僕の家の近くに、マネキン館という所があった。名前の通り、マネキン置き場として使われていて、館といってもそんなに大きかったり、立派な訳ではない。大きさは普通の一軒家位で、倉庫みたいな所だった。これは、僕が小学5年生の夏休みの時の話である。
その日、僕と友人の薄塩は近所の神社でうだうだとしていた。夏休みの為か神社にはいつもより沢山の子供がいた。・・・まぁ、僕等もその子供の中の二人なのだが。
丁度その頃、近所では変な怪談が流行っていた。《マネキン館が人を取り替える》というものだった。具体的にどういう物かというと、
「マネキン館のマネキン達は、本当の人間に憧れていて、マネキン館に人が入ってくると、その入ってきた人をマネキンに変えて、マネキンの中の一体がその人に化けて、入れ替わってしまう。」
だ、そうだ。だが、正直言って僕はこの怪談を信じていなかった。なぜなら、入った人が入れ替わってしまうなら、誰がこの話を広めたのか、という事になってしまうからだ。まさか、入れ替わったマネキンが広めたとは思えないし。
で、神社にいた子供の中の一人・・・イニシャルで《T》としておく。Tが、
「マネキン館に探検に行こうぜ!!」
等と言い出したのだった。Tは世に言うリーダータイプ。ここでもし、
「めんどくさい。行きたくない。」
なんて言ってしまうと、僕は確実に弱虫君扱いされる。そうなると、いじめみたいな物が発生するかもしれない。僕は、渋々重たい体を起こした。隣を見ると、薄塩もなんだか嫌そうな顔をしながら、立ち上がるところだった。
「よし!マネキン館に出発!!」
Tが先頭に立った。僕等は、神社にいた子供全員(10人位)の列の最後尾で、のそのそと歩き始めた。
館の鍵は開いていた。マネキン館の中は薄暗く、埃っぽかった。中にあるマネキンは、全て坊主頭の表情の無いもので、組み立てられている物も、まだバラバラの物もあった。全員が通路側をむいて
いる・・・気持ち悪い。だが、気持ち悪いだけで何も起きない。奥の方に階段があったので、僕等は2階に上がってみる事にした。
1階と違って2階は殺風景で、勉強机と椅子がおいてあるだけだった。更には窓も有り、まったくと言っていい程に怖くなかった。Tが、不満げな声を漏らした。
「なんだよ!なんも起きねぇじゃねーかよー!」
そうして彼は少しの間考えるようにして、言った。
「よし!薄塩、ここで一発、怪談頼むわ!」
薄塩は、ニヤリと笑った。
「うん。怪談・・・ね。いいよ?」
・・・どうやら、薄塩は本気モードの様だ。薄塩が、静かに口を開いた。
これは、ただの作り話なんだけど。あのさ、自分のクラスにさ、とんでもない転校生が来たら、どう思う?
T「転校生?」
うん。もう、運動も勉強も完璧で、顔も良くて・・・みたいな。しかも、その転校生、自分がいかに恵まれているかも知らないで、それ位できて当然!・・・なーんて思ってんの。
T「・・・何いってんのお前?」
いいからいいから。答えて?どうする?そんな完璧なのに、それを当然と思ってる、転校生。自分達が今までやってきた事全てをいとも簡単にこなしてしまう存在。正直に言ってよ?ねぇ、どう思う?
T「・・・まぁ、正直いって・・・ムカつくな。」
薄塩は大きく頷くと、にっこりと微笑んだ。
じゃあさ、そのムカつく転校生が、わざわざ自分達の所まで来て、ちょっかいだしてきたら?
T「それは・・・。」
嫌だよね?イライラするよね?
T「・・・だな。」
薄塩は、またにっこりと微笑むと、だよねー。と言った。そして、今度は一気に表情を消した。
まるで、マネキンの様に。
「ねぇ、ここに居るマネキン達も、正に今、そう思ってるんだよ・・・?」
Tが、皆が、一瞬にして固まった。・・・僕を除いて。その時。
ガタッ
と、音がした。1階の方からだった。薄塩がまた、マネキンみたいな無表情で言う。
「ほら、皆、もう、我慢出来ないって。」
「ぎゃあああああ!!!」
誰ともなく、悲鳴が上がった。ドタドタと皆一気に階段をかけ下りていく。あ、なんか倒したやつが居るっぽい。全く。僕は、いつの間にかニヤニヤ笑いが戻っている薄塩と、逃げていくT達を見送った。
そして、最終的にマネキン館に残ったのは、僕と薄塩だけだった。薄塩が言った。
「さて、下のやつ、片付けますか。」
僕は溜め息を吐いた。
「・・・ああ。」
薄塩が、倒れているマネキン一人一人を、声を掛けながら起こしていく。
「ごめんねー。うちのバカが。」
僕も声を出しながらマネキン達を起こしていく。
「ごめんなさい。後でよく言っておきます。」
「ごめんねー。」
「ごめんなさい。」
・・・倒れていたマネキン達を全員起こすと、僕等はマネキン館を後にした。僕は、そっと聞いてみた。
「・・・薄塩。」
「んー?」
「お前ってさ、・・・マネキン?」
「・・・だったらどうする?」
そっと深呼吸。
「入れ替わった時期による。」
「と、言いますと?」
「もし、僕と出会った後に入れ替わったんだとしたら、それは嫌だ。僕の友人を返してほしいって思う。」
「じゃあ、入れ替わった後にコンソメと出会ったとしたら?」
「元々の薄塩には悪いけど、何も思わない。マネキンだろうと、何だろうと、あの日僕に話し掛けたのは、お前だろ?」
薄塩が、ふっと笑って言った。
「・・・なーんてな。俺は人間。オリジナルだよ。」
僕はとたんに恥ずかしくなった。
「随分と青臭い台詞を言ったな。僕は。」
薄塩はクスクスと笑った。
「いや、コンソメは普段から結構恥ずかしい事言ってるよ?小5なのに個人名称《僕》だし。」
僕も何だか可笑しくなって笑った。笑いながらリュックのなかの本(ハードカバー)を取り出し、振りかざした。
「わ、コンソメ君、暴力はいかんよ暴力は!」
「うるせぇ☆」
ふざけながら、二人で帰る。ひょいと後ろを見ると、マネキン館の2階に、白い影が見えた。僕は、薄塩の服の裾を引っ張った。薄塩は、楽しそうに笑った。
「お見送りかな?」
僕も笑って返した。
「悪意は、感じないな。表情無いからよくわからないけど。」
僕等は、いっせーの、と、拍子をあわせて思い切り手を振った。友人にする様に。
「「バイバーイ!!」」
完璧な奴なんて、居やしない。だったら、マネキンと僕等。どこが違うというのだろう。
「通じ合えれば、友達だよな!」
薄塩が僕と同じことを考えてるのが、嬉しかった。
僕等は、もう一回大きく手を振り上げた。
作者紺野
相も変わらず酷い文章ですね
どうも。今野です。
いや。恥ずかしいです。場のテンションとは恐ろしいものですね。シリーズは、まだまだ続きます。良かったら、お付き合い下さい。
ちなみに、今でも個人名称は《僕》です。