中編7
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幽霊少女のお話。

此れは、僕が高校1年生の時の話だ。

季節は春。

《幽霊少女の嘘》の続き。

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・・・・・・・・・

「アホか己れは。」

平然とした顔でピザポが言い放った。

部屋の空気が一気に凍り付く。

ユミちゃんは鋭い目付きでピザポを睨んだ・・・が、何かを言う事は無かった。

ピザポが忌々しそうに鼻を鳴らす。

「まぁ、自覚した分マシだけど。」

「言うねぇ、ピザポ君。中々此のタイミングで言えるもんじゃないよ。」

のり姉がニヤリと頬を歪めた。

「けど、話の途中に口を挟まないで。気持ちは解るけど、折角の山場何だから。後で聞いてあげるよ。ちゃんとね。」

そして、ゆっくりと瞬きをした。

右手を軽く上げ、ユミちゃんを促す。

「さぁ、続きをどうぞ。」

ユミちゃんは何処か厳かに頷いた。

有りがちな表現かも知れないが、例えるなら、静まり返った水面の様な、静かな表情だった。

「・・・・・・何処かでは、薄々感付いていたの。でも、あれ以外の形で大切にされる事を、知らなかった。いや、違う。知ってはいたんだと思う。気付かない振りをしていただけ。知ってて、楽な方へ楽な方へと流されてただけ。」

醒めた口調。悲しみも怒りも感じられなかったのが、痛々しかった。

「其の後、誰が何を言っていたのかは、よく覚えてない。只、姉が母に向かって、何か言い返してた。パンッて乾いた音がして、嗚呼、姉が叩かれたんだって。そう思ったの。」

あくまでも軽い口調のまま、のり姉が問い掛ける。

「其のお姉さんは何て言い返してたの?」

「覚えてない。只、私の事を、庇ってた。」

「ふーん・・・。で、話の続きは、まだ有ったりする?」

ユミちゃんは少し躊躇う様な素振りを見せたが、軈て

「ええ。此れで全部。・・・・・・此処から先については、そっちに任せるわ。どうせ全部解ってるんでしょう?」

と薄く笑みを浮かべて見せた。

のり姉は満足そうに頷いた。

「全部だなんて言わないけど、うっすらとはね。でも、その前に・・・・・・。」

目線を向けると、壁に寄り掛かっていたピザポは、小さく頷いた。

のり姉はポン、と両の手を叩いた。

「ちょっとだけ、お説教タイム。」

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・・・・・・・・・。

ピザポは気不味そうな顔をしていた。

無理矢理ユミちゃんの目の前に押し出されたからだろう。

「さっきのは俺も気が立ってたって言うか・・・。」

頬をポリポリと掻きながら、視線をユミちゃんから逸らす。

「大丈夫、大丈夫。多分、私と同じ事考えてたと思うし。」

「怒ったりしないわよ。甘んじて受け入れるわ。ムカつくけど。」

のり姉とユミちゃんがほぼ同時に言った。

そして、ユミちゃんは其処に更に付け足した。

「何を言いたいかは、分かってるもの。」

小さくフン、と鼻を鳴らす。

ピザポは溜め息を吐きながら、不承不承と言った感じで頷いた。

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・・・・・・・・・。

「えっと、俺が言いたいのは、そんなに悩まなくても、ユミちゃん・・・が言われた事は、そう珍しい事でもないって言うか・・・・・・。」

「珍しくないって・・・何が?」

「えっと、だから・・・・・・。親を疎まない子供は居ないし、子を憎まない親も居ないって言うか、我が儘とかも、そんな言う程あれじゃないし・・・。渦中に居なかった俺が言うべき事じゃないんだけど、だから、言う気も無くなって・・・でも・・・えっと。」

ピザポが愈、苦虫を噛み潰した様な顔になる。

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「つまり、話を大袈裟にして、悲劇のヒロイン気取ってんのが気に食わないんだよね。私もピザポ君も。」

のり姉が突如言い放った。

しかも、言い方がかなりきつい。

「しかも、代役立ててやり直そうとしても上手く行ってないし。子供って言っても、死んでから随分と経ってるでしょ。もうとっくに成人済みでしょ。」

「・・・そうね。」

ユミちゃんが悔しそうに頷く。

「悪い事だなんて言わないけどね。私だってそんな偉そうに言える立場じゃないし。でも、此れだけは言わせて。・・・繰り返そうとしないで、ちゃんと成功させようとしなさい。」

