これは私がまだ小学生の頃の話。
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小学2年生の3学期もうすぐ3年生だったと記憶している。当時私は聖闘士星矢、2つ上の兄はガンダムにどっぷり嵌っていた。
兄弟でゴールドクロスのフィギュアとガンダムのプラモデルをよく戦わせて遊んでいた 笑
この頃はアニメが豊作だった様に記憶している。
ドラゴンボール、ガンダムetc…未だに語られるアニメが次々と発表された。
そんな中、子供達の圧倒的な支持があるわけではないが根強いファンが居たのがかの有名な妖怪アニメではないだろうか。
実際我が家にも妖怪アニメのものであろうオモチャがあった。
いつ買ったのかも記憶にないそのオモチャ。貰いものかもしれないしお菓子のおまけだったのかもしれない。
そのオモチャはゴムで作られた人形だった。
造形は非常にリアルで良く出来ていたと思う。
ただソレには胴体がなく顔だけなのだ。
そのゴム人形が3体。
千と千尋の神隠しに出てくるカシラっていうキャラクターみたいな感じ。大人になって調べたらどうやら舞首という妖怪がモチーフらしい。
その頃の私は片付けが大の苦手で度々オモチャを散らかしたまま眠りについてしまっていた。
その日も片付けが嫌で床に散らかったオモチャを足で隅に寄せ寝床を確保し眠りについた。
その夜は悪夢に魘された。
目には見えない何かに延々と追いかけられる夢…
早朝、汗びっしょりで起きた私は喉の渇きを覚えキッチンに向かおうとした時何かが足に当たった事に気付いた。
寝る前に隅に寄せたはずの舞首の人形だった。
その時の私はその舞首人形が枕元に移動した事に違和感を覚える事もなかった。咄嗟に同部屋の兄が動かしたのだろうと思ったし何より喉が渇いていたので全く気にもかけなかった。
その日は学校から帰ってくるなり片付けをしない私に対し母から説教をされた為、仕方なく部屋の掃除と整理整頓を徹底的にした。その際に思い切って多くのオモチャや漫画本を断捨離し不要な物を母から渡された段ボールに詰めベランダに出しておいた。母がゴミの日にまとめて捨てるらしい。
その日の夜はスッキリした部屋が心地よく週末恒例の土曜洋画劇場を見る事なくゴロゴロしてたのだが気付くと眠ってしまっていたらしい。
そしてまた悪夢…。
やはり姿の見えない何かに追いかけられる夢。気のせいかその足音は前夜よりも近く感じた。
そして同じ様に喉の渇きを覚えて起きた。
夜中の0時位だっただろうか。
同部屋の兄はまだリビングだろうか。真っ暗な部屋には誰も居なかった。
キッチンに向かう為、起き上がるとなんとまた舞首人形が枕元にいた。
『????』
『あれ?このオモチャって捨てたよな?』
『……。』
『まぁいっか。』
この時点でもこんな感じの独り言を呟く程度の違和感は感じたが意に介す事なく1階のキッチンを目指した。
察しの良い方はお気付きかもしれないが当時も今も私は鈍感&馬鹿である。
その後リビングにいた両親と兄に合流し1時位までTVを楽しんだ後また子供部屋に戻った。
その際枕元にいた舞首人形が目とまり兄に尋ねてみた。
私『兄ちゃん、このオモチャ欲しいん?』
兄『はぁ??なんでよ?』
私『わざわざベランダの段ボールから引っ 張り出したの兄ちゃんやろ?欲しいからと違うの?』
兄『は?意味わからん。いらんし…』
私『なら捨てるで?』
兄の仕業だと思い込んでいた私はこの問答に少なからず怒りを覚えこれ以上の会話もなく舞首人形をゴミ箱に放り投げ床についた。
