《鬼ごっこ》と言う遊びを、皆さんは知っているだろうか・・・・・・等と書いてはみたが、多分知らない人は居ないだろう。
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【鬼ごっこ】
子供の遊戯の一つ。鬼になった者が他の者を追いまわし、つかまった者が次の鬼となる。
おにあそび。おにごと。
一般的な認識としてはこんな物だろう。
因みに出典は僕が持っている広辞苑。第六版の物だ。
此のオリジナルの鬼ごっこに加え、高い所に居る間は鬼に捕まらない《高鬼》、鬼が指定した色の物に触れば捕まらない《色鬼》、鬼の交代をせず、触られた者は全員が鬼となっていく《増やし鬼》等、《鬼ごっこ》のバリエーションは多岐に渡る。
地域別のルール等も沢山有る所を見ると、此の国に古くから根差した遊びなのだろう。
そして、大昔から有る遊びなのに全く廃れていないのは、其れだけ子供に根強い人気を誇っているからなのだろう。
僕は大嫌いだが。
もう一度書く。
僕 は 大 嫌 い だ が 。
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さて、弁明をしよう。
僕は別に、運動が嫌いな訳では無い。
寧ろ身体を動かすのは好きだ。
身長による影響が大きいスポーツは確かに嫌いだが、其れと此れとは、また別の話。
運動自体は好きなのだ。
警泥は得意だし、サッカーも好きだ。
然し、《鬼ごっこ》は嫌いだ。誰が何と言おうと嫌いだ。
天地がひっくり返ろうと、父の頭が禿げ散らかそうと嫌いだ。
ならば、何故《鬼ごっこ》は嫌いなのかと言うと、理由は単純だ。
僕は、《鬼が怖い》のだ。
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鬼。
人ではない異形の者。
何の理由が有る訳でも無いのに、人を祟り、殺し、喰らう者。
小さい時、僕は此の《鬼》と言う者を異常な程に恐れた。
《桃太郎》は大嫌いだった。
理不尽に人を襲う鬼が、怖かった。
しかも、悪い子供だけを標的とした《なまはげ》等と違い、襲われる人には何の非も有りはしないのだ。
其れが怖かった。
夜中に起きてると親が「早く寝ないと鬼が来るよ。」等と言って脅して来たが、子供心ながら、其れは嘘だと思っていた。
鬼は嫌な意味で平等に、誰からも、何もかもを奪って行く物なのだ。
怖くて怖くて・・・・・・其れでいて、何も対処法の無い相手。其れが鬼だった。
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で、そんな幼少期を過ごした僕は、鬼をどうにかする方法を調べる内に自然とオカルトの沼へと填まり込み、鬼が実在しないフィクションの存在であると理解した頃には時既に遅しで、立派な《根暗オカルトオタク》へと変貌を遂げていた訳で。
鬼への、ひたすらネガティブなイメージを肥大化させていた。
なので、小学五年生となった今でも鬼が怖い。超絶怖い。
ごっこ遊びだとしても、鬼に追われる等絶対に嫌だ。御免被る。
《泣いた赤鬼》の心優しい鬼達や、《うる星やつら》のラムちゃん等にもっと早く出逢えていたのなら、此の恐れも少しは和らいでいたのだろうか?
