ぼくのおかあさんは、とてもやさしいです。
いつも、ぼくのことをかんがえてくれていて、ぼくのためになることしかしません。
ぼくは、ちいさいころから、ちょっとあたまがわるくて、みんなとおなじように、うまくできません。
だから、おかあさんは、ぼくがもたもたしていると、すぐぶってきます。ぼくは、あたまがわるいから、ぶたないとなにもできないから、ぶつんだとおかあさんはいいます。おかげで、なるべくぶたれないようにしようと、すこし先のことをかんがえて、できるようになりました。これもおかあさんのしつけのおかげです。
おかあさんは、いつもぼくをぶったあとにりゆうをいいます。
「ぼうやが、えらいおとなになるように、いまのうちにきょういくしておかなければだめなのよ?」
おかあさんは、ただ、ぼくをぶつのではないのです。ちゃんとしたりゆうがあって、ぼくをぶつのです。
でも、おかあさんにぶたれて、あちこちいたんでねむれない日もあります。
でも、たくさんぶった日は、さいごにぎゅっとだきしめてくれて、
「ごめんね、ぼうや。いたかった?でも、おかあさんはぼうやにちゃんとしたおとなになってほしいのよ。わかるでしょう?」
といいます。ぼくがわるいので、しかたありません。おかあさんに、しかられないようなりっぱなおとなになるのがぼくのゆめです。
おかあさんは、ぼくがだいじなので、あまりおそとであそばせません。ぼくは、すこしさみしいけど、おかあさんがそばにいるからへいきです。
「ぼうやが、おそとでいじめられたら、おかあさん、いやだもの。」
そういって、ぼくをようちえんというところにもいかせません。しらないおじさんがきて、ぼくをようちえんにいかせるようにせまってきましたが、おかあさんは、ぼくはびょうきで、いくことができないとおじさんにいいました。
そのあいだ、ぼくに、ふとんからでないようにと、おかあさんはいいました。
ある日、ぼくはおかあさんがるすのときに、そのぼくをようちえんにいかせるようにいってきたおじさんが、いえをたずねてきて、ぼくはつい、おかあさんのいいつけをやぶって、ドアをあけてしまいました。おじさんは、ぼくのすがたをみて、すごくおどろきました。たぶん、ぼくがすごくやせているからだとおもいます。
おかあさんは、いまふとるとしぼうさいぼうがふくらみ、ひまんになるからといって、ぼくに2日にいっかいしかたべものをたべさせません。おなかがすいたときには、お水をのんでがまんします。これも、おかあさんがぼくのことをかんがえてのことです。
ぼくとおじさんがはなしていると、おかあさんがかえってきて、かおいろがまっさおになりました。おじさんと、なにか大きなこえでいいあらそっていましたが、おかあさんは、そのおじさんをおいかえしました。そして、おじさんがかえったあとに、ぼくはやくそくをやぶったので、たくさんぶたれました。そしてその日はばつとして、おしいれにとじこめられました。
その日から、おしいれがぼくのへやになりました。おかあさんは、もうしんぱいでとてもぼくをそとには、だしておけないというのです。そうです、ぼくがみんなわるいのです。あれほど、人がきても、おかあさんがいないときはあけてはいけないといわれていたのに。
おしいれは、さいしょはくらくて、とてもこわかったです。でも、ここをあければ、すぐにおかあさんがいるし、おかあさんはときどき、ぼくのようすをみるためと、ごはんとおみずをくれるときに、ふすまをあけてくれます。おトイレにいきたいときは、おむつにします。おむつがたまってくると、おかあさんが、くさいわね、といいながらごみぶくろをほうりこんできます。じぶんのことはじぶんでしなければなりません。
ぼくはじぶんのおむつを、ごみぶくろに入れてくちをしっかりとしばって、おかあさんにわたします。そのごも、おじさんがなんどかたずねてきました。おばさんとふたりでくるときもありました。おかあさんは、いつもぼくのことを、びょうきでにゅいんしているとか、しんせきのいえにあずけたとかいって、その人たちをおいかえします。
おかあさんは、ぼくが大すきなので、ほかの人にあわせたくないのです。
「ぼうやは、かわいいわね。おかあさんだけを見ていればいいのよ。」
そういいながら、ぼくのあたまをやさしくなでます。ぼくがいちばんすきなじかんです。
そのとしのたんじょうびに、おかあさんはぼくにくびわをくれました。おかあさんがでかけたときに、ぼくがかってにそとに出ないようにするためです。これも、おかあさんがぼくをしんぱいしているからなのです。
