友人から聞いた話。
兄が春から社会人になり、アパートで一人暮らしを始める事になった。その日、友人は兄の引越しの手伝いをしにやって来たのだが、部屋が思ったより広くて綺麗だった。駅からも近くかなり立地が良い。
きっと家賃が高いだろうと兄に訊くと、だいぶ破格の値段で所謂曰くつきの物件だった。
兄は心霊だの怪奇現象など全く信じないので、安い家賃と立地の良さですぐにこの部屋に決めたらしい。
友人は心配で兄を説得したが、非科学的なことを言っても兄は納得しなかった。
しかし、それからしばらくして兄から電話が着た。
「ここやばいかも…。なんか夜中ガリガリ音がすんだよね…」
詳しく話を訊くと…。初日、夜中に何かの音で目を覚ました。耳をすますと窓の外から口笛が聴こえる。口笛が部屋の前まで来るとぴたっと止まり、ガラガラと窓が開いた。驚いて起き上がろうとするが体が動かない。それからしばらくすると部屋の中で何かを引っ掻く様な「ガリガリガリ…、ガリガリガリ…」と音がしたと言う。
それから夜中になると「ガリガリガリ…、ガリガリ…ガリガリガリ…」
翌日も同じ時刻に「ガリガリガリ…、ガリガリガリ…」
そしてその次の日も「ガリガリガリ…、ガリガリ…、ガリガリ…」2、3度そんな音がする。しかし、翌朝に部屋のどこを見ても引っ掻かれたような傷などはなかったという。
だが電話を掛けてきた5日目の夜は、「ガリガリ…、ガリガリガリ…、ガリガリガリ…、ガリガリガリ…」と引っ掻く音が明らかに増えたらしい。
「やっぱ幽霊かな?マジでいんのかよ…。ありえねぇだろ…」
幽霊など全く信じていない兄が怯えながらそんな電話をしてきた。
それからしばらくして兄から電話が着た。前より少し元気になっている。何でも怪奇現象に変化があったらしい。
6日目の夜中。いつものように何かを引っ掻く音が聞こえた。
「ガリガリガリ…、ガリガリガリ…、ガリガリ…ガリガリ…、ガリガリガリ…」
そして、翌日も「ガリガリガリ…、ガリガリ…ガリガリ…、ガリガリガリ…、ガリガリ…、ガリガリ…」
兄は幽霊が自分の縄張りを荒らされて怒っているのだと思った。そこで正座し、手を合わせながら、「すいません、すいません。貴方の住処に入ってきてすいません」とひたすらに謝ったそうだ。
すると次の日「ガリガリガリ…、ガリガリガリ…、ガリガリガリ…」
と引っ掻く回数が減ったと言うのだ。きっと謝罪の効果があったのだと、ひたすらに謝った。
そして電話をくれたその日の夜中。
「ガリガリガリ…、ガリガリガリ…」
音は初日と同じ回数になった。
兄曰く、「この幽霊はちゃんと謝って誠意を見せれば大丈夫なんだ。引っ掻く音が止むまでとにかく手を合わせて謝まり続けるよ」と言って兄は電話を切った。
結局、友人が兄と会話したのはその電話が最後になってしまった。その電話の2日後、兄は首を吊って自殺した。
「曰くつきの部屋には絶対に住まない方がいい。兄貴のように死ぬかもしれないから」
友人が言うには幽霊は兄の謝罪など全く聞いていなかった。幽霊は兄に猶予を与えていたそうだ。
兄が亡くなってからしばらく、その部屋にある荷物を片付けいていて本棚の後ろにとんでもないものを見つけた。
それは壁に何かで引っ掻いた様にこう書かれていた。
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作者一日一日一ヨ羊羽子
曰くつきの物件なんて住みたくないですね。