北海道に引っ越して一人暮らしを始めた頃の話。
個人的理由で東京を離れ、札幌のススキノに新居を構えました。そこはススキノの外れのホテル街のすぐ横でした。理由は安かったから(笑)
3階建てのアパートで大家さんが1階に住んでいたせいか1DKで3万5千と激安でした。部屋は和室8畳キッチン2畳、ユニットバスという作りで私は1階だった為、専用玄関がありました。
道路挟んだお向かいがホテル、同じ区画に893の事務所と素晴らしい環境でした。当時、ススキノの飲み屋に勤めていたこともあり家には朝方帰るという生活だったので気にもしていませんでした。
たまに朝方、ホテルから出てくるカップルと鉢合わせすることもありましたが…(笑)その辺は話が変わってしまうのではしょります。
北海道の冷え込みも厳しくなる2月のある日のことでした。いつものようにお客さんとアフターした帰り、朝の4時頃だったでしょうか。
ちらつく雪が細かくなる程の寒さに酔いも殆んど醒めてしまい、玄関の前で凍える指でバッグから鍵を取り出そうとして地面におとしてしまいました。
降り積もった雪の中に落ちたため、何処に落ちたのかわからず薄っすらと街灯がともす明かりを頼りにしゃがんで地面を掻き分けました。数回掻き分けたとき、指先に金属独特の冷たさを感じ拾い上げました。
その時、ふと目の端にお向かいのホテルの入口脇にある壁に何か違和感を感じ、何気なく近寄ってみると黒っぽい何か塊のようなものがありました。長さにして170cm位のモノ。
降り積もった雪で埋もれてよくわからなかったので、止せばいいのに雪を払ってみたんです…。人でした…。黒っぽいコートを着た男性でした。
顔は寝ているようでしたが唇は真紫。 恐る恐る体を揺すって声をかけても無反応。体温は冷たくてもう生きている感じはしませんでした…。
慌てて119とススキノ交番に電話しました。すっかり酔いは醒めお巡りさんが来るまで部屋で待機をしていました。到着後、発見した状況やら何やらと色々聞かれましたが
事件性もないとのことで、とりあえず後日また話を聞くかもしれないとのことで解放されました。現実味のない出来事が自分の身に降りかかると不思議なもので心配より
ワクワク感の方が強くなるんです。化粧も落とさずにPCを立ち上げチャット仲間に面白おかしく話しかけまくりました。
話は盛り上がり、気がついたら8時も回り流石に寝ないと…とPCを落としシャワーを浴びて寝ることに。疲れていたのかすぐに寝てしまったようです。
起きてから思い出して嫌な気分になったものの、生活がかかっているので仕事は休めません。準備をして玄関から出た途端、目の前には男性が横たわっていた場所が目に入ります。
なるべく気にしないよう、急いで鍵を閉め店に向かいました。その日は平日なのに異常な程の混みようで忙しさも相まって朝方の事はすっかり忘れてしまいました。
帰りは途中までママとチーママのタクシーに同乗させてもらい、心地よい酔いと疲れで自宅前の脇道に入ります。するとホテルの前に男性が1人が立っていました。
デリ○ルのお迎えかなーなんて思いながら玄関に向かいました。
「すみません…」
後ろから声をかけられ振り向くと先程の男性が道路越しに私を呼んでいました。場所はホテル街で女1人…立ちんぼと間違えられたかデリ○ルのスカウトかと思い、
「違いますから!」
と慌てて部屋に入り鍵を閉めました。念のため、チェーンもかけ内側のスライド鍵もしました。窓は道路に面していますが、鉄柵で防護されて窓を割られても中にはいれないようになっています。
ストーブをつけ、部屋が暖まるまでシャワーでも浴びようとしたとき、バンバン!!バンバン!!と窓を叩く音が響きました。さっきの男だ!!と思い息を潜め様子を伺いました。
