これは、僕が高校一年生の時の話だ。
季節は冬。
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・・・・・・・・・。
二月のイベントとは何か、と聞かれたとする。
節分や建国記念日。
確かに其れも大きなイベントだろう。
然しだ。
やはり、一番高校生が浮き足立つイベントとしては《バレンタインデー》である。
好きな男性に女性がチョコレイトを渡すと言う、日本限定で開かれている謎のイベント。
最近では、《義理チョコ》や《友チョコ》や《親チョコ》等と言う、
「もうそれ意味無いだろ!」
と言いたくなる様なチョコも出現している。
最早チョコレイトテロの如しな有り様だ。
・・・まぁ、そんな訳で今日はバレンタイン前日。
僕はテスト前だと言うのにチョコレート菓子の作成に精を出していた。
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・・・・・・・・・。
さて、何故僕が菓子作りをしているかと言うと、其れは勿論のり姉からの命令だからである。
のり姉からの命令だからこそ、僕は今テストを放って菓子を作っているのだ。
・・・いや、勉強も此れを作り終わったらするけど。
ノー勉で挑む訳無いけど。
まぁ其れでも、やっぱり、テスト前に菓子作りはどうかと思う。
うん。駄目だと思う。
・・・そんな事、のり姉に言えないけど。
言える訳が無いけど。
今言ったら、確実に殺されるだろうけど。
「嗚呼もう・・・!」
僕は自業自得ながらも、大きく溜め息を吐いた。
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・・・・・・・・・。
さて、僕がのり姉にチョコレート菓子を作らされている理由を説明しよう。
のり姉が欲しがったから、ではない。
のり姉はこの菓子を食べない。
では何の為に菓子を作っているのか?
・・・答えは簡単だ。陰湿かつ、のり姉らしい嫌がらせである。
彼女は僕にこう言ったのだ。
「コンソメ君、罰としてピザポ君にチョコを贈りなさい。勿論バレンタインデーにね。」
と。
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・・・・・・・・・。
遡る事数日。某月某日。
僕は薄塩の家へ行き、こっそりとのり姉の部屋へ忍び込んだ。
・・・今、無断で女性の部屋に忍び込んだ僕の事を変態と思った人が居るかも知れないが、僕は断じて変態では無い。
変態はのり姉の方である。
理由はちゃんとあるのだ。
ある物を此の世から抹消する為。
そう。絶対に此の世に有ってはならない物ーーーーー
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烏瓜さんと木葉さんのR18本である。
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・・・・・・・・・。
つい先日、僕は烏瓜さんと木葉さんに先輩の件で御世話になった。
※詳しくは《蛞蝓先輩と蝸牛の僕》をご覧になって下さい。
そして、其の時にのり姉が、ケンカをしている二人に対して
「あんまり五月蝿いとR18本描くぞ。」
と脅したのだ・・・・・・
と、思っていたのだが。
其の発言は脅しでは無かった。
・・・つまり、のり姉は描きやがったのだ。
描いてしまったのだ。
何と言うかこう・・・木葉さんと烏瓜さんがえーと、そのー・・・アレな本を。
もう文章にも出来ない様な奴を。
描いてしまったのだ。あの人は。
「・・・にいさんがえらいことに。」
寧ろエロい事に。
なまじ絵が上手い分、恐ろしさが際立つ。
僕は、机の上に置いてあった原稿に手を伸ばした。
「そいやっっ!」
マッキーで徹底的に塗り潰す。
一枚一枚丁寧に塗り潰す。
更に破る。全力で破る。
そして、原稿が全て黒い塵屑と化した頃・・・。
僕は、後ろに誰かが居るのに気が付いた。
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「随分楽しそうだね?」
のり姉だった。
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・・・・・・・・・。
