music:4
ガー....
開くエレベーターの扉は、私達を更なる深い闇へ誘い込むかの如く、暗く沈んだ空気に満ちているように見えます。
まるで、それは死へ直結している大きな死神の口が、私達を飲み込もうとしているかのようでした。。
(ナースコールの鳴ったあの308号室。
そこには一体、何があると言うんだろうか。。)
ただ、「何か」の存在がふざけ半分で押しただけなのかもしれない。
しかし、私にはそれが意味のあることのように思えて仕方がなかったのです。
不安も恐怖も焦りも、慣れることなどありません。
様々な不可解な現象も、あの「足」も、これから先に待つであろう地獄も。。
何もかも、私には耐え難い非現実の世界でした。
それでもアニメやゲームのように、夢オチも無ければリプレイも無い、リセットだって...
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ガコ...ン。
エレベーターは、自らに与えられた仕事を淡々とこなし、何の余裕もないまま私達は3Fへ到着しました。
身構える私達、開く扉。。。
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music:3
ガー....
そこには、より一層薄気味悪い暗闇が閉ざす、不気味な空間が待ち受けていました。
(行きたくない行きたくない行きたくない。)
ただひたすら、その言葉が脳裏で繰り返されて離れません。
私達は、慎重に足元を確認しながらゆっくりと、3Fのフロアへ足を踏み入れました。
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music:2
3Fのフロアは、2Fと同様、エレベーターを降りてすぐ左側は壁になっており、右側には伸びた長い廊下。
左の壁には、2Fのものとはまた違う絵が飾ってあり、すでに半分ほど朽ちて剥がれ落ちていました。
しかし、今度は絵の表側に、奇妙な刃物による切り傷。
「これは....メッセージだな。。」
剥がれた絵をライトで照らしながら、ヒロキさんは絵の方へ歩み寄り、剥がれた表側にある刃物の切り傷部分を見ました。
「手.....?」
確かに、その切り傷は「手」の文字が掘り切られているようでした。。
乱雑な文字でしたが、これが故意的なものなのか偶然なのか....
どちらにしろ、調べる価値はありそうだ。
「まだ新しい傷だ。
そしてこの切り傷部分....
恐らくだとは思うが、うっすら血が付着している。
しかも、まだ乾ききってない。」
なんて冷静なんだろう。
私にはとてもそんな風には考えられないですし、更に言えば見たくもない。
もし私が一人でそれを見たとしても、ただ不気味、恐ろしいとしか思わないでしょう。
「とりあえず、308号室を探してみよう。」
廊下をライトで照らし、進もうとしたその時でした。
さっ....
shake
「!!!!」
長い廊下の奥で、今確かに青白い誰かが立っていたのです。
(一瞬しか見えなかったが...
恐らくあの「足」の本体だろう。)
そして「何か」は、横にある病室と思われる部屋へスッ....と消えていったように見えました。
誰もいなくなった廊下を、固まったままライトで照らし続ける私達。
しかし、その目にはしっかりとあの青白い「何か」の残像が焼き付いていたのでした。。
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music:4
進もうと廊下を照らすと、あることに気づきました。
若干の間隔はあるものの、先程の刻まれた絵から廊下の奥に向かって、床に点々と赤く光る何か。
「これ...血みたいだな。」
(まさか、、、
ノブのじゃないよな...?
まじで無事でいてくれよ、ノブ。。)
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私達は、一先ず手前の病室から一つずつ見ていくことにしました。
301....
302....
相変わらず、埃と瓦礫とベッドの残骸が広がる病室。
3Fにもノブはいないのだろうか?
307....
恐らく、次があの「308」の病室だろう。
隣の病室の室号を確認しました。
「!?」
恐らく本来であれば308と書かれていたであろう表札には、またあの乱雑に刻まれた刃物による傷痕が、無数に広がっていたのです。
更に名前の欄には、何かの血で書いたと思われる赤い文字。
「い...け...にえ...し..つ....?」
歪な血文字で、確かにそう書かれた傷だらけの表札。
「生贄...って、何のことだ。。
何の生贄だって?
その生贄って...ま、ま、まさかノ...」
「やめろよっ!!!!!
絶対そんなことさせねぇ。
...ふざけやがって。」
私が言おうとしていた言葉。
そして同時にヒロキさんが止めたその言葉こそ、恐らくこの場において考えられる「最悪の結果」であることは、分かり切った話でした。
生贄室。
その部屋は、さっき現れた「何か」が消えていった部屋であると同時に、絵から繋がる廊下の血の行く末でもありました。
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sound:18
「ん?」
病室から何かが聞こえました。
ガサッ...
バタバタ....
「ガァァ....ガァ....」
「...なんだ?この音と声...」
ヒロキさんが、心の準備が出来ない私にお構いなしで、病室の取手を掴みました。
「覚悟はいいな。
.....開けるぞ。」
ごくっ
締め付けられる心臓の辺りが苦しい。
息が詰まりそうだ。。
むしろ、息をその時していたかどうかさえ思い出せないほど、私は開ける扉に集中していました。
ガガガガ...
