雨の日に道を歩いていると、何処からか蛙の鳴き声が聞こえて来る。
辺りを見回すと、道の上に一人の女性。白くボロボロの服を着て、何かを引き摺っている。
蛙の鳴き声は、どうやら其処から聞こえているらしい。そんなことを考えていると、女性が此方に気付き、近寄って来た。
ズリ、ズリ、ズリ、
道路の上を滑る何かが、雨降りで濡れた地面に錆色を滲ませる。
目を凝らしてみると、其の引き摺られている何かは大きな頭陀袋だった。
そして、其の袋の口からは、変わり果てた子供の足が覗いていた。
慌てて逃げようとするも、もう遅い。彼女は既に直ぐ傍でニタリと笑い、ゆっくりと尋ねた。
「私は、醜いか?」
そして・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・。
「質問された人は、次に袋詰めされて引き摺られる役になるって訳。・・・で、其の女が《ズリズリさん》。俺は結構有名な話だと思ってたんだけど、ローカルだったのかな。」
ピザポはそう締め括った。
色々と質問したい所だが、先ず、他に言うべきことが有る。
「他人の母親をそんな化け物と一緒にするなよ。」
僕は思い切り眉をしかめ、ピザポを睨んだ。
ピザポは軽く肩を竦めて、あっさりと謝った。
「ごめんごめん。なんか思い出しただけだから、深い意味は無いって。」
反省している様子は無い。
ニコニコと笑いながら、空を指差す。
「ほら、ちょうど雨だし。」
「晴れた日に雨傘を差す馬鹿が居て堪るか。」
「雪の日とか・・・」
「四月に雪は降らない。」
「《名残雪》って曲、有ったよね?」
「お前な・・・・・・。」
僕が更に言い返そうとすると、ピザポは、フフフだかヌフフだがデュフフだかフォカヌポゥだかの笑い声を発しながら、昇降口の外へ歩き始めてしまった。
「帰ろう。あんまり遅いと、暗くなるよ。」
・・・話を無理矢理終わらされた。
別に僕も其処まで怒っていた訳ではなかったのだが、ピザポにしては珍しい。
早く帰りたい理由でも有るのだろうか。でも、だったら素直にそう言うだろう。
もしかして僕がウザかったのだろうか。いや、でも最初に口を滑らせたのはあいつだ。
僕は何だか釈然としないまま、小さく頷いた。
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・・・・・・・・・。
帰り道、不意に《ひきこさん》の話を思い出した。
白くてボロボロの服、雨の日、質問に答えると引き摺られる・・・・・・。
蛙がどうとか、袋がどうとかは、確か無かった気がするが。
都市伝説と言うのは、地域によって少しずつ変化していくことも多い。もしかしたら、さっきの《ズリズリさん》とやらも《ひきこさん》の亜種なんじゃないだろうか。
発見と言う程ではないが、何となく教えたくなって、ピザポに話し掛けた。
「あのさ、さっきのズリズリさんの話なんだけど・・・」
然し、ピザポはまた軽く笑って言った。
「コンちゃん、ズリズリさんの話は、もうおしまいにしよう。」
「なんで・・・」
「いいから、ほら、もう分かれ道だし。」
また、無理矢理話を終わらされた。
「じゃあ、また明日。」
「・・・・・・うん。また明日。」
僕はまた釈然としない気分になりながら、走り去るピザポに手を振った。
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・・・・・・・・・。
道を歩いていると、何処からか蛙の鳴き声が聞こえて来た。蛙が鳴き出すには、時期としてはまだ少し早い。
後ろを振り返ると女の人が居た。
白いボロボロの服を着て、ズリズリと、何かを引き摺っていた。
作者紺野-2
どうも。紺野です。
はっきりと《四月に雪は降らない》とか言ってましたけど、地域によっても大分差が有りますよね。
ごめんなさい、書きながら寝てしまい、起きてから続きを書きました。