其の後、僕がのり姉に何をされたかは、一寸此処には書けない。なので。
此の一言で察して欲しい。
「もう、お婿に行けない・・・。」
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そうして、その其のペナルティーの一環として、僕はこうして菓子作りに勤しんでいる訳だ。
此れを明日、僕は学校でピザポに渡さなければならない・・・。
僕は溜め息を吐きながら、焼き上がったカップケーキを見詰めた。
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・・・・・・・・・。
次の日、僕は考え付いた。
直接渡さなければ良いのだ。
下駄箱とか机とかロッカーとかに匿名で放り込めばいい。
我ながらナイスアイデアである。
寧ろ何で昨日其れを思い付かなかったのか。
手の中のカップケーキを見る。
・・・うん。ラッピングも上出来だ。
先ず送り手が男子とは気付かれまい。
「・・・・・・よし。」
僕は早めに登校する為、急いで学校へ行く準備を始めた。
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・・・・・・・・・。
そうして僕は、ピザポの下駄箱にカップケーキを放り込み、何食わぬ顔でテストを受け、ピザポが
「チョコ!チョコ貰った!!」
と楽しそうにしているのを横目に見ながら其の日の学校を終えた。
因みに、僕自身もクラスの女子数名からチョコを貰ったが、其れは単にクラスの女子全員・・・・・・正確に言えば《女子全員+僕》に配られる友チョコが回って来たのに過ぎない。
「三月の十四日、楽しみにしてるねー。」
だそうだ。
本命は一つも無い。あくまでも《友チョコ》らしい。
常日頃から頻繁に菓子を作っては、ばら蒔いていた成果と言うべきか・・・。
まぁ、単純に数だけなら沢山貰ったのだし、流石に嫌いな相手にはチョコを渡すまい。
一つも貰えなかったよりは全然悪くないのだ。
・・・少々話し過ぎた様だ。本編に戻る。
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・・・・・・・・・。
家に帰り、午後の九時。
夕食其の他諸々を終わらせ、僕が明日から広がるテストの無い日々に《テストは今日で終わりだった。》心を躍らせていると、
ピロロロロロロ♪
と電話が鳴った。
・・・うん。メールでは無く電話だ。
相手は・・・と。
僕はベッドから手を伸ばし、携帯電話を手に取った。
画面には、《ピザポ》と表示されていた。
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・・・・・・・・・。
「・・・もしもしにゃ。」
「あ、もしもし。コンちゃん?起きてた?」
「起きてたにゃ。今何時だと思っているにゃ。こんな時間に寝る高校生何て流石に居ないと思うにゃ。」
「あー、そうだよね。まだ9時だし。・・・あ、そうそう。コンちゃんに聞きたい事が有るんだけど。」
「別に構わないにゃ。さっさと言えにゃ。」
「うん。じゃあ聞くんだけどさ・・・。」
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「コンちゃん、朝から気になってたんだけど、何その喋り方。」
「・・・・・・・・・にゃー。」
「言えない感じ?」
「そうだにゃ。・・・まぁ、《好き好んでこんな喋り方をしている訳では無い》と言う事だけは伝えて置くにゃ。」
「大方のり姉を怒らせたとか、そんなとこ?」
「・・・にゃー。」
其の通りである。此れものり姉からのペナルティーの一つだ。
・・・あの人は、一体何がしたいのだろう。
僕をどうしたいのだろう。
「で、聞きたいのは其れだけかにゃ?」
僕は聞いた。
・・・・・・此の話し方で、余り長く電話はしたくない。早く話を終わらせたい。
ピザポはこう言った。
「あともう一つ有るんだけど。」
「・・・・・・チッにゃ。」
「舌打ちにまで《にゃ》を付けなくてもいいと思うけど。」
「知るかにゃ。はよ話すにゃ。」
「了解。此れも朝から気になってたんだけど。」
