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今回の話しは、『深夜の子守唄』の後日談になりますので、先にそちらを読むことをお勧めします。
この話しは私が中学二年生の時に体験した実話です。
冬の深夜、テスト勉強中に女の人の子守唄を聞いてから約一年ぐらい経っていた頃のことです。
その日はごく普通の一日で、普段通りに学校に行き、部活をして塾に行き、家に帰ってからは塾の宿題をやってご飯を食べて寝ました。
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そしていつも通りに目覚まし時計の音で、平和に朝をむかえるはずでした。
そう、本当に普通の一日だったのです。
なのにその日の深夜、私はなんの前触れもなく目を覚ましました。
私は十代の頃はかなり眠りが深く、トイレや鼻血などアクシデントがない限り、朝まで目を覚ますことはありませんでした。
だから私は目が覚めた時に『鼻血!?』と思い、急いでティッシュをとると鼻にあてました。
数秒待ちおそるおそるティッシュを見てみると、血はついておらず鼻血はでていませんでした。
トイレもしたくありません。
珍しいなぁと思いながら再び私は寝ることにしました。
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るぅ~ラーらラ~
枕に頭をつけた瞬間、それは聞こえました。
女の人の歌声。
私はすぐさま去年聞いた謎の子守唄だと気づきました。
一年経っても忘れることのできない恐怖の旋律と独特な不気味な声。
さぁ…と体から血の気が引き、冬の空気がよりいっそう冷たく感じられました。
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私は一人でこの声を聞いているのが怖くてたまらなくて、隣のお母さんの部屋に行こうと襖に手をかけました。
ガタッ
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嘘でしょ!なんで開かないの!?
こんな時にかぎって、なにか物がひっかかっているのか横にひこうとしても襖は少しも開いてくれません。
らァーるルぅ~ら~
こうしている間にもあの歌声は聞こえているとゆうのに!
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廊下にでるしかないのかな……。
実は私の自室がある二階は部屋が三つあり、階段を上がって左から私、母、兄の順で部屋を使っています。
私と兄の部屋から母の部屋につながる襖が二つと、それぞれの部屋から廊下に出るドアが三つある家の構造になっていました。
なので襖からじゃなくても廊下に出れば母の部屋に行けるのです。
でも私は廊下に出るのは絶対に嫌でした。
なぜなら今回は声が近づいてこないかわりに、その声が聞こえてくるのは廊下からだったからです。
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ドアを開いた先に
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いる
ような気がした
襖を諦めて廊下に出てくる私を
歌声の主が待っているような気がした。
頼みの綱の襖はいっこうに開いてくれない。
らーラるぅーラ~
歌声も止む気配はない。
心臓はドクンドクンと早鐘のように打ち、襖を掴んでいる掌にはじっとりと冷や汗をかいていました。
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やっぱりここから行くしかない。
私は襖を掴む手に無我夢中で力をこめました。
お願いっお願いだから開いて!
引けども引けども相変わらずかたく閉ざされた襖。
だけど今はここしかないんだ。
開いて!
開いて!!
頼むから開いて!!!
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ガラッ
諦めずに力をこめ続けていると、願いがとどいたのか僅かにだが開きました。
三十センチくらいだけど、体を横にすればいけそうです。
私はすぐさま隙間に体をねじ込むと母の部屋に転がり込みました。
「お母さん!」
その勢いのまま母が寝ている布団まで行き起こしにかかります。
「うわっ!ど、どうしたの!?」
夜中にいきなりだし私の切羽詰まってる感がハンパなかったので、当たり前だがお母さんはすごいびっくりしながら飛び起きました。
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「女の人の歌声が聞こえるの!」
るぅ~ルーら~
母の部屋に来てからも歌声はかわらずひびいています。
私は今起きていることをそのまま伝えました。
すると母はきょとんとした顔で
「は?女の人の声?そんなの聞こえないけど……」
「え?」
私は母からかえってきた言葉が信じられませんでした。
ら~るルルラー
こうやってお母さんと会話をかわしている今も女は歌っているのに。
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「う、嘘でしょ…ほら、廊下のほう、廊下のほうから聞こえるじゃん」
「なんにも聞こえないけど…空耳じゃない?」
「そんな……」
お母さんが嘘を言っているようには見えませんでした。
女の声が聞こえるのは私だけなの?
この歌声は幻聴?
私、頭おかしくなっちゃったの?
私はさっきまでとは違う意味で怖くなってきました。
と、その時
「やっぱりお前には聞こえるよな!」
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私が声のほうに振り返ると、開いた襖から兄が身を乗り出していました。
「やっぱりってことはお兄ちゃんも聞こえるの?」
「ああ、聞こえる。女の歌う声だろ?」
そう言って立ち上がると、さり気なく母の布団に合流する兄。
「うん、そう」
「その声で目が覚めた」
私は幻聴ではないことがわかって心底ホッとする。
「え!?聞こえないの私だけなの!?」
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「どうしてお母さんだけ聞こえないの?私そっちのほうが不思議……あれ?」
会話に夢中になっていると、いつの間にか声は聞こえなくなっていました。
「もう…今は、聞こえないな…」
それは兄も同じだったらしく、その言葉に私も頷きました。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
歌声が消えた後に残ったのはなんとも後味の悪い空気でした。
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私も兄も母もしばらく無言のままでした。
もう歌は聞こえないけど、歌声はさっきまで聞こえていたのはたしかで、しかも聞こえたのは兄と私だけで母には聞こえていなくて……。
考えれば考えるほどわからなくなります。
気まずい空気を破ったのは母でした。
「きっとあれだよ。あの、酔っ払っていた女の人が外で歌っていたんだよ。幽霊とかじゃないしょ。明日も学校なんだしもう寝よ」
理由づけは無理矢理でしたが、気味の悪い現象に怯えている兄と私を元気づけようとしてくれてるのがわかりました。
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そんな母に、私も兄もちょっとだけ気持ちがほぐれました。
「そうだな寝るか」
「まあ、絶対酔っ払いではないけどね」
私と兄は自室の布団に戻り、こうして不気味な夜は終わりをつげました。
この夜以降、私はあの女の人の歌声は聞いていません。
けどあの時、未成年者だった兄と私しか聞こえなかったってことは、やっぱり歌っていたのは子守唄だったのかなぁって思います。
作者夕顔
拙い文章を最後まで読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字はどうか御容赦下さい。
今だにこの歌声は本当に謎です。
どうして兄と私だけが聞こえたのか。
聞こえる人と聞こえない人がいる怪現象っていったいなんなんでしょうね(^_^;)