翌朝、悪夢は見なかったがやはり舞首人形は枕元に移動していた。
その後も悪夢と舞首人形の移動は続き苛立ちもピークを迎えていた翌週日曜日の朝。
リビングでTVアニメを楽しんでいた私にキッチンで牛乳をラッパ飲みしていた兄が話掛けてきた。
兄『最近悪い夢ばかり見るんやけどお前なんかしよらん?』
私『なんかって何?』
兄『寝よる俺の首絞めたりとか…』
私『あはははは。なんやそれ』
私『どうせやるなら起きとる時にしばき倒したるわ!毎日毎日、飽きもせずオモチャ枕元に移動させやがって!』
兄『あぁん?』
その後は3カ月に一度位のペースで勃発する本気の殴り合い。笑
小学生の喧嘩とはいえ兄弟共に幼少より空手を習っており流派別の大会では上位入賞歴も多く流血に至るのは当たり前。
いつもなら父親に止められるまで続く喧嘩もその日だけは違った。
『ん??悪い夢???』
兄が放った中段の前蹴りをくらい床に倒れた時に言葉が漏れる。
そんな事お構いなしでマウントポジションを取ろうとする兄…
私『ちょい待ち!』
兄『なんや?謝るんか?それやったらボコボコにした後に聞いたるわ!』
容赦なく拳を振り下ろそうとする兄。
私『ちゃうわ!夢の話や!』
兄『やっぱお前か!』
私『なんでそうなんねん!夢の内容教えろや!足音…』
ゴン!
拳は止まらなかった…
だが本気のそれとは違い止めようとしたが勢いで当たってしまった様な痛みだった。
私、兄『…………』
私のこの言葉で完全に戦闘モードだった兄もシラけてしまったのか、はたまた何か思い当たるものがあったのかマウントポジションを解き立ち上がりキッチンに戻っていった。
兄はシンクで顔を洗いまた牛乳を飲み始めた。
私『朝からそんなにがぶ飲みしたら腹痛なるで!笑』
兄『もうすぐ5年生になるのに牛乳で腹壊すか!』
私『5年生は関係ないと思う…』
兄『うるさいわ!それで?』
私『それでって?』
兄『お前なぁ〜。ハァ…夢の話違うんかい!』
なんとも言えない間の抜けた空気と美しい程の牛乳髭を備えた兄の顔をみた途端に色々どうでもよくなりそうな心を立て直すのに注力しながらも話は進む。
私『いざ説明しようにも俺にもよくわからんのよ。ただ毎晩足音に追われる夢を見るんよ。んで起きたら枕元にあの変な頭のオモチャがあるみたいな…』
兄『…………。いつから?』
私『一週間位前から』
兄『俺もその位からや!』
私『やっぱり?なんやろコレ?』
兄『なんか食うたか?』
私、兄『…………。』
お互い無言のまま暫く考えたが特別変わった物は食べていないという結論を出した頃、父親がリビングに顔を出した。
理由はないが何故か聞かれてはいけない気がして子供部屋に戻る事にした。
部屋に戻ってすぐに舞首人形を指差して件のオモチャだと説明する。
改めて言葉にするとこれまで一人で抱えていた出来事の馬鹿馬鹿しさに二人で笑った。
なんせ相手はゴムで出来たオモチャである。
しかも我々兄弟は幽霊の類いを全く信じていない。
存在の有無はともかく自分達とは縁遠い物だと思っていたし興味もなかった。
だからこそ目の前に転がる3つのゴムの塊に1週間も悩まされている事に笑いが込み上げてきたのだ。
それでもこれ以上眠りを阻害される事に嫌気がさしていた私達は貴重な休日を打開策を練る事にした。
打開策を見つけるにあたり先ずはお互いの夢の情報を出し合った。
原因はおそらく舞首人形だと考えていたが無策に行動を起こす事に利は無いと考えた為だ。
この考えは直前までアニメを見ていた私の意見だった。
猪突猛進型のキャラクターは必ず酷い目に合うというパターンを学んだばかりだったからだ。
