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のり姉が善行を働くそうです。

長編18
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のり姉が善行を働くそうです。

これは、僕達が高校一年生の時の話だ。

季節は冬。

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・・・・・・・・・。

「善行をだね、働こうと思うの。」

唐突にのり姉はそう言った。

今日はクリスマスイブで薄塩の家に泊まりだ。

で、今は午後の8時。

部屋の隅でunoをやっていた僕等は、まるで苦虫を噛み潰した様な顔をした。

なぜなら、のり姉が唐突な発言をした時は、基本的に100%の確率で面倒事が起こるからだ。

「あの・・・」

「返事は、《はい》か《喜んで》の二択ね。」

ピザポの言葉を遮る様にのり姉が言った。

・・・やはり、今回も僕等に拒否権は無いらしい。

しかし、ここで易々と返事をする訳にはいかない。

僕等にだってプライドと言う物が有るのだ。

「・・・嫌?」

のり姉が、此方を覗き込む様にして聞いてきた。

ここで下手に何かを言うのも危険だ。

僕等は貝の様に黙りを通していた。

暫くするとのり姉が、ふぅぅ、と大きな溜め息を吐いた。

「もう、しょうがないなぁ・・・。」

・・・・・・え?

・・・まさか、諦めた?

のり姉が?

あの、のり姉が?!

僕等はチラチラと目配せしながら、のり姉に対する初めての勝利に、あくまでも心の中で快哉を叫んだ。

「・・・・・・ねぇ。」

「「「へ?」」」

のり姉の呼び掛けに、三人でシンクロした答えをしてしまった。

のり姉は、窓の外をぼんやりと眺めながら、ゆっくりと口を開いた。

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「・・・ミニスカサンタって・・・萌えだよね。」

「「「え。」」」

僕等の声が、またシンクロした。

のり姉が、ニヤリと笑った。

「・・・ねぇ、行く?・・・それとも・・・・。」

「「「行かせて頂きます!!」」」

・・・・・・。

・・・確かに、プライドは有るのだ。

しかし、ミニスカサンタと比べれば、僕等のプライドなんて羽よりも綿毛よりも軽いのである。

僕は、口の中に広がる苦虫を味わいながら、大きな溜め息を吐いた。

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・・・・・・・・・。

のり姉に連れて行かれたのは、一軒の民家の前だった。

電車を乗り継いで着いたその町は、海の近い小さな港町で、その家は、町の外れにある寂れた住宅街の隅っこに、ぽつねんと建っていたのだった。

「・・・何ですか。此処。」

のり姉は無言で、持っていた紙袋から、ある物を取り出した。

真っ赤な無地に、白い縁飾り。コカ・コーラ社がキャンペーンキャラクターに起用して一気に世界中へと広がった聖なるヒゲオヤジの服。

そう。正にそれは

・・・紛れもない、サンタ服だった。

「さぁ、《サンタさん大作戦》今此処で決行!!」

おー!!と、のり姉が右手を空に突き上げた。

「「「・・・・・・おー・・・?」」」

僕等も、何が何だか解らないまま、右手を弱々しく上げた。

画して、僕等の《サンタさん大作戦》は幕を開けたのだ。

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・・・・・・・・・。

さて、この《サンタさん大作戦》なのだが、簡単に説明をしてしまうと地縛霊の解放なのだ、と、のり姉は言った。

「幼くして死んじゃった子供達がターゲットね。今回は三人かな。」

目を閉じ、頬にぷにっと人差し指を当てる。

「近くに川が流れてるの。其処に流して《送る》事にしましょうか。」

そしてそのまま、首をコテンと傾げた。

「問題も無い事は無いんだけど・・・。」

眉を見苦しく無い程度にしかめ、唇をキュッと尖らせる。

「大丈夫だと思うなー。」

眉を戻し、安心した様に口元を緩ませる。

ついでに言うなら、此処まで約15秒。

そして、彼女は完璧と言える程のあざとさで、パチリと目を開き、ニッコリと微笑んだ。

「まぁ、でもでも、万に一つの確率で失敗しちゃったら・・・・。」

「・・・失敗しちゃったら?」

恐る恐る僕がそう言うと、のり姉は、僕の問いに歌う様にして答えた。

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「足を引っ張った奴の総受け本を書いて、全世界へと発信しちゃおうかな♪」

