【やばいやつ】
ちょっと長い話になるかもしれん
これは去年の夏の話だ
もう高校もテストを終えれば、夏休み。そんな状態だったから、珍しく
俺は熱心にテスト勉強をしてた。
別に特別いい点がとりたかったわけでもない、やりきった後の達成感ってやつを味わってみたかった。夏休みを思いっきりエンジョイしたかったてのもあったかな笑
テストで悪い点とると夏休みに親が勉強しろってうるさいだろうなってな
んでテストの二日前、俺は友達の心太(まあ、どこにでもいるような名前だし、Sとかいってもややこしくなるからなw 本名で)と学校に遅くまで残ってテスト勉強してた。
その日はなぜか夏にしては日が沈むのが早くて、ちょっと不気味だった
そろそろ帰ろう、と心太に言う頃にはすっかり暗くなっていた。
心太「そーだな、あんま遅くなると母ちゃん怒るし」
俺「お前の母ちゃんは怒ると怖えもんなw」
心太「この前なんか、8時に帰っただけでゲンコツだからな?笑
高校生なんだからそれぐらいいーよな別にー」
俺「可愛い可愛い心太ちゃんが心配なんだろ笑笑」
心太「キモいからやめろ笑」
そんな他愛もない会話をしながら学校の階段を降りていたら、途中で心太が忘れ物をしたことに気づいた
心太「あっ、やべノート忘れた」
俺「今日の夜勉強できねーじゃん」
心太「しゃーない取ってくるか...」
俺「また4階まで登んのかwドンマイ」
心太「昇降口で待ってろよ!」
タッタと心太は階段を上がっていった
(さてと、のんびり昇降口に向かうか)
俺が上履きをカポカポと鳴らしながら歩いていると、ちょうど昇降口に着く手前で息切らしながらドタドタと心太が戻ってきた。
俺「おま、どうした?」
心太「俺見ちまったよ...」
俺「え、なにを?」
心太「ゆーれいだよ!ゆーれい!」
俺「ええ!?」
心太「4階の廊下によぉ、白い肌して黒髪の女の人が、助けてぇ助けてぇっt、ああ!ぉま!後ろ!」
俺「いやぁぁぁぁぁ
ああああぁぁぁぁ
ああ?なんもいねーじゃねえかよ!」
心太「...ックックック...あーはははは!引っかかってやんのー!」
俺「お前なあ!こんにゃろ...」
?
そのとき、なんかいた。
俺からしか見えない位置に。
昇降口のもっと向こう側。
グラウンドに。かろうじて残ってるライトに照らされて、
“そいつ”はいた。
小学校低学年ぐらいの背丈に、髪とかは一切ないでこぼこした異様なまでにでかい頭。
頭に全部養分がいったじゃないかってくらい、やせ細ったガリガリの体。
そして横顔からわかる目。
ほとんど眼球が見えるぐらい飛び出ている。
口は顎が外れるんじゃないかってぐらい大きくだらんと開いて、
カタカタ震えながら誰もいないグラウンドに“そいつ”は立っていた。
“そいつ”を見た瞬間震えが止まらなくなった。
(なんなんだよ ...あいつ...)
もう目を大きく見開いたまま俺はつっ立ってるしかなかった。
心太「?どうしたんだよ?あ、怖かった?ごめんな笑、まさか、お前がそこまでビビるとは思わなくてさ〜」
そのとき、グラウンドにいた“そいつ”がこっちを向いていた。だらんと開け放った口のまま、異様に飛び出した眼球でカタカタ震えながら俺を見ていた。
(...っ!)
“そいつ”に見られているうちに、段々吐き気がこみ上げてきて、どんどん目が異様なまでに見開いていく。
恐怖のせいか身体がカタカタ小刻みに震えている。
心太「おい!!大丈夫かよ!?」
心太の声で俺はハッと我に戻った。
俺「おい!上に逃げるぞ!」
心太「逃げるって何からだよ!?」
俺「いいから!行くぞおい!」
俺のただならぬ剣幕を見て何かを察したのか、心太は何も言わずに走って付いてきた
3階の階段を上ってる時、心太が口を開いた
心太「なあ...お前さっき何を見たんだよ?」
俺「わからない、とりあえずやばいやつだ」
心太「やばいやつって?なんなんだよ?」
俺「だから、俺にもわかんな...」
ペタペタペタペタペタペタ
そのときものすごい速さの足音が一階から聞こえてきた
(あいつ!俺たちのこと追いかけてきてるのか!?)
恐怖で鳥肌がたった
俺「4階まで走れ!反対側の階段から降りるぞ!」
心太「お、おう!」
死に物狂いで長い廊下を走って、反対側の階段に着いたとき、後ろを振り返ると、俺たちがさっき上ってきた階段からちらっと少しだけあいつの頭が見えた。
(...!...!)
さっきより強い吐き気がこみ上げてきた、それでもまた死に物狂いで階段を降りて昇降口に向かった。
気づいた時俺らはもう学校の外にいた。
道路に走っている自動車の音が妙に安心感を感じさせた。
俺は気が抜けてその場にへたり込んだ。
俺「た、助かった...」
心太も
心太「何が何だかわからんかったが、とりあえず良かった...
ん?」
その時心太は何かに気づいたみたいで校門の方を向いた。
そして校門の方を見て、そのままずっと同じ方向を見て固まっていた。
俺は俺で、怖い思いしすぎて自分のことで精一杯で心太にいちいち構ってる場合ではなかった。
しばらくして落ち着いて、心太に
俺「ふう、そろそろ帰るか。俺たちの両親も心配してると思うし、このことはまた明日詳しく話すよ。
...心太?」
心太は固まったままだった。
ずっと同じ方向を見てカタカタ震えている。
俺「お、おい、心...」
そしたら急に真顔で何も言わずスタスタと帰っていった。
(なんだあいつ?大丈夫か?)
遅かったし、俺もさっさと一人で帰ることにした。
その次の日、心太は学校に来なかった
先生に聞くと、体調不良らしい、ということしかわからなかった。
心太がずっと休んだまま夏休みに入った。
あの時の体験は人生で最もやばい体験だったよ。
あの後、おじいちゃんとかに“あいつ”のことについて話したけど
この地域の妖怪やら幽霊やらに詳しいおじいちゃんも、そんなやつ見たことも聞いたこともない、と言っていた。
勿論学校が昔、墓だったとか、戦争で爆弾が落とされたとかいう話もなかった。未だに“あいつ”の正体は謎のままだ。
もうすぐ春休みでこのクラスも解散、結局心太はもう学校には来なかった。来年度になったらまた夏休み前のテストがやってくるだろう。
なんにせよ俺は二度と残って勉強なんかしない。もうあんな思いはしたくない。
そして、一週間前、もう一度だけ“あいつ”に会った。
心太の家の心太の部屋の窓にそいつはいたよ。
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作者さいわい