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「コンちゃん、お菓子呉れるなら普通に呉れればいいのに。」
「・・・・・・・・・にゃ。」
何故か、ピザポにカップケーキを贈った事がバレていた。
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「にゃんの事か全く分からにゃいにゃ。僕はお前にお菓子にゃんて上げてにゃいにゃ。」
「猫っぽさが増してるよ。」
・・・おっと、つい動揺してしまった。
「何で僕がお前何かにチョコを贈らなくちゃならないのにゃ。」
「いや、其れは知らないけどさ。コンちゃんからのカップケーキがあったから。下駄箱に。」
「・・・・・・知らないにゃ。」
「しらばっくれるんだ。」
「・・・何の事かにゃ。」
「・・・あのね。」
携帯電話の向こうで、ピザポが溜め息を吐いたのが分かった。
僕は続けた。
「大体、カップケーキ何て混ぜて焼くだけたにゃ。そう難しい菓子でも無いし、他の女子が作った可能性も大いに有りだと思うにゃ。」
「プレーン生地にラムレーズンとココナッツ、ココア生地にオレンジピールとクルミ。オレンジピールはブランデーに漬け込んであった。・・・洋酒系が好きって、覚えてたんだ。」
正解である。
ピザポは甘酒が苦手な癖に、洋酒を使った菓子は好きなのだ。・・・甘酒、美味しいのに。
だがしかし、此処で其れを認める訳には行かない。
「何の事やらにゃ。お前の好み位、女子も把握していると思うけどにゃ。」
「酒好きとか、イメージ悪くなりそうだから言ってないよ。不良とかバカのレッテル貼られちゃ堪んないから。」
・・・・・・あれ、もしかして此れ詰んだ?
まぁ、此処まで来ちゃったらもう後戻り等出来ないのだけれど。
僕はあくまでしらを切った。
「じゃ、偶然の一致じゃないかにゃ。偶々、送り主とお前の趣味が合っていた、其れだけだろうにゃ。」
「・・・認めないんだね?」
「だから、最初からやってない物を認めるも認めないも無いって話にゃ。」
僕がそう言うと、向こうでもう一度、ピザポが溜め息を吐いた。
「ねぇ、コンちゃん。」
「何だにゃ?」
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「知られたくないんだったら、中にカードとか入れちゃ駄目だと思う。」
「・・・・・・・・・にゃ。そうだにゃ。以後気を付けるにゃ。」
・・・と言うか。
「一つ言いたい事があるにゃ。」
「何?」
「其れ、最初に言って欲しかったにゃ。」
必死で誤魔化した自分が馬鹿みたいではないか。
「いや、そうだね。ごめんごめん。」
「何だか馬鹿にされてる気分だにゃ。」
いや、実際に馬鹿にされても仕方無いのだが。
自分でカード入れておいたのを忘れるとか・・・。
馬鹿か僕。馬鹿だろ僕。
思わず自己嫌悪に陥ってしまいそうだ。
「でも、美味しかったよ。」
「そう言う問題じゃ無いにゃ。」
「ありがとね。」
「五月蝿いにゃ。のり姉に頼まれたから作っただけだにゃ。」
「で、話は変わるんだけど。」
「変えるにゃ。さっき、話はあと一つと言ったにゃ。」
「ごめん。でも、其れは嫌だ。変える。てか寧ろこっちの話が本命だし。」
僕は渋々と頷いた。
「・・・仕方無いにゃ。早く話すにゃ。」
「ごめん、ありがと。」
そうして、ピザポは話を始めた。
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・・・・・・・・・。
俺、コンちゃん以外からも幾つかチョコ貰ってんだけど・・・
いや、嫌味じゃなくて。コンちゃんの奴が一番美味しかったから。電話切らないで。
え?そう言う問題じゃ無い?馬鹿?
・・・・・・まぁ、そうかも知れないけど。聞いて。取り敢えず聞いて。
貰ったチョコに、一つだけ妙な奴があって。
あ、クオリティの問題じゃないよ。
寧ろチョコじゃなかったし。
・・・・・・どう言う事かって?
いや、其のまま何だよね。
チョコが入ってなかったって事。入ってたのは《紅葉した数枚の紅葉》と《秋桜の花》。
ああ、其れと《四葉のクローバー》も。
全部新しかったな。今の時期に何処で見付けたんだろうね。
・・・・・・あ、そうだコンちゃん。
去年の秋にあった《お月見》、覚えてる?
