夏休み。始まる前はうきうきしていた。友達と遊ぼう。釣りに行こう。ゲームをいっぱい進めよう。
だけど。
今は厭だ。
僕はお婆ちゃん家に居た。
厭だなあ。
この臭い。
臭いなあ。
僕は廊下に立っていた。
嗚呼。厭だなあ。
臭い臭い。トイレなんて外にあるし。大体、座るトイレじゃないし。
何なんだよ。
トイレも臭い。何か、大きいのと、小さいのが混ざり合った臭いじゃない。
それ以上の臭い。
家事態が臭い。トイレとはまた違う臭いだ。
婆臭いというのか。お婆ちゃんと同じ臭いがする。
お婆ちゃんは好きじゃないよ。
もう、一樹も大人になったのだからお婆ちゃん家に1人で行きなさい。なんて。
冗談じゃないよ。
僕はお爺ちゃんが好きだったんだよ。
あのニカッと笑う笑顔が好きだったんだ。
お婆ちゃんはお爺ちゃんを毛嫌いしていたみたいだけど。
お爺ちゃんは死んだ。
お婆ちゃんが殺したんだ。
絶対にそうだよ。
あの、お婆ちゃんは何処か厭だ。怖いというほうがいい表現かもしれない。
あの、目が一番怖い。
厭だなあ。
「かずき。かずきや」
お婆ちゃんが僕を捜している。あの声も嫌いなんだよなあ。
はやく死んでくれないかな。
「かずき。ここで何ボーとしてんの」
無視をした。厭なんだよ。臭いんだよ。嫌いなんだよ。お前が。
「何か見える?」
お婆ちゃんも僕が見ているほうを見た。
厭だよ。近づくな。僕に触れるな。臭いんだよ。
僕は駆け出した。
何なんだよ。あいつは。はやく死んじまえ。
嗚呼、お爺ちゃんにもそういうことを思った時期があったなあ。
うざかったんだ。あいつ。僕の欲しいものを買ってくれなかった。
でも、今じゃあ後悔している。なんであんなこと言ったんだろうって。
「死ね!」なんて。本当はそんなこと言いたくなかった。
あの、お爺ちゃんの残念そうな顔。
「かずきや。かずき。不満があるなら、お婆ちゃんに言っておくれ」
厭だよ。きもいきもいきもいきもい。
お前に何を言っても、本当にそうするじゃないか。
それが厭なんだよ。
買ってくれって言ったら、本当に買ってくる。
食べさせてくれって言ったら、何でも用意する。
怖いんだよ。
友達に話しても羨ましい。羨ましい。の一言だけど。僕は厭なんだ。
何でもするって言うのは決していいことじゃない。
子供の我儘を全部聞くってことは駄目なことだよ。
なのに。あいつは・・・。
僕は躓く。
「いた!」
そのとき、ふと、部屋が目に付いた。
障子が開いていて、中が丸見えだ。
だけど。そこじゃない。僕は一点に釘付けになった。
箪笥の後ろ。
――ぺらぺらなお爺ちゃんがいた。
紙みたいにぺらぺらになったお爺ちゃんは、目をぎょろりと動かし僕を見た。
なんだ。あれは・・・。
口をぱくぱくと動かしている。
「厭だ。厭だ。こんな家に来させて。あのクソ親ども!死ね!怖いよ!なんだよあれ!」
「かずきいいい」
ギシギシ
誰かが僕を見下ろしている。転んだ僕を。
「私はかずきが望めばなんでもするよお」
そうか。やっぱり、お爺ちゃんを殺したのはこいつだ。
そして、今度はお父さんとお母さんが殺される。
そいつはニーと笑った。
嗚呼、何て。何て。
臭いんだ。
作者なりそこない