music:4
ガッ...コン
開くエレベーターの扉。
sound:18
shake
「!!!」
「.....マジかよ。」
エレベーターの内部には、先程上がってきた時には無かったはずのものがあったのです。
それは、あの「生贄室」で虐殺されていたカラスの死骸でした。
無残に殺された死骸は、エレベーター正面の壁に張り付いていたのです。
そしてそのカラスの目も、あの生贄室のカラス同様に目がくり抜かれていました。
「なんて惨い....。」
ボソっとヒロキさんが、恐怖とも怒りとも取れる表情を浮かべながら呟きました。
(今、たった数分の間俺たちがあの「生贄室」にいた時間でこれを....?
これもノブが.....?
物音一つ聞こえなかったのに。。)
そして更に、そのカラスの首元には無常にも何か刃物らしきものが突き刺さっていました。
その冷たく刺さるソレは壁にまで貫通し、まるで一つのオブジェのように、エレベーター内部を異様な雰囲気に包みこんでいました。
私にはそれが、とても凶悪な恨みを込めて行われたもののように感じたのです。。
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「これは....」
カラスの首元に突き刺さっている刃物は、手術に使われるメスでした。
恐らく先程から見られる切り傷は、これで付けられたものだろう。
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(しかし...
一体何のために?)
「ノブがやった...んすかね?」
「.....あぁ、恐らくな。」
もはや、ノブが今正常でいる可能性は皆無に近いでしょう。
それでも、連れ帰らねばなりません。
例え、それが力づくになったとしても....
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カラスの死骸と乗るエレベーターは、一層不気味さを増していました。
目がないはずなのに、見られている気さえしてくるのです。
ガー....
私達は、再び1Fへとやってきました。
「......?」
おかしい。
先程とは、何かが違う。
間取りは同じはずなのに、何かが変わっていました。
しかし、それが何なのか。
考えてもサッパリと分かりませんでした。
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「おい。
........あそこ見てみろ。」
エレベーターの横、案内図にあった手術室へ繋がる通路がある場所を、ヒロキさんがライトで照らしました。
「そ、そんな....。」
そこには、何の変哲もない壁に大きな絵画があるだけだったのです。
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「通路なんてないじゃないか....。」
あるはずのない壁がそこにはあり、まるで私達を阻んでいるかのようにさえ感じました。
「.....!?」
しかし、私はその絵画に何故か違和感を感じました。
何が引っかかるんだろうか。
足りない頭をフル回転させ、私はしばらく考えました。
他の絵画とは明らかに違う「何か」。
そして、なぜあるはずのない壁がそこにあって、あるはずの手術室への通路がどこにもないのか。。
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(そういえば、2Fの絵も3Fの絵も、月日の劣化で相当な痛みだったはずだ。
なのに、この絵画は比較的綺麗すぎやしないか....?
それに、刃物の傷も他の階のものとは違って何故か一つも無い。)
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music:3
「まさか....。」
私は、おもむろに捨ててあった木片をその絵画へ投げつけました。
バリッ!
コーンコンコン....。
shake
「!!!!」
私の投げた木片は、絵画を突き破り、そのままその先へ転がって行ったのです。
「壁......じゃなかったのか!」
そう、絵画はその先への通路を塞ぐために設置されたものだったのです。
(しかし、一体何のために?
こんな仕掛けまで作る理由は何だ?)
必死に考えましたが、分かるはずがありませんでした。
きっと、答えはこの先の「手術室」にあるのだろう。。。
絵画の穴を抜けると、10mほどの細い通路がありました。
夏なのに、肌寒く感じるほどの気温差。
この病院内だけでも外より寒いというのに、更に一段低いように感じました。
コツ...
コツ...
嫌に響く私達の足音。
すると、ライトの照らす先にボンヤリと見える赤い光。
「.....ここか。」
二つの大きな観音扉。
暗く淀んだ空気が辺りに広がり、まるで誰かが肩により掛かっているかのような重みが、私の身体へかかるのが分かりました。
霊感など無くても分かる。
異常なまでに強い霊気。
やはり、ここに何かがあるのは間違いないのだろう。。
ボンヤリ赤く光るライトには、しっかりと明朝体で書かれた
「手術室」
の文字。
エレベーターのボタン同様、時々切れかかったり点いたりを繰り返している。
その時でした。
shake
sound:18
「!!!!!!!!」
背後に目線を感じた私とヒロキさんは、同時に後ろを振り返りました。
「あ.....。
あぁ..。」
「と、とうとう出やがった。」
そこには、全身異常に青白く、やせ細った女。
ボサボサに絡みあった髪の毛は膝丈まで伸びており、その髪の合間から見える青白い顔。
目は無く、まるでえぐり取られたかのような穴が二つ空いており、その姿は何とも例えようのないおぞましいものでした。
そして、私には目が無くても分かりました。
恐ろしいほど強い敵意を持ってこちらを睨んでいることが。
私はその場で腰が抜け、座り込んでしまいました。
ヒロキさんも、まるで動けずに固まったままです。
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ふっ....