僕等の顔から、サッと血の気が引いた。

「・・・頑張ろうね?」

さっきまでの可愛らしさは何処へやら、眼前で微笑みを浮かべているのり姉は、世に言う《狩る者》の目をしている。

僕等は怯えながら、のり姉の呼び掛けにガクガクと頷いた。

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・・・・・・・・・。

さて、此処で補足である。

先程の文に登場し、僕等三人を恐怖のどん底に陥れた《総受け本》と言う言葉。この言葉を読み、

「《ソウウケボン》とは何ぞ?」

と思った、其処の貴方。そう。貴方である。

頼むからこの、《ソウウケボン》なるワードをGoogleやYahoo!等で検索しないで欲しい。

どうぞ純真ムクムクな貴方のままで居て欲しい。

いたいけで弱々しい僕からの御願いだ。

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そして今度は、《総受け本》の意味がガッツリ理解出来てしまっている貴方。

・・・誤魔化さないで頂きたい。貴方の事だ。

頼むから僕等に、小鳥一羽分・・・いや、兎一羽分程でいいから同情心を寄せて欲しい。

貴方ならこれがどんな屈辱か理解できる筈だ。

弱々しく哀れな僕等からの御願いだ。

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・・・・・・・・・。

さて、話が大幅にずれてしまったので、軌道修正。話を元に戻すのである。

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・・・・・・・・・。

それでは、その後、僕等がのり姉に聞かされた

《サンタさん大作戦》

の詳細を説明しよう。

先ず、この眼前に建っている民家では、以前に惨憺たる事件が起こったのだと言う。

その事件は、一人の母親と三人の子供で形成されている家庭で起こった。

父親は居なかったそうだ。

そして起こってしまった事件とは、

母親の育児放棄である。

それによって、最初に、長女であったマユミちゃんがその幼い命を落とした。

発見された時、マユミちゃんの遺体はまるでミイラの様にガリガリだったそうだ。

次に、長男のタクト君も、脱水症状で意識不明の重体に陥っており、後に死亡。

次女のユメちゃんは最後まで生き残り、無事に施設まで行ったそうだが・・・。

今現在この家にいると言う事は、やはり何らかの理由で死亡したのだろう。

で、母親は子供達を放って置いて何処で何をしていたのかと言うと、男の所へ行き、振られ、首を括っていたそうだ。

・・・何ともまぁ勝手な母親である。

子供達の事は頭に無かったのだろうか。

母親と言うか、人間として失格で落第である。

僕は大きな溜め息を吐いた。

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・・・・・・・・・。

僕が溜め息を吐くと、のり姉はスッと眉を潜めた。

「・・・本当、最悪だよね。」

吐き捨てる様に言う。

僕はこれまた大きく頷いて言った。

「で、その子達が、あの家に、辛い思い出に囚われているんですね?」

するとのり姉は、何故か顎に手を当て、むぅぅぅ、と唸った。

「・・・違うんですか?」

そう僕が聞くと、顔をしかめたままで答える。

「・・・微妙かな。囚われているのは合ってる。・・・でもねー・・・。」

そして、のり姉は続けた。

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「その子供達、辛い思い出じゃ無くて、母親に縛り付けられてるんだよねー・・・。」

僕等は、あんぐりと口を開けた。

「・・・どゆこと?」

僕が呟くと、のり姉は更に大きく顔をしかめた。

「そのままだよ。自殺した母親が、子供達を家に縛り付けて動けなくしてるの。これも、一種の呪いかな。理由は寂しさからだと思う。・・・男に振られたから、心の拠り所が子供達位しか居なかったんじゃない?」

