らずに、病院の内部へ足を踏み入れたのでした。。
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music:4
入口を入るとすぐ、奇妙な違和感に気づきました。
季節は夏、外はいくら木々に囲まれているとはいえ、歩くだけで汗ばむほどの暑さでした。
しかしこの病院の空間の空気は、まるで季節を一つ飛ばしたかのように、ヒンヤリとしているのです。
半袖だった私は、ぞくっと寒気が襲いました。
「ヒロキさん、これ。」
車から持ち出した小さなペンライト。
ノブの分も合わせて3つありました。
「とりあえず、あいつ奥に走ってったよな?」
ライトを点け、周りを見回します。
さっきのタオル...はあまり見ないようにしました。
床を照らすと、所々で床が剥がれ、中の木片が見えています。
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sound:18
たったったったったっ.....
廊下を走る足音。
「ノブか!?」
私達は急いで廊下を見ましたが、ノブの姿はありませんでした。
確かに今、足音は私達のいる病室の前の廊下を走っていたのに。。
「くそっ...こんなん馬鹿でも分かる。
ここは...確実に「いる」ぞ。」
ヒロキさんは、自分の震える手を片方の手で抑えながら言いました。
私も、もう確信していました。
きっと、ここはこの世から隔離された空間なのだと。
踏み入れてはいけない場所に、私達は踏み入れてしまったのだと.....。
music:7
廊下をライトで照らすと、私達はまた驚きました。
病室と同様、様々な所に空いた廊下の穴。
とても普通には歩けないほどでした。
(おいおい、、シャレになんねーぞ。。
ノブはこんな廊下を走ってったのか...?
それも笑いながら、ライトも無しで。
こんな真っ黒な闇の中を。。)
ごくっ。
唾を飲む音が、ヒロキさんから聞こえます。
すでに私もカラカラに喉が渇いていましたが、水を口にするほどの余裕も、その時はすでに無くなっていました。
(とにかく今は、ノブを見つけるのが最優先だ。)
私達は、何度も廊下を確認してから、ようやく病室から廊下へ移動しました。
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廊下は、所々に窓のある20mほどの長さでした。
一切の明かりもない森の中にある夜の病院、光などあるはずも無く、なんの意味も無い窓は、なぜか一つ一つが不気味でした。
誰かがその窓から覗いているような気さえしました。
「足元、気をつけろよ。」
私達はお互いにお互いの袖を掴み、ゆっくりと廊下の奥へと進みました。
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shake
ガンッ!!!!
「!?」
先程入った病室から、何かが落ちるような音が聞こえました。
(落ちるようなもの、あったか...?)
何度も頭であの病室の内部を調べても、落ちるようなものが浮かびません。
しいて言えば、ベッドの上のシーツくらい。
「確認する?」
ヒロキさんが私に言いましたが、私は頭を横に振り、先に進むように言いました。
これ以上の何かを見たら、あの暗い奥へ進める勇気が無かったからです。
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廊下を半分ほど進んだ頃でしょうか。
ヒロキさんが、
「あの光ってんの何だ?」
と言いました。
えっ、と思い、ヒロキさんの指差す先をライトで照らすと、エレベーターのスイッチが光っていたんです。
「おいおい、あり得ねーぞ。
ここ廃墟だぜ?電気なんて通ってるわけねーだろ。
勘弁してくれよ...。」
確かに光るスイッチ。
再び訪れる寒気。
私はすでに震えが止まりませんでした。
カクカクする足を引きずり、エレベーターの方へと進みました。
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「どうする...?
入ってみるか?」
冗談じゃない。
私はぶんぶんっと頭を横に振り、絶対無理だとアピールしました。
ヒロキさんも、それを見て安堵の様子を浮かべたように見えました。
「1Fにはいないみたいだな。」
確かに、1Fは病室と待合フロアのような空間しか無く、そのどこにもノブの気配はありません。
つまり、ノブはどこか違う階へ移動したようでした。
「とりあえず、どこかに階段があるはずだから、探してみよう。」
ヒロキさんに言われるまま、私はあたりをライトで確認していきました。
すると、案外すぐに階段への扉を見つけ、ドアノブへ手を伸ばしました。。
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music:2
ガチャガチャ...
「!!!」
開かないのです。
ガッチリと鍵がかかっているようでした。
(エレベーターになんて乗れるわけない。)
そう思った私は、力づくで開けることにしました。
「ヒロキさん、せーのでぶち破りましょう。
とてもそんなエレベーターに乗れる自信ないです。」
「ああ、俺もまっぴらゴメンだ。」
「せーのっ...」
shake
ガンッ!!!!!!
ビクともしない扉。
ガンッ!!!!!!
何度も何度も挑戦するも、まるで何かの力で絶対に開かないようにされているんじゃないかと疑いたくなるほど、扉は頑固としてビクともしません。
「はぁ...はぁ...」
「おい、こんなことやってる時間はまじでねーぞ。
恐らく、この様子じゃノブもエレベーターで行ったっぽいな。。」
動いた影響とは違う、恐怖からの鼓動が早くなりました。
(あれに乗るのか...?
点検なんて全くされていない、いつロープが切れるかも分からないあのエレベーターに?
なにより、こんな所であんな密室に入って閉じ込められでもしたら....)
涙が出そうでした。
しかし、現実は私に涙を流す余裕すら与えてはくれません。
そう、乗るしかないのです。
階段が封鎖されてる今、ノブを連れ返すには乗るしかない。
それが、ノブを誘った私の責任でもありました。
「わかりました。」
したたる汗を拭い、私は不気味に光るエレベーターのスイッチを押したのでした。。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
昨日投稿させていただきました、
「廃病院-入口-」
の続編となります。
宜しければ、どうぞ読んでみて下さい。
ご感想お待ちしております。