長編14
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ウタバコ・20

「蛇を見くびってはいけないのですよ。」

何処か気怠げに、兄が言う。

「まぁ、木芽は基本的に警戒心が薄いですからね。蛇に限った事では有りませんが・・・。」

大きな座椅子にゆったりと腰掛け、服は何時も通りの着流し。目元と鼻筋に赤い化粧。

「其れでも、今回はちゃんと私を頼ってくれましたから、進歩はしているんでしょうね。よしよし。」

そう言って、此方に向かって片手を伸ばして来る。

足りない距離の分、頭を寄せて補うと、兄は薄い唇を僅かに綻ばせながら、僕の頭を撫でた。

兄は頭を掻き回す様に頭を撫でるので、髪型が乱れて仕方無い。だが、今日は敢えて何も言わない。

「よしよし。・・・・・・其れにしても」

暫く待つと、手は自然と頭の上から離れて行った。

自由になった頭を動かし、兄の顔を見る。

兄は先程と同じ様に口元を弛めていた。

・・・が、其の目は今までに見たことが無い程に冷たい。

「木芽をこんなに困らせて、挙げ句の果てには御嬢様に牙を向けた、其の愚か者は、何処の何方なのでしょうね・・・・・・?」

兄・・・・・・木葉さんは、其の日、静かにブチ切れていた。

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・・・・・・・・・。

のり姉が眠ってしまった後、僕は木葉さんに電話をした。

事情・・・と言うか、困っている旨を伝えた所、なるべく早く来る様に言われた。

・・・ので、其のまま薄塩家を飛び出し、木葉さんの家に向かった。

到着し、木葉さんに会うと、大層驚かれた。

で、のり姉が頭痛でダウンし、僕としても困り果ててしまったことを報告すると・・・・・・

兄急変である。

烏瓜さんに対して怒っていた時のアレ。僕はアレを木葉さんのマジギレと思っていたが、あんなのはまだまだ生温かった。

下手すれば不機嫌なのり姉より恐ろしい。

此の人だけは敵に回したくない・・・否、絶対に敵に回してはいけないと思った。

そして、其のお怒りは、僕が部屋に通された今も絶賛継続中であり・・・

冒頭の文へと続くのである。

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・・・・・・・・・。

僕が話を終えると、木葉さんは緩慢に椅子から身を起こした。

「で、木芽は今、其の箱を持っているんですか?」

「え、は、はひ!」

声が上擦った。

呼吸を整えて、もう一度返事をする。

「はい。持っています。」

「そう・・・ですか。」

木葉さんは重々しく頷いた。

「ならば、明日、其れを処理してしまいましょう。」

「明日?」

今から、とか言い出すんじゃないかと思っていた僕は、少しだけ面食らった。

「明日、ですか?」

「今日はもう遅いですからね。こうなってしまうと、夜は分が悪い。」

化け物が出易いとか・・・だろうか。

不思議に思っている僕に、木葉さんは言った。

「毒蛇の一部には赤外線受容器が備わっていますから。万が一を考えて、ですよ。」

成る程。思ったより冷静みたいだ。

僕はホッと胸を撫で下ろしーーーーーー

「敗北の許されない戦いですからね。念には念をいれましょう。」

・・・・・・成る程。

僕はもう一度、背中に冷たい汗を掻いた。

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・・・・・・・・・。

一晩明けると、木葉さんの怒りは若干弱くなったかの様に見受けられた・・・が

「無駄に苛々した所で木芽を怯えさせるだけですからね。焦らずとも時は来る訳ですから。」

