これは、僕と薄塩が小学5年生の時の話。この話は、実は今の僕の生活に、少しだけ変化をもたらした。・・・いい変化では無いかもしれないが。
透き通る水の、夢を見た。僕は小さな滝の側にいて、水が流れていくのを、じっと見ていた。草花は無く、白い岩がまるで壁の様にぐるっと周りを取り囲んでいた。滝の横には、洞窟があった。そのうち僕は、水が流れ落ちてくるのも見飽きて、その目が痛くなる程に青い水を覗きこんだ。ゆらゆらと泳ぐ魚達が見え、そのまた遥か下を、何か白い物が通っていく。あれは・・・・・・。
ピピピピピピピピ・・・。
・・・またか。僕はこの頃、ずっと同じ夢を見ていた。別に恐ろしい夢では無い。滝の側で、ぼんやりするだけの夢だ。だが、こう毎日同じ夢が続くと気味が悪い。それに、水底に動くあの白い影。あれは一体なんなんだろう。いつも、解った!・・・と思った瞬間に目が覚め、起きるとそれが何だったのかを忘れている。着替えをしながら考えても、やはり一向に思い出すことは出来なかった。
「おーい、コンソメー!起きろ!遅れんぞ!!」
僕が住んでいる地域では、毎年小中学生は7月の間ラジオ体操に出なければならない。今日はその最終日。つまり7月31日だ。
「コーンーソーメー!今日行かないと皆勤賞貰えねーんだぞー!!」
「・・・ああ!!分かってる!今行く!」
僕はダッシュで階段をかけ下りた。そう。僕等は高学年には珍しい、ラジオ体操皆勤系少年だったのだ。
ラジオ体操の後、僕等はあまりの事に空いた口がふさがらなかった。
「まさか、皆勤賞の賞品て・・・。」
「・・・嘘・・・だろ?」
僕等が朝寝を犠牲にしてまで手に入れた物は、
「う◯い棒・・・。しかも3本・・・。」
今までは、シャーペンとか、酷いときでもポカリ◯エットだったのに。
仕方がなく僕等は、会場だった町内会館で遊びながらそれを食べる事にした。こんな早くから友達と遊ぶなんて二人共初めてだったので、それでう◯い棒の事を忘れる事にしたのだ。
僕はせっかくなので毎日一緒にラジオ体操に行っていたこの友人--薄塩に、あの夢の事を話した。薄塩は、こういう不思議な事に関しては僕の知り合いの中では一番博識だったからだ。
「で、どう思う?」
「どうってもなー・・・。」
薄塩は、少し複雑そうな顔をして言った。
「最近、色々と面倒事に巻き込まれてるからなー・・・疲れてんのかもよ?」
確かに、それは言えてるかもしれない。
でも・・・。
「幾ら何でも、毎日同じ夢ってのは、おかしくないか?」
「だよな・・・。」
「その夢って、いつから?」
「1週間位前から。」
「1週間位・・・!」
薄塩は、何かハッとした表情を浮かべた。
「薄塩!寝るぞ!」
「はぁ?!」
「夢を繋ぐんだよ!」
そう言って薄塩は持ってたメモ帳にサラサラと何かを書き付けて、何かが書かれた紙を、ビリビリッと破いた。
「ほら!半分持って!」
「え?あ、うん。」
「ほら、いくぞ!」
「何処に!?」
「仮眠室!」
薄塩の目が、輝いていた。こいつ、何に気付いたか知らないけど、絶対に楽しんでやがる・・・!
「さ、寝るぞー。紙、ちゃんと持ってろよー。」
仮眠室は、僕ら以外誰もいなかった。紙をしっかりと握り締める。僕等は、ゆっくりと夢の中に落ちていった。
目を開けるといつもの場所だった。違うのは1つだけ。
「あ、思ってたより広いなー。」
薄塩が居るのだ。
「本当に・・・夢が、繋がったのか。」
薄塩が、ふっふーん、と笑った。
「俺を嘗めんなよー?」
・・・いつも思うんだが、こいつ、本当に人間じゃないんじゃないか・・・?