「・・・・・・はい。」

「チャンス何て、そう何度も有る訳じゃないんだから。」

「後ね、此れは私の経験談何だけど・・・。」

「何。」

のり姉が静かに言う。

「悪い事とは言わない。けど、割には合わないわよ。」

其の表情は、何処か寂しげだった。

ユミちゃんは拗ねた様な表情をして呟く。

「・・・・・・そんな事、とっくの昔に知ってるわ。」

ピザポはそっぽを向いていたので、どんな顔をしているかは見えなかった。

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・・・・・・・・・。

お説教タイム中の僕と薄塩の会話。

「何だ此れ。何此の状態。ピザポどうした。」

「知らん。」

「てか何、此の幼女。」

「幼女言うな。実際はお前より歳上だ。」

「合法ロリだと・・・?!」

「お前はもう黙ってろよ。」

「叱られてる理由も分からん。」

「あー?・・・多分アレだろ。お父さんとお姉さんをあの二人に重ねてるんだろ。」

「あの二人って誰だし。」

「シーツ被りと川原さん。」

「川原さんどう見ても二十代。」

「いやそうだけど。」

「無理が有るって。」

「いや知らんよ。」

「てかあの二人カップルだから。姉と父なら親近相姦になるから。」

「だから僕に言うなよ。だから川原さんに対して敵対心が有るんだろ。」

「え。単にお父さんとの確執を引き摺ってんじゃないのか。」

「いやそうかも知れんけど。」

「てか、お母さんは?一言キツく言われたからって存在抹消?府に落ちん。」

「もう五月蝿いよ。後々覚えとかなきゃなんないんだから黙ってろよ。あっちの声が聞こえないだろ。」

「いやどうして?」

「え?あ、いや、其れはだな・・・」

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・・・・・・・・・。

のり姉が窓の傍に移動した。

カーテンの閉められた窓に寄り掛かり、微かに笑う。

「・・・さて。愈お待ちかね謎解きタイム・・・・・・と行きたい所だけど、どうやら無理みたいね。」

そして、勢い良くカーテンを開いた。

「お迎えだよ。」

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道路を彷徨く、白いシルエット。

ホスピスで見た時と比べて、其れは自棄に頼り無さげで弱々しく見えた。

「あれって・・・・・・!!」

ピザポの声が強張り、薄塩が床のファブリーズに手を伸ばす。

ユミちゃんが驚愕の表情を浮かべ、小さく呟いた。

「お姉ちゃん・・・・・・。」

シーツ被りだった。

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・・・・・・・・・。

「捜してる。あんたの事。」

のり姉がガラガラと窓を開いた。

ユミちゃんは瞬きをしながらヨロヨロと窓辺へと歩いて行く。

口を開き何かを言い掛け、また口を閉じる。

「・・・・・・ほら。」

のり姉が、ポン、とユミちゃんの背を押した。

ユミちゃんが何処か不安気にのり姉を見上げた。

のり姉はユミちゃんの方を見ない。ただ、もう一度、今度は少しだけ強く、背中を押すだけだ。

然し、其れでもユミちゃんには伝わったらしい。

暫く黙りこくった後、フン、と音高く鼻を鳴らした。

そして、ゆっくりと窓枠へ手を掛ける。

身を乗り出し、ユミちゃんが叫んだ。

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・・・・・・・・・。

「お姉ちゃーーーん!!!」

闇夜に声が木霊する。

ふわり

白いシーツが翻る。シーツ被りが此方を向いたらしい。

「お姉ちゃーーーーん!!!!」

千切れんばかりに手を振るユミちゃん。

其の内、窓枠に足を掛け、立ち上がる。

のり姉がニコリと笑った。

「バイバイ。頑張んなさいね。御両親の事も。」

ユミちゃんが振り返り、フン、と鼻を鳴らした。

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「違うわ。姉と、其の彼氏よ。」

更に、一瞬間を置いて、一言。

「・・・・・・・・・・・・またね。」

そして、勢い良く窓から飛び出した。

重力を無視する様に、ユミちゃんはゆっくりと降りていく。

白くか細い腕が二本、シーツ被りの中から突き出た。

ユミちゃんの速度が一気に増す。

然し、シーツ被りはよろめきながらも、確りとユミちゃんを受け止めた。

甘える妹と、其れを受け入れる姉。

彼女達は、確かに《姉妹》に見えた。

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・・・・・・・・・。

のり姉が上機嫌である。

「《またね。》だって。」

ニヤニヤしている。怖い。

「いやー、コンソメ君も隅に置けないね。ピザポ君とよろしくやってると思ったら、今度は合法ロリっ娘ちゃんと御近づきになってるんだもんね。」

抑、ピザポとはよろしくやって等いない。・・・いや、別にユミちゃんともよろしくやってない。

「いやいや、本当にねぇ。薄塩も何だかんだで心配してたんだよ。何かダメージ受けてたみたいだったから。」

そうだったのか。後で何か驕って・・・いや、さっきのアイスでいいか。

「姉貴死ね。」

「此のツンデレさんめ。」

「切実に死ね。」

「可愛いなぁもう!!」

「止めろ死ね。」

「私の弟がこんなにも可愛い!!」

「切実に止めろ死ね。」

此の姉、何気にブラザーコンプレックスを拗らせている。

もしかしなくても僕は咬ませ犬だな?

「てか、さっきの《御両親》って何ですか?」

ピザポ良く言った。グッジョブ。

其れ僕も気になってた。後、此の姉弟のイチャイチャにも大分うんざりしてた。

のり姉が不思議そうに言う。

「何って・・・シーツ被りと川原。重ねてたんだと思うよ。どっかで。」

薄塩が目を見開いた。

「えっ。お母さんには裏切られた的なあれじゃ無かったのか?本当に自分を愛してくれようとしてた、お姉さんとお父さんと、やり直そうとしてたんじゃなかったのか?」

のり姉は、益々不思議そうな顔になった。

「うん?いや、愛されなかったからでしょ。てか、お父さんからは途中から見捨てられてたし。」

「でも・・・・・・。」

「愛されなかったから、あくまで自分の為に、やり直そうとしてたんだよ。あの子。」

そして、思い直した様に付け足す。

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「まぁ、でも、ちゃんと向き合うって決めたらしいし。中々のハッピーエンドじゃない?」

のり姉が、フン、と鼻を鳴らした。

Concrete
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mamiさんへ

あの後も何だかんだで交流は続いています。
ホスピスの三人も上手くやってるみたいです。

僕は、海遊館で買った、お土産のジンベエザメ縫いぐるみの腹を切り裂かれたりしてます。

次の話でやっと二年生になります。
宜しければ、お付き合いください。

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切ないですね…

まだまだ楽しみなお話しがある様子。
嬉しい限りです。

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