腐れ縁で知り合った先輩がいる。
名字は沼田で、下の名前は覚えていない。
重そうなロングの黒髪と細いフレームの眼鏡。身長はヒョロヒョロとしていて、僕より高い。
口が悪く、性格は粘着質で陰険。
そんな彼女の話を、しようと思う。
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僕は沼田先輩と仲が悪い。
其の陰湿な性格から、ナメクジ先輩と呼んでいる程に仲が悪い。
然し、其の割には話をすることも多い。図書室でしょっちゅう遭遇するからだ。
どちらともなく近付き、悪態を吐き合う。
なので、先輩がその日に近寄って来たのも、どうせ下らないことを言いに態々来たのだろう、と最初は思っていた。
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カウンターで本を借りる手続きをしていた僕に、彼女は何時も通りの仏頂面で言った。
「ちょっと来なさい。」
命令形である。僕は少しムッとしながら答えた。
「嫌です。」
「いいから。」
「良くないです。」
「来なさい。」
「嫌ですってば。」
「話を聞けって言ってんの。」
遂には、無理矢理僕の腕を掴み、引っ張りだした。
滅茶苦茶だ。あんまりだ。知性を持つ人間のしていいことではない。
然し、文句を言おうにも此処は図書室。騒ぎを起こす訳にもいかない。それに、食い込んでいる爪がそろそろ僕の腕を引き千切りそうだ。
僕は渋々、先輩に引き摺られて行った。
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先輩は窓際の席にどっかりと腰を下ろし、唐突に質問をしてきた。
「私、変わった所があるんだけど、分かる?」
「髪を切ったんですよね。」
腰の近くまであったロングヘアーが、今は肩に掛からないくらいの短さになっている。
先輩がひくりと眉を動かした。
「そう。昨日切ったの。・・・分かってたのね。」
そりゃ、其処まで大きな変化なのだから、当たり前だ。気付かない方がどうかしている。
僕はそう思いながら、全く別のことを答えた。
「いや、てっきり誰かに、袖にでもされたのかと思いまして。そっとしておこうと思っていたんです。違いましたか。」
「当たり前でしょ。」
「其れは残念ですね。傷心の先輩なんて、是非とも見てみたかったんですけど。」
我ながら嫌味な言い方をしたものだ。まぁ、先輩が相手なのだから仕方無いかも知れないが。
何か言い返されると思ったが、先輩はフン、鼻を鳴らしただけだった。
そして、彼女は今度は全く今までの話題と関係の無いことを話し始めたのだ。
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・・・私、毎朝起きて、自分の分のお弁当は自分で作っているの。
「で、僕の分も作ってきたから食べてほしい、と?」
そんな訳無いでしょ。あんたに食べさせるぐらいならドブにでも捨てたほうがまだマシ。
「酷い言い様ですね。」
実際にそうなんだから、仕方無いじゃない。
・・・そうじゃない。茶々を入れないで。
えっと、一週間くらい前、其のお弁当に、黒い髪の毛が入っていたの。凄く長い奴。
「先輩の髪でしょう。先輩も、元々はかなり長い方でしたからね。」
うん。私もそう思った。
だから次の日は、ちゃんと髪を束ねて作ったの。
けど、それでも入ってた。長い黒髪が一本。
その次の日は、バンダナを被って作った。
でも、やっぱり入ってた。昨日や一昨日と同じ長い黒髪が。
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「母親とかじゃないですか。其れに、どんなに気を付けてても、入るときは入りますよ。」
僕がそう言うと、先輩は静かに首を横に振った。
「お母さんは、髪、染めてる。序でに言うけど、私に姉妹は居ないし、父親は禿げてる。」
「じゃあ、やっぱり先輩のでしょう。気付かない内に混入しちゃってたんですよ。」
「そんな訳無い。」
先輩が忌々しげに眉を潜めた。
そして、ポケットからハンカチを取り出し、それをソッと開く。
中には、一本の長い黒髪が、入っていた。
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「だって、今日のお弁当にも、入ってたもの。」
作者紺野-2
どうも。紺野です。
先輩なんですけど、最近なんか音沙汰無いなと思っていたら、大学で彼氏作ったんですって。あーヤダヤダ。今日知ったんですよ。今日。
蓼食う虫もなんとやら、ですね。
ところで、髪の毛の幽霊はどうして軒並み黒髪のロングヘアーなのでしょう。
金髪でモヒカンとか出てこないものだろうか・・・。