「・・・自分が子供達を殺したのに?」

「そう。自分が殺したのに。」

「・・・・・・。」

絶句した。

何処まで身勝手なのだろうか。

呆然としている僕等を見て、のり姉がニヤリと笑った。

「・・・さぁ、行こうか?」

僕等は、のり姉に大きく頷いた。

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・・・・・・・・・。

行こうか、とは言われても、先ず準備をしなくてはどうにもならない。

僕は甘酒を飲み、水鉄砲に日本酒を詰めた。

薄塩は塩を舐め、フ○ブリーズ二本を持った。

のり姉も塩を舐め、木刀を取り出した。

そして、ピザポは・・・。

電信柱の陰で、こそこそとサンタ服へと着替えた。

道端で着替えるなよ。近くに公衆トイレがあるだろう。この横着者め。

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準備を終え、民家へと足を踏み入れる。

「結局、妨害して来る相手って、母親なんですよね?」

「うん。追い掛けて来るから、それに対処しながら川を目指すよ。」

「その母親って、どのタイミングで追い掛けて来るんでしょうか・・・?」

「家の敷地を出た所から。基本的にそれまでは此方に干渉して来ないと思ってていいよ。」

僕の問いに、のり姉はハキハキと答えた。

僕は、のり姉が何故そんなことを知っているのかを不思議に思いながら、狭い廊下を進んだ。

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・・・・・・・・・。

一番奥から二番目の部屋の前で、のり姉は足を止めた。

「此処。子供部屋。」

ガチャリ

子供部屋のドアが開いた。

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「あ、お姉ちゃん!!」

「サンタさんだ!サンタさんがいる!!」

中に居た子供達は、予想を遥かに越えて元気だった。

子供達は、どうやらのり姉を知っている様だ。

「サンタさん!サンタさんだ!!」

「お姉ちゃん遊ぼー!!遊ぼー!!!」

彼が恐らくタクト君なのだろう。

男の子はのり姉にベッタリだ。

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」

少年、そのお姉ちゃんは変態だぞ。

いや別に止めはしないが。

そして一方、三女のユメちゃんらしき女の子は、ピザポにベッタリだ。

「サンタさんカッコいいーー!!」

お嬢さん、そいつアホだよ。

いや別に悔しくなんか無いけど。

僕は、薄塩と共にボンヤリと、目の前で繰り広げられている幼稚園の様な光景を見ていた。

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ボンヤリしている僕等の元へ、一人の女の子が近寄って来た。

何も言わずに、じっと此方を覗き込む。

「・・・。」

「・・・・・・マユミちゃん?」

女の子が、こくりと頷いた。

僕は軽く礼をした。

「こんにちはー。」

「・・・!」

マユミちゃんも、慌てて頭を下げる。

口をパクパクさせていたが、声は出ていなかった。

喋る事が出来ないのだろうか?

