凝りも懲りなくまめのすけ。です。肩は凝ります。
引き続き、とある筋から入手した話を掲載したいと思います。どうか引き続きお付き合い下されば幸いです。
※下記の文章に登場する人物は全て仮名です。
これは……二十年近く前の話なのですが。とあるアパートに住んでいる宮原さん夫婦の妻、明美さんが美枝子という女性にナイフでメッタ刺しにされ、亡くなるという何とも痛ましい事件が起きました。
明美さんの夫である高道さんが会社から帰宅すると、既にアパート内は血の海。中には事切れた明美さんと、毒を飲んで倒れている美枝子を発見し、すぐさま警察に通報。美枝子は救急車で病院に搬送されました。
美枝子の物であるとされた鞄が室内に転がっており、その中から何とも薄気味悪い一枚の絵が見つかりました。薄暗く沈む山を背景に、中央に右腕のもがれたフランス人形、向かって左に紫色の蝶、向かって右に赤い砂が流れる砂時計、人形の手前にナイフの絵が描かれてありました。
これは所謂「西洋版丑の刻参り」です。丑の刻参りといえば、午前二時、白装束に身を包み、首に鏡を下げ、顔を赤く染め、神社に出向きます。そして憎い相手に見立てた藁人形に五寸釘を打ち付け、七日七晩呪うのですが……これは日本版。
西洋版では、美枝子が持っていた絵が言わば藁人形の代わりなのです。右腕のもがれたフランス人形を憎い相手に見立て、千枚通しでぶすりと刺して呪うのが西洋版。
どうやら美枝子は、明美さんを呪っていたらしいんですね。そして呪うだけでは飽き足らず、明美さんを刺殺してしまった。
何故、美枝子はそんな恐ろしい凶行に出たのか。それにはドロリとした男女間のもつれがあったのでした。
元々、高道さん、明美さん、そして美枝子は同じ会社に勤めていました。美枝子は仕事をする傍ら、児童養護施設を回り、ボランティアを行う優しい人柄でした。
そんな彼女が奇行を始めたのは、高道さんと明美さんの社内婚約が発表されてからでした。
明美さんのデスクに「結婚は許さない。ウラム」と書いたメモを何度も起き、上司からも注意を受けましたが止めることはありませんでした。ついには「結婚するなら赤い砂時計に殺人ナイフ!」と書いた手紙を明美さんに送りつけたのです。
しかし、高道さんと明美さんは結婚。結婚して一ヶ月が経つか経たないかの内に、今回の事件は起きたのでした。
高道さんや会社の社員から聞いた証言によると、美枝子の一方的な思い込みだったようです。高道さんは美枝子と関係を持ったことはなく、あくまで同じ会社に勤める社員として接していただけでした。
美枝子は一命を取り留めましたが、未だに昏睡状態が続いており、時たま譫言のように呟くのだとか。
「嗚呼、怖い!フランス人形が追い掛けてくる!赤い砂時計!殺人ナイフが飛んでくる……!」
人を呪わば穴二つ。彼女は今、身をもってそれを体験しているのです。
作者まめのすけ。-2