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中編6
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踏み切り その一

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「……どおよ?これ」

「うっわ、めっちゃ写ってんじゃん。これだろ?これ」

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俺と友人のユウヤは、深夜の車の中で、デジカメのプレビューを見ながら盛り上がっていた。

周囲を青白く照らし出す小さな液晶画面の中には、俺達がつい先ほどまでいた深夜の古ぼけた踏切の映像が映し出されている。

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ペンキのはげかかった木製の信号機、

途中で折れている遮断機の、黄色と黒のバー、

踏み切りの近くに手向けられた枯れかけた花束……。

そしてその中、ユウヤが指差す先。

周囲を取り囲むうっそうとした木立の中に、よくみると明らかに普通の人間とは思えない男の人影があった。

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年のころは多分俺達と変わらない。二十歳に行くか行かないか、といったところか。

薄ぼんやりとした顔の輪郭に、瞳孔の見当たらない白い目が浮かび上がっている。

青白い顔からは、およそ表情や意思といったものがうかがい知れない。ただぼんやりと踏み切りの方を眺めているように見えた。

男の肩から下はピンボケのようにかすれ、腰から下はまったく見えなくなり、木立しか写っていない。

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「完璧だな」

思わず言葉が口から漏れ出た。

完璧だ。これこそ完璧な心霊写真だ。夜中まで踏み切りで張り込んでいた甲斐があったというものだ

俺達はしばし感慨にふけったのだった。

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さて、なぜ俺達がこうまでして心霊写真を撮影しようと思ったかというと、まあ、話は簡単だ。

俺とユウヤは、N古屋市内の某大学にある演劇サークルという廃人予備軍の製造工場に属していたのだが……

今年の新入生の中に、チカという名前のひときわかわいい女の子が入部してきたのである。

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猫のようなくるくると良く動く瞳が印象的なその女の子は、その外見や、はきはきとした性格、そして「父親が現役刑事」という出自とは裏腹に、オカルトものが好き、という若干残念な趣味を持っていた。

話術や洗練したスタイルで異性の気を引く、ということが絶望的な俺とユウヤは、彼女が好きそうな「オリジナル心霊写真」を披露することで、彼女の気を引こうと目論んだ。

そして近所で有名な心霊スポット、

「幽霊が出る踏み切り」

にて、念願の心霊写真の撮影に成功したのだった。

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翌日、俺達は大学の講義が終わるのももどかしく、意気揚々と部室に向かった。

そして二人揃って部室に入り……異変に気がついた。

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狭い、5畳ほどの部室に、人が集まっていた。

人垣の中心には、お目当ての彼女がいる。何かを持っているようだ。

「なに?なに?」

俺は近くにいた後輩の1人に話しかけた。

「あ、アキラさん、お疲れ様ッス。いや、すっげーんスよ。ヒロトモのやつ、すっげーのもってきたんスよ」

「すっげー?すっげーなに?」

「心霊写真っスよ。心霊写真」

「心…霊……?」

思わずユウヤと目を合わせる。

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「す……」

彼女…チカが声を上げた。

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「っごーーーーいですね!どこですか?どうやって撮ったんですか?」

俺は興奮する彼女の後ろから覗き込むようにしてその写真を見た。

彼女の肩越しから見える一枚の写真には、見覚えのある踏切が写されていた。

そしてその近く、はっきりと、全身が血にまみれた少女が浮かび上がっていたのである。

元は白っぽかったであろう薄手のジャケット。

ロングのフレアスカート。

印象的な長い髪。

その全てが赤黒く染まり、べったりと肌に張り付いている。

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口の周りも血を滴らせた顔に表情は無く、絶望すらも超えてしまい、ただ虚無に沈んでいるようだ。

背をのけぞらせたまま伸ばした右手はまるで救いを求めるかのように空しく宙を泳いでいた。その先に、フラッシュで酷く非現実的な白さでぼろぼろの踏切が浮かび上がっていた。

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「なに?殺人事件の現場か何か?」

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素朴な言葉が思わず俺の口をついて出た。

それほどまでにリアルで、それでいてサスペンス映画のスナップ写真などからは絶対に感じられない圧倒的な重み。周囲の空気をも黒く染め上げるような強烈な雰囲気を持つ写真だったのだ。

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「やられたな」

「……ああ」

俺の言葉に、ユウヤは重々しく頷いた。

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ここはサークルの道具室。

普段は製作陣がチラシを作ったり、衣装を作成したりする場所だ。

あちこちに照明器具や小道具の入った小箱が散らばり、かろうじて角のかけた長机が猫の額ほどの作業スペースを確保しているその部屋は、今は、俺とユウヤの緊急心霊写真対策作戦会議室となっていた。

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まさかのまさか、別の部員が俺達と同じ場所で、まったく別の写真を撮っていたとは……。しかも断然向こうのほうが怖い。

