中編5
  • 表示切替
  • 使い方

ウタバコ・3

此れは、ウタバコ・2の続きだ。

nextpage

・・・・・・・・・。

目の前に立っているピザポが僕に問うて来る。

「で、コンちゃん。どうしてこんな目に遭わされてるか、解ってる?」

「あの・・・いえ。解らないです。」

「は?」

「え、あ、は、はい・・・解ります!やっぱり解ります!解りました!!」

薄塩の部屋。

僕は、部屋の中央に正座させられていた。

「じゃあ何?具体的に。」

ピザポが怖い。

圧迫面接って、こんな感じなのだろうか。

現状と全く関係の無い事が頭に浮かんだ。

「コンちゃん?」

「え、あ、はい。」

ついボンヤリしてしまった。

慌てて問いに答える。

「・・・面倒事に巻き込まれたからです?」

確信が持てないので、返答が疑問系になってしまった。

「違う。」

やっぱり違ったか。

薄塩は何も言わずに、壁に寄り掛かっている。

助けてくれる気は無いらしい。

「違うよ。コンちゃん。」

ピザポが口をへの字にしている。

何だか無性に情け無くなった。

顔を直視しているのが辛くなり、下を向く。

謝るのは、《謝って欲しい訳じゃない》と言われる事が分かっていたので、辛うじて堪えた。

ただ、ピザポが話し出すのを、じっと待っていた。

nextpage

・・・・・・・・・。

ピザポが大きな溜め息を吐いた。

失望されている様な気がして、また気分が重くなる。

「・・・あのさ、コンちゃん、此れからどうするつもり?」

先程の答えを教えずに、新たな問いが投げ付けられる。

今度はハッキリと答えた。

「危ない事になってるか、調べたい。」

「調べて?」

「もし、危険な目に遭いそうなら、助ける。」

遭いそうと言うか、今までのケースから考えて、危険な目に遭う事は、ほぼ確定しているのだが。

何せ、相手はあのT・・・ではなく斉藤なのだ。

オカルト関係で謎の蛇女。

絶対に何かが起こる。起こらない筈が無い。

だとしたら、助けなければ・・・

「何で?」

僕の考えを見透かしたかの様に、ピザポが尋ねた。

「何でって・・・。」

僕が言い淀むと、眉をしかめ、更に追い討ちを掛けて来る。

「薄塩から聞いたよ。そんなに仲の良い相手じゃないんだろ。どうして、コンちゃんが助けなきゃならないんだよ。」

「どうしてって・・・其れは・・・。」

「コンちゃんが其処までしなきゃならない理由って?自分が危険な目に遭うかも知れないんだって。其れぐらい解ってるよね?」

ピザポは何故か、まるで傷付いたかの様な言い方をしていた。

僕は何を言えば良いか分からなくなり、また顔を下へと向けた。

薄塩はまだ、何も喋っていなかった。

nextpage

・・・・・・・・・。

沈黙が気不味い。

「解ってる。」

重苦しい空気に耐え兼ねて、口を開く。

「全部解ってるよ。」

「ならどうして。」

「分からない。けど、其れで斉藤が困るんだったら、仕方無いだろ。」

自分で言ってもよく分からない。

然し、沈黙に耐えられずに口を開いたのだから、内容が練られていなくても仕方無いと思った。

頭の一部が妙に冷静で。偽善臭い事を言っている自分が酷く恥ずかしかった。

其の場のテンションとは恐ろしい。

ピザポがポツリと呟いた。

「馬鹿だ。」

ごもっともです。

頭の中だけで答える。

口からは、全く違う言葉が出て来る。

「本当に危なくなったら、他の人には迷惑掛けないから。」

「そういう事じゃないじゃん。」

「僕の取り柄は其処なんだから、其処を奪おうとするなよ。」

違う。こんな事を言いたかった訳じゃない。

僕はこんな卑屈な奴じゃない筈だ。

其れでも、話し始めた口は止まらない。

「御前等はいいよ。でも、こうでもしなくちゃ、僕は・・・」

nextpage

・・・・・・・・・。

「はい、ストップ。」

薄塩が、ポン、と手を叩いた。

其の様子は、何処と無く彼の姉に似ていた。

「ピザポ、論点がズレてる。コンソメ、其れ以上言うな。両方とも落ち着け。」

そう言いながら僕の前まで来て、手を差し出す。

「立てるか?」

「・・・・・・すまん。」

手を掴んで立ち上がろうとすると、足が痺れていて動かなくなっていた。

其れを見た薄塩が手を離す。

「いいよ。無理すんな。」

そして、しゃがんでそっと僕の後ろを指差した。真後ろと言う事は、ドアを指差しているのだろう。

「見てみ。」

足を伸ばしてみたが、まだ動かない。

身体をスライドさせながら、ドアを見る。

何時の間にか、ドアが細く開いていた。