表面に現れなくなっただけで、全然そんなことは無かった。

寧ろ、怒りを餡子の様に練り上げたらしい。

「先ずは箱を調べる事から、です。」

木葉さんは言葉の端に殺気を滲ませながら、パン、と手を打った。

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・・・・・・・・・。

バッグの中からウタバコを取り出し、木葉さんに手渡す。

「此れですか。」

くるくると箱を回しながら調べる木葉さん。

日の光の下でみたウタバコは、ただの古びた箱に見える。

コツコツ底面を叩いていた木葉さんが首を傾げた。何かに気付いたらしい。

「下に空洞がありますね。」

「空洞?」

「開けてしまいましょう。」

「え、ちょっ・・・!!」

木葉さんの手が底の部分を弄る。

コトン、

軽い音がした。底が外れたらしい。

「え、何でそんな簡単に・・・」

「ニスか何かで固められていた様ですが、接着が甘かったですね。箱自体もガタガタですし・・・。」

木葉さんは箱をひっくり返しながら顔をしかめた。

底の板が外れただけて、まだ取れてはいない。

「玄人・・・と言うか、其の手を生業にしている人間が作った物には、思えない。」

何かへらの様な物を差し込み、テコの原理で底を抉じ開ける。

「素人・・・しかも、こう言った作業に慣れていない人物の作った物・・・。少しばかり厄介かも知れませんね。・・・・・・っと。」

ゴッッ

鈍い音を立てて、底が外れた。

力業で開けたので、端が少し抉れている。

「成る程。此れが正体ですか。」

開かれた箱の中には、すっかり白骨化した蛇の頭が入っていた。

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・・・・・・・・・。

「どうやら、蛇だけでは無い様ですけどね・・・。」

よく見ると、箱の中には他にも色々な物が幾つか転がっていた。

汚れの付いた紙、何かの干物、髪の毛等・・・。

「此の紙の汚れは・・・此れを作った人の物でしょう。」

「分かるんですか?」

「いえ、当てずっぽうですよ。相手の物を用意するのは、中々面倒そうですから。」

「・・・血?」

「ええ。其れと、分かり難いですけど、此処。多分肉を削ぎ落としてますね。此れを他人にやったら確実に事案ですよ。」

木葉さんは表情一つ変えず、へらの先で肉の残骸をツンツンと突く。

「此方の髪は、多分相手の物でしょうけどね。」

へらの先を、箱の隅へと持って行く。

長い黒髪が数本、細い紙撚で纏められていた。

何時の間にかビニール手袋をした木葉さんが、指先で髪の束を摘まみ上げる。

「長いですね。・・・女性でしょうか?」

「そうでしょうね。恐らく。」

僕がそう聞くと、木葉さんは軽く頷いた。

「でも、そんなことはどうだって良いんですよ。」

「え?」

髪の毛からパッと手を離し、蛇の骨を持ち上げる。

「今までに誰が呪われただの、誰が死んだだの、そんなのはどうでも良いこと何です。」

「いや、えと、その・・・。」

「大切なのは、此れからどうするかですから。」

木葉さんが目を細め、蛇の頭をじっと見詰めた。

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・・・・・・・・・。

小さな小瓶。

頭骨はガーゼに包まれ、中に収まっている。

「え、こんなんで良いんですか?」

「ええ。後で個人的に利用します。」

「個人的にって・・・何に・・・。」

木葉さんは僕の質問には答えず、ふふふと軽く笑った。怖い。

「大丈夫ですよ。・・・取り敢えず《手負蛇》は。もう。」

「・・・・・・え?」

手負蛇・・・は?

