music:2
コッ....
コッ....
B1Fにあると思われる「霊安室」へ繋がる階段は、全面コンクリート製の冷たい空間でした。
一歩降りる度に重くなる空気。
(....まるで、そのまま死へ直結しているみたいだ。
生きてる心地がまるでしない。)
階段を半分ほど降りた時でしょうか。
ガッ..コン....
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shake
「!!!!」
先程までいた手術室の、更に奥。
1Fフロアから物音が聞こえたのです。
(まさか....。)
「ノブっ!!!」
私が振り返り、来た道を戻ろうとした途端、ヒロキさんがその道を塞ぎました。
「やめとけっ!!
罠かもしんねーだろうが!!」
私は一旦躊躇しましたが、それでも私はヒロキさんを振り切りました。
「ノブの....ノブのような気がするんです!!
確認だけしてくるんで、ヒロキさんは待っててください!!!」
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バンッ!!!
手術室の観音扉を開け、暗い通路をライトで照らしながら走って1Fフロアへ出ました。
しかし、そこにはノブの姿も無ければ、エレベーターも誰かが乗った形跡はなく、1Fで止まったままでした。
(気の....せい?)
いや、確かにあの時私には、エレベーターが開いたであろう音が聞こえていたのです。
辺りをライトで照らし、周りをくまなく探しました。
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その時でした。
sound:18
「うわぁ!」
私は思わず叫びました。
1Fフロアの廊下に、あの青白い「女」が立っていたのです。
ソレはまるで私をどこかへ誘導するように、廊下の奥へと消えていきました。
「来い....ってことか。」
私は、今思えばこの時のことをとても不思議に感じています。
普段なら、そんな霊が消えていった先など行くわけがありませんでした。
それでも、どうしてかその時は着いていってしまったのです。
それが、その「女」の霊気によるものなのか、自分だけに見えた幻覚なのか。
定かではありませんでしたが、私は後を追うことにしたのです。
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music:3
「女」は、私達が一番最初に入った病室へ消えていきました。
(あそこに何があると言うのだろうか...。)
私は一人、原点である最初の病室へ入りました。
そこには、入ってきた時と同様の風景が広がるのみで、何かがある様子がないのです。
「罠...なのか?」
そこで一気に焦りと恐怖が込み上げて、私は一目散にヒロキさんの元へ戻ろうとした時でした。
(違う...まだ、あるじゃないか!)
私は、一つここで確認していないことがあることに気がつきました。
それは、私達が一番最初に廊下へ出た際に聞こえた何かの落下音。
その正体をまだ確認していなかったのです。
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私は室内をライトで照らしながら探しました。
(何かが落ちているはすだ。
手がかりになる、何かがきっと....。)
sound:18
私の目に、それは躊躇なく入りました。
そう、それは一番最初にこの部屋を見た際に気になったあの「茶色いタオル」。
私は恐る恐るそのタオルを拾いあげました。
そこには、一冊の本のようなものが落ちていたのです。
「.....生贄...記録....?」
確かにそう書かれた本。
そして、私はその中身を読んでいきました。
*************
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music:4
2008年5月14日(水)
妻が亡くなり一年が過ぎた頃、途方に暮れていた私を、ある男が訪ねてきた。
その男は、三神(みかみ)と名乗っていた。
三神は、自分は死んだものを蘇らせる方法を知り、蘇生神会という団体を作った。
貴方の奥様が亡くなったことを聞き、ぜひ協力させてほしい。と言ってきた。
胡散臭い話だったが、妻が亡くなったショックで生きる目的の無かった私は、三神の話を聞くことにした。
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2008年5月20日(火)
改めて訪れた三神は、代わりに私の経営していた病院を使わせてほしいと言ってきた。
妻が亡くなり、一年以上も放置していた病院だがそれでもいいのか?と聞くと、三神はニッコリと二つ返事で了承した。
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2008年5月21日(水)
私は三神の指示通り、病院の手術室を隠す作業を行った。
非合法なので、もし誰かに見つかるとまずいと三神は言っていた。
どこぞの映画で見たトリックだったが、これが一番コストがかからず分かりにくいだろうと思い、絵画で隠すという手法を行った。
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2008年5月30日(金)
手術室の隠蔽作業が終わると同時に、三神が一人の男を連れてきた。
男は松尾(まつお)という名前で、非常にガタイのいい男だった。
松尾も、蘇生神会の一人だと言っていた。
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2008年6月5日(木)
松尾が、一人の女を連れてきた。
女は両手両足を縛られ、目も口も塞がれていた。
私が、三神にどういうことかと訪ねると、蘇生には生贄が必要だと言った。
初めは冗談ではないと言ったが、奥様を蘇生させて、また楽しい日常を過ごしたくはないのですか?という言葉に、返す言葉が見つからなかった。
私は間違っているのだろうか?
