中編3
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ノックする女

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友人のAから聞いた話。

彼の知人のSは、都内西部の某アパートに部屋を借り、一人暮らしをしている。

実家は鳥取で、手に職をつけるためにはるばる地方から上京して来たのだ。秋の深まる時期のことであった。

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肝心のアパートはというと、よくある2階建ての安アパートで、閑静な住宅街の中にひっそりと佇んでいた。

部屋の間取りも狭いわけではなく、窓からの眺望も悪くない。下積み時代にしては理想的な生活だとSは自分に言い聞かせ、この安アパートで生活を始めた。

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最初の1週間は何事もなく過ぎた。

ある晩、居酒屋でのバイトを終えたSは、帰りがてらコンビニで缶ビールを数本買い、深夜近くなってアパートに帰り着いた。

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この時期になってだんだんと風も冷たくなってきた。手のひらに息を吐きながら、彼の自宅のある2階への階段を上る。

手前から2番目の自宅のカギを開けようとしたとき、顔を上げたSは首を傾げた。

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彼の自宅から2つ奥の部屋の前に、ベージュのロングコートを着た髪の長い女性が立っている。

長い黒髪に隠れ、顔は判別できない。

女性はこちらに気づく素振りもなく、目の前の部屋のドアをノックしている。

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こん、こん、

2回ノックして、数秒間じっとしている。そして数秒後、再び、

こん、こん、

と2回ノックして数秒間固まる。その繰り返し。

気持ちのわりぃ女だな、とSは訝しく思いながらも、関わり合いにはなりたくなかったので、さっさと自宅のカギを開けて中に入ってしまった。

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居間でビールを煽りながらテレビを観ていて、ふと気付いた。

2つ隣の部屋って、空き部屋だったよな?

入居した当初から、あの部屋には誰も住んでいなかったはずである。

ではなぜ、女はあの部屋の戸を叩いていたのか。

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少し気味が悪くなったSは立ち上がって玄関に向かい、ドアに耳を当ててみた。するとーーー

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こん、こんーーー

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Sはギョッとした。

まだ外にいる。

Sはおそるおそるドアを数センチ開け、外の廊下の様子を伺う。

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いた。

あの女が、2つ隣の部屋のドアを依然としてノックしている。

いくら危なそうな女だとはいえ、もしかしたらもともとあの部屋に住んでいた住人の恋人で、住人が転居してしまい空き家になっていることがわかっていないのかもしれない。

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妙な親切心を起こしたSは、あろうことか女に声をかけた。

「そこ、空き家っすよ」

すると、女がドアを叩く手をピタリと止めた。静寂が訪れる。Sは言った。

「そこの人、ずいぶん前に引っ越したらしいっすよ。あともう夜も遅いんで、あんまりしつこくノックするとみんなの迷惑にーーー」

言いかけて、Sは言葉を止めた。

女が、ゆっくりとこちらを振り返ったのである。

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() ()

()

両目と口が、縦に付いていた。

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「あっーーー」

こいつ人間じゃない。と妙に冷静に悟ったSは、何事も無かったかのようにバタンとドアを閉め、カギをかけると、朝まで布団を頭から被って過ごしたという。

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それから3日ほど経って、Sは部屋を引き払った。

あの夜以来、夜中の12時になると、自宅のドアを誰かが叩くようになったという。

2回叩いて、数秒間静まる。そしてまた2回叩いて、数秒間静まるという、あのリズムで。

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そんなわけで、耐えかねたSは引っ越したのだと言う。

後日、Sは新しく借りた別のアパートの部屋で、Aにその話をして聞かせた。

「知らない女に声かけるとか俺もアホだったわ、あんときは」

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笑ってビールを飲み干したSの後ろのドアを、誰かがこん、こん、と叩いた。

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目と口が縦に付いた女性って、
想像すると恐ろしいですね。

うっかり12時過ぎに帰ってきたり、
ドアを開けてしまうとどうなるのでしょうか?

想像しただけで身震いが……。

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