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中編7
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笑う何かと曾祖母

正月は母方の祖母と過ごすのが、我が家では慣例となっている。大晦日に、両親と共に祖母の家に向かい、両親は二日、僕は四日まで過ごすのだ。

序でに書いて置くと、父方の祖母とは絶縁しているので挨拶には行かない。

「弟か妹なら、妹をよろしく。」

二日の正午、例年通り、そう言って両親を送り出した。

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~~~

祖母は、叔母夫婦、そして曾祖母と同居している。今は、帰省中の従兄弟も一緒だ。

家は二階建てで、僕の住んでいる家より、ずっと部屋が多い。

僕には二階の一室が宛がわれていて、窓からは直ぐ近くの山が見える。まぁ、山が見えるのは窓からだけでは無いが。

家自体がグルリと山に囲まれている。此の家だけではない。此の地域の殆どが山に埋もれているのだ。

店らしき店も、殆ど無い。

近くの自動販売機に行くのに車を出すレベルの田舎。其れが祖母達の住んでいる町だ。

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~~~

三日の朝、祖母と叔母達が、近くの市に遊びに行くのだと言った。

デパートで福袋を買うらしい。

僕は付いて行かなかった。

曾祖母を独りにしておくのが心配・・・・・・と言う名目だったが、本当の所、人混みが苦手なだけなのだ。

持って来た本を読みながら、僕はぼんやりと床に寝そべった。

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~~~

何時の間にか眠っていたらしい。

誰かの笑い声で目が覚めた。

見ると、辺りは薄暗い。

今が何時かは分からないが、昼を疾うに過ぎているのは確かだろう。

「・・・・・・あ。」

曾祖母に昼食を運ぶのを、すっかり忘れていた。

きっと、曾祖母の事だから、何かしら食べたとは思うが・・・・・・。

背伸びをしながら、寝返りを打つ。

布団を敷かずに寝てしまったので、首が酷く痛かった。

笑い声は未だ続いている。

「・・・・・・誰の。」

此処は自宅では無い。山に囲まれた祖母の家なのだ。

寝転んだまま、耳を澄ませる。

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「わはははは、わはははは。」

一文字ずつ区切る様な笑い声だ。声は太く、どうやら男の物らしい。

アニマル○口に似ている、と思った。

「わはははは、わはは、わはははは。」

誰かと話をしている訳でも無い様だ。ひたすらに笑い続けている。

「わはは、わは、わはははははは。」

酔っ払いか何かだろうか。

僕は起き上がり、窓を覗いた。

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~~~

山道に等間隔で設置されている街灯。其れに、照らされている白い《何か》が見えた。

寝起きで視界がボンヤリしているので、細かい所は良く分からない。

目を擦り、もう一度窓の外を見る。

見えたのはやはり、白い《何か》だった。

「何・・・・・・?」

大きさは、丁度人間位の大きさだろう。然し、其の見た目は人間とは程遠い。

全身が白く、部分的に膨張と収縮を繰り返しながら、揺れている。

風を孕んだビニール袋の様にも見えたが、頭らしき出っ張りと四肢が有る。

どうやら生き物らしい。

二足歩行に似た動きで、ゆっくりと山道を下っていた。

顔は、目鼻処か笑い声を出すのに必要な口も無く、のっぺりとしている。

明らかに人間ではない。

然し、動物にも見えない。あんなブヨブヨと頼り無い身体では、山では到底生き残れないだろう。

暗い中に浮かび上がる様な白は、其の姿の異様さを余計に際立たせた。

ユラユラと進んでいた《何か》が、ピタリと止まった。ビクビクと身体を痙攣させる。

「わはは、わはははは、わは、わははは。」

《何か》の方から、あの笑い声が聞こえた。

間違い無い。笑い声はあの《何か》から発せられている。

あれは一体、何なのだろう。

「わははは、わははは、わはははは。」

人ではない。動物でもない。

生き物かどうかさえ、危うい。

「わはははは、わは、わはははは。」

だが、笑っている。確かに声を発している。

・・・・・・何だ、あれは。

僕は更に目を凝らした。

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~~~

白い《何か》が、またピタリと止まった。

だが、今度は痙攣をせず、下を向いたまま、動かないで居る。

「・・・・・・・・・ん?」

どうしたのだろう。

身体の膨張と収縮も止まり、まるで固まったかの様にじっとしている。

次の瞬間。

「わはははははははは。」

グリン、と勢いを付けて、《何か》が顔を上げた。勢いが良すぎて、今度は変な方向に頭が捻れる。

「わ は は は は は は は は は は は は 。」

捻れた頭をぎこちなく動かし、《何か》が

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僕の方を、向いた。

「・・・・・・っっ!!」

目が合った

あの《何か》には目は無いのだが、直感で分かる。

あの白い《何か》は、僕を見た。

「わはははは、わは、わは。」

笑い声は未だ聞こえる。

もしかして、さっきのは思い込みで、本当は気付かれていなかったのだろうか。