砂や木片が扉のレールを遮り、突っかかりながら開く扉。
そして、その中をライトで照らしました。
shake
sound:18
「う、、うぁあああああ!!!」
「な、なんだよ....これは。」
バサッ...
バタバタ......
床に大量に散らばる真っ黒な羽根と血痕。
そして中央のベッドには、死にかけたカラスが力なく羽根を動かしているのです。
「おい!
床見てみろ!!」
ヒロキさんの声にビクっとして、すぐさま床をもう一度ライトで照らしました。
「〜〜〜〜っ!!」
そこには、何十匹ものカラスの死骸が転がっていたんです。
さらに、そのカラスの目は全てくり取られていました。
「うっ...うぉえ。」
湧き上がる吐き気と、その異様な光景に意識を失いそうになったその時でした。
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shake
バンッ!
shake
バンバンバンバンバン!!!
「!!!!!?」
飛び上がる身体。
そして、病室の窓を激しく叩く音。
咄嗟に耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む私とヒロキさん。
そして、再び叩かれた窓を見ると、、
そこには無数の手、手、手。。。
(地獄だ....。)
本気でそう思いました。
そして、更に不可解なことに気づいたのです。
通常、温度差によって出来る窓ガラスの結露は、触れるとそこだけ透明になり、あたかも絵を書いたように写りますが。。
その窓ガラスに写った無数の手は、まさにそれの真逆。
手以外の場所が透明で、手の部分だけが、その形に結露が浮かんでいるのです。
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(あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない。)
こみ上げる恐怖による涙。
絶望感で私は、羽根と死骸の散らばる床に座り込み、震えが止まらなくなってしまいました。
「くっ....そがぁ!」
ヒロキさんが歩み寄り、私を無理矢理立たせました。
shake
パーンッ!!
一瞬麻痺する頬の感覚。
「気を確かに持てバカ!
へこたれんのはノブを連れ出して、ここから出てからにしやがれっ!!!」
怒鳴るヒロキさん。
私は混乱しながらも、こみ上げる頬の痛みと同時に、少し平常心を取り戻しました。
「すいません...
....ありがとうございます。」
「......おう。」
そう言うとヒロキさんは、もう一度軽く私のお尻をポンっと叩いたのでした。。
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music:3
「見ろよ、この死骸共。
ついさっき殺された、って感じだ。。
どういう意味か分かるか?」
「えっ....どういう意味...ですか?」
「これよ.....
ノブがやったんじゃねえか?
とても幽霊などにできるとは思えねえ。
これは、人の手に寄るもんだろ。
霊がわざわざ目なんてくり抜いたりすると思うか?」
「!!」
確かに、、そうかもしれない。
いやしかし。
だとすると、ノブはもうすでに....
(何かに憑依されてる....?)
悪い予感が的中した。
私はそう確信しました。
これは、ヒロキさんの言うように確かに人の手によるもの、私もそう思ったんです。
しかし、その肝心なノブの姿が見当たりません。
(どこにいんだよ....ノブ。)
そして、先程のあの文字。
どういう意味なのでしょうか?
「手.....手.....?」
ハッとしました。
次々と起こる現象によって忘れていましたが、私達は今病院にいるのだ。
そして、病院なのに行っていない重要な所が霊安室以外にもう一つある。
「手....術....?
ヒロキさん、この「手」って、手術室の頭文字のことなんじゃないんでしょうか?」
少し考えた様子のヒロキさんでしたが、
「あぁ....恐らく、間違いなさそうだな。
俺はすでにその存在すら忘れてたわ。
あまりにも今までが濃厚すぎてよ。」
そしてまた一つ間を置き、
「.....行くか。」
と、ボソっと言ったのでした。。
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3Fのエレベーターの真横に、朽ち果てたフロア案内の地図がありました。
私達は来た道を戻るようにして、再びエレベーターの方へ向かって歩き、案内図をライトで照らしました。
「1F....のようだな。」
1F?
おかしい、1Fは最初にくまなく探した筈だし、それらしい部屋なんて見当たらなかったと思ったが....。
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「この手術室のあるところ....
エレベーターの隣の通路を入って行った右の所みたいですけど。
そんなところに通路なんてありましたっけ?」
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「いや、あの時はエレベーターからの叩く音のせいでそっちに気を取られていたかんな。
通路があった記憶はねーけど、もしかしたら見落としていたんかも...?」
考えれば考えるほどに曖昧になっていく記憶の映像。
だが、そんなことは後で分かることだ。
考えてたって意味が無い。
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「正念場だぞ。
多分、手術室に何かしらのヒントがあるはずだ。」
私は、まるで手慣れたようにエレベーターのスイッチを押し、扉が開くまでの時間をジッと待った。。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
先日投稿致しました、
「廃病院-2F-」
の続編となります。
長めのストーリーにも関わらず、たくさんの方に読んでいただき、とても感謝しております。
ぜひ、今回も一読いただけると幸いです。
ご感想のほど、お待ちしております。