・・・・・・いや、そんな事は無いな。多分怖いままだな。
なので、僕は鬼ごっこが嫌いだ。大嫌いだ。
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「なのに、どうしてこんな事してるんだろう・・・・・・。」
僕は、公園を走り回りながら一人言ちた。
違う学校の生徒が、此れ見よがしに目の前を駆け抜けて行く。
「あ・・・っこら待て!!」
手を伸ばし、服の袖を掴む。
「あっっクソっっっ!!」
「はい、君も鬼の仲間入り。」
「やられた・・・・・・!!」
「彼処まで近付いて逃げるとか、嘗めすぎだって。」
パッと袖を離すと、彼は鬼の印として紅白帽を赤へと変えた。
「次は絶対逃げ切ってやるからな!!」
「はいはい。取り敢えず今は皆を捕まえて。」
「おう!!」
生徒はクルリと後ろを向き、やはり違う学校の男子生徒を追い掛け始めた。
「やったじゃん。」
別の男子生徒が、僕に向かって呼び掛けた。
振り向いてみる。
居たのは、Tだった。彼の頭もまた、赤い。彼は始めから鬼だった。僕の様に。
「うん。」
僕は短く答え、また追い掛ける標的を探す事にした。
そう、僕は今《鬼ごっこ》の真っ最中で・・・。
大嫌いな筈の、鬼をやっているのだ。
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事の発端は数日前まで遡る。
元々、僕は近所に有る公園付き神社で、ひっそりと日々を過ごしていた。
然し、突如現れた中学生共が神社を占拠。僕を含めた此所に居る小学生達は、遊び場を追われてしまった。
新しい遊び場を探す、流浪の旅が始まった。
そして、幾つかの候補地から選び出されたのが、此の公園だ。
まぁ、何処を遊び場にしようと、僕は友人と公園の片隅で大人しく本のページを捲っているのだろうから、正直、何処だって良かった・・・と思っていたのだが。
世の中そんなに甘くなかった。
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友人は、薄塩と言う。
怪談話が得意で、オカルトの知識量が常軌を逸していて、一緒に居ると偶に変な事が起きる。
文字にすると怪しさ倍増だが、本当なのだ。
そんな奴なので、神社の縁側で怪しげな本を読んでいる姿は、とても近寄り難いオーラを発している・・・様に見えるらしい。他の小学生から一目置かれている・・・らしい。
だが、其の近寄り難いオーラも神社を離れれば消えてしまうらしく、遊び場が変わった途端、僕達は無理矢理に遊びに強制参加させられる様になった。
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僕達を遊びに強制参加させているのは、先程僕に話し掛けて来たTである。
どうやら、僕達が寂しげに見えたらしい。
余計なお世話だ。遊びたかったら自分から交ざって行く。遊びたくないから行かないだけだ。
だが、Tはリーダー格なので、逆らう事は出来ない。
嫌な奴では無いのだ。どちらかと言うと優しい。
然し、其の優しさは基本的に空回りをするから、何の意味も持たなかったりするのだ。
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此処の公園は、滑り台と、砂場、ブランコしか遊具が無い。
しかもボール遊び禁止。
隠れられる様な所も無い。
自然と、出来る遊びが限られて来る。
・・・そう。鬼ごっこだ。
でも、僕は鬼ごっこが嫌いだ。
正確には《鬼に追い掛けられる》のが嫌いだ。
なので、僕は自分から鬼になる事を志願して、最近の日々を遣り過ごしている。
本当の所、自分が鬼になるのも嫌では有るのだが、背に腹は替えられない。
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「そっち行ったぞ!!捕まえろ!!」
Tの叫び声が聞こえる。
今日は薄塩が居ない。だからTが一緒に鬼をやっている。此れもまた彼なりの優しさなのだが、プレッシャーが半端ない。またしても空回りだ。
僕は、溜め息を一つ吐き、走り始めた。
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日はまだ高いが、帰る時間となった。
「じゃーなー」「また明日」「さよならー」「バイバイ」「またねー」
賑やかに響く声に、ぼんやりと耳を傾ける。
たった一人で帰る所を見られるのが嫌だったので、僕は皆が公園から出て行くまで待つ事にした。
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「よっ。」
声を掛けられ、振り向く。
「何時まで居るんだよ。帰るぞ。」
Tが、呆れ顔で立っていた。
「・・・・・・うん。」
断るのも感じが悪いだろうと思って頷くと、Tは
「お前其れしか言わないのな。」
と笑った。
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「お前ってどうして鬼ばっかやってんの?詰まんないじゃん。」