※詳しくは《屋上の彼女》を御覧ください。
ほら、廃校の屋上での。
あの時さ、俺等、女の子に会ったじゃん。
・・・そう。あの飛び降りを繰り返してる子。
コンちゃんがケーキとか分けてあげた子。
で、此の紅葉とか秋桜とかが入ってた箱にさ、入ってたんだよね。
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・・・・・・・・・。
「前、屋上の彼女にケーキと一緒に渡したフォークがさ。ピカピカに磨かれて。」
そう言って、ピザポは数秒間黙った。
向こうからノイズの様な音が聞こえて来た事から、どうやら深呼吸をしたらしかった。
「ねえ、コンちゃん。頼みたい事が有るんだけど。」
「嫌だにゃ!」
嫌な予感しかしない。
「断ったらチョコくれた事バラすよ。」
「好きにすればいいにゃ!」
「のり姉に、しかも尾鰭を付けて伝えるよ。色々と仄めかすよ。」
「・・・正気の沙汰じゃ無いにゃ!お前も巻き込まれたいのかにゃ?!」
「うん。俺も絶対嫌だよ。だから、大人しく言う事を聞いて。危険な目には逢わせないから。」
ピザポの声はあくまで真面目だった。
言っていることは滅茶苦茶だが。
・・・先日、木葉さんと烏瓜さんのあんな姿(勿論紙面上だが)を見てしまった身としては、此処でノーとは言えない。
どうしても言えない。
しかし、素直にイエスとも言いたくない。
「ごめん。本当にお願い。」
ピザポがもう一度ゆっくりと言う。
・・・嗚呼、やはり断れないらしい。
僕は仕方無く、大きな溜め息を一つ吐き、
「・・・・・・にゃー。」
と鳴いた。
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・・・・・・・・・。
で、翌日。つまり土曜日。
夜の7時。
「・・・普通、バレンタインデーのお返しは三月十四日のホワイトデーだろ。」
「あ、今日は猫っぽくないんだね。」
「話を聞け。」
僕等は昔、《お月見》をした廃校の前に居た。
「お返しは早い方が良いと思って。」
ピザポがそう言って、校舎の方を見遣る。
「・・・・・・居た。」
屋上の端の所を見てピザポがニコリと笑う。
其処には、今、当に飛び降りようとしている、一人の少女が居た
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・・・・・・・・・。
編み込みとヘアピン。
制服に兎のお面。
僕等が屋上に昇ると、彼女は前回と違い、此方を・・・非常階段の方を向いて立っていた。
※僕にはそう見えていませんが、実際の彼女は顔面が凄い事になっている様です。其処を踏まえて此れから先の文章をお読みになって下さい。
「久し振り。」
ピザポが軽く手を上げながら言うと、彼女は大きく頷いた。
「元気だった?・・・って言うのは、可笑しいかも知れないけど。」
ゆっくりと彼女の傍へピザポが歩いて行く。
・・・僕?
入り口付近でぼんやりとしてた。
此処で行くのも野暮だろうし。
・・・まぁ、僕の事何てどうでもいいのだ。
兎に角、ピザポは彼女の目の前へと移動した。
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・・・・・・・・・。
其れから暫く、二人は楽しげに話をしていた。
まぁ、話と言っても彼女は喋る事が出来ないので、やはり前回同様にピザポが一方的に近況報告や質問をするだけだったのだが。
其れでも、始終ニコニコと笑っていて(彼女の方は雰囲気として)二人は大層楽しそうだった。
・・・僕?
空気である。
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・・・・・・・・・。
「はい、此れ。ホワイトデーにはまだ早いけど。」
ピザポが何かを取り出した。
「コンちゃん、ちょっと来て!」
あ、呼ばれた。
「手伝ってー!」
此れ、行くべきかな。
寧ろ逃げるべきじゃないだろうか。
二人きりにしてあげるべきなのでは・・・。
「コンちゃんてばー!!」
「・・・・・・分かったよ!今行く!」
もういいや!五月蝿いし!!
