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これは私が実際に体験した心霊現象です。
5年前の秋頃。
当時、高校二年生だった私は、弓道部の練習が長引いた所為で帰路に着くのがいつもより遅れていました。
午後7時を回り、道場の清掃を終えた私が更衣室で着替えを済ませ、友人のTと荷物をカバンに詰めていたときのことです。
「今日は早めに帰りたいから、あのトンネルを通って帰ろ?」
曰く、その日は見たいドラマがあったらしいのですが、録画するのを忘れたようで早く帰りたかったそうです。
でも、お化けや幽霊の類が苦手な私は、正直なところ、あのトンネルを通りたくありませんでした。
私の地元で有名な心霊スポットの一つとして知られるそのトンネルは、真上に墓地が位置することもあり、確かに気味の悪い雰囲気を醸し出していました。
そこでは多くの目撃例があるそうで、ネットではちょっとした心霊スポットとして名を上げています。
その程度なら、どこにでもある話だったのですが。
当時、そこで事故があったのです。
そのトンネルには歩道がついているのですが、歩行者だけでなく自転車もよく通るので、対向したときがとにかく大変でした。
歩道と車道の間には柵があるので、避けるにしてもお互い壁や柵に身体を預けて、ぎりぎりを避けるしかないのです。
多くの通行者がそうであるように、亡くなったその彼も、車道で自転車を走らせたそうです。
詳しいことは知りませんが、結果、対向車と衝突した彼は即死だったらしいです。
そう、人伝に聞いただけなんですけどね。
でも、ただでさえ曰く付なトンネルで、そんな事件がった後だなんて。
「Tはさ、怖くないの?」
あんな事件があった場所なのに。
そう私が言う前に、どこだって事故は起こるし、どこにでもあるトンネルだよ。
お化けや幽霊の類を信じないTにしてみれば、その程度の認識だったのでしょう。
そう言われてしまっては、ただ怖いから通りたくないとも言えません。
早く帰ろうと急かされ、私もTも帰路に着くのでした。
道中はいつも通り楽しくおしゃべりをし、順調に自転車を走らせていたのです。
特に私もTも、最近見付けた雑貨屋さんの話で持ちきりでした。
共通の趣味を多く持っていた私たちは、話のネタが尽きることもなく、体感的に本当にすぐに付いてしまったのです。
例のあのトンネルに。
長さはおおよそ100mくらいありそうなトンネルで、自転車でギリギリ通れる幅の歩道を、私とTは一列になって走りました。
走り始めてすぐにやはり怖くなってきた私は、Tを呼びましたが、Tは返事はおろか見向きもしません。
「ねえ、T!......ちょっとー」
とにかく呼びかけてみるのですが、一切反応がありませんでした。
そんなときに限って、いつは煩いくらいに反響する、車の走行音も聞こえず、私の声だけがトンネル内に虚しく響きます。
「T-!無視しないでよー!」
泣きそうになりながらも、これだけ叫んでいるのに見向きもしないTに苛立ちを覚えたとき。
ガッとペダルが急に重くなりました。
チェーンが外れたのかと思いましたが、ゆっくりではあるけれど自転車は前進しています。
ただでさえ筋肉なんてない脚を力いっぱい震わせながらペダルをこぎますが、有り得ない程にゆっくりとしか進みません。
それでいて、何故かこけないんです。
あまりに不思議な現象でした。
歩くより遅い自転車が、二輪のタイヤでこけずにいられるはずがありません。
私の脚は二本ともペダルをしっかりと踏込んでおり、自転車を支えているのは、文字通り二つのタイヤのみ。
そのはずでした。
何を思っての行動か、何故そこを見てしまったのか。
今となっても分かりません。
意味なんてなく、ただ、ふっと後ろを振り返っただけかも知れません。
見てしまったんです。
自転車の荷台をしっかりと掴む、三つ目の支えを。
その黒い手を。
正確には、黒い手から肩までの影。
トンネル上部に備え付けられたオレンジ色のライトに照らされて、振り返った左側の壁にくっきり映っているんです。
それをそういったものだと理解した瞬間
「キャーーーーーーーーーーーー!!」
力いっぱい叫びました。
何度も何度も何度も何度もTの名前を叫びました。
怖い助けてTお願い聞こえないのTこっち向いて置いていかないで。
まったく聞こえていないのか、私とTの間の距離がどんどんひらいていきます。
追いつきたい一心でペダルを踏込みますが、とても重く、びくともしません。
それどころか徐々に自転車は前進さえしなくなっていきます。
止せばいいのに、振り返り何度見てもその黒い手は、しっかりと荷台を掴んでいます。
でもそんなもの、実際はないんです。
影にははっきりとそう映っているのに、私の荷台を掴むものなんてありません。
文字通り、影だけが私の自転車の前進を阻んでいるのです。
気を失いそうな程の恐怖と対峙し、それでもなんとか逃げようと努力するも虚しく、ついに自転車が完全に静止する、その直前!
途端にペダルがすっと軽くなり、支えを失った脚が地面を力いっぱい蹴りつけました。
だんッ!と大きな音がした直後、じんじんと痛み出した脚を気にする間もなく、全速力で自転車を走らせ、ものの数秒でトンネルを抜けた先の信号待ちをしているTに追いつきました。
さぞ驚いた顔をしたTは私を見るなり気の抜けた声で何かあったのと聞いてきましたが、当の私はそれどころではなく、自転車をすぐおりてTに抱きつきました。
緊張が緩んだ所為か、あるいはもっと前からそうなっていたのか。
肩を震わせながら涙を流す私の頭をTはそっと撫でてくれました。
数分程経ち、私が少し落ち着きを取り戻した頃、事の全てをTに話ました。
その間Tは、決してふざけず、真剣に私の話を聞いてくれたことを、今でもはっきりと覚えています。
「私を呼ぶ声も叫び声も、全然聞こえなかったよ」
でもそんな怖い目にあってたなんて、ごめんねと、Tは言いました。
「Tが悪いんじゃないよ!」
その時の私には、Tが何も聞こえなかったことも、あの黒い手の幽霊が原因ではないかと思っていました。
先程に比べたら落ち着いてはきたものの、実際そんな目にあった後の私はまだ怖くて。
それを察してかTが、家に泊まりに来る?と言ってくれたときは、更に涙が溢れました。
それから私は、Tに私の家まで付いて来てもらい、泊まる準備をし、そのまますぐTの家へ行きました。
結局Tはドラマを見ることは出来ませんでしたが、代わりに私が寝るまで、ずっとおしゃべりをしてくれました。
お互い大学三回生になった今でも、Tと私は親友です。
作者R・Jam
はじめまして、R・Jamです。
「トンネルの影」を読んでくださって、ありがとうございます。
最近、アメーバのフレンドさんに教えて頂きながら、怖話に登録をしたので、試しに怖話を投稿してみました。
いざ書き初めてみると、実体験なので話の流れはスムーズに行くのですが、文才がなさすぎて、臨場感等を上手く表現できませんでした。
申し訳ないです(´・ω・`)
私とTの怖話はこれでおしまいですが、別の友人と私とで、後二つの実体験怖話があります。
ぼちぼちとお話として書き上げることが出来ればなーと思っていますので、書き上げた際には、貴方がまた読んでくださることを楽しみにしています。
末筆ながら、貴方に素敵な心霊体験が訪れますように。