「うん。」
「うん、じゃなくて。」
Tは困った様に頭をボリボリと掻いた。
「無理矢理やらされてるんだったら、ちゃんと嫌だって言わなきゃ駄目何だからな。」
学校の先生や、カウンセラーの様な事を言う。
またしても気遣いが空回っている。
僕は、まさか《鬼に追い掛けられるのが怖いから》等と言う訳にもいかず、また
「うん。」
と頷いた。
Tは一つ溜め息を吐いて、笑った。
「本当、無理すんなよ。」
「分かった。でも、鬼が好きだから。」
「あ、喋った。てか、鬼が好きとか変なの。」
「うん。」
「元に戻った。」
愉快そうに笑うT。
やはり、悪い奴ではないのだろう。
僕は何だか申し訳無くなった。
「薄塩と居るのも楽しいだろうけど、交ざりたくなったら、気楽に来て良いんだからな。」
・・・・・・優しさが、変な方向へ向かってるんだよなぁ。
まぁ、リーダーとしては良い奴なんだけど。人間としては少し苦手だ。
・・・そんな事、こんな優しい奴に、言える筈も無いんだけど。
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適当な話をしながら帰る内に、どんどん日は落ちた。
其の内、真っ赤な夕焼けになった。
カァーカァー、と何処からか烏の鳴き声が聞こえる。
「うわっ、此の季節でこんなに暗いって、今何時だよ?!」
Tが焦った様に言った。
今は夏だ。僕達が帰る時間帯なら、夕焼けは御目に掛かれない筈。
「急ぐぞ!!」
「うん。」
僕達は、家路を急いだ。
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「此処・・・何処だよ。」
「迷っちゃったね。」
知らない道を通った訳でも無いのに、迷子になった。
夕焼けが目に眩しい。今が一番明るいから、此処から一気に暗くなる。
僕達は女子ではないので、誘拐等はされないと思うが・・・・・・
「此れは、少しピンチかもね。」
野良犬等の類いに出会したら、大変だ。
辺りは一面のブロック塀。逃げ道は無い。
Tは不安を隠せないみたいだ。ずっと、
「どうしよう、どうしよう、」
と呟いている。
Tは臆病なのだ。
「取り敢えず、来た道を戻ろう。最悪、誰かの家で現在地を知ろう。」
「お、おお。」
僕達はクルリと踵を返した。
返した・・・・・・其処には
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《影》が居た。
黒くて、ユラユラとしている。
地面にべっとりと伸び、張り付いている。
道の上には、誰も居ない。
影だけが、黒々として道にへばり付いていた。
ヒュウ、と喉の奥で音が鳴る。
此れに触ってはいけない。何故だかは分からないが、確かに解る。
此れに触っては、此れに近付いては、いけない。
「・・・・・・おい、どうしたんだよ。」
Tが不思議そうな顔をして聞いて来た。影が見えていないらしい。
「早く行こうぜ。」
影の方へ、歩き出そうとする。
手招きでもしている様に、ゆらゆらと揺れている影の方へ・・・・・・。
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Tの腕を掴み、走り出した。
「お、おい!!何すんだよ!!」
「此の道、知ってるんだ。」
適当な嘘を吐き、影とは反対の方向へと走る。
真っ直ぐな道だ。逃げ場は無いのだ。
ならば・・・・・・走るしかない。
ずっとずっと、先に、十字路が見える。
彼処まで、彼処まで行けば、逃げ道もぐんと広がる筈だ。
そしたら、取り敢えず、何処かの家を訪ねて、電話を借りよう。
「何でそんなに急いでんだよ?!」
「此れからどんどん暗くなるんだよ!!急がなきゃ駄目なんだよ!!」
暗くなったら、影が闇に紛れてしまう。
影が闇にもしまったら・・・・・・
逃げられない。
背中を、冷たい汗が伝った。
走りながら後ろを振り向く。
影は、ユラユラと僕達を追い掛けていた。
僕達よりずっと遅いのに、引き離したと思っていたのに、さっきより近くに居た。
「・・・・・・っっ!!!」
辛うじて悲鳴を我慢出来た。
「ほら、急ごう!!」
Tはとても変な顔をして、僕の方を見ていた。
当たり前だ。Tには、あの影が見えていないのだから。
いっそ、手を離してしまえば良いのかも知れない。
然し、そんなのは嫌だ。見捨てるのは、嫌だ。
僕は大きく息を吸い、更に足を速めた。
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息が苦しい。ペース配分を考えずに走ったからだ。
影は、幾ら走っても幾ら走っても、直ぐに追い付いて来る。
十字路は未だ遠い。
Tも息が荒くなって来ている。
どうしよう、此れでは・・・・・・。
嗚呼、怖い。怖くて堪らない。
どうして僕達なのだろうか。僕達が何をしたのだろうか。怖い、怖い、怖い。
理不尽で、何処までも平等で、誰からも、何もかもを奪って行く・・・・・・
