music:2
私は、気づけば出せる涙を全て出しきってしまったのか、ただ呆然と1Fのエレベーターの前に座り込んでいました。
(ヒロキさん....。)
あの時ヒロキさんの引き止めに応じていれば、こんなことにならずに済んだのだろうか。
それとも、もっとヒロキさんを説得して、二人で確認にいけば違う結果になったのだろうか。。
「現実はいつだって残酷なものだ。」
何かのテレビで聞いたことのある言葉。
本当にその通りだ。
一緒にこの地獄を耐えてきたのに。
ヒロキさんがあんまりじゃないか....!
それでも、私にはまだやることがありました。
落ち込む時間も、諦めることすらも私には出来なかったのです。
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(ヒロキさんの生死は確認したわけじゃない。
まだ...まだ分からないかもしれない.....。
あのヒロキさんのことじゃないか。
もしかしたら、奇跡があるかもしれないだろ!)
私は絶望感に溢れた頭の中で、必死に希望を見出そうと考えました。
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(これから先、ヒロキさんの助言も励ましも無しで、3人が無事にここを脱出する方法はなんだ!?
どうすれば助かる!??)
相変わらず、邪念と闇が支配する病院内部。
そして手元には頼りないペンライトが、ノブの分を合わせて二つ。
携帯は電池はあるが、圏外だ。
私は必死に考え、行動に移しました。
なるべく周りが見やすいようペンライトを二つ付け、恐らくノブがいるであろう「霊安室」へ走り出しました。
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music:3
バンッ!!
手術室の扉を蹴り開け、私は一目散に霊安室へ走りました。
手術台に置かれた無残な「女」の遺体。
そこから放たれる腐臭は、手術室奥の階段を降りていっても、一向に薄まることはありませんでした。
階段を降りると、左右に別れた通路へ出ました。
未だ消えない腐臭。
どれだけ嗅いでも慣れることはなく、私は終始吐き気を抑えました。
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sound:18
私は通路の右の方から、砂煙が上がっていることに気づきました。
恐らく、ヒロキさんが落ちたであろうエレベーターがあるのだろう。
しかし、今丸腰の私が行ったとしても、壊れたエレベーターの瓦礫からヒロキさんを救い出すのは至難の技だ。
もし救えたとしても、相当な時間を要するに違いない。
ノブを救いだし、脱出した後で助けを呼ぶ方が助かる可能性が高いと判断した私は、込み上げる思いを抑え、エレベーターに背を向けたのでした。
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私は、左の通路へ進みました。
一切の光を通さない地下の通路は、地上の闇よりも一層深く、重い。
ペンライトで慎重に足元を照らしながらL字に通路を曲がると、正面にとうとうその部屋が現れたのです。
黒い文字ではっきりと書かれた
「霊安室」の文字。
文字とは不思議なものです。
状況次第で、ただの文字がこんなにも恐ろしく見えるものなのでしょうか。
(ここか....。
ここに、ノブは本当にいるのか?)
不安でした。
もし、いなかったとしたら....?
これ以上、他に探すところなんて検討もつきませんでした。
しかし、その答えは目の前にあるのです。
私は一度ギュッと目を閉じ、震える手を思い切り握りしめ、「霊安室」へと足を踏み入れるのでした。。
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music:2
「霊安室」と聞いて、私は棺桶がいくつも横穴式に並ぶような所をイメージしていました。
ところが、そこにあったのはコンクリートの壁に包まれた一つの広い空間。
暗い空間を照らす一筋のペンライトの光に、歩く私が舞いあげた埃が絡みついている。
それが、視界をより一層遮りました。
(ノブ....どこにいるんだ。。
頼むからいてくれ...!)