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2008年6月6日(金)
私は女と対面した。
ひどくやつれた様子で、私の質問には一切答えなかった。
精神安定剤を投与し、私は彼女に対しての後ろめたさからなのか、病院で一番景色の良かった308号室へ案内した。
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2008年6月7日(土)
三神が、女の素性を言ってきた。
何も答えなかった彼女がよく話したなと言ったが、三神はニッコリするだけだった。
女は渡部 美佳(24)、埼玉県出身、A型。
旦那からの虐待による鬱で、樹海へ自殺しようと入ったところを三神らに拉致されたようだ。
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2008年6月8日(日)
私は女のいる308号室へ足を運んだ。
女の身体中には生々しい傷があり、ひどく怯えたように部屋の隅で震えていた。
自殺しないよう、相変わらず手足を縛られ、口には拘束具を付けられていた。
女は、私のことを終始睨んでいた。
その目が忘れられない。
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2008年6月15日(日)
女が3日ほど前から食事を口にしない。
私は食事を与えようとするが、女は私を睨みつけるだけで一切口にはしなかった。
あの女の目が恐ろしい。
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2008年6月16日(月)
私は、女を手術室へ運んだ。
目と舌を切除するためだ。
舌はもちろん自殺しないようにするためだが、目は私の意向だった。
三神に問題ないかと訪ねると、相変わらず三神はニッコリと笑って大丈夫と答えた。
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2008年6月18日(水)
目と舌のない女が徐々に衰弱し始めた。
私は、三神に蘇生はまだかと訪ねたが、まだ色々と準備がいると言っていた。
本当に蘇生など出来るのだろうか....
しかし、女のあの目を取り除いてからというもの、夜がよく眠れるようになった。
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2008年6月25日(水)
女の身体が、徐々に骨のようになっていく。
それなのに、相変わらず食事を取ろうとしない。
私がこのままだとすぐに死ぬぞと警告したが、女は目のない顔でニッコリと微笑んだ。
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2008年7月5日(土)
今朝、女は自らベッドの端に頭を強く打ち付けて死亡していた。
身体は、驚くほど軽く、私は彼女を手術室に運んだ。
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2008年7月6日(日)
信じられないことが起きた。
三神が、病院の3Fで死亡していたのだ。
私はすぐさま原因を調べてみたが、恐らく何かしらのショックによる心筋梗塞のようだった。
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2008年7月7日(月)
今度は松尾がエレベーターの中で死亡しているのを発見した。
私は急いで蘇生神会を調べたが、一切の情報を得ることは出来なかった。
結局、蘇生はできず、死体が3体集まっただけになってしまった。
そういえば、女の遺体を放置したままだ。
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2008年7月8日(火)
今朝、病院へ行くと、青白い女が何度か現れた。
三神と松尾も、彼女の仕業なのだろうか...
次は私の番なのかもしれない。
私は、明日もう一度病院に行き、真相を確かめることにした。
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music:2
記録はそこで終わっていた。
裏を見ると、
「茂木外科病院 茂木 道夫」と書かれていた。
恐らく、この病院の名前と設立者なのだろう。
次のページをめくろうとしてみましたが、茶色い汁のようなものでくっついてしまっていて、見ることが出来なかったのです。
私は震えました。
そして、この女の処遇に同情しました。
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容易に想像できる女の恨み。
それが霊体となり三神達を殺したとしても、何ら不思議はない。
それほどまでに、この女の恨みが強いことを理解したのです。
それゆえに、私はノブが今どれほど危険なのかを再認識しました。
(これはかなり....ヤバイな。)
一気に押し寄せる焦りと不安。
ノブを巻き込んだのは私なのです。
自分に課せられた責任は、どんなことよりも優先しなければなりませんでした。
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(ノブだけは必ず助ける。
.....必ずだ。)
私は本をその場に置き、ヒロキさんの元へ戻ろうと廊下へ出ました。
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shake
「!!!!??」
廊下の奥、エレベーター付近に誰かがいる。
少し近づいてライトで照らすと、それはヒロキさんでした。
....が、何やら様子が変だ。
肩をガックリ落とし、顔を下に向けたままフラフラとしている。
ヒロキさんはおもむろにエレベーターのスイッチを押し、エレベーターへ入ろうとしているのです。
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「ヒロキさん!!!
どこに行くんですか!!!!」
私は引き止めるためにエレベーターへ向かおうとするものの、廊下の足場の悪さと焦りでなかなか進めません。
ヒロキさんは私の声に少し反応しこちらを見ましたが、虚ろな目をしたまま、何かに操られているかのようにフラフラとエレベーターに乗っていくのでした。
(....マズイ。)
エレベーターまで後5mという所で、無情にも閉まる分厚い扉。
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shake
ドンッ!
shake
ドンドンドンッ!!
「ヒロキさん!!!
ヒロキさん!!!!!!」
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必死に扉を叩き、名前を呼んでも反応は無し。
すると、やがてエレベーターは上へ昇っていったのです。
1F.....
2F.....
徐々に上昇するエレベーターの階数表示。
絶望感による鼓動が、破裂するかと思うほどに早くなっていきます。
3F....
3Fへ到着したその時でした。
ふっ....
shake
「!!!!!!!!」
エレベーターの電気が消えたのです。
淡く光っていた橙色のボタンも、現在階数を示していた光も。
そして、
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shake
グォオオオオオオオ!!!!
ものすごい音をたてながら、上から落下するエレベーター。
1Fにまで伝わる振動。
そして、音が自分の目の前まで達していく瞬間、時間がまるで走馬灯のように遅くなりました。
「ヒロキ....さん....。」
shake
ズガァァアァアアァァン!!!!
B1Fで、けたたましい音と地響きが病院内へ響きました。
それは同時に、ヒロキさんとの別れの瞬間でもあったのでした。
「あ.....ぁ....。」
私は、しばらくその現実を受け入れられず、その場に立ち尽くしました。
口を閉ざすことを忘れたまま、ただひたすらと。。
そして時間の経過と共に、私はそのまま床へ泣き崩れたのでした。。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「廃病院-手術室-」
の続編となります。
たくさんの方に読んでいただき、本当に恐縮であるとともに、非常に嬉しく思っております。
今回も、皆様のご期待に添えることができるか分かりませんが、どうぞ一読していただけると幸いです。
よろしくお願い致します。