・・・しかし、本人にそれを聞くのは、何と言うか・・・あんまりだろう。

僕は薄塩に意見を求めようと、横を向いた。

薄塩は、何故か酷く驚いた様な顔をしていた。

「・・・どうした?」

「・・・・・・いや、何でも無い。」

が、しかし、直ぐに何時もの顔になった。

「・・・・・・どうした?」

「・・・?」

マユミちゃんも、不思議そうな顔をしている。

しかし、薄塩は僕等の問いには答えず、もう一度

「何でも無い。」

と言っただけであった。

僕は、隣で首を傾げているマユミちゃんと顔を見合わせて、反対方向に首を傾げたのだった。

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・・・・・・・・・。

暫くすると、マユミちゃんはすっかり僕等に馴染んでくれた。

「・・・。」

「ウサギさんが好きなんだ。・・・ちょっとまってね。」

「・・・?」

「はい、これ見てごらん。」

「・・・・・・!!」

「もちたろうって、言うんだよ。」

「・・・♪」

「かわいい?喜んで貰えて良かった。」

マユミちゃんは、最初こそ無表情だったものの、色々と話し掛けている内にどんどん表情が出て来て、分かりやすくなった。

「・・・なぁ、コンソメ。」

「何?」

薄塩が、不思議そうに言った。

「・・・マユミちゃんが何を言っているのか、どうして分かるんだ?」

「いや。見れば分かるだろ。」

「分からねーよ。」

表情が素直な分、薄塩なんかより大分、分かりやすいと思うのだが・・・・・・。

「・・・??」

「あ、ごめんごめん。」

クイクイと、マユミちゃんが僕の服の袖を引っ張った。

僕はスマホの画面をタッチし、また新しい動物の画像を呼び出していった。

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・・・・・・・・・。

「さて、そろそろ行こーか。」

のり姉が立ち上がった。

騒いでいた子供達が一斉に口を噤み、のり姉の方を見る。

のり姉が、ゴソゴソと袋から何かを取り出した。

見ると、のり姉の手に乗っていたのは、

・壊れかけのミニカー

・ボロボロのぬいぐるみ

・古ぼけたスプーン

の三つだった。

「・・・・・・これは?」

「・・・さぁ、此処へ。」

のり姉が子供達へと呼び掛けた。

僕の呟きは無視された。

子供達がわらわらとのり姉の周りに集まる。

ユメちゃんが、ぬいぐるみへと手を伸ばした。

すると、ユメちゃんの姿が消えた。

「・・・え!?」

僕が驚いて声を上げると、薄塩が説明をしてくれた。

「器、だろうな。あのままじゃ川まで運べないし。一種の憑依と言っていい。恐らく、あのオモチャとスプーン、あの子達が生前に使っていた物だ。」

今度はタクト君がミニカーに手を伸ばし、消えた。

「・・・二人はオモチャで、一人は食器か。」

ポソリと呟いた薄塩は、何かを哀れむ様な目でマユミちゃんを見た。

マユミちゃんは振り返り、手を振りながら消えて行った。

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三人の子供達が消えると、僕等はのり姉の後に続いて、玄関の前まで移動した。

「・・・さて、此処からはひたすらヒットアンドアウェイで行くからね。」

僕等は頷き、銘々の武器を構えた。

「あ、そうそう。母親を追い払っちゃ駄目だよ。追い払うのは子供達を送った後。あくまでも攻撃は足を止める程度にね。・・・尤も、薄塩とコンソメ君じゃ、追い払うなんて無理だとは思うけど。」

「追い払っては駄目・・・?何故ですか?」

僕が聞くと、のり姉はあくまでも冷静に言った。

「・・・たとえ自分達に害を成すのだとしても、親が自分を諦める所なんて、見たくないでしょ?」

「成る程。」

僕が納得したのを見届けると、のり姉はスッと子供達が入っているらしいオモチャとスプーンを、ピザポへと渡した。

「ピザポ君、これを。」

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「はい。・・・・・・うぇ・・・?!」

オモチャ達を受け取った途端、ピザポが口を押さえた。

「ピザポ?!」

「・・・当てられたね。」

のり姉が言った。

「大丈夫?」

「・・・・・・ウィッス。」

ピザポが口を押さえたまま、頷いた。

「・・・大丈夫っす。」

口調が可笑しな事になっている。

しかし、のり姉はそれを知ってか知らずか突っ込まなかった。

「・・・私は、先に走って川まで行くから。道は此処から右に曲がって真っ直ぐ。私が走り出してから・・・そう、二分。二分後に出発して。距離としては300メートル無いから。」

そう言って、のり姉は川へと走り出した。

僕等はスマホのタイマー機能を使い、二分が経つのを待った。

「・・・これが所謂、霊障って奴っすかね。何気に初体験っす。・・・・・・うぷっ」

この喋り方も、霊障の一種なのだろうか?