「次は清姫ですね。」

「清姫・・・も、居るんですか。」

「ええ。・・・此方はもう少し、趣向を凝らしましょうか。」

木葉さんがニヤリと笑う。

「舞台と登場人物を、用意しなければなりませんね。」

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・・・・・・・・・。

其の日の夕方。

「と、言う訳で私が呼ばれた訳か!解せぬ!!」

「誰此の人!!何でお面付けてんの?!」

「姉貴が来るって聞かなかったからコンソメとデートって嘘吐いて来た!ごめんな!!!」

上から、烏瓜さん、ピザポ、薄塩の順だ。

カオス。正にカオス。

だがしかし、今僕が言うべきは一つだ。

「薄塩てめぇ何してくれんだコノヤロウ!!」

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・・・・・・・・・。

※怒涛の台詞祭りです。誰が何と言っているかはユアセルフで判断を御願いします。

「どうしてそんなこと言っちゃったんだよ?!」

「いや姉貴来るって聞かなくて・・・」

「だから、どうして、よりにもよって、其のセリフ何だよ!!」

「こう言ったら元気になるかなって・・・」

「明後日の方向に姉思い発揮するなよ馬鹿!!」

「落ち着け野葡萄君。諦めろ。もう駄目だ。」

「そうだよコンちゃん。もうどうしようも無いよ。怒っても意味無いよ。」

「ええい!せめて一発殴らせろ!!」

「暴力はいかんよ。暴力は。君らしくも無い。」

「のり姉を止める為だったんだって!仕方無いじゃん!!」

「俺は殴られても構わない。一思いにやってくれ。」

「よく言った!!歯を食い縛れ!!!」

「コンちゃん駄目だって!!」

「こらこら止めなさい全くもう・・・。」

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・・・・・・・・・。

「木芽。大人しくなさい。」

鶴の一声。

縁側に出て来た兄が、ゆっくりと僕達方に向かって来る。

場が一気に静まった。

「御嬢様には私から事情を話しておきます。心配は無用ですよ。」

「で、でも・・・。」

「いきなり呼び付けた私にも非は有ります。少なくとも、ちゃんと時間が有れば、薄塩君はそんな嘘を吐かなかった。・・・でしょう?」

薄塩が何も言わず、然し大きく頷いた。

木葉さんは其れを見遣り、今度は僕の顔を正面から覗き込む。

「木葉。今は、勘弁してあげましょう?」

嫌だ。

嫌だ・・・が。

本気モードの木葉さんを敵にしては、もう、どうしようも無い。

「・・・・・・・・・はい。」

僕は渋々と頷いた。

「後できちんと埋め合わせはしますから、ね。」

駄々っ子をあやす様に頭を撫でられる。

人前だとかなり恥ずかしい。

・・・が、やはり逆らう訳にはいかない。

「兄弟としての距離感、あの歳でアレってどーなんだろうね。」

呆れた様な烏瓜さんの呟きは、聞こえなかったことにした。

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・・・・・・・・・。

日が落ち切ってしまう前に、事を済まさねばならない。

木葉さんはそう言って、庭の中央にウタバコを持って来た。

「私が良いと言ったら、木芽、貴方が蓋を開きなさい。斎藤君・・・とやらは、もう大丈夫ですから。」

「・・・僕、ですか。」

「ええ。此処に居る面子の中で、一番繋がりが深いですから。」

僕は黙って頷いた。

そして、指示を待つ。

「どうぞ。」

「あ、は、はい!」

箱の蓋に手を掛ける。

他の皆は、庭の所々に立って此方を見ている。

ウタバコが、ゆっくりと開かれた。

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・・・・・・・・・。

最初に聞こえて来たのは、歌声だった。

物悲しい旋律。何処か童謡を思わせる様なーーーー

「宵待草、ですね。」

兄が小さく呟く。

「来ましたか。流石に待たせませんね。」

歌は小さくなり大きくなり、軈て、砂利の上を歩く足音が聞こえて来た。

音の方向に目を遣る。

一人の女がじっと此方を見ていた。斎藤に付いていた、あの女だった。

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・・・・・・・・・。

「蛇を見くびってはいけないのですよ。」

兄は女を見据えながら言った。

女には、もう蛇は付いていなかった。

歌声は聞こえているが、女の口は動いていない。どうやら、歌っているのとは違うらしい。

かと言って、女は返事をすることも無かった。

