ある男が金に困り、詐欺を働くことにした。未だに世間を騒がせている卑劣な行為、オレオレ詐欺である。
男は公衆電話から適当な番号に電話した。数回のコール音のあと、年配の女が「はい」と言って電話に出た。
しめた。男はほくそ笑んだ。
「もしもし、母さん?俺だけど」
不自然さを感じさせないよう、あえて気楽な口調で話し出す。しかし、電話の相手である年配の女性はぐっと言葉に詰まり、何も言わなかった。
……ヤバイ。こりゃあ、バレたかな。
男は肩を竦め、電話を切ろうとした。すると、年配の女性は涙声でこう呟いた。
「……息子は去年亡くなりました。あなたの声、亡くなった息子にそっくりなんです。どうかもう一度、お母さんと呼んで頂けますか?」
男は数秒黙った後、「お母さん」とだけ言って電話を切った。
作者まめのすけ。-2