目を細め、辺りをくまなくライトで当てていきました。
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sound:18
その時でした。
空間の左隅に、見覚えるのある服を来た一人の男が倒れていたのです。
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shake
「ノブっ!!!!」
そこに倒れていたのは、紛れもないノブの姿でした。
グッタリと倒れていたノブを抱きかかえると、私は目を覆いたくなるほどの衝撃を受けました。
(ノブ....目が....。)
ここへ来るまでは、確かにそこにあった筈のノブの眼球は、両目とも切除されていたのです。
(やっぱり...あの手術室の眼球はノブのものだったのか。)
そして、その眼球から流れ出した血は頬をつたい、それはまるで血の涙を流したように見えました。
更に、恐らく身体を操られて自ら眼球を切除したのだろう。
手にはべっとりと血の付いたメスが握られているのでした。。
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「ひ、ひどい....ふざけんなよっっ!!」
私はここへノブを連れてきた自分への怒り、後悔、そして気を失っているノブの気持ちを思うと、叫ばずにはいられませんでした。
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「ノブ....本当にすまない。.」
私はノブを肩に抱えました。
そして来た道を戻ろうと、霊安室の入口に顔を向けたその時でした。
shake
「!!!!」
入口のすぐ左側、壁に寄るかかるようにして、横たわる一体の白骨化した人間の遺体。
私は、すぐにそれが誰のものか分かりました。
「茂木....道夫.....。」
この病院の創設者にして、このおぞましい怨念を生み出した原点であり、そしてあの生贄記録を書いた茂木道夫の遺体が、そこにあったのです。
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(やはり...殺されていたのか。)
腐敗して溶けた身体は骨だけを残し、冷たく支えるコンクリートの壁に染みとなって残っていたのでした。。
私はライトの先を入口へ戻そうと、ペンライトを動かした瞬間でした。
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shake
「.....っ!!!?」
壁に寄りかかる白骨化した茂木の遺体のすぐ横に、あの青白い「女」が佇んでいたのです。
女はそのおぞましい顔でこちらを向き、そしてニタァと微笑みました。
ごくっ...
私は、そのおぞましい姿の「女」としばし向き合いましたが、ノブとヒロキさんの時間が限られていたこともあり、入口へ再び向かおうとしました。
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shake
(身体が...動かない!!)
私は金縛りにあっていたのです。
震える手で持っていたペンライトは硬直したまま、「女」を照らし続けました。
すー....
女は、滑るようにゆっくりとこちらへ向かってきました。
目の無い顔はじっとこちらを向き、口はずっと微笑んだまま....。
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女が目の前まで来たとき、私は思い切りギュッと目を閉じました。
というより、見ていることが耐えられなかったのです。
(来るな来るな来るな...!)
心の中で何度も私は叫びました。
しかしその願いとは裏腹に、目を閉じていても分かる女の凶悪な霊気による気配。
それは徐々に近づき、ついに私の顔のすぐ目の前まで来ました。
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フッ.....
女が私の顔へ触れる瞬間、ソレの気配がスッと消えたのです。
それと同時に私にかかっていた金縛りがとけ、再び感じるノブの重さに足がふらつきました。
(...助かっ...たのか?)
「早く...行かなくちゃ。」
私はノブを背中に背負い、元来た通路を戻りました。
階段へ差し掛かり、ヒロキさんがいると思われるエレベーターの方を見ました。
(必ず、生きていて下さい...。)
心の中でそう願い、私は階段を登って行くのでした。。
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music:4
手術室を抜け1Fフロアへ出てくると、私は真っ先に正面の玄関へ向かった。
手術室への通路から、恐らく一番近い出口がそこだったからだ。
ガチャ....
(開いた...!)
心のどこかで、全ての出口が「女」によって封鎖されているのではないかと正直不安ではありましたが、扉は難なく無事に開きました。
そして、長かった地獄の病院を抜け、とうとう私は外へ出たのでした。。
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「やっと...やっと出てこられた....!」
ふと気配を感じ病院の中を見ると、1Fのフロアから「女」がこちらをじっ...と見ていました。
(どうして...俺は無事だったんだろうか。。)
引っかかる疑問を心にしまい、急いで私は携帯を取り出しました。
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(良かった...電波が通ってる...!)
外はかろうじて一本の電波が届いており、私はそのまま警察へ助けを求めました。
そして携帯を切った途端に、私はその場で意識を失ったのでした。。。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、「廃病院-生贄の記録-」
の続編となります。
ご期待に添えるかどうかは分かりませんが、どうぞ宜しくお願いします。
ご感想やご指摘など、お気軽に言ってください^_^