※此の話はフィクションです。実在の事件、人物、団体とは何も関係ありません。
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僕の通っている小学校には、各学年に3クラスと、加えて、僕達と同じ勉強が出来ない子達のクラスが1クラス有る。
《さくら教室》と呼ばれている其処には、普段は僕達と一緒の勉強はしないけど、イベントや体育の時間等は他のクラスの中に混じって遊ぶ子達が沢山居る。
僕のクラスのケンちゃんも、その一人だ。
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ケンちゃんはもう小学三年生になるのに、漢字が書けない。敬語が使えない。
校長先生にも友達と同じように話しかけちゃう。
先生も先生で、僕達がそうしたらきっと絶対怒るのに、怒らないでニコニコしている。
授業の時だって、ケンちゃんは何時もふざけてばっかりで、真面目に勉強したことなんて無いのに、先生は何も言わない。
ぐちゃぐちゃに描かれた絵なんかを見て「あら、上手に描けたわねぇ。」なんて言ってる。
田辺君が描いた先生の似顔絵は、怒ってゴミ箱に捨ててたのに。
体育の授業のドッジボールだって、ケンちゃんに当てちゃいけないんだ。
当てると、ケンちゃんは泣くから。そういうゲームなのに、きっと理解出来てないんだ。
そのくせ、僕達に当てる時は顔面でもセーフにならない。力の加減を知らないから、当てられる時、すごく痛いのに。
仲間外れにも出来ない。ケンちゃんのお母さんが、学校に乗り込んで来てしまうからだ。
そして、僕達が悪くなくても、結局、僕達を悪者にしてしまう。
「仕方無い」と言って、全部うやむやにしてしまう。
先生達もガツンと言えばいいのに、ペコペコ謝ってばかりだ。
ケンちゃんは、ズルい。
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ケンちゃんが、また妙な遊びをし始めた。
教室のグッピーやメダカを、水槽に手を突っ込んで捕まえようとするのだ。
此れには流石に先生も止めさせようとしたが、ケンちゃんは我慢の出来ない子なので、全く止めようとしない。
隣のクラスのマユちゃんは、同じ《さくら教室》の子でも、大人しくて優しい良い子なのに。
グッピーの中の一匹が、ケンちゃんに捕まった。
ケンちゃんはゲラゲラ笑いながらグッピーを握り締めていた。
生き物係の佐藤さんが泣き出したが、先生は何も言わず、ただケンちゃんを席に戻そうとやっきになっていた。
グッピーは、結局戻って来なかった。
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僕のクラスのグッピーがやられてから、ケンちゃんは色々なクラスの生き物に手を出し始めた。
朝顔が引き抜かれた。ザリガニが千切られた。カエルが窓から投げ捨てられた。金魚が握り潰された。ドジョウが土に埋められた。鯉が叩き殺された。インコとうさぎが追いかけ回された。
先生もさすがにケンちゃんの両親を学校に呼んだけど、お父さんは来なくて、お母さんは動物好きの良い子だから仕方ないと言っていた。
動物が好きな人間が、動物を苛める訳無いのに。
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ある日の昼休み、3組から大きな泣き声が聞こえて来た。
ケンちゃんの泣き声だった。
僕達がみんなで見に行くと、ケンちゃんはほっぺたに傷を付けられて泣いていた。
引っかかれたみたいだ。血が出てた。
そして、その隣では、ぐったりしたハムスターを抱えてへたりこんでる、3組の三矢さんが居た。
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3組のハムスターは、ふわふわで、みんなで可愛がって育てていた。僕も部屋の掃除とかを手伝っていた。名前はチビ。
三矢さんは、特に頑張って育てていて、ハムスターの為のヒーターをお小遣いを貯めて買ったのだと言っていた。
そのハムスターが、ぐったりとして、三矢さんの手の上で震えていた。
直ぐ先生が来て、三矢さんとケンちゃんを見付けた。先生は迷わずに三矢さんを叱った。
三矢さんは言った。
「でも、ケンちゃんがチビを殺そうとしたんです。駄目って言ったのにケージに手を入れて、強く掴んだんです。」
「ケンちゃんは仕方無いの!許してあげてねって言ってるでしょ!!あなたに思いやりの心は無いの?!」
うわあ、と三矢さんが泣き出して、教室から飛び出た。
先生は追い掛けようとしたが、それは無理だった。
ビックリしたケンちゃんが、おしっこを漏らしてしまったからだ。
僕はそれを見ながら、《ケンちゃんが動物を苛めるのは仕方無いのに、どうして動物を守ろうとした三矢さんは仕方無くないんだろう。》と思った。
ケンちゃんは、ハムスターが自分の物にならなかったからだろう、おしっこの水溜まりの中で暴れていた。
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だから、僕はケンちゃんに教えてあげたんだ。
「三角池は、フェンスに穴が空いてるから、子供なら入れるんだよ。ほら、あのお地蔵様の右側。中にはとってもとっても大きな魚が住んでるんだって。池の鯉よりずっとすごいんだよ。」って。
三角池は少し見たら小さな池だけど、本当は沢山の草で覆われてるだけで、フェンスのギリギリまで水だ。足を踏み入れたら転がり落ちて、もう浮かんでは来れない。
僕はそれを知っていた。
「でも、駄目だよ。先生達だって危ないって言ってるし、確かに、大きな魚を捕まえられたらすっごく格好いいけと、絶対にこっそり三角池に入ったりしちゃ駄目だからね。」
僕は駄目って言ったんだ。ちゃんと優しく注意をしたんだ。先生やケンちゃんのお母さんが言ってるみたいに。
でも、きっと守らないんだろうな。ケンちゃんは。でも、仕方無い。ケンちゃんなんだから。
言い付けを守らなくっても怒られない、悪いことだって平気なケンちゃんは、僕が駄目って言った三角池に行っちゃうんだ。でも仕方無い。仕方無いんだ。ケンちゃんは。仕方無い。
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ハムスターは、骨が一本折れてたけど、命に問題は無いそうだと、三矢さんが嬉しそうに電話を掛けてきた。
教室を飛び出て、先生達を振り切って、直ぐ病院に連れて行ったらしい。
今は入院してるから、明日皆でおみまいに行こう。
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あ、そうそう。
ケンちゃん、昨日から帰ってないんだって。
本当に《仕方無い》なぁ。
作者紺野-2
どうも。紺野です。
もちたろうが近所の子供に苛められたそうです。幸い怪我は無くてもう元気みたいですが、相手の親御さんが逆ギレを咬ましてきて兄は応戦出来なかった模様。その親御さんの《貴重な御意見》から、他の子供達を含め、もう子供には触らせないことにするそうです。うさんぽで公園に寄るのも止めるんだとか。
近所の小学生達はもちたろうをそれは大切に扱ってくれていて、農薬の撒かれていない原っぱまでわざわざ行ってシロツメクサを採って来てくれたりしてたんです。確かに子供だってわざとじゃなかったかも知れません。悪気は無かったのかもしれません。けど、わざとじゃないなら何でもやっていいわけないし、きちんと反省、謝罪をするべきなのではないでしょうか。自分勝手な一人の子供の為にこんなことになるなんて、と憤りを隠せません。
皆様にもご迷惑をお掛けします。明日書きます。
今日のところは此の短編で勘弁してください。