俺達は自分の撮った写真をみて嘆息した。

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「あーあ、どうすっかなあ」

「駄目だよなあ。俺たちのこの写真じゃ」

「んー、やっぱ撮れたのが男っていうのがなあ」

「しかもなんか顔つきとかやる気ねえし」

「ぼけっと突っ立ってるだけだもんなあ」

……今考えると、この世に未練を残した挙句、浮かばれずにさまよっているところを勝手にアホな大学生に写真を撮られ、しかもクソミソに駄目だしをされているのだから、写真の男もたまったものではなかっただろう。

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俺達はしばらく相談した挙句……。

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再び例の踏み切りに向かうことにした。

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他に適当な心霊スポットを知らなかったし、なんとなくこのままでは「してやられた感」が晴れない。

なんとかあの踏切でリベンジ心霊写真を撮って奴らの鼻を明かしてやらなければ、俺達の腹の虫が収まらなかった。

……心霊写真を撮る当初の目的から少々はずれてきている様な気もするうえ、誰がどう考えても逆恨み以外の何者でもないが、どうせこのままではチカが俺達のほうを振り向くこともないのだ。

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というわけで、俺とユウヤの二人は、連日例の踏み切りに張り込んだ(我ながら心底暇人だ)……。

が、どういったわけか、それからしばらくの間、まったく踏み切りで怪異が起きる様子は無かったのだ。

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そして、俺達が心霊写真を撮った、ちょうど一週間後、木曜日の深夜の事だった。

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さすがに張り込みも一週間もすれば相当にだれてくる。

おまけに極たまに心霊スポットめぐりにやってきたと思われるリア充カップル達の目線も痛い。

当初は心霊写真を撮ることに無駄な情熱を燃やしていた俺達も、2,3日もすれば話すこともすっかりなくなり、この頃になるとお互いぼんやりと窓の外を眺め、寝ているのか起きているのかすらわからない状態になっていた。

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(……やめよっかな。こんなこと)

俺が漠然とそんなことを思っていると、

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「おい」

急に呼びかけられ、驚いて振り向くと、ユウヤが踏み切りのほうを指差したまま固まっていた。

「どうした?」

言いながらも、俺もユウヤの指の差す方を見て、自然に自分の視線が一点に向かって収束していくのが分かった。

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踏み切り近くの木立が、外灯に照らされて白く浮かび上がっている。

獣道すらないうっそうとしたその茂みの中を、重なり合う木々を揺らすことも無く一つの青白い影が動いていた。

まるで浮遊するかのようにゆっくりとこちらに向かってくる影は、長い黒髪に覆われた生気を失った女性の顔だった。

その顔が近づくにつれて、その下にある白銀色のジャケット、恐らくロングであろうフレアスカート。そして印象的な白濁した瞳が徐々にはっきりと俺の網膜に映し出される。

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ゴクリ、と俺の喉が鳴った。

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その姿は、一週間前に見たときよりも幽かで、はかなく、非現実的に思えた。

血まみれにこそなっていないものの、間違いない。写真の少女だ。

俺は時間を忘れ、音も立てずに飛ぶ青い蝶のような人影に見入っていた。

ついに、ついに俺達の前に、少女はその姿を現したのだった。

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「でた」

思わず俺の口から言葉がもれ、自分の言葉に現実に引き戻された。

(そうだ、写真、写真だけは撮らなきゃ)

デジカメを探して自分の鞄の中をまさぐる。

カメラがなかなか見つからず、一瞬俺の気が鞄の中にそれたとき、ふいに俺の予想のはるか斜め上を行く出来事が起こった。

shake

バタン!

静寂を打ち破る大きな音をたてて、車のドアが開いた。

(え?)

と思うまもなく、助手席にいたユウヤが車の外に飛び出した。

(ええ?)

「すいませーーん」

ユウヤは、大声をあげながら、少女の元に手を振って駆け寄っていく。

(ええええええ?)

「写真撮らせてもらっていいっすかーー?」

「ええええええええええええ!!!!???」

ユウヤの能天気な声と、俺の絶叫が夜空にこだました。

ユウヤはあろうことか、この世のものではない少女に被写体になってもらうべく、車を出て交渉しに行ったのだった。

 

続きます

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ここ、これはロビン魔太郎様、このような古い作品にまで時空を超えてのコメント、ありがとうございます。
思い入れのあった作品なので、続き物にしたかったのですが…… _| ̄|○
マイペースにしか出来ないとあきらめて、気長に続けて生きたいと思います。
読んでくださる方がいると思うと励まされます。
ありがとうございました

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お、面白い。まさに予想の斜め上!!ψ(`∇´)ψ らいと先生、俺も復帰を熱望しております!…ひ…

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