互いの情報を擦り合わせた結果、幾つかの共通点と相違点があり明らかな相違点は景色だった。
兄の場合、夢の始まりはいつも学校の階段。
そこが何階なのかも分からないし上下共に1フロア先しか確認できない階段だ。
そしてかなり下のフロアから一定の速度で登ってくる足音に追い掛けられるらしい。
この一週間幾度となく廊下側に逃げようと試みたが廊下側に入った途端また踊り場に戻るらしい。
この一週間で富士山何個分登ったかわからん!と声を荒げていた。
一方私はというと見覚えはあるが何処なのかは覚えていない草原だったり毎年海水浴に行く砂浜だったりと一定していなかった。
見通しのいい景色がほとんどなのだがソレの姿は見えないのだ。
正確には見る事が出来ない。
どれだけ足音が遠くとも振り返れば捕まるという確信があるのだ。
そして決定的な共通点は足音。
そして僅かずつではあるが一週間前に比べ確実に近づいているという事だった。始めは気配程度の音だったが今は数百メートル先もしくは十フロア程度先に存在を感じていた。
この情報の擦り合わせによって初めて置かれた状況を理解し始めた私達は大きく分けて2つの打開策を考えた。
一つ目はなんとか兄弟が合流し力を合わせてこちらからしばきに行く。笑
もしくは目の前に転がっている舞首人形を今この瞬間から徹底的に破壊し燃やす。
二つ目は夢の中で捕獲用の罠を仕掛け罠に掛かってる間に2、3発殴ってから遥か彼方まで逃げる。
もしくは目の前の舞首を遥か彼方の海にでも沈める。
今思えばゾッとする打開策である。
しかし当時の私達にとって不条理に攻撃された一週間分の苦痛を忘れ、ただ逃げるという選択肢はあり得なかった。
ほんの一端でも構わないのでやり返したかったのだ。
で選んだ結果、先ずは最もリスクが低いであろう舞首人形を海に沈める方法だ。
ただ私達の家から海までは自転車で行くには遠い…
なので近所の川に沈める事にした。
そして沈める為のオモリを父親の釣り道具から拝借しミカンが入っていた網に舞首人形共々詰め込む。
詰め込みながら兄が呟いた。
兄『ところでこのオモチャなんなん?』
私『わからん』
兄『はぁ?お前の物やろ?』
私『だと思うけど記憶にないんよ。お菓子のオマケかなぁ』
兄『オマケって…どんだけデカいオマケやねん!』
そう。この舞首人形一体が卓球のボール位の大きさなのだ。これが3つとなると当時のオマケ付きお菓子にはあり得ない大きさなのだ。
とはいえオモチャを入手する方法は誕生日やクリスマスに買ってもらうかお年玉を駆使する位しかない家庭環境の中、貴重なチャンスをこのゴム人形の為に消費する事はあり得ない。
私『じゃあ、誰かに貰ったんかなぁ〜』
兄『ふぅん。てかこんな悪趣味なもん貰うなやぁ』
私『うん。今度から気ぃつけるわ』
兄『よし!出来た。じゃあ行くか!』
兄の手にはオレンジ色の網の上から白いビニールテープをグルグル巻きにされたなんともポップな塊が握られていた。
二人で自転車を漕ぎ川まで着くとポップな塊をそれぞれ2、3回踏みつけた後思いっきり遠くに投げ捨てた。
ドボーンと大きな音を立て着水するとあっという間に沈んでいく姿を確認して意気揚々と帰宅した。
子供というのは切り替えが早いもので夕食を済ませた頃にはすっかり忘れて家族で談笑していた。
そしてなにも無かったように眠りについた。
……………………
まだ終わらなかった…
悪夢である。
しかも足音にビシャビシャと水音が混ざった…
作者銀杏
2作目です。駄文ですみません。
一応3部構成で考えております。
最後までお付き合い頂けたら幸いです。