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・・・・・・・・・。

のり姉に言われた通りの二分が経過してから、僕等は川へと歩き始めた。

先頭を行くのは僕。

次にピザポ。

最後は薄塩。

前後どちらから母親が来ても、対処が出来る様にする為のフォーメーションだ。

ピザポは相変わらず辛そうに歩いている。

「大丈夫か?」

「・・・・・・大丈夫っす。」

喋り方も変なままだ。

「・・・おい、だったら少し急げ。」

薄塩が言った。

「来たぞ・・・・・・・・!」

「え?」

僕が振り向くと、薄塩の後ろには、

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ヨロヨロと此方に向かって来る、カオナシが立っていた。

「ユメ・・・タク・・・。」

名前を呼んでいる・・・。

恐らく、母親で間違い無いだろう。

「ユメゆメゆめユめ・・・タくタクたくタク・・・。」

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「・・・う"っ・・・ぐぅっ・・ふ。」

いきなりピザポが地面にしゃがみ込んだ。

「ピザポ?!」

「タクタクタクタクユメユメユメユメユメユメタクタクタクユメユメユメユメ」

狂った様に繰り返しながら、母親が此方へ向かって来る。

薄塩が、小さく舌打ちをした。

「行くぞコンソメ!」

「・・・ああ!」

僕は、日本酒水鉄砲をカオナシに向けて構えた。

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・・・・・・・・・。

ブシュッッ

「ギャァァァ!!」

薄塩のファブリーズが、カオナシの顔面にヒットした。

一瞬だけカオナシが、足を止める。

しかし、また直ぐにユラユラと此方へと手を伸ばす。

「ユメユメユメユメタクタクユメタクユメユメタクタクユメタクタクタクタクタク」

ピザポの足取りは酷く重たげだ。

・・・川は、あと100メートル程先。

「ユメタクタクタクユメユメユメユメタクタクタク」

カオナシが此方へ来た。

僕は水鉄砲ならぬ酒鉄砲を、カオナシに喰らわせ・・・・・・ようとしたのだが、水鉄砲は

カシュッ・・・

と情けない音を立てて、空気を押し出すばかりだった。

カオナシの面が、直ぐ近くまで迫った。

あ、これは不味いかも。

僕は思わず目を瞑った。

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ブシュッッ

「ギァァァァァァ!!」

目を開けると、薄塩が僕の目の前に立っていた。

面を押さえながらカオナシがのたうつ。

どうやらファブリーズが掛かったらしい。

「・・・ごめん!助かった!」

後ろを見ると、ピザポがゆっくりと歩いていた。

川まではあと80メートル程。

薄塩が小さく舌打ちをした。

ポイ、とファブリーズの片方を捨てる。

どうやら中身が無くなったらしい。

何時もなら叱るのだが、今は状況が状況なので仕方が無いだろう。

薄塩は残った方のファブリーズを構えた。

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「コンソメ。」

「・・・何だよ。」

「お前、ピザポ連れて川まで走れ。」

「・・・はぁ?!」

薄塩の唐突な発言に耳を疑った。

しかし、薄塩はもう一度、ハッキリとそう言ったのだ。

「ピザポを連れて川まで走れ」

と。

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「何言ってんだよ!お前は・・・?!」

「俺?俺は暫く、此処で時間稼ぎしてる。」

飄々と言ってのける薄塩に、僕は怒鳴った。

「冷静に考えろ!どうにか出来る訳無いだろ?!二人でもキツかったのに!!」

さっきは確かに助けられたが、僕だって日本酒鉄砲をフル活動させて、カオナシの足止めをしていたのだ。

「何でそう無茶するんだよ・・・!!」

僕の頭の端に、先日亡くなった薄塩の親友が浮かんだ。

もしかしたらこいつは・・・。

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「冷静に考えるのはお前の方だ。」

「・・・っはぁ?!」

ブシュッッ

「ギャァァァァ!!!」

カオナシの面に、ファブリーズが吹き掛けられた。

薄塩は続けた。

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・・・・・・・・・。

あのな、此処で三人共川に向かったらどうなる。

絶対にコレ(カオナシを顎でしゃくりながら)、送る邪魔をして来る。

・・・・・・だろ?

