此れは、僕が高校2年生の時の話だ。
季節は春。
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・・・・・・・・・。
木葉さんからバイトを頼まれた。
仕事内容は配達。運ぶのは紫色の風呂敷で包まれた箱のようなもので、中身は知らない。
配達先は、僕の住んでいる町から見て南西の小さな町に建っている、病院だった。
どうやら入院している人らしい。《203号室の石見さん》と書いてある。
その他に・・・
配達は午後の七時までに済ませること。
受取書にサインを貰って来ること。
降りる駅を間違えないこと。
道が分からなくなったら、交番を探して御巡りさんに道を聞くこと。
知らない人やどこぞの猿に声を掛けられても、付いて行かないこと。
等々の注意事項がみっしりと書き込まれている。
「あの人は一体、僕を幾つだと思ってるんだろう・・・。」
《ハンカチとティッシュはきちんと持ち歩くこと》と書かれた項目を発見してしまい、思わず苦笑してしまう。彼の中での僕は、実年齢より遥か下を行っているに違いない。
一項目、また一項目と、電車が来るのを待ちながら、僕はメモを読み進めていった。
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・・・・・・・・・。
項目の中に、奇妙な物を見付けた。
《物を貰って来ないこと》
《食べ物・飲み物を勧められても断ること》
此の二つだけ、蛍光ペンでラインが引いてある。
行儀の問題だろうか。
然し、もしそうだとしても、其処まで強調するようなことではないような気がする。一体どういうことだろう・・・。
木葉さんに連絡をして尋ねてみようかとも思ったが、病身故に僕が仕事を引き継いだ訳だし、此処で頼ってしまえば意味が無いのではなかろうか。
僕は散々迷って、結局《意味は分からないけど、取り敢えず守っておけば安心だろう》という結論に達した。
でもやっぱり・・・・・・
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ゴトン、
目の前に電車が停まった。
僕は慌ててメモをポケットにしまい、荷物を小脇に抱えながら電車に乗り込んだ。
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・・・・・・・・・。
電車で駅を幾つか通り過ぎ、バスを使って町を二つ越える。目的地の町に着いたら、病院まではまたバスだ。
ボタンを押し、バスを止め、料金を払い、礼を言って降りる。
目の前の病院は、小さな町に似合わず、中々に大きくて立派だった。
辺りはもう薄暗くなり始めている。時刻は午後六時。タイムリミットまではあと一時間だ。
僕は小走りで、病院の中に入って行った。
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・・・・・・・・・。
ロビーを抜け、エレベーターで四階へ。
三の桁が二の並びなのは、確か此処辺・・・。
「あら、貴方が木芽君?」
「え?」
振り返ると、一人の女性が佇んでいた。
「こんにちは。話は聞いているわ。」
そして、ニコリ、と微笑みを浮かべ、彼女は頷いたのだった。
作者紺野-2
開き直ってタイトルこんなのにしちゃいましたよ!
皆さんがわやわや言うから!!