ある日の事。僕達はいつもの様に馴染みの神社でぐうたらしていた。誠に平和な事だ。だが、この平和はとある人物によって華麗に、完膚無きまでにぶち壊された。それは、暑い夏の日の事--
その日も僕等は飽きもせず怪談話に明け暮れていた。そして僕は正に今、渾身の怪談を薄塩に聞かせている所だ。
「で、その家は今も誰かが迷い混んで来るのを待っている・・・。」
どうだ!これはかなりの出来のはずだ!
「うん。35点。」
「はぁ・・・?」
かなりの低得点だ。これは理由を聞かなきゃ納得出来ない!
「薄塩・・・?何でそんな低得点なんだ・・・?」
「いやいやいや!ちょっと待って!何で百科辞典なんて持ってんの?!」
「気にするな。お前がちゃんと納得出来る説明をすればいいだけの事だ。・・・他に質問は?」
薄塩が、ブンブンと頭を振った。そして、恐る恐るといった感じで説明を始める。
「だって・・・全員が死んだら、一体誰が話を伝えんの?警察が捜査して解らなかったんだろ?」
「あ・・・。」
確かにそうだ。怖さを追及する余り、大切な事を忘れていた。
「都市伝説としては良いかもな。でも、本当にあった的なテイストで行くならちょっとリアリティーに欠けるかな。」
「むぅ・・・。」
納得だ。・・・悔しい。納得出来まる分、何だか余計に悔しい。僕は、少し意地悪く言った。
「そこまで言うなら、お前の話はさぞや怖いんだろうな?」
薄塩が、ニヤリと笑う。
「勿論。取って置きのを、話させて頂きます。」
「この話は、ただの--。」
「やあ!少年達!」
「「え?」」
声のした方を見ると高校生位の女性が、こっちに向かって手を振っていた。
「元気そうで何より!」
親しげに話し掛けながら、こっちに歩いてくる。僕の知り合いでは無い。だったら・・・と思って僕は薄塩の方を向いた。
薄塩は、何だかとってもジャスタウェイな顔をしていた。ここまで生気の無い人間の顔を見るのは、初めてだった。
「コンソメ君・・・だったよね?」
いつの間にか女性が側に来ていた。ショートカットの、キリッとした感じの女性だ。見れば見るほど、知らない人だ。だが、僕に喋り掛けてきたと言うことは、あっちは僕の事を知ってるらしい。何はともあれ、挨拶位はしておいた方が良いだろう。
「はい。そうです。今日は。」
「あ、やっぱり。それにしても、コンソメ君は肌が白いねー。羨ましいなー。」
「え?あ、はい。ごめんなさい(?)。有り難うございます。」
女性が笑いながら言う。
「なんで謝るのww あ、それにしても今日ってかなり暑いよね。熱中症対策ちゃんとしてる?ちゃんと水分補給しなきゃ、すぐに倒れちゃうよー?」
本当に・・・誰なんだこの人。僕は、暑さで若干アホになっている脳をフル回転させた。一瞬、名古屋に住んでいる従兄弟(♂)が、何かに目覚めてしまったのかとも思ったが、流石にこんなハイクオリティー女子になれる筈がない。
「コンソメ君?どうしたの?まさか熱中症?」
少しボケーッとしていると、女性が心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「あ、違います。大丈夫です。・・・御心配掛けて、すみません。」
「ううん、良かった!」
女性が、またニコッと笑った。そして、
「あ、そうだ!すっかり忘れてた!」
と、言いながらバッグから何かを取り出した。
カンペンケースだった。そして、次の瞬間・・・。
パッカーーーンッッッ
という音が神社の境内に響き渡った。薄塩が、女性にカンペンケースで殴られた音だった。
「何すんだクソ姉貴!!」
「誰がクソだゴルァ(# ゜Д゜)」
・・・何これ。どゆこと?