木葉さんの言葉が続く。

「貴女、三竦みを使おうとしたんでしょう。恋敵か何かに。」

「・・・・・・。」

「蛞蝓、蛙、蛇・・・百足も入っていた所を見ると、知識は有った様ですね。入れられる物は入れて置け・・・という考え方は、雑と言わざるを得ませんでしたが。」

「・・・・・・。」

「けれど、如何せん蛇が強過ぎた。貴女の中の恐れも作用して、全てを飲み込み、単体で化け物へと姿を変えてしまった。」

「・・・・・・。」

「まぁ、貴女自身が蛇になったのとは、また別件ですがね。」

女はやはり何も言わない。

木葉さんは詰まらなそうに眉を潜めた。

「退屈ですねぇ・・・・・・。」

「・・・・・・。」

女は表情さえ変わらずに、ただ、じっと立っていた。

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・・・・・・・・・。

木葉さんが、何かを袂から取り出した。

怒りを露にし、頭に角を生やした女の面だった。「般若・・・。」

僕の呟きに、木葉さんが小さく首を振る。

「いいえ、違いますよ。」

胸の前に面を持ち上げ、兄は言った。

「此れは、蛇の面です。」

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薄闇に声が響く。

「半成、中成、真成、という続き物の面が有ります。怒りや嫉妬、憎しみで異形へと姿を変える女性の面です。」

「異形としての段階で、使い分けられるんです。半成、中成、真成の順で異形としての度合いが強くなります。」

「生成は異形になりかけの状態。角もまだ丸く表情も若干柔らかい・・・と言うか、まだまだ人間の域を出ていません。。」

「中成は、別名を《般若》と言います。 鬼女の面です。三つの面では、恐らく一番の有名所でしょうね。木芽が間違えたのも無理は無い。」

「そして真成。此れは、人を辞め、完全に異形と化した女性を表す面です。耳が消え、角が伸び、物に依っては長い舌が生える。人としての面影は消え失せます。」

彼は其処で一旦言葉を切った。

聞こえて来る音が、女の歌だけになる。

木葉さんは一瞬だけ躊躇う様な素振りをした。いや、此れは、僕の勘違いかも知れない。

兄が頷く。何に頷いたのかは分からないが。

「真成・・・又の名を、蛇の面。」

「三つの面の中で、一番最初に創られた面です。此処から一段弱い般若、もう一段弱い半成が産まれた。」

「蛇は、時に鬼より恐ろしい物なのですよ。特に、人の心に巣食った場合には。」

「鬼は人の道理が通じぬ物。蛇は人の道理を解さぬ物。同じに見えて、双方はかけ離れた物です。」

「鬼はまだ、戻れることも有るかも知れない。理解が出来るのなら、話し合うことも可能ですから。」

「然し、蛇となってしまったら、もう戻れない。人としての生を捨て、人の心を捨て・・・。其れはもう、当然ながら、人では無い。」

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・・・・・・・・・。

女の前に蛇の面が差し出された。

やはり彼女は何の反応もしない。

然し

「歌が止まった・・・。」

シンと静まり返った庭。木葉さんが薄く頬笑む。

「人だから、そんなに苦しいんですよ。」

反応は無い。

兄はもう一度繰り返す。

「人で居ようとするから、そんなに苦しいんです。」

女が、差し出された面を見詰めた。

兄は愈優しげに笑う。

「蛇になってしまえば、楽になれます。」

女の白い手が緩慢な動作で面を取る。

「付けてみてください。きっと、御気に召される筈です。」

そして、そろそろと面を持ち上げ、顔に宛がった。

兄からサッと表情が消える。呟き声が、庭に木霊した。

「・・・・・・よく、御似合いです。」

そして彼女は、人を辞めた。

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・・・・・・・・・。

先ず、何かに縛り付けられた様に、足と着物の裾が纏まった。

足と足の間の窪みがどんどん平らになり、着物が光沢を帯びて来る。

腰の帯が解け、手に巻き付き、其の手は腹の下に、付き、と胴と同化した。

髪がバラバラと乱れ、風に飲み込まれて消えて行く。

其の内、身体の殆どが蛇になり、顔と、顔に付いた面だけが辛うじて人間としての面影を残すのみとなった。

すると、木葉さんが何かを取り出し、其れに火を付けた。

「あれは、・・・・・・煙草?」

煙草だ。木葉さん、喫煙者だったのか。

でも、木葉さんから煙草の匂いがことは、今まで無かった気が・・・

口元に煙草を持って行く木葉さん。

