雨が降り始めたのは、昼食を食べ終えた頃だった。
「あ、雨。」
ピザポの一言で気付かされ、窓の外を覗くと、細い雨粒の線が空中を走っていた。
「どうしよ。俺、傘持って来てない。」
呟く声はピザポの物だ。「此れくらいなら、行けるか・・・?」と思案顔。
折り畳み傘は、普段から2本持ち歩いている。
もし帰りまで雨降りが続いていれば、一本貸してやろうと思った。
雨の具合を見る為に、もう一度窓の外を見る。
さっきと同じテンポで、降り続いている。
強い雨では無いが、本降りだろう。こっそり取り出した携帯電話には《午後5時辺りまで続く見込み》と書かれていた。
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・・・・・・・・・。
放課後。下駄箱の前。
2本ある内の一本の傘を、僕はピザポに差し出した。ピザポは受け取ると直ぐに、へにゃりと眉を潜めた。
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僕が傘を2本持ち歩いているのは、理由がある。
一本は母から貰った物。もう一本は自分で購入した物なのだ。
自分で購入した方は、黒地で、縁に浅葱色のラインが入っている物で、良くも悪くもスタンダードな傘だ。強いて言うならば、少しだけ大きめで、荷物が濡れないようになっている。
問題はもう片方・・・母から貰った傘なのだが・・・・・・。
「・・・・・・あの、コンちゃん。」
「嫌なら使わなくて結構。」
蛍光イエローの地に、此れまた蛍光グリーンのカエルがでかでかとプリントされているという、何とも凄まじい代物なのだ。
小学生辺りならまだ許されるかも知れないが、高校生が使うのはかなり厳しい何かがある。
因みに持ち手はカエルの人形になっている。
少なくとも僕は絶対に使いたくない。
「・・・いや、うん。」
空と手元の傘を代り番こに見ていたピザポが、覚悟を決めたらしい。眉を引き締め、力強く頷いた。
「使わせてもらいます。」
然し、右手にカエルの傘を持っていたので、其の姿に迫力は皆無だった。
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・・・・・・・・・。
雨の所為だろう。世界全体がくすんで見える。
そして、くすんだ世界の中で、蛍光色でキャラクター物の傘は非常によく目立った。
「此の色と模様、どうにかならないかな・・・。」
ピザポはそう言って苦笑した。
僕は肩を竦める。
「無理だろうな。カエル好きも派手好きも止められそうにない。」
「コンちゃんのお母さん、カエル好きなの?」
「ああ。好きだよ。」
質問に答えると、ピザポはとても気不味そうに目を逸らす。聞こえるか聞こえないかギリギリの声での、呟きが聞こえた。
「・・・・・・ズリズリさんみたい。」
「ズリズリさん?」
作者紺野-2
どうも。紺野です。