「友達が正体不明の女子高生に絡まれてんだ。助けんかいゴルァ(# ゜Д゜)」
「だって姉貴だろ?!」
「コンソメ君から見てって事だよバーカ(゜Д゜)」 「誰がバk・・・」
「おめーだよバーカ(゜Д゜)」
僕(´・ω・`)
どうしよう。話についていけない。
「てか何で姉貴が・・・」
「うっせえ。てか早くコンソメ君に紹介しろし。」
「横暴だ・・・。」
「あ"あ"ん?」
「・・・何でも無いです。」
僕 壁|ω・`)
薄塩が、溜め息を吐いた。
「コンソメ、これ、俺の姉貴。名前は《のり塩》」
「よろしく!《のり姉》ってよんで!(*^▽^*)」
超笑顔だ。さっきまで鬼みたいだったのに。
「ど、どうも。薄塩の友人です。コンソメです。」
「薄塩から話は聞いてるよ?怖い話、好きなんだって?」
「ちょっ、姉貴っ・・・」
「あんたは黙ってな。」
「あのさ、いっしょに肝試し、行かない?」
「肝試し?」
「そう。肝試し。お祭りのついでだけどね。」
・・・・・・のり姉が言うことには、○○県の◇◇町という所で、1週間後にお祭りがあり、そしてその祭りの会場の近くに、穴場の心霊スポットがあって、お祭りついでに少し寄ってみようという事だそうだ。
「いやー。薄塩から、怖い話とか好きな子だって聞いてたからさ。もしかしたら来るかなって。で、どうする?いっしょに行く?」
僕は即答した。
「はい!行きます!」
実を言うと僕、この夏休み中何処にも連れていってもらってないのだ。丁度いい機会だと思った。
「コンソメ君コンソメ君、でも、祭りは夜なんだよー?親御さんが許してくれるカナー?」
え?薄塩が《君》?気持ち悪い。
「別に?僕の家、そういうの結構ユルいから。」
「・・・そうかい。」
のり姉が、またニコッと笑った。
「じゃ、決定ね!細かい事は後で薄塩に伝えさせるから!じゃーねー。」
そうして、のり姉は颯爽と去っていった。
そして僕が横を見ると、薄塩が再び、顔面まるでジャスタウェイになっていた。
「・・・薄塩?」
掌を目の前でヒラヒラしてみても、反応が無い。
「薄塩ー。うーすーしーおー。」
やはり反応が無い。一体薄塩はどうなって・・・と思った瞬間、薄塩が、僕の方を向いてポロポロと涙を流し始めた。え?えええええええ!
「う、うすっ、薄塩?!」
「・・・ごめん。コンソメ。」
何の事だ!
「でも行くって言ったコンソメも悪いんだからなー!」
だから何の事だ!
「あ"あ"あ"あ"あ"もういやだぁぁぁぁ・・・。」
薄塩が、電池の切れたオモチャみたいに、どさっと崩れ落ちた。
「薄塩・・・。どうしたんだ一体。」
薄塩が、崩れ落ちた体勢のまま喋り始める。
「・・・姉貴のチョイスした心霊スポットって事は、本物なんだよ・・・。」
「本物って?」
「本当に出るって事。それはもう確実に。」
「はぁ?!」
「出る所をわざと選んでんだよ。」
「わざとって、どうやって・・・。」
薄塩が叫んだ。
「《見える》んだよ!!俺も!姉貴も!」
「・・・・・・。」
僕は絶句した。確かに、僕は幽霊とかの、《人ならざる者》の存在を信じていた。でも・・・。
「それって、《霊感がある》って事?」
薄塩が、コクリと頷いた。
「・・・何で、今まで黙ってた。」
本当か、とは、聞かなかった。踞っている薄塩が、嘘を吐いているとは思えなかった。
「気持ち悪いだろ・・・。どう考えても。」
薄塩が続ける。
「だって、普通は見えない物が見えるなんて・・・下手したら、化け物だろ。」
そんな事無い。なんて、言えなかった。薄塩の表情は、今までに見た事が無い位、暗い物だった。
「俺、実を言うとコンソメ位しか友達居なくてさ。理由は・・・分かるよな。話そうとも思ってたんだけど・・・。言えなかった。ごめん。」
「でも・・・。」
薄塩が、顔を上げた。
「今、カミングアウトしとかないと、薄塩を守れないから。」
何かを決意した様な、表情だった。
「肝試しが終わったら、俺から離れるなり何なりしてくれて構わない。でも、それまでは・・・。
頼む。友達として、守らせてほしい。」
・・・こいつは・・・。
「あのな、僕は今日まで、お前を《もしかしたら人間じゃないのかも》とか、思ってたんだ。それでも薄塩はいい友人だと思ってた。だから、だから、・・・!」
上手く言葉が出なかった。
でも、薄塩は笑ってくれた。泣きそうな顔で。
「何だかんだで優しいよなー。コンソメは。」
僕は何だか無性に恥ずかしくなって、
「大体、僕なんて将来の嫁(実は婿なのだが、この時はまだ知らない)が爬虫類だぞ!お前なんて、どんな能力があろうと、人間じゃないか!」
と、言った。そして、僕はふとある事に気付いた。
「と、いうか、お前に守って貰わなくても、僕がのり塩さんの誘いを断ればいいんじゃないか?」
薄塩が、真顔で言う。
「姉貴に逆らえる訳無いだろ?ましてや1度行くって言っちゃった身で。」
「・・・。」
何者なんだ。のり塩さん。
「大丈夫!俺がキッチリ守ってやんよ!」
薄塩が、ニヤッと笑って言った。
僕は、やっぱり薄塩はこの顔が一番馴染むな。と、思った。
決戦は、1週間後。
作者紺野
どうも。ヘタレの紺野です。
まさかの前後編になってしまいました。
のり姉のスペックは次回、紹介しようと思っています。次回も、よかったら、宜しくお願い致します。
・・・姉って、怖いですよね。