カーテン越しに黒い影が映ります。狂ったようにバンバン!!バンバン!!バンバン!!と叩く音が響き、窓が割れるんじゃないかという恐怖が頭をよぎりました。
携帯を取りだし、震える指でお巡りさんに電話をしました。
「すいません!!昨日の雪の中で倒れた人がいると電話したさきょたです。今、変な男が窓を狂ったようにバンバン叩いてるんです!!来て貰えませんか!?」
携帯を窓に向けると音が聞こえたようで直ぐ来てくれるとのことでした。電話を切ってもまだ狂ったようにバンバン!!叩く音が続いています。
10分位たったでしょうか…。それでも窓を叩く音は止まりません。今度はチャイムの音も始まりました。ピンポンピンポンピンポン!!玄関を叩く音も始まります。
「さきょたさん!!いらっしゃいますか!?ススキノ交番のAです!!大丈夫ですか!?」
お巡りさんがチャイムと玄関を叩いていたようです。でも窓を叩く音は未だに続いています…。
「本当にススキノ交番のAさんですか!?電話で確認取らせて下さい」
「どーぞ。」
携帯を取りだし確認を取ります。
「あの、さっき電話したさきょたです。そちらにAさんという方は在籍してますか!?」
「Aが何か?!そちらに向かわせたんですがまだ到着してないですか!?」
「いえ…いらっしゃってるんですけど…音が…」
携帯を窓に向けます。
「まだ男が叩いてるんですね」
「はい…」
依然、窓を叩く音が続いています。でもお巡りさんが玄関前にいるんですよ。我が家は窓と平行に玄関があるんです。
だからお巡りさんが玄関にいるということは、横の窓で叩いてる人が見えてなきゃおかしいんです。なのに注意もせず、叩かせっぱなしって…
「とにかくAさんという方が在籍してるなら大丈夫です。ありがとうございます」
携帯を切り玄関越しにお巡りさんに確認をしました。
「あの~…窓のところ誰かいます?」
「いや、いないですね。」
いやいや…まだ叩かれてます…。部屋は暖かいのに体から血の気がどんどん引いていきます。震える指でスライド鍵を外しチェーンをした状態で玄関を開けました。
ドア越しに制服を着たお巡りさんが顔を覗かせます。途端に音がピタリと止まりました。
ふと思いだし慌ててチェーンを外し、外へ飛び出しました。
そして愕然としたのです…。窓の下は除雪した雪で山になっており誰かが立つことは出来ないんです。
もし立てたとしても窓を叩くにはしゃがむか座るかしないと無理なこと、そして雪なので必ず足跡がつくこと…。
その雪山には人が登った跡は一切なかったのです。もちろん窓の前に座った跡も…。そして窓の外には鉄柵があり、大人の腕が入る幅ではないこと、凍った窓を触った跡もなかったのです。
「どうしました?」
「いえ…何でもないです…。ただ…ちょっと怖いので今日は部屋に居たくないんです。マンガ喫茶とかに行きたいので途中まで一緒に行って貰ってもいいですか…?」
「いいですよ」
慌ててバッグとコートを持ち出し部屋を後にしました。他愛もない会話をしつつ、結局交番に近いマンガ喫茶に逃げ込みました。別れる際に「巡回するようにしますね」と言ってくれた優しいお巡りさんでした。
マンガ喫茶に逃げ込んだ後、あまりの怖さに個室でずっと震えていました…。
外から叩いているとばかり思っていた自分のバカさ加減に泣きました。そして…面白おかしく話したことにも…
きっとあれは………
外からではなく部屋の中から叩いていたのでしょう。
だって外から音はしないのに部屋の中では狂ったように音が鳴り響いていたのですから…
作者さきょた
書いてる途中でいきなり自動包丁砥が動きました…orz
箱の中に入れてるのに何で動くんだよう…(T_T)
最後の行何故か消えていたので追加。
うーん…orz