僕がそんなことを考えている間も、薄塩はどんどん進んでいく。
「コンソメ、あれは?」
「ああ、洞窟。僕もまだ入ったことないけど。」
薄塩の目がいよいよ輝きだした。
「行こう!」
僕は薄塩に服の裾を引っ張られながら、洞窟の中へと入っていった。
洞窟の中は薄暗かったが、奥の方に祠があるのが見えた。
「ここは・・・?」
薄塩が、祠の方へと歩き始めた・・・
「待って!!」
「「え?!」」
僕等は同時に声を上げた。薄塩は勿論僕がいきなり大声を出したからだと思う。
僕が声を出したのは、何で行こうとする薄塩を止めたのか分からなかったからだ。
「ごめん、どうかした?」
薄塩が聞いてくる。
「え・・・。うん、えっと、何かそこ、通っちゃいけないって・・・あ。」
僕は気付いた。化石だ。薄塩がさっき通ろうとしたところに、巨大な化石が有ったのだ。
薄塩がゆっくりと言った。
「・・・龍?」
そう。それは蛇にしてはあまりに大きかった。そして何より、小さな手足がついていたのだ。
「龍神・・・。」
僕等は暫くその場に立っていた。
薄塩はまた祠の方へと歩いていった。今度は化石を踏まない様に慎重に。僕は、何故だか余り興味が湧かなかったので色々調べているらしい薄塩に、
「戻ってるな。」
と声を掛け、池の畔に戻った。靴下を脱ぎ、足を澄んだ水に浸す。冷たくて気持ちが良い。暫く水中で足をぶらぶらさせていると、なんだか暖かい物が足に触った。魚か何かだろうと池の中を見てみた。
二股に割れた舌。瞬きをしない瞳。何より、龍と言うにはあまりにツルッとしたシルエット。
「おひゃぁぁぁああい!!!」
我ながら何とも間の抜けた叫び声だと思う。でも、本当に驚くと腹に力が入らず、こんな感じの叫び声しか出なくなる。・・・僕はこんなときに何を考えているんだろう。
ニュルッ
大蛇の舌が僕の足を掴む。
「ぽぎゃぁぁぁっっらぁぁああ!」
悲鳴を上げながら必死に足を振りほどく。
「コンソメ。」
いつの間にか薄塩が側に来ていた。動けなくなっている僕をズリズリと陸まで引っ張ってくれた。
「あ、あれは一体・・・!」
薄塩は何処か嬉しそうに言った。
「コンソメ、あれは--」
ザバァッッ
奴がその小さな前肢を池の縁に掛けて、ゆっくりと頭をもたげた。此方に近付いてくる・・・!
「申し訳御座いません。ミズチ様。」
いきなり薄塩が、その化け物に頭を下げた。
「こいつ、まだ11なんです。幾らなんでも、気が早すぎやしませんか?11など、まだまだ親に甘えたい年頃でしょう。引き離すのは余りに酷です。あ、俺はこいつの友人です。詰まらない物ですが、祝いの品を持って参りました。」
薄塩の手の上に乗っていたのは、ラジオ体操の時に貰った、3本のう◯い棒だった。
化け物(ミズチ様?)が、此方を向いて、
「シャ~。」
と、鳴いた。・・・鳴き声は余り怖くない。そして薄塩の手の上のう◯い棒を器用に舌に絡めとると、またゆっくりと水の中に戻っていった。そして水面がまた鏡の様に平らになって・・・。
目が覚めると、仮眠室だった。薄塩はもう起きていた。何だかニヤニヤしている。さっきの夢は、本当の事だったのだろうか。
「薄塩、さっきのは・・・。」
薄塩は、おどけた様な顔をした。
「おひゃぁぁぁあい?」
「言うな!」
ああもう恥ずかしい!だが、さっきのは確かに本当の事らしい。薄塩が更にニヤニヤを大きくしながら言った。
「いやー。コンソメ、モテモテだね~?」
「はぁ?!」
モテモテ?何を言ってるんだこいつ。
「さっきのはミズチ様って神様。漢字では、虫編に、交番の交な。コンソメ、お前神様にプロポーズされてたんだよ。」
「だってあいつ、僕を池に引き摺り込もうとしたぞ!」
薄塩が、更に更にニヤニヤを大きくした。
「だから、自分の住みかに招待することが、あちらさん流のプロポーズなのー。んで、相手の家の中に入るってのは、プロポーズを受けた事になんのー。」
「じゃあ、あのまま池の中に入ってたら・・・。」
薄塩が、酷く恐ろしい事をサラッと言う。
「溺れはしないかな。でも、タベラレチャッテタダロウネー。」
今更ながら、冷や汗がぶわっと出た。
「でも、何で神様なんかが僕に・・・・・?」
薄塩が、あっさりと答える。
「1週間前、川の所でした会話が原因じゃね?」
僕はハッとした。
1週間前、川での会話。
薄「なぁなぁ、蛟って、知ってる?」
僕「何だよいきなり。」
薄「この川に居るって言われてる神様。」
僕「知らないな。どんなの?」
薄「えーと、基本は蛇で、足が生えてるらしい。」
僕「へぇ。カッコいいな。」
薄「マジで?!気持ち悪いだろ。」
僕の頭に、深い水の中を泳ぐ、蛟様(イメージ)が浮かぶ。
僕「カッコいい。うん!カッコいいよ!」
「きっとあんな事言ったから、ガチになっちゃったんだぜ~?」
「うわぁぁぁあ!僕、何て事をぉぉお!」
あの時の発言を全力で後悔する。
「蛟様ってのは、元々化け物として恐れられていた神様だからなー。カッコいい何て、言われた事無かったんだろう。・・・ま、大丈夫だ。蛇神は人間に化ける時、大抵は美男美女だから。」
「根本的な問題が解決出来てなーい!!」
でも、あの青い水の中で暮らすのも悪くない。なんて、少しだけ。少しだけ、考えたりした。
そして数年後、僕には新たに《見える》友人が出来た。そして言われた一言。
「・・・何?コンソメってそういう趣味なの?」
そしてその友人に聞いた所、驚愕の事実を僕は知った。
蛟様は、どうやら男神様らしい。
僕は一体どうすれば良いのだ・・・。
作者紺野
どうも。崖っぷち系男子、今野です。
・・・・・・本当、どうすれば良いんでしょう。
あ、あと僕はどうやら蛟様からある能力を貰った様です。その話はまたあとで。
物語はまだまだ続きます。次回はいよいよ新キャラ登場です。姉って怖いですよね。
良かったら次回も、宜しくお願いします。