恐る恐る窓の外を見る。

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「わはははははははは、わは。」

白い《何か》は、じっと、僕の方を見ていた。

目の無い顔で僕の方を見たまま、ユラユラと山道を下っていた。

腕を冷たい汗が伝う。

「どうしよう・・・・・・。」

寝ている間音楽を流しっぱなしにしていた為、携帯電話の充電が切れている。

兄達に連絡を取れれば良かったのだが・・・。

駄目元で電話を掛けようとしたが、数秒も経たない内に切れてしまった。

あの白い《何か》は、山を下っていた。山道はもう終わる。そうしたら家の近くの道路に出る。此方に来る。此の家にーーーーー

「・・・・・・大婆ちゃん。」

逃げなくては。曾祖母を連れて。

ある程度距離が有る内に。

取り敢えずは一番近いコンビニを目指そう。携帯の充電器を買って、兄と連絡を取るのだ。

急がなくては。

僕は財布と携帯電話をポケットに収め、部屋を飛び出した。

チラリと窓の外を見遣ると、白い《何か》は、山道を下り終え、此の家に続く方の道を、ユラユラと進み始めていた。

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~~~

階段を駆け下り、一階へ。

曾祖母の部屋は玄関から向かって一番奥だ。

一番山に近い。

悪い予感が胸を過る。

嫌な考えを振り払う様に、廊下を走り抜けた。

大きな襖が見えた。曾祖母の部屋だ。

「大婆ちゃん!!」

僕は全力で、襖を開け放った。

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~~~

「襖をそんな強く開けちゃ駄目よ。」

曾祖母の部屋は暖かく、甘い匂いが立ち込めていた。

おっとりとした物言いに、緊張感が薄れる。

僕は慌てて言った。

「ごめん。でも大婆ちゃん、逃げなきゃ!!」

「大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃないんだって!!」

「婆ちゃんの部屋に居れば、大丈夫。」

曾祖母はニコニコと微笑んだ。

僕は完全に毒気を抜かれた。

何だか本当に大丈夫な気さえして、僕は小さく

「うん。」

と頷いた。

「開けっ放しにしてたら、部屋が冷えるでしょう。」

「はい。」

言われるがままに、襖を閉めた。

部屋のカーテンは閉められていて、外の様子は見えない。

橙色の電灯が、部屋を照らしていた。

「○○は何時も、頂戴良い時に来るんだねぇ。」

曾祖母はそう言いながら、石油ストーブの上に置いてあった小鍋の中身を掻き回した。

鍋の横にはアルミホイルを敷かれ、程好く焦げ目の付いた餅が膨れていた。

「お昼食べてないから、二つは食べられるでしょう?少し待ってて頂戴。」

トポン、トポン、と餅を鍋に落とす。

鍋の中身を覗くと、お汁粉が入っていた。

「昔から、婆ちゃんが美味しい物食べようとすると、何処からか○○が来てね。」

曾祖母が、ストーブの脇で布巾を掛けられていた盆から、朱塗りの椀と湯呑みを取り出す。

「其処のポットを、取って頂戴。」

「はい。」

小さな花柄のポットを、曾祖母の横へと移動させた。

「はい。有り難うねえ。」

曾祖母がポットの中身を湯呑みに注ぐ。

「起きたばっかりで、喉渇いてたでしょ。」

手渡された湯呑みに入っていたのは、温かい番茶だった。

言われて初めて、喉の渇きに気付く。

「・・・・・・ありがとう。」

少しずつ茶を飲んでいると、今度は餅の入れられたお汁粉の椀が差し出された。

「はい。此れも。」

「うん。ありがとう。」

お汁粉は美味しかった。

「起きてたら持って行こうと思ってたんだけど、○○の方から来てくれて、本当に良かった。ほら、最近階段が少しだけ辛くなって来たから。」

曾祖母は相変わらずニコニコしながら、お汁粉を食べる僕を見ていた。

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~~~

お汁粉を食べ終えると、曾祖母は御手玉を始めた。

シャリシャリと小気味良い音を経てながら、一つ、二つ、と空中の御手玉が増えて行く。

僕はボンヤリと其れを見ていた。

笑い声は聞こえていない。

「大婆ちゃん。」

「んん?」

「変なモノを見たよ。」

「そう。」

「白くて、ブヨブヨしてて、顔が無いのに大声で笑うんだ。」

「大丈夫だよ。何もしないから。」

「でも、此方に来るんだよ。」

「婆ちゃんの部屋に居れば、大丈夫。何も出来ないし、入っても来れないから。」

「だけど・・・・・・」

「○○は怖いんだね。」

「うん。」

僕が頷くと、曾祖母はヒョイと、一つだけお汁粉にいれずに残っていた餅を手に取った。

「じゃあ、しょうがない。」

カーテンを開く。

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磨硝子の向こうに、白いシルエットが浮かび上がっていた。

「意地悪なお化けには、帰って貰おうね。」

カチリ

窓の鍵が開く音。

曾祖母が、僅かに開いた窓の隙間から餅を投げた。

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「わ は は は は !!!!」

白いシルエットが窓一杯に広がり、消えた。

曾祖母がゆっくりと振り返る。

呆然としている僕を見て、もう一度、優しく微笑んだ。

「言ったでしょう。大丈夫だって。」

Concrete
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☆チィズケェキ☆さんへ
コメントありがとうございます。