細い紙の先が、赤く染まる。

かなり強く吸い込んでいるらしい。

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・・・・・・・・・。

次の瞬間、木葉さんが女の頭を掴み、引き寄せた。

唇を面に近付け、其のまま煙を吹き込む。

要はキスシーン。木葉さんと大蛇との。

「うわぁ酷い絵面。」

烏瓜さんがポツリと呟いた。

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・・・・・・・・・。

突然、女が・・・いや、蛇が暴れ始めた。

のたうち回り、尾をバタバタと地面に叩き付ける。

木葉さんは何も言わず、じっと其れを見ていた。

そして、偶に、追い討ちの様に煙草の煙を吹き掛ける。

蛇は益々苦しんでいる様だった。

煙を吸い込む度に面が激しく動き、辛うじて人間らしき口の部分が見える。

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ふと気付くと、蛇が縮んでいた。

最初は僕より大きかった位なのだが、今はもう、小学生程度のサイズになっている。

煙を吹き掛けられる度に、どんどん縮む。

遂には僕の腕程の大きさまで縮んだ。

「狐目。」

烏瓜さんが呼び掛ける。

だが、木葉さんは何も応えない。

ひたすら、蛇に煙を吹き掛けるだけだ。

蛇は、泥に塗みれ、じたばたと地面を這いずり、もう大きさは普通の其れと変わり無い。

「狐目。もういいだろう。」

其れでも、木葉さんは煙を吐き続ける。

蛇はとうとう、ミミズより二回りほど大きいかどうかと言うサイズになってしまった。

「狐目。・・・・・・木葉!」

烏瓜さんが声を荒げた。

・・・と言うか、烏瓜さんが木葉さんの名前をちゃんと呼んだの、初めて聞いた。

木葉さんの方を見ると、物凄い勢いで烏瓜さんを睨み付けていた。

「・・・・・・チッ」

暗闇に音高く舌打ちが響く。

そして、木葉さんは

ゆっくりと、倒れた。

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・・・・・・・・・。

「ええ、ちょ、一寸兄さん?!」

木葉さんは地面に膝を付き、ゲホゴホと咳をしている。

「ほら言わんこっちゃない。」

烏瓜さんが駆け寄り、バシバシと背中を叩く。

「あの、烏瓜さん。兄さんは・・・」

「んん?ああ、煙草の煙に弱いのさ。狐だからかは知らんけどね。全く無茶をした物だよ。あんなに思い切り吸い込んで。」

そして、懐からペットボトルを取り出し、木葉さんに手渡す。

「ほら、綺麗に口を漱いで来ると良い。出来るか?」

「・・・・・・クソ猿。」

「助けてやったのに酷い言い様だね。出来ないなら出来ないと言いなよ。面倒な奴だな。立てないのなら引き摺るから、精々大人しくしていたまえ。」

木葉さんはグッタリしたまま、また小さく舌打ちをした。どうやら返事をしたらしい。

「本当にもう・・・。」

烏瓜さんが溜め息を吐きながら、木葉さんを縁側へと引き摺り始めた。

木葉さんは何処か不満気な顔をしていた。

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・・・・・・・・・。

「コンちゃん、あれ・・・!!」

ピザポが大声を出し、庭の隅を指差している。

蛇が、草むらの方へゆっくりと移動を始めていた。

「烏瓜さん!蛇が逃げて・・・!! 」

思わず叫ぶと、烏瓜さんは振り返り、静かに首を振った。

「其のままにしておきなさい。もう何も出来ない只の蛇だ。」

「でも・・・!!」

「もう大丈夫だよ。だから、其れ以上追ってはいけない。もう十分罰を受けたんだ。いいね。」

そう言い放ち、また木葉さんを引き摺り始める。

「今日はもう帰りなさい。此の狐目は、私がどうにかしておくよ。」

「だけど、兄さんは・・・」

「君は、此れ以上こいつの醜態を見てはいけない。・・・狐目は、ええ格好しいだからね。」

烏瓜さんが肩を竦めた。

木葉さんが、今度は、一際大きな舌打ちをした。

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・・・・・・・・・。

「・・・百々の詰まり、木葉君は、今、○○君の看病を受けているの?」

「其の通り・・・です・・・けど・・・。」

木葉さん宅を出た僕達は、真っ直ぐにのり姉の元へと向かった。

色々と勘違いをしている彼女を説得し、話教えるのは、

此処にはとても書けない程に大変だった。

本当に大変だった。

大切なことなので二度書いた。