あと、コレの狙いは子供達だからな。

万が一俺を蹴散らしたとして、だ。

殺される事は無い。・・・多分な。

「じゃあ僕が残る」とか、「僕も足止めをする」

なんてのは無しだからな?

行き先は川。即ち水だ。

・・・どっちの方が相性がいいか、お前が一番分かってる筈だろ。

あー・・・ほら。

こうして無駄話してる間にも、ファブリーズがどんどん減って行く。

ほらほら、はよ行け。

此処に居られても迷惑だ。

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「別にあいつの事は、何も関係ねーから。」

ブシュッッ

「ギャァァァァ!!!」

「ほら、俺がどうにか出来てる内に、はよ行け。」

僕は、薄塩がその言葉を言い終える前に、ピザポの元へ駆け寄り、肩を支えた。

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「走るぞ!」

「・・・了解っす!」

後ろから、カオナシの悲鳴が聞こえた。

僕とピザポは、後ろを見ないでに走り出した。

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・・・・・・・・・。

川に出ると、のり姉が木刀を構えて待っていた。

「さぁ、それを川の中央から流して。」

僕等は頷くと、ゆっくりと川原へと下りて行った。

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身を切る様な水の中へ、足を浸ける。

水嵩は大した事無いのだが、流れはやや強い。

「・・・っっ!」

グラリ

ピザポが流されそうになる。

ガシッッッ!