明けましておめでとうございます。
今年もこんな調子では有りますが、出来る限りの事をしていきたいと思っています。お付き合い頂ければ幸いです。

そう・・・・・・ですね?
そう言われれば、似ていた気もします。
お汁粉やお雑煮の中でグチャグチャに溶けた餅に、似ていた気がして来ました。
でも、あれがお汁粉やお雑煮に入っていたら、食欲が一気に失せると思います。

餅には魔を払う力が有るのだとか。
曾祖母は知っていたのでしょうか?

神・・・・・・にも、色々と居ますからね。あんなのが居ても、可笑しくないかも知れませんね。

☆チィズケェキ☆さんが実りの多い一年を過ごす事が出来ます様、微力ながら祈っております
§^ェ^§

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紫さんへ
コメントありがとうございます。

明けましておめでとうございます。
御期待に沿えるかは分かりませんが、精一杯頑張って行きたいと思います。宜しければ、お付き合い下さい。

曾祖母が追い払ってくれなかったらどうなっていたのか・・・・・・。予想が付かない分、何だか恐ろしいです。

どうなのでしょう。対処法を知っていたのだから、知っていたのだとは思いますが・・・。

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明けましておめでとうございます☆紫です(*^-^*)

今年も紺野さんのお話楽しみにしております♪

今回のお話も凄く怖かったです(>_

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リュミエールさんへ
コメントありがとうございます。

明けましておめでとうございます。
此方こそ、宜しく御願い申し上げます。

頼りがいは昔から有りましたが、あんな事まで出来るとは全く知りませんでした。

此方に帰ってからネットで調べてみましたが《笑い女》や《山姫》等、女性の形をしている妖怪が殆どでした。例外として見付かったのも、男の姿だそうですし・・・・・・。

恐らく、正式な名は無いのだと思われます。

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明けましておめでとうございます、本年も宜しくお願い致します。曾祖母の温かさと頼りがいが素晴らしい。山の怪なんでしょうか?気になります。

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kronekof(s5tyh)さんへ
コメントありがとうございます。

そう言って頂けると嬉しいです。
あの後、曾祖母に色々聞いてみたのですが、結局全てはぐらかされてしまいました。
もう、一生勝てる気がしません(笑)

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mamiさんへ
コメントありがとうございます。

明けましておめでとうございます。
何かと至らぬ所は有りますでしょうが、生温かい目で見守って頂けたら幸甚に思います。

曾祖母に聞いてみても、説明はして貰えませんでした。
幽霊にも見えませんでしたし・・・。本当に何だったんでしょう。妖怪か何かでしょうか。

母は強し。祖母はもっと強し。曾祖母は最強。
自分で言うのも何ですが、凄い人ですよ。
昔から世話ばかり掛けているので、只今、恩返しを計画中です。

猿の方ですね。仕事の特性上。
兄さんの方は年末年始が一番の書き入れ時なので、邪魔をしたり、余計な心配を掛けたくないんです。

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いつも楽しみに読んでいますが、今回は、なんとなく、ホンワカしました。

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明けましておめでとうございます。
今年も、たっぷり楽しませていただきます。

何者か分からない者って怖いですね…しかも、こちらに来られるとなると…窓の外を見るのが怖くなりました。
おばあさま、素敵ですね。温かさが伝わってきました。

ところで…こんな時に助けを求める《兄》はどちら?

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紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

明けましておめでとうございます。

僕も驚きました。はっきり言って恐ろしささえ覚えました(笑)

豆餅って自宅で作れるんですね。僕の所は、餅は市販の物ですが、お汁粉は曾祖母の作った物でした。

去年・・・・・・。豆を何かに使いましたっけ?節分の時に顔面に押し付けられはしましたが・・・。

どうぞ宜しく御願いします。
今年は少しだけ忙しくなってしまう年なのですが、其れでも書き続けたいとは思っていますので、お付き合い頂けたら幸甚です。

のり姉が大人しく・・・・・・まぁ、十中八九はならないでしょうね。奇跡を願うしかありませんね。のり姉にも其れ程のモラルと奥ゆかしさが有れば今頃・・・・・・。

のり姉だけでなく兄達や店長も居ますからね。益々騒がしい年となりそうです。

弱い人も居ない事は無いんですよ。蛞蝓先輩とか。でも、やはり頼もしい女性が多いですね。
何故でしょう。冷や汗が・・・。

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