僕は二人の傍へと駆け寄った。
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「・・・何。」
「三編み!手伝って。此方側の方。」
ピザポは、彼女の右側の横髪を一筋取り、三編みにしていた。
「後ろで一つに纏めるから。」
「・・・・・・分かった。」
僕は、彼女の左側の横髪へと、手を伸ばした。
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・・・・・・・・・。
「・・・・・・良し!」
出来上がった左右の三編みを、中央で一つに纏める。
彼女が、ピザポに何かを手渡した。
少し霞んだ抑え目なピンク色の、大きなリボンだった。
どうやらクリップの様になっているらしい。
ピザポは其れを、二つの三編みを一つに纏めた所に挟んだ。
ピザポが彼女の前に回り込む。
「うん。やっぱり似合う。一応人気ある奴・・・のつもりだったんだけど、どうかな。」
彼女が、大きく頷く。
・・・どうやら気に入ったらしい。
いや、チョコレートのお返しだし、案外、何を貰っても嬉しいのだろうか。
「・・・良かった!もし嫌がられたら、どうしようと思ってた・・・。」
ぽふり。
髪型を崩さない様に配慮してだろうか、ピザポが、そっと手を彼女の頭に乗せた。
「凄い不安だったんだけど、安心した。」
そうして、また、ニッコリと笑う。
彼女は、ピザポの手を頭に乗せたまま、じっとピザポを見詰めた。
・・・え?僕?
空気である。
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・・・・・・・・・。
次の瞬間。
ギュッ
と、彼女がピザポに抱き付いた。
「・・・・・・!!」
ピザポがビクリ、と震え、目に明らかな怯えの色が浮かんだ。
よく考えてみれば当たり前である。
ピザポには、彼女が顔面崩壊グチャグチャ状態に見えるのだ。
怖くて当たり前。笑顔で話が出来る時点でかなりの度胸だ。ビビりで吐き魔のピザポにしては。
・・・其れでも。
ピザポは、ゆっくりと彼女の背中に手を回した。
・・・・・・凄い。色々と。
「・・・あはは、吃驚したじゃん。何?いきなり。」
ピザポが無理矢理に笑顔を作り、彼女に聞く。
彼女は何の反応もせず、只、ピザポの肩に顔を埋めるだけだった。
・・・・・・え?僕?
空気である。
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・・・・・・・・・。
徐に彼女が顔を上げ、そっとピザポから離れた。
フェンスを越え、屋上の端に立つ。
そして、ゆっくりと此方を向いた。
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「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アリガトウ。」
「「え?」」
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ゆらゆらと手を振りながら、彼女は屋上から落ちた。
ドンッッッ
と、地鳴りの様な低い落下音がした。
僕等が階段を下り、恐る恐る地面を見ると、其処にもう彼女は居なかった。
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・・・・・・・・・。
帰り道の会話。
「ねぇ、あの子、喋れたんだね。」
「そうだな。」
「《ありがとう》だって。」
「ああ。」
「・・・もしかしたらさ、あの子。俺の行動の結果、成仏しちゃったとか?」
「そうだと思う。」
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少し前を歩いていたピザポが、急に立ち止まった。
「馬鹿みたいだね。」
「え?」
「俺何かに簡単に騙されて、馬鹿みたいだよ。そんなんだから苛められたんだろ。」
「え?え?」
地面に唾でも吐きそうな表情で、ピザポは泣いていた。
「本当、馬鹿みたいだよ。」
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・・・・・・・・・。
聞いて。
俺の昔の話。
「・・・苛められてた時の?」