「・・・痛い。」

頭を鷲掴みされた。

「・・・申し訳無いっす。」

だから、その口調は何なんだ。

「・・・いいから、早く送ろう。」

川の中央へと足を進める。

ピザポが、ゆっくりと水の中へ手を沈めた。

「・・・さようなら。」

ふわり

重いミニカーも、軽いプラスチックスプーンも一緒に浮かび上がる。

ゆらり

流れを全く無視して、まるで寄り添う様にゆっくりと、ゆらゆらと、子供達は闇に紛れて見えない川の先へと流れて行った。

「・・・行ったね。」

「ああ。行ったな。」

僕等は、流れて行った川の先をぼんやりと見ていた。

冷たい足先も気にならなかった。

只々、その川の先を、あの子達の行った先を、じっと見ていた。

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・・・・・・・・・。

「あ"ぁ"ぁ"ア"あ"あ"ぁ"ア"ア"ア"!!!」

耳をつんざく様な叫びで、我に帰った。

声の方を見ると、あのカオナシとのり姉が、橋の上で向かい合っていた。

「ア"ア"ぁ"ア"あ"あ"ぁ"!!!」

殆ど化け物の様に、カオナシが、あの子達の母親が吠えた。

辺りはすっかり暗かったのだけれど、僕は確かに、のり姉がニヤリと笑ったのを見た。

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「merryX'mas・・・クソ女。」

のり姉が木刀を振り上げた。

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そして僕は、意識を失った。

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・・・・・・・・・。

目を覚ますと、僕は川原に寝かされていて、何故かパンツ一丁だった。

「・・・へっくしゅ。」

寒い。

あ、でもパンツは濡れて無いみたいだ。

「・・・姉貴がアクション起こした時は、目、反らせって言ってたよな?」

呆れた様な顔で、薄塩がそう言って来た。

「・・・無事だったんだな。」

「当たり前だ。」

「そうか・・・。」

僕は、ホッと溜め息を吐いた。

「死亡フラグ何て、現実には無いもんな。」

「そんな一言の発言で死んで堪るか。」

ニヤリ、と薄塩が笑った。

「て言うか、早くピザポを見てやれよ。その体制も中々に辛いだろうに。」

「・・・は?」

クスクスと笑っている薄塩が指差した先には、

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何故か五体倒地をしている、ピザポが居た。

「・・・なにこれ。」

「本人に聞いてみれば?」

「・・・御断りしておく。」

明らかに面倒臭いし。

振り返り、薄塩の横に居たのり姉の方を見る。

「・・・のり姉。」

「ん?」

「あの母親、どうしてマユミちゃんの事を呼んであげなかったんでしょう。」

のり姉は、少し考える様な素振りをしてから、静かに言った。

「・・・あのクソ女は、タクトくんとユメちゃんを縛り付けていただけで、マユミちゃんには何もしていなかったの。」

「え」

「だからじゃない?」

「じゃ、じゃあ何であの子は・・・!」

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「お姉ちゃんだから。」

のり姉はきっぱりと言った。

「自分はお姉ちゃんだから、弟と妹を守るべきだから。・・・ってね。」

そして、にっこりと微笑んだ。

「・・・そんなものだよ。」

僕はその笑顔に何も言えず、只、コクリと一つ頷いた。

空を見上げると、ホワイトクリスマスの欠片も無いような、満天の星空だった。

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・・・・・・・・・。

※この先、話がちょっと汚いです。

御食事中の方、汚いのは生理的に無理な方、この話をいい話のテイストで終わらせたい方は、此処から先はあまり読む事をお勧め出来ません。

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・・・・・・・・・。

「てか、帰り道どうしましょう。まさかパンツ一丁では帰れませんし。」

僕がそう言うと、のり姉は何故だかぎこちない声で応えた。

「・・・ああ。そうだネー。」

「・・・どうしたんですかのり姉。」

「いや、服ね、有るには有るんだヨー。」

「・・・気になる言い方ですね。どういう事ですか?」

のり姉が、袋の中に手を突っ込み、一着の服を取り出した。

「これなんだけどネー?」

のり姉の手が掴んでいたのは

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ミニスカサンタの衣装だった。

「・・・・・・。」

「・・・・・・ダメかナー?」

「・・・って来て下さい。」

「エ?」

僕は叫んだ。

「服!!僕が元々着てた服、持って来て下さい!!!どんなにビショビショでも、これを着るよりはマシです!!!」

ニヤニヤと笑いながら、薄塩が言った。

「無理だと思うけど?」

「何故に?!」

「まぁ、こいつの所為だわなぁ。」

ニヤニヤニヤニヤとエンドレスでニヤニヤしている薄塩が、未だ五体倒地をしているピザポを指差した。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもう本当にごめんなさい俺はクズ野郎ですごめんなさい。」

どうした一体何があった!!

絶賛ニヤニヤ中の薄塩が、更にニヤニヤを大きくした。

「じゃ、教えてやるよ。何があったのか。」

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・・・・・・・・・。

「コンソメ、お前、自分が倒れた事は知ってるな?」

「ああ。」

「で、倒れた後お前は、少しだけ流されてた訳だ。・・・今考えると、よく溺れなかったよな。」

「・・・ああ。それで?」

「で、流されたと言う事は、お前は自然とピザポより下流に行く訳だな。」

「そう・・・だな。」

「で、川と言う物はだな、上流から下流へと流れて、更に其処へ液体を流したら、川の水に流されて混ざりながら、上流から下流へと流れて行くんだな。」

「・・・ああ。それはそうだけど・・・?」

「・・・ピザポもな、ずっと我慢してたんだよな。お前も見ただろ、悪意は無いとは言え、三人分も負担してたんだ。そりゃ気持ち悪くもなるだろ。ほら、当てられてずっと口、押さえてただろう?」

「・・・・・・。」

「限界だったんだろうな。」

「・・・・・・・・・嘘だろ。」

「ごめんなさいごめんなさいすみませんごめんなさい本当にごめんなさい。」

「・・・大丈夫。髪とか顔には掛かってねーから。」

「・・・。」

「で、コンソメ君よ。此処で質問だ。」

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「ビショビショで○○の付いてる服と、乾いていてキレイだけどミニスカサンタ。

