「君、《ユメクイ》を知っているかい?」
「ユメクイ?」
公園のベンチに座っていると、何時の間にか隣に知らないおじさんが座っていた。
「《ユメクイ》さ。」
おじさんはそう繰り返す。
「動物ですか?」
僕が聞くと、おじさんは
「そうだね。広い意味合いで言えば動物だろう。」
と答えた。
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Zzz
《ユメクイ》と言うのはね、其の名の通り《夢を食べる》動物なのさ。
そう。夜、眠っている時に見る《夢》だよ。
・・・どうやって夢を食べるのかって?
よし、教えてあげよう。
先ず《ユメクイ》は、寝ている人の中で《夢を見ている人》を探すのさ。
夢を見ていない人も、中には居るからね。
・・・・・・どうやって探すのか?
簡単だよ。匂いを辿ればいい。
《夢を見ている人》からは《夢の匂い》がするんだよ。例えるなら、そうだな。
花と果物と雨の匂いかな。
・・・ああ。そうだね。良い匂いだよ。
其の匂いを追って、《ユメクイ》は《夢を見ている人》を探し出す。
夢を見ていない人は、匂いがしないからね。
見付けるのは簡単何だよ。
・・・次に、其の《夢を見ている人》の枕元に立つんだ。
・・・どうやって家に入るのかって?
入れるのさ。《ユメクイ》はね。
どんな高い塀も、深い堀も意味は無い。
其処に《夢を見ている人》が居るのなら、《ユメクイ》は何処にだって行けるんだよ。
戦争地帯の、地雷に囲まれた村の子供の枕元。
高い搭の、一室に閉じ込められた姫君の枕元。
自由自在だよ。
・・・そうして、《ユメクイ》は夢を食べるのさ。
長い鼻を《夢を見ている人》の額に着けて。
吸い取る様に、夢を食べる。
《良い夢》も《悪い夢》も。
・・・・・・夢を食べられたらどうなるのかって?
《眠る》のさ。
泥に沈む様な深い深い眠りに着ける。
大丈夫。目覚めない何て事は無いからね。
心も体も全てが休まる様な、ゆったりとした眠りだよ。
疲れを忘れ、嫌な事も忘れる、素晴らしい眠りさ。
君も、こんな経験は無いかい?
夜中に、フッ、と目が覚める。
酷い夢を見た筈なのに、思い出せない。
幸せな夢を見た筈なのに、思い出せない。
しかし、何故か満ち足りている。
・・・有るだろう?
其れはだね、君。
食べられたのさ。君の夢を。
残るのは君の中の夢の残り香だけだ。
《ユメクイ》 は、夢を食べ終えると直ぐに消えてしまうからね。
・・・しかし、希に人間に見られてしまう《ユメクイ》も居る。
いや、《見られてしまう》と言うのは可笑しいか。自ら其の場所に留まるのだからね。
・・・・・・どうしてだと思う?
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Zzzzz
いきなり質問をされて、僕は困惑した。
何も言えずに黙っていると、おじさんは言った。
「仲間を増やす為さ。」
「・・・仲間を。」
「そう。《ユメクイ》は人が成るモノだからね。」
おじさんは続ける。
「《ユメクイ》を見てしまった人間は夢を見られなくなってしまう。」
「そして、何時の間にか《ユメクイ》となっている。」
「だが、ただ見るだけでは駄目なのさ。」
「《ユメクイ》を知らねばならない。」
ギロリ、とおじさんの目が見開かれた。
此方をジッと見ているのに、焦点の合っていない様な可笑しな目だった。
「知らねばならない。枕元に居るモノの正体を。幽霊等と勘違いをしてはいけない。《ユメクイ》と知らねばならない。知らなければ、《ユメクイ》に成れない。」
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「君は知ったね?《ユメクイ》を。」
長い鼻と見開かれた虚ろな瞳。
僕は全力で其の場から逃げ出した。
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Zzzzzzz
とある夜、僕が目を覚ますと、枕元に一人の男が立っていた。
其の男は、長い鼻と、見開かれた虚ろな目をしていた。
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Zzzzzzzzz
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此れで、僕の話は御仕舞いです。
文章は余り得意では無いのですが、此れが僕の精一杯でした。
拙い話にお付き合い頂き、有り難う御座いました。
・・・さて、この話を読んでいる貴方も、此れで《ユメクイ》を知りましたね。
何時になるかは分かりませんが、御会い出来る日を楽しみにしています。
夜、目を覚ますと、貴方の枕元に誰かが居る。
薄闇の中で見えたのは、長い鼻と見開かれた虚ろな目。貴方は僕の話を思い出す。
其の時はーーーーー
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貴方も、僕達の仲間。
作者紺野-2
フィクションです。
嘘っぱちです。
もはや怖い話じゃ無いですね。
貘をイメージして考えた話です。