隙間から覗いていたのは、誰かの耳。

ピザポがヒッ・・・と息を飲んだ。

nextpage

薄塩が眉間に皺を寄せ、言い放つ。

「何やってんだよ!姉貴!!」

nextpage

・・・・・・・・・。

ドアの隙間から、白い手がニュッと出て来た。

「ぬ・す・み・ぎ・き。盗み聞き☆」

そして、其れだけすると、手はソロソロとドアの向こうへと戻って行った。

さっきまでの雰囲気が一気に白けた。

「何あれ。」

「知らない。」

「てか古いね。」

「見なかった事にしよう。」

「其れが双方の為だ。」

「賛成。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

三人で何を言うでもなく、ドアを見詰める。

nextpage

・・・・・・・・・

カチャ。

「古い・・・は、禁句じゃない?」

文句を垂れながら、極々普通にのり姉は入って来た。

完全無欠の御姉様にしては地味な登場だ。

しかも若干滑っている。

「でも和んだでしょ。」

「あれは和んだんじゃない。白けたんだ。」

「で、話は聞かせて貰ったんだけど・・・。」

薄塩の言葉は華麗にスルーされた。

のり姉は未だに立てずにいる僕を見下ろし、こう言った。

nextpage

「取り敢えず今は待機。あと、説明の前に少しだけ。」

コツン、と僕の頭を叩く。

「卑屈になっちゃ駄目。そんな事、誰も考えてないよ。」

更に、横に居たピザポの頭も叩く。

「そんなに追い詰めないで。友達にそんな事言わせるのは駄目だよ。」

最後に薄塩。

ゴッッと鈍い音がして、のり姉の拳が頭蓋骨にめり込む。

「どうしてもっと早く止めなかった此のウスラナマコが!!」

「痛っ!!!」

最後に、盛大な舌打ちを一つ。

寧ろ、滅茶苦茶頑張ってくれたと思うのだが・・・。流石のり姉。容赦が無い。恐ろしい。

然し、其れで制裁と説教は終わりらしい。

ツカツカと窓際へと歩み寄り、僕達の方を向く。

腰に手を当て、胸を張り、彼女は言った。

nextpage

「其れじゃあ、説明と、此れから三人にして貰いたい事、話しましょうか。」

其の姿は正に、完全無欠の御姉様の名に恥じない、堂々たる物だった。

Concrete
コメント怖い
8
9
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

紫さんへ
コメントありがとうございます。

こんばんは。

あれが母親・・・・・・。
えーと・・・其れは一寸・・・(笑)

昔からの事なので、半ば習慣と化していると言いますか・・・・・・。
仕方無く、です。仕方無く。優しいとかではないです。

あれは多分苛立っていただけだと思います(笑)
でも、結局、協力はしてくれましたからね、
優しいと思いますし、頼りにもしています。

返信

紫音さんへ
コメントありがとうございます。

そう言って頂けるとは光栄です。
グダグダな話ではありますが、宜しければ、此れからも、お付き合いください。

返信

こんばんは♪紫です(*^-^*)

なんだかピザポくん、紺ちゃんのお母さんみたい(笑)

紺野さんは本当に優しい人だなぁと感じました。
そんな困ったさんを放っておけない紺野さん、素敵です☆
でもだからこそみんな心配なのでしょうね。
そこまで真剣に心配してくれるお友達もまた素敵です。

返信

のり姉、薄塩、ピザポ、コンちゃんのシリーズがたまらなく好きです(*´艸`*)

返信

はるさんへ
コメントありがとうございます。

はい。
・・・もう只の雑談ですよね。次回からは少しずつホラーが出て来るかと思われます。

薄塩の部屋は、一番使われている溜まり場ですからね。
地道に頑張りたいと思います。
宜しければ、お付き合いください。

返信

紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

ええ。此処から、割かしサクサク話が進みます。が、のり姉は今回、除霊(暴力)はしませんでした。

被害としては・・・。
ネタバレですね。今は口を噤んでおきます。
今回もやらかしてくれました。

返信

怖くはないんだけど、座布団一枚的な意味合いで怖いを押させていただきました。
良いですねぇo(^▽^)o ホームに戻ってきた感満載で、今後がまた一段と楽しみになって参りました。

返信

御姉様が登場!
これで解決に向う~~
でも…解決するまでにいつもどなたかが被害?にあっているような…
いや、頼もしい無敵の御姉様ですのよ、間違いなく…

返信