・・・・・・ううん。もっと前。
俺がいじめを受ける前。
俺が・・・・・・いじめをしてた頃の話。
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・・・・・・・・・。
「え?」
僕は思わず聞き返した。
ピザポは、流れ出る涙がまるで自分の心と無関係なのだと言わんばかりに、迷惑そうな顔で目を擦りながら答えた。
「そのままだよ。積極的に参加してた訳じゃないけどね。勿論。」
ブンブン、と頭を振り、涙を払う。
「・・・・・・まぁ、聞いてよ。全部話すからさ。」
眉根に皺を寄せ、涙を流しながら、ピザポはニコリと笑った。
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・・・・・・・・・。
怖かった、
そう、ピザポは言った。
「本当にさ、持ち回りみたいに標的が変わるんだ。次に誰がターゲットになるか何て、誰も分からないんだよ。其れ位脈絡とか流れとかが無いんだ。」
「俺、上手く立ち回ってたつもりだったんだよ。そんな筈無いのにな。強い奴に媚びて、苛められてる奴を《要領の悪い奴だ》って馬鹿にしてた。でも、何時の間にか自分が独りぼっちになってんの。当たり前だよな。自分でどんどん敵を増やしてたんだから。・・・最終的に、俺はクラス共通の敵になってた。」
「俺が《要領の悪い、鈍臭い奴》って思ってた奴等が、皆こっちを見てクスクス笑ってんの。普通に喋ってた友達も、一番仲が良かった奴も皆が俺をゴミを見る様な目で見てんの。昨日まで普通に喋ってたのに。昨日までちゃんと《友達》だったのに。」
「でもさ、自業自得何だよ。今までしてきた事の報い何だから。俺、あんまり性格が悪かったんだ。彼奴等を恨む資格何て、俺には無いんだよ。」
「でも、凄い苦しかったんだ。今でも俺、彼奴等が大っ嫌いだよ。俺が悪いのに。俺自身が原因なのに。」
「笑えるよね。恨むのもお門違いなのに。因果応報じゃん。自分が周りにしたことが帰って来ただけ。其れでも、本当に殺したい程嫌い何だよ。」
「《いじめられる辛さが分かった人は、優しくなれる》とか言うじゃん?全然そんな事無いからね。寧ろひねくれたんじゃないかな。俺の場合は。嫌な奴になったと思う。」
ピザポが苦笑しながら溜め息を吐く。
「俺がそんな嫌な奴とも知らないで、あの子は勝手に救われた様な気になって、消えたんだ。」
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馬鹿何じゃないかな。本当に。
そうピザポは吐き捨てた。
其の言葉は、自分自身に言った様に思えた。
「・・・大体、コンちゃんにこんな黒歴史曝してどうするんだろうね。ほぼ嫌がらせの域じゃん。こんなの。コンちゃん顔真っ青だし。何やってんだろ。馬鹿みたいだよ。死ねばいいのに。・・・・・・俺何て。」
一気に言って、
「あ、」
と顔を強張らせる。
「ごめん・・・・・・。」
ピザポが手で顔を覆い、道端に踞った。
僕は何も言わず・・・いや、何も言えず、ピザポの背中を擦った。
ピザポは、偶に咳き込んだり嘔吐いたりしながら啜り泣いていた。
「ピザポが死んだら悲しいよ。」
絞り出した声に、ピザポが小さく頷いた。
「昔の事は知らないけど、今のピザポは嫌な奴じゃないし。」
今度は頷かない。
ピザポが頭を振り、立ち上がる。
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「帰ろうか。」
「・・・・・・うん。」
ピザポの表情は何時も通りに戻っていて、僕は何故か薄ら寂しくなった。
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ある寒い日の事だった。
作者紺野-2
夢だけどおおおおお!!
夢じゃなかったあああああ!!
どうも。紺野です。
真面目な話、《いじめを傍観している人もいじめに参加しているのと同じ》と、よく言いますが、じゃあ、どうしろと言うんでしょうか。
まさか、いじめている奴に注意をしたり、教師に報告したりしろと?
それこそ、「次のターゲットにして下さい」と言っている様な物だと思うのですが・・・。
難しいですね。あー、ト○ロに会いたい
話はまだまだ続きます。
良かったら、お付き合い下さい。