そんなおかあさんとのせいかつに、へんかがおきました。あるあさ、おかあさんがおしいれをあけると、すごくびっくりしたかおをしたのです。おかあさんは、とてもおろおろとし、ふあんなかおになりおしいれのまえを、なんどもいったりきたりしました。ぼくは、すごくねむくてねむくてしかたなく、そのままねてしまいました。
ぼくが、めをさますと、もう日がくれて、まっくらになっていました。ぼくは、よるまでねてしまったのです。あれだけまいにち、おなかがすいてたまらなかったのに、その日はまったくおなかがすいていませんでした。ぼくがねているあいだに、おかあさんがごはんをたべさせてくれたのかもしれません。おかあさんは、やさしいけど、ぼくはもうすこしたくさんごはんをたべさせてくれればいいなといつもおもっていました。
おかあさんは、ねているぼくをかかえあげて、おしいれからだしてくれました。おしいれから出るのはひさしぶりです。もしかして、ぼくをゆるしてくれたのかな。もう、ぼくをそとにだしてもだいじょうぶだとおもったのかもしれません。ぼくは、おかあさんにだっこされています。あかちゃんみたいではずかしいけど、だっこされてとてもうれしいです。だっこなんて、なん年ぶりだろう。ぼくは、しあわせなきぶんになりました。
おかあさんは、ぼくをだっこして、車にのせました。ぼくはもう、7才だというのに、おかあさんはぼくをまだだっこするのです。そういえば、ぼくはさいきんあるいたきおくがありません。もしかして、あるけないのかも。おかあさんは、やさしいから、あるけないぼくをだっこしてくれる。どこにいくのかなあ?おとうさんのきおくは、あまりありませんが、すごくちいさいころ、くるまにのって、いちどだけゆうえんちにいったことをおぼえています。おとうさんは、いつのまにかいなくなって、きがつけば、ぼくとおかあさんだけになっていました。
でも、おかあさんさえいれば、ぼくはへいきです。
おかあさんは、くるまをあるばしょにとめました。そこは、やまおくのうすぐらいばしょでした。おかあさんは、そのいえのかぎをあけました。そこは、まっくらなへやで、でんきもなにもありません。のうぎょうで、つかうようなくわや、かま、ロープなどがおいてあり、そのほかに、いろんなどうぐがおいてありました。
「ぼうや、きょうから、ここがぼうやのへやよ。」
そういいながら、ぼくをそのへやにねかせました。おしいれよりは、ずいぶんと広いです。
「おかあさんね、ちょっとながいあいだ、ぼうやとあえないの。」
おかあさんがいいました。ぼくはびっくりしました。どうして?ぼくはおかあさんさえいればなにもいらない。
「でも、だいじょうぶよ。1年にいっかいは、かならずあいにくるから。それまで、ちゃんといい子にしててね。」
おかあさんはいいました。1年ってどれくらいなんだろう?ぼくはあたまの中で「いちねん」とくりかえしましたが、あたまがわるいので、いちねんのいみがわかりません。
でも、おかあさんがあいにきてくれるのなら、ぼくはへいき。ちゃんとがまんできます。
ながいながいあいだでした。1年ってこんなにながいんだなとおもいました。ひさしぶりに、いえのとびらがあいたのです。おかあさん!ぼくはとびだして、おかあさんにだきつきたかったけど、なぜかとびだすことができません。あれ、ぼくのからだ、どうなっちゃったのかな?
ひざしにてらされたかおは、まぎれもないおかあさんだったけど、そのうしろにしらないおじさんがなんにんもいました。おかあさんがないています。どうしたの?おかあさん。おじさんたちにいじめられたの?やっとあえたのに、なぜおかあさんはないているの?
おじさんたちは、ぼくのかおをみて、口をおさえました。わかいおとこの人もいて、そのおとこの人は、ぼくのほうを見て、たまらずに外にかけだして、おええおええといっています。
おかあさん、はやく、ぼくをだっこしてよ。ぎゅっとだきしめて。いちねんってすごくながかった。
さみしかったんだ。ぼく、さみしかったんだよ。でも、がまんしてたんだ。えらいでしょう?ぼく。
「虐待死した長男の死体をここに遺棄したんだな?」
女は黙ってうなだれた。
「5月11日、15時02分、死体遺棄の疑いで逮捕します。」
はやく、おかあさん。ぼくをだきしめてよ。
作者よもつひらさか
#gp2015