さぁ、・・・どっちがいい?」

僕はあまりの絶望感に何も言えず、只、フルフルと数回首を横に振った。

空を見ると、満天の星空だった。

星が涙で滲んで見えた。

Concrete
コメント怖い
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荒氏さんへ
コメントありがとうございます。

プロ用語だったんですか。
・・・まぁ、のり姉もある意味プロと言えるでしょうかね。

嫌悪している訳でも無いですが、好みもしません。強いて言うなら、《取り敢えず性別とかどうでもいいからリア充には爆発してほしい》が本音です。
まあ、二次元に苛ついても仕方がないですが。

返信

荒氏さんへ
コメントありがとうございます。

着ていませんよ。
○○付きの服もミニスカサンタ服も。
前述の通り、パンツ一丁でもありません。
更に言うなら、何処かで服を買って調達した訳でも無いです。

返信

ところで「総受け」というプロ(笑)の用語も知ってる紺野さん

男色に興味あるの?wwwwwwwwwwwwww

返信

紺野さん返信ありがとうございます。

汚いのであの服は着ていませんよ。
無論パンツ一丁で帰った訳でも無いです。

>>結局やはり「総受けミニスカサンタ」で帰ったよねwwwwwwwwwwwwwwwww

まじ興奮するわwwwwwwwwwww

返信

翔さんへ
コメントありがとうございます。

まぁ、本気で着せる気だったかは、正直微妙な・・・いや、あの目は本気でした。
怖かったです。

子供達、ちゃんと逝けているといいんですが・・・。
確認方法が無いんですよね。
願うしか出来ないって、もどかしいです。

返信

荒氏さんへ
コメントありがとうございます。

まさか。
汚いのであの服は着ていませんよ。
無論パンツ一丁で帰った訳でも無いです。

返信

ミニスカサンタΣ(゚д゚lll)
子供達上がれて良かったですね(^^)

返信

紺野さん返信ありがとうございます。

「一体いつから、僕がミニスカサンタ服を着たと錯覚していた?」

>>結局ビショビショで○○の付いてる服で帰ったの?wwwwwwwwwwwwwww

返信

kkさんへ
コメントありがとうございます。
タイトルで・・・。
のり姉の本質をよくご存知ですね。

あの人、確かにやっている事は、善行かも知れないのですが、如何せん僕等へのとばっちりが過ぎます。

どうにかなりませんかねー。

返信

☆チィズケェキ☆さんへ
コメントありがとうございます。

ありがとうございます!
そう言って頂けると嬉しいです。

本当にもう、ストレスで胃に穴が開きそうです。
誰かあの人を駆ちk・・・いやいや、説得してくれませんかね。本当に。

返信

灯真さんへ
コメントありがとうございます。

本当にありがとうございます!

・・・本当にあの人、何なんでしょうね。

返信

荒氏さんへ
コメントありがとうございます。

・・・((((;゜Д゜)))
もちついて下さい。
そればっかりは僕に言われてもどうにも出来ないです。

あ、一言だけ言っておきますね。

「一体いつから、僕がミニスカサンタ服を着たと錯覚していた?」

返信

荒氏さんへ
コメントありがとうございます。

のり姉は女性です。まあ、それ以前に人間でない可能性も否定出来ませんがwww
故に、よしんば押し倒されたとしても、そっち方面へは飛びませんよ。

返信

いつも楽しみ読ませてもらってます。
実はこれから読むのですが…
タイトルで怖いと思い、怖いボタン押してしまいました。
これから楽しく読ませて貰います。

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続き待ってました(≧∇≦)
ミニスカサンタ(笑)いつも大変そうですね((((;゚Д゚)))))))
総受け本が出回ることがないよーに祈ってます(^ν^)

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紺野さんの投稿をいつも楽しく読ませていただいてます!
総受け…物凄く同情します…これからも頑張って下さい!

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コンソメのミニスカサンタで勃起したwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

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ミニスカサンタwwwww
アッー♂wwwwwwwwwwww

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