突如、その女が目の前から消えました。
「あ.....。」
口すらも閉じることを忘れ、私達はその女がいた場所を見つめたまま、しばらく動けずにいるのでした。。
しばらくすると、
「....はぁぁぁ。
何だよ、今の......。」
ヒロキさんもその場に座り込み、ガックリと肩を落として言いました。
私は今だその姿のおぞましさが頭から抜けず、もうしばらくの間、ヒロキさんの言葉にすら答えられませんでした。
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「深夜2時だ。」
ふと携帯を見てヒロキさんが呟いたことをキッカケに、私はようやく現状を受け入れることが出来ました。
深夜2時。
ノブが消え、この地獄に突入してから約1時間弱。
焦りが込み上げ、早く抜け出したい気持ちとノブの無事を願う気持ちが、更に焦りを加速させていきました。
「入りましょう。」
私とヒロキさんは、そこでようやく立ち上がり、目の前の扉へと手を掛けるのでした。。
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music:2
「行くぞ。
.....せーの、、」
ギィー....
錆びきった扉の金具から吐き出される軋む音は、この通路の静寂な空間に響き、私達の恐怖を加速させる。
ブーン....
ブーン....
(なんだ?この虫の音。
それにこの臭い....?)
グニュ...
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shake
「!!!!」
嫌な感触を足元から感じました。
恐る恐る足元をライトで照らすと、そこにはまた何十匹もの目の無いカラスの死骸が乱雑に横たわっているのです。
そして、密封された「手術室」に拡がる異様なまでの腐臭。
それは、ついさっき殺されたであろうカラスの死骸からのものでは無いことは明らかでした。
更に、飛び回るハエの大群。
恐らく、この私の身体全てが感じている嫌な予感は、的中しているのだと分かりました。
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足元を照らしていたライトを、ゆっくりと正面へ向けていきました。
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shake
「う、う、、
うぁああぁあぁああああぁああ!!!!!!!!!!」
「......う、ウソだろ。。
何だよ、、何なんだよこれはっ。」
ブーン...
五月蝿く飛び回るハエに包まれて、手術台の上に乗せられた白いモノ。
すでに殆どの箇所は腐敗と成虫と化したウジによって白骨化してましたが、確かにそこには横たわる無残な人の死体がありました。
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「うぉえぇぇ...。」
私は足元のカラスの死骸の上に嘔吐してしまいました。
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(逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい)
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涙と鼻水と胃液でぐしゃぐしゃになりながら、私はそう願い続けました。
しかし私がいくら目をつむろうとも、願おうとも、いつものベッドで目覚めることも無ければ、気づいたら3人揃って脱出していることも無く、ひたすら鼻につく腐敗臭と手に感じるカラスの羽根の感触だけが私を包みました。
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「ちくしょぉおぉおおお!!!!」
ヒロキさんが、一人その遺体へ近寄り、ハエを追い払うようにペンライトを振り回しました。
「おい!!○○(私)!!!
こっち来て見ろ!!!!!」
私は、ガクガクする足を必死に両手で抑えながら、どうにかヒロキさんの元へ歩きました。
そして、その遺体をライトで照らしたのです。
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shake
「!!!!!!」
頭蓋骨からは、膝丈まで伸びた絡んだ髪の毛。
白骨化していてもわかる、あの「女」だ。
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(あの青白い「女」の本体がこれだってことかよ。
今まで誰にも見つかることなく、ここで無残に死んでいたのか。)
「おい、ここも見てみろ。」
ヒロキさんが照らすライトは、その頭蓋骨の目の部分。
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「!!!」
そこには、まだ真新しい人間の眼球が埋め込まれていたのです。
私は瞬時に、その眼球の持ち主がノブだと思いました。
「う....あぁ.....。
ノブ.....ノブ.....!」
溢れる涙と絶望感。
なぜこんなことになってしまったのだろう。
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「俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ。」
私は自分を責め続けました。
今回ばかりはヒロキさんも私を怒ることはなく、彼もまた絶望に満ちたように泣き崩れました。
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music:4
どれくらい泣いていたでしょうか。
密封されているはずの手術室の暗闇の奥で、何かの音が聞こえてきました。
「な、なんの....音だ?」
ギギギ....
ギギギギギ.....
硬い何かを削るような音。
その先をライトで照らすと、もう一つ暗い通路があることに気づきました。
「ヒロキさん!あれ!!」
泣き崩れていたヒロキさんも通路に目を向け、立ち上がって言いました。
「あの「女」は、恐らく何か伝えようとしている。
もしくは.....。」
そこまで言ったヒロキさんでしたが、それ以上は言いませんでした。
私はその言葉の先を、あの時はまだ分からずにいるのでした。
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通路の先は、下へ続く階段がありました。
「まさか....この先って....。」
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「あぁ、、
恐らくお前が最初に言ってた「霊安室」だろう。
手術でダメになっちまった人を、そのまま霊安室のある地下へここから運ぶための通路だろうな。」
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「えっ....
でも、人が亡くなると一度供養室のようなところで家族を呼んだりしませんか?」
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「あぁ、そりゃあ、な。
でも、どちらにしろそんな所は他人が見てしまう可能性がある所にはまずねぇよ。
ここは3階立ての小さな病院だからな、恐らく霊安室と一緒にその供養する場所もあんだろ。」
「......なるほど。」
あぁ、この人はなんて頼りになるのだろう。
私は心からそう思いました。
そして、私達はついに「霊安室」へ繋がる階段を降り始めたのでした。
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この階段の先で、「私」にとって最大の地獄が待つことも知らずに。。。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、先日投稿させていただきました、
「廃病院-3F-」
の続編となります。
たくさんの方に読んでいただいて、大変感謝しております。
ぜひ、今回も皆様の楽しい時間のお手伝いができたら幸いです。
ご感想や質問などございましたら、ぜひよろしくお願いします^_^