「かずきー、早く歯磨いて寝るよー。お母さん先寝ちゃうからね!!」
「えー!!分かったー。」
居間の照明を消し、寝室の豆電をつける。
どうして子供ってこうもルーズなんだろう。
私も自覚するくらいマイペースだったけど、母親にこんなに口うるさく言われなかった気がする。
男の子と女の子の差かなー。
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電気を消されて、すっかり家の中は真っ暗だ。
明るいのは息子が歯磨きしてる洗面所だけ。
きっとトイレを済ませてから、小走りで布団にもぐりこんでくるにちがいない。
ただでさえ、夜のトイレは怖い、自宅といえど怖い。しかも、家の中は真っ暗なのだから。
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季節は夏。7月の中旬。夏休み前にすでに夏休み気分なのか、とにかくのんびりな息子だ。
声を掛けてから10分くらい経っただろうか。相変わらず遅い。どうやったら歯磨きとトイレで10分経つんだ??
そば耳を立てて息子の様子をうかがっていた。
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「うわああああー!!」
ドタドタドタドタっ!!!
小さな悲鳴とともにあわてた様子で私のもとへ来た息子。
暗がりがそんなに怖かったのだろうか。いや、待てよ。洗面所の明かりは点きっ放しだ。
「どうしたの?あわてて。」
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「今、お母さん後ろにいるかと思ったら、いなくてびっくりしたの!!」
「いや、お母さんずっとここにいるし。さっき、もう寝るって言ったじゃん。」
「うん。だけど、なにか後ろを通った気がしたの。」
「やだ。ちょっと…怖いこと言わないでよ。
きっとお父さんのお祖父ちゃんがかずきの顔見に来たんじゃない?」
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「え?だって、女の人だった気がする。」
「じゃ、お父さんのおばあちゃんだ。」
「うん…。髪長かった気がする。」
何かが後ろを通ったなんて言われたら私も怖いけど、
二人で怖がってても仕方ない。
もっともな理由をつけて息子を励ました。
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今夜もまた主人は夜勤だ。
「あ。ねぇ、かすぎ。電気つけっ放しだよ。」
「えぇー。。。怖い。。。」
「じゃ、一緒に行こう。手繋いで行こう。」
もし、ホントに何かがいたなら確かめずにはいられない。怖くても。
それが、人でも人ならざるものでも。
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だって、このままおとなしく寝るのは怖いじゃない。と言うか、きっとこれでは二人とも怖くて眠れない。
母と子でぎゅっと手をつなぎ恐る恐る洗面所へ。
もちろん、部屋の照明はつけて明るくする。
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「どこら辺にいたの?あ…いた気がしたの?」
「あっち。」
息子が言うには、洗面所を背にして真正面の廊下。右には居間があり、左にはお風呂、突き当りは台所がある狭い廊下のところ。
「う〜ん。何もないよ。」
幸いというべきか、私には何も見えなし、何も感じられなかった。
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何もなかったことで勇気が出た私は、半開きのトイレも覗いた。
「なんもない。かずき、トイレした?まだならしたら?お母さんここにいるから。」
「分かった…。」
確かさきほどトイレに入った様子はなかったので、すすめてみた。
私がここにいれば怖くはないだろう。
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それにしても、髪が長かったって…。確かに私も髪が長いので間違えるのは分かるけど。。。私は普段、髪留めを使ってまとめている。
しかも、本当に息子の曾祖母だとしたら、私と歳が違いすぎる。
詳しくは知らないがおそらく三十路頃の私よりは20年か30年かは歳を重ねてから亡くなってるはず。
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若い時の姿でご挨拶に来たのかしら?
疑問は残るものの、考えていてはなお怖くなるだけなので、トイレから出た息子と録画番組でもかけながら気を紛らわして寝ることにした。
その後、とくに不審な物音や気配などはなく、
テレビでは海賊王になりたい少年が元気に暴れている映像が流れていた。60分のオフタイマーを付け、私たちは静かに眠った。
作者粉粧楼
7月頃の話です。ついさっき、そう言えばなんて思い出し、息子に覚えてるか聞いてみたら、「あぁ。あれね。鏡に写ってたんだよ。人の顔が。」「えええええぇ!?人の顔!?ちょっと怖いじゃん!!」「だって写ってたんだもん(苦笑い)。」
さては、息子は意外にも肝が座ってるのでしょうか?どんな顔だったとは聞けない私は小心者です。
まだ小ネタがあるので続きます。
今夜は夜から仕事で、しかも主人も夜勤で明日の朝までいません。
息子は実家に預けてるので、一人寝の夜になりそうです。怖くて夜遊びしてから帰ろうか真剣に悩んでます。