「うーん・・・あの二人、組み合わせとして、本当に悪くないんだよね。色々と。もしかすると、もしかするかもなぁ・・・。」

のり姉は楽しそうにそう言った。

僕達は、心の中で、木葉さんと烏瓜さんに黙祷を捧げた。

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・・・・・・・・・。

のり姉に、聞いてみた。

「宵待草って、何ですか?」

「宵待草?・・・植物?歌?」

「歌の方。です。」

彼女は暫く考え込んでいたが、軈て答えてくれた。

「待てど暮らせど来ぬ人を、宵待草のやるせなさ・・ってね。悲恋の歌だよ。大分前の曲だけど。」

「そうですか・・・。」

「何でそんなことを?」

「ウタバコの曲だったんです。」

「ふーん。・・・恋敵を呪いながら歌ってたのかな。だとしても、何かずれてる気がするけどね。どんな気持ちで歌ってたんだろうね。」

そして其の後、のり姉は、少しだけ寂しそうな顔をして呟いた。

「もう人間じゃないんだから、そんなこと考えないんだろうし。関係無いのかも知れないけど。」

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彼女は蛇になって救われたのか、其れとも・・・。

今となっては知る術も無い。

いや、知ることが有ったとして、もう意味は無いのだろう。

彼女はもう、人を辞めたのだから。

Concrete
コメント怖い
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裂久夜さんへ
コメントありがとうございます。

此方こそ、お付き合いくださり有り難う御座いました。

申し訳御座いません。
《木葉》と《木芽》は別人です。
木芽というのは、僕の渾名と言いますか・・・別名みたいな物です。
紛らわしくて御免なさい。

時系列からすると大分先になってしまいますし、大したオチも無かったのですが、なるべく早く書ける様、頑張りたいと思います。

返信

ちゃあちゃんさんへ
コメントありがとうございます。

基本的にメンバーがあんなのですからね。
けれど、そう言って頂けると嬉しいです。

僕も巣から落ちた鳥の雛を助けようとしたことがありますよ。
「親鳥が近くに居るのに誘拐しては駄目!」と、親に叱られてしまいましたが・・・。
自然の物は無闇に手を出さない方が良いのかも知れませんね。
其れが出来ないのもまた人情ですが・・・

返信

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

あの人、のり姉に関することには容赦無いですからね。
ある意味恐ろしいです。

三人の過去話・・・。
あの三人だけの話、は中々難しいかも知れませんね。
学生時代は、店長も居ましたし、のり姉は同性の御友人達や僕達と遊んでいたらしいですから。

近い内に、随分前にリクエストして頂いた《屋上先生》の話を書こうと思っています。
次回も宜しければ、お付き合いください。

返信

紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

怖い・・・ですね(笑)

そうですね。
まぁ、あれはあれでそこそこ仲が良いのかも、と思いますが。
面倒な二人ですからね。

彼女の受けた罰って、結局何だったんでしょうね。

被害ならもう受けてますよ!
色々と!色々と!!
元気が無いのも嫌ですし、仕方無いことなのかも知れませんが・・・・・・。

返信

ウタバコ全20話、お疲れ様でした。
セリフ祭りの中で「木葉」と「木芽」がΣ!!
重箱つついて、スミマセン(;^_^A

ウタバコが完結した所で、ピザポ君のお風呂場の「黒髪」が気になります。

返信

面白かった!紺野さんの書くお話は、心が冷える後味の悪い恐怖じゃないから、大好きです(^^)ついでに、懺悔します。小学生の頃、赤ちゃん蛇がいたので、飼ってみたくなって拉致して、お腹空いてるだろうと、口をこじ開けて、卵を割って無理やり食べさせた事がありました…結局は逃がしたんですが、蛇ちゃんには、超絶迷惑な事してたんですよね…蛇ちゃん、ごめんよ〜( ; ; )

返信

久しぶりの木葉さん…素敵すぎます。
クールな木葉さん…( ´艸`)と、ドキドキしてたら…やっぱり、のり姉さんの為なんですね…
のり姉さんの為なら、容赦ないところも素敵でした。
そして、何より!!烏瓜さんとの絡みもあって…
私の大好物揃いでした。
ぜひ、このお三人の過去話聞きたいです。

当の斎藤さんの知らない所で、本当にお疲れ様でした。次回作も楽しみにしています。

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