【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

短編2
  • 表示切替
  • 使い方

引っ越し先にて

music:3

wallpaper:120

30年以上暮らしてきた家を出ることになった。

家賃2万円という安さに惹かれて決めたのだが、実際に足を踏み入れてみると値段通りのアパートだった。

nextpage

wallpaper:625

アパートの壁は一面ペンキで塗られていた。

しかし、ひび割れと汚れでみすぼらしく、いかにも貧乏人のための家という雰囲気を漂わせていた。

隣接する公園は塗装の剥げた遊具達がポツネンと並び、それらを取り囲むようにして、草木が鬱蒼と生い茂っている。

nextpage

とはいえ、引越し日まであと二週間。

持っていける荷物は先に持って行くことになった。

私はその日、実家から楽器やら本やらを引っ越し先に持ち込んでいた。

nextpage

sound:27

nextpage

wallpaper:139

私にあてがえられた部屋は四畳一間の部屋と、三畳半の小部屋で構成されていた。

四畳の部屋からはベランダに出ることができ、ガラス戸の前で先週購入したばかりのカーテンが揺れている。

蒸し暑い室内の空気を変えようと、ガラス戸に手を掛けた。

nextpage

鍵が、開いていた。

nextpage

背筋が凍った。

nextpage

しかし、そこで昨日のことを思い出す。

昨日荷物を運びに来た時、同じようにガラス戸を開けたら大きなハエが入り込んだのだ。

nextpage

追い出そうとして、ガラス戸を開けたり閉めたりしていた。

なるほど、その時に閉め忘れたらしい。

nextpage

さらに、今家には貴重品も何もなく、しかも3階端の部屋である。

ベランダに入り込んだところで、盗めるものは何もない。

そんな風に考えながら、持っていた荷物を床に下ろした。

nextpage

がらんとした部屋に一人。

なかなかに淋しい。

私はイヤホンで音楽を聞きながら、荷解きを始めた。

nextpage

しばらく作業を続け、だいたい終わったなぁという頃。

ふと、イヤホンから聞こえる音に、妙な音が混じった。

nextpage

興奮した男性の、鼻息のような音だった。

鼻奥から勢い良く出される「ふごぉ」「ふごぉ」という音だ。

nextpage

イヤホンの不具合かと思って外してみるが、音は変わらず規則的に聞こえてくる。

自分の呼吸かと重い、少しだけ息を止めるが、やはり呼吸音は止まらない。

nextpage

私には何故か、その呼吸音は圧倒的に男性、かつ体格のよい、それなりの年齢の人物のものだ、という確信があった。

そこまで自信たっぷりだった理由は自分でもよく分からない。

nextpage

音は隣の部屋から聞こえたように思った。

三畳の部屋には、畳半畳ほどの物入れがある。

nextpage

その中に、誰かいるような気がした。

nextpage

私は身構えると、呼吸音を聞きながらそっと隣の部屋に歩み寄った。

nextpage

そっと襖に手を掛け、一気に開けた。

nextpage

北海道土産の木彫りの熊と目があった。

nextpage

襖を明けてから、あの呼吸音もなくなってしまった。

他に、怪しい影もなく、私は気のせいか風のイタズラと決めてかかった。

nextpage

だが、薄気味悪いのに変わりはなく、ガラス戸の施錠をしっかり確認して家を出る。

家の鍵ももちろん閉め、自宅へと帰ってしまった。

nextpage

wallpaper:741

帰宅後。

そういえば、トイレの中は見なかったことを思い出した。

Normal
コメント怖い
4
4
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

実は物入れの奥に隠し部屋が...いやいや実は天井裏に...やはりトイレに誰かが。
など想像が広がりますね。
恐ろしい。。。

返信

> あきら さん

この翌日、下見に行った母に尋ねたのですが、変わったところは何もなかったそうです。

幻聴か、風の音か、隣人のイビキか……なんだったんでしょうね?

コメントありがとうございます。

返信

結局トイレに、何があったんですか?

返信