大学三年生の林君(仮名)の話。
冬休みのこと。林君は地元の友達数人と、心霊スポットに遊びに行こうと計画を立てていた。それも、あまり名の知れた有名な場所ではなく、あまり知られていないけれど、掘り出し物の心霊スポットがいいねと仲間内で話し合っていた。
有名な場所だと、何だか二番煎じな気がしたからだ。それにネットでもこの場所はああだった、こんな感じだったと情報が溢れており、行かなくても行ったような気分にさえなってしまう。なので、出来るだけ人が行ったことがない心霊スポットをネットで探した。
すると、パソコンを操作していた友人が興奮気味に言った。
「ここなんかいいんじゃないか」
そこは某県にある廃業ホテルだった。経営不振とオーナーの自殺など、様々な要因が重なり、去年の夏頃潰れたらしい。
まだホテルは取り壊されておらず、人の手にも渡らず、そのまま放置されているという。ネットにはそれくらいの情報しかなかったが、林君達にしてみれば、その方が好都合だった。自分達で新たな伝説を作ろうと意気込んだくらいだ。
林君達は意気揚々とそのホテルへと向かった。ホテルまでは唯一運転免許と車を持っている友人が運転してくれた。ちょっとした小旅行にでも出掛けるような、そんな軽い気持ちだった。
……だが。
ホテルに着いて早々、林君は衝撃的なものを目にしてしまう。
それは入り口と思しき玄関先の扉に貼られた一枚の紙から始まった。真っ赤な汚らしい歪な文字で「出口」と書かれてある。
林君はぷっと吹き出した。
「何だよ、出口って。どう見てもここは入り口だろ」
仲間もそれに同意し、皆でゲラゲラと笑った。そして扉を開け、いよいよホテル内を隈無く散策しようとしたがーーー
「………、」
先頭で入った林君は、一歩足を踏み入れて立ち止まった。ピシャン、と水溜まりを踏んだ時のような音が足元でする。ホテル内は薄暗かったが、目が慣れてくると中の様子が見えてきた。
林君の数センチ前で、ブラブラと何かが目の前で揺れている。それと同時に鼻がもげるような凄まじい腐敗臭がして、思わず鼻と口元を手で塞いだ。
林君の目の前でブラブラ揺れているものーーーそれは肉が朽ちた首吊り死体だった。よく見れば、至る所で同じように首吊り死体がブラブラと揺れている。
林君は顔を歪めて、そろそろと自分の足元を見た。どうやら、首を吊って亡くなった人の排泄物を踏んでいたらしい。
ご存知かもしれないが、首を吊って自殺を図った場合、腸や膀胱に溜まっている排泄物が漏れるケースがある。因みに私(まめのすけ。)も友人から「もし首吊るんなら、トイレを済ましておいたほうがいいよ」と笑顔で言われ、固まった記憶がある。
林君の後ろにいた仲間も彼の異変に気付き、足を止めた。林君の背中越しに見える光景と、腐敗臭。それだけあればもう充分だ。限界だ。
ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!
誰が叫んだのかは覚えていない。無我夢中で踵を返し、這い蹲るようにしながら車に辿り着き、そのままホテルを後にした。
……そう。確かにあの扉は貼り紙にあるように出口だったのだ。
この世からの。
作者まめのすけ。-2