僕は、後ろに居るモノの正体が分かった様な気がして、発狂してしまいそうな恐怖に襲われた。
早く、早く、あの十字路に行かなければ。
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十字路まではもう直ぐだ。
然し、影は、僕の直ぐ後ろまで来ていた。
体力も、殆ど残っていなかった。
「ごめん・・・・・・。」
Tに向かって呟いた。
「え、どうして謝るんだよ。」
もう、助からない。
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「何やってんの?」
前の方向から、気の抜けた様な声が聞こえた。
薄塩が、十字路の右側から、ひょいと首を出していた。
僕の後ろを見て、フン、と鼻を鳴らす。
「成る程な。」
僕達の方に駆け寄り、
「もう少し頑張れるか?」
と聞いた。
「・・・・・・頑張れる。」
僕が頷くと、薄塩は僕の腕を掴み、引き摺りながら走り出した。
Tは、目を白黒させていた。
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十字路にを右へ曲がると、何時もの神社の前の道だった。安心して、僕はTの腕から手を離した。
「あ、此処からなら道分かるわ。」
Tが神社の前を通り過ぎようとする。
「まぁ待てよ。」
薄塩がTの着ていた服の端を掴んだ。
「ちょっと見て欲しい物が有るんだって。」
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神社の、御堂の中。
其所に、僕とTは連れられた。
「ほら、此れ見てみろよ。凄いだろ?」
薄塩の《見て欲しい物》とは、大きなクワガタムシだった。
「捕まえたんだ。」
「すっげえ!!ミヤマじゃん!!」
「Tにやるよ。姉貴が《虫は飼うな》って五月蝿くてさ。」
「え!!マジで!!マジでくれんの?!」
「おお。可愛がってやってくれ。」
「うわぁぁ!!ありがとな!!!」
Tのテンションがだだ上がりだ。
薄塩はヒラヒラと手を振った。
「おお。じゃあな。また明日。」
「じゃあな!!」
勢い良く御堂の扉を開け放ち、Tが帰って行く。
「良いのか?」
「もう大丈夫だろ。多分な。」
薄塩が大丈夫と言うなら大丈夫な気がして、僕は
「うん。」
と頷いた。
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御堂から出ると、空が曇っていて、地面が濡れていた。
まるで、夕立が通り過ぎた後の様だった。
「帰るか。」
「うん。帰ろう。」
何時もと何も変わらない道を歩き、帰る。
歩いていると、薄塩が《おつまみ煮干し》をくれた。
「ありがとう。」
「ミヤマ、Tにやっちゃったからな。」
どうやら、僕にくれる積もりだったらしい。
少しだけ残念だ。
然し、助けて貰った上でそう思うのは、図々しい気がしたので、慌てて話を変えた。
「お菓子、ポテチじゃないんだな。珍しい。」
「ん?まぁな。」
薄塩は適当な返事をして、少しだけ笑った。
「クワガタ、今度は一緒に捕りに行こうな。」
「うん。」
曇った空。影は見えなかった。
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もう直ぐで僕の家だ。薄塩は、どうやら家まで送ってくれるらしい。
薄塩は僕の方を向き、立ち止まった。
「お前、《鬼ごっこ》で鬼ばっかりやってるだろ。逃げるの下手過ぎだって。」
「うん・・・・・・。」
パシッと頭を叩かれた。
「ちゃんと逃げる方もやれよ。何の為の《練習》か分からないだろ。」
「練習?」
家に着いた。
「じゃあな。」
「さようなら。」
薄塩が元来た道を戻って行く。
玄関に入ろうとすると、薄塩の声が聞こえた。
「明日からは、ちゃんと逃げる方やれよ。でないと・・・・・・」
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さっきみたいな本番で、捕まるからな。
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次の日から僕は、《鬼ごっこ》の逃げる方もやるようになった。
Tは何やら得意気にしている。僕が正直になったのだと思っているらしい。
偽物と分かっていても、相変わらず鬼は怖い。
追い掛けられたくない。
《鬼ごっこ》は嫌いだ。出来れば御免被りたい。
でも・・・・・・
「捕まって《鬼》になるのは、もっと御免だ」
作者紺野-2
どうも。紺野です。
今年も此の季節がやって来ましたね。
クリスマスなんて!!!!
消えてしまえ!!!!
さて、シリーズの方が遅くなってしまい、申し訳御座いません。話が長いのです。切れ目が無いのです。のり姉達が五月蝿いのです。のり姉が酷いのです。正に鬼。正に悪魔。
ですが、成るべく早く書きます。頑張ります。見捨てないで頂けると嬉しいです。
次回のオリジナルタグの方は、久し振りに高校